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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・38
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サイ《超能力》使いたちのもたらす急報に、王宮内は騒然となった。
「王太子殿下が亡くなられただと!?」
コッコラ王国宰相ベルケルは、伝令の兵士をまじまじと見つめた。
伝令兵はうなだれながら、時折涙声になりながら王太子の最期を正確に伝える。そして伝え終えると、その場に突っ伏して号泣しだしてしまった。
「ベルトルドという男………なんと悪魔の如き所業かっ!!」
宰相ベルケルはシワの深い顔を怒りに歪ませ、手にしていた杖を床に叩きつけた。
しかし宰相とは対照的に、ゆったりと玉座に身をゆだねているメティン国王は、どこか遠い目で天井を見上げていた。
「余を想い、国を想い、妹を想いやれる、良き息子であった」
過去形で語ることが、こんなにも辛いと思ったのは初めてだ。そう、メティン国王は呟き、一筋の涙を流した。
そして別の伝令兵はジーネット王女の住まう後宮へ、王太子の訃報を報せていた。
侍女から報告を受けた乳母は、一瞬目の前が暗転したが、王女のことを想ってどうにか踏ん張った。
侍女の一人から受け取った水を一気に飲み干すと、乳母は心を平静に保つよう必死に心がけながら、王女の部屋を訪った。
「姫様……」
気分がすぐれないと寝台に横たわっていた王女は、どこか硬い響きを含む乳母の呼び声に顔を上げる。
「どうしたのです?」
王女の返事に、乳母は目を強く閉じながら、必死に嗚咽を堪える。
「先ほど戦場から、報せが届きましてございます」
柔らかな紗のカーテンの向こうで、王女が身を起こした。
「…………王太子殿下が……、お亡くなりにっ」
一瞬きょとんとした王女は、しかしみるみる顔を強ばらせると、寝台に突っ伏して激しく声をあげて泣き喚き始めた。
「ジーネット様!!」
大切にお育て申し上げてきた王女を、このように泣かせることになるとは夢にも思わず。まして王女にとって大切な兄の死を、何故このわたくしに告げさせるのか――!!
乳母は悔しさと怒りの矛先を、今はもうこの世にいない王太子に向けた。
アイバク・イゼット・メティン王太子の訃報は、瞬く間に首都エルマスを中心に国内に広がっていった。
王太子は国民から絶大な支持を受ける人物だった。それだけに訃報を聴いた国民は悲嘆に暮れて泣き出し、後追い自殺するものまで続出した。
王太子の訃報に嘆く国民は、その死を悼み悲しんでなどいられない。すでにそこまでハワドウレ皇国軍が迫ってきているからだ。
「王太子殿下が亡くなられただと!?」
コッコラ王国宰相ベルケルは、伝令の兵士をまじまじと見つめた。
伝令兵はうなだれながら、時折涙声になりながら王太子の最期を正確に伝える。そして伝え終えると、その場に突っ伏して号泣しだしてしまった。
「ベルトルドという男………なんと悪魔の如き所業かっ!!」
宰相ベルケルはシワの深い顔を怒りに歪ませ、手にしていた杖を床に叩きつけた。
しかし宰相とは対照的に、ゆったりと玉座に身をゆだねているメティン国王は、どこか遠い目で天井を見上げていた。
「余を想い、国を想い、妹を想いやれる、良き息子であった」
過去形で語ることが、こんなにも辛いと思ったのは初めてだ。そう、メティン国王は呟き、一筋の涙を流した。
そして別の伝令兵はジーネット王女の住まう後宮へ、王太子の訃報を報せていた。
侍女から報告を受けた乳母は、一瞬目の前が暗転したが、王女のことを想ってどうにか踏ん張った。
侍女の一人から受け取った水を一気に飲み干すと、乳母は心を平静に保つよう必死に心がけながら、王女の部屋を訪った。
「姫様……」
気分がすぐれないと寝台に横たわっていた王女は、どこか硬い響きを含む乳母の呼び声に顔を上げる。
「どうしたのです?」
王女の返事に、乳母は目を強く閉じながら、必死に嗚咽を堪える。
「先ほど戦場から、報せが届きましてございます」
柔らかな紗のカーテンの向こうで、王女が身を起こした。
「…………王太子殿下が……、お亡くなりにっ」
一瞬きょとんとした王女は、しかしみるみる顔を強ばらせると、寝台に突っ伏して激しく声をあげて泣き喚き始めた。
「ジーネット様!!」
大切にお育て申し上げてきた王女を、このように泣かせることになるとは夢にも思わず。まして王女にとって大切な兄の死を、何故このわたくしに告げさせるのか――!!
乳母は悔しさと怒りの矛先を、今はもうこの世にいない王太子に向けた。
アイバク・イゼット・メティン王太子の訃報は、瞬く間に首都エルマスを中心に国内に広がっていった。
王太子は国民から絶大な支持を受ける人物だった。それだけに訃報を聴いた国民は悲嘆に暮れて泣き出し、後追い自殺するものまで続出した。
王太子の訃報に嘆く国民は、その死を悼み悲しんでなどいられない。すでにそこまでハワドウレ皇国軍が迫ってきているからだ。
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