片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
580 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・35

しおりを挟む
「サイ《超能力》は”想い”の力だ。念じれば念じるほど威力は上がる。お前たちの力も中々だが、雑念が多いぞ。もっと戦いに集中せんか!!」

 ベルトルドは僅かに顎を引くと、右手をあげてマリオンとルーファスのほうへ掌を向けた。すると、2人は思いっきり後方に吹っ飛ばされ、ガエルによってその身を受け止められ転がらずにすんだ。

「おっさん手加減しなさすぎぃ~~」

「戦いで手加減なんぞするか、馬鹿者!!」

 目を回すマリオンの愚痴は、ごもっともな言葉で一蹴された。

 それまで黙っていたヴァルトとガエルが前に出た。2人はカーティスとシビルから強化と防御の魔法を念入りに仕込まれていた。そしてランドンによって回復魔法で疲労を和らげられている。

「ぶっ飛ばしてやる!!」

 掌にバチンと拳を叩きつけながら、ヴァルトは美麗な顔を怒らせ元気よく叫んだ。あまりにも顔が綺麗なため、どうにも迫力に欠ける。それで戦闘中は怒ったような表情(かお)をするよう心がけていた。しかしあまり効果がないことは当人だけは気づいてない。ヴァルトは”凄む”という表情がうまく作れないのだ。

「魔法も魔剣もサイ《超能力》もお手上げなら、俺たちの出番だ」

 ガエルも拳を掌に叩きつけながら、ニヤリと笑む。クマのトゥーリ族であるガエルは、ブルーベル将軍の甥でもある。しかし白クマのブルーベル将軍とは対照的に、ガエルは黒毛をしていて毛足も短い。黒い顔は不敵に笑んだだけで凄みが増す。

 ヴァルトとガエルは同時に駆け出し、拳を突き出した。

「ふんっ」

 ベルトルドは楽しそうに笑顔で掌をかざし、念力で見えない壁を作る。

 誰もが2人は同じように弾き飛ばされる、と思っていた。しかし2人は拳を突き出したままその場に踏ん張って立っていた。

「ほほう、やるじゃないか」

 嬉しそうに言うベルトルドに、ヴァルトはベーッと舌を出す。

「後ろのフヌケどもといっしょにすんな!」

「なんだとごるぁっ!!」

 ギャリーとハーマンがいきり立つ。タルコットも不愉快そうに顔を歪めていた。

「ははは、確かにお前たちの方が吹っ飛ばされないだけ筋がいい。けどな、こういう防ぎ方もあるということを、教えといてやろう」

 そう言うと、ベルトルドはかざしていた手を、人差し指一本だけ立てて形を変えた。すると、突然ヴァルトとガエルの拳が、スカッと空を凪いでたたらを踏んだ。

「あれれ?」

 ヴァルトは自分の拳を見つめながら首をかしげる。

 すっかりギャラリーと化した他の傭兵たちも、同様に首をかしげた。

「力が流された……?」

 目の前の防御壁が消えたわけではないらしい。目には見えないが、気配のようなものは感じる。ガエルは見えない防御壁に叩きつけていた己の力が、どこかに流され消されたのを感じていた。

「もっかいだー!!」

 今度は左拳を突き出すが、同じように力のみが消されて拳はから回った。ヴァルトは眉根を寄せて唸った。力は消され当たらないのでは意味がない。

 その場に唖然と佇む2人の間から、突然ベルトルドめがけて襲いかかる物体があった。

「これならどーよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

処理中です...