片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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番外編・2

コッコラ王国の悲劇・33

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 白馬にまたがった黄金の鎧を着た青年に気づいて、ベルトルドは目を向ける。長槍の矛先をこちらに向けたまま馬を走らせてきていた。

「なんだ、アレは」

 ベルトルドは不快そうに眉を寄せると、手刀の形にした左手を、素早く馬の方へ振り下ろした。

 馬の方へめがけて見えない衝撃波が走り抜けていき、馬と馬上にあった王太子は真っ二つに裂かれて、地面に滑りながら倒れた。そして半拍の間を置いて、大量の血が地面に噴きこぼれた。

 一瞬の出来事である。

「俺はキンキラした鎧を着た奴が大っきらいだ!」

 ふんっ! と鼻息を吹き出し、両手を腰に当てた。

「傭兵にしては、随分と派手な出で立ちでしたね」

 アルカネットは素っ気なく言うと、真っ二つになった王太子に無慈悲な一瞥をくれただけだった。

「ゴテゴテ飾り立てて趣味の悪い奴だ。だがもう目にすることはない」

 ベルトルドも素っ気なく言って、足を止めていたライオン傭兵団に向き直った。

「お前たち、よくもやらかしてくれたな! お陰で俺が出張る羽目になったじゃないか!」

 王太子のことは――王太子だと気づいていない――何もなかったことのように、すでに切り替わってるベルトルドを、ライオン傭兵団の面々は呆気にとられて見ていた。

 しかしコッコラ王国本軍の陣では、大変な騒ぎとなっていて、兵士たちが半狂乱で泣き喚いていた。

 なにせたった今目の前で、大切なお世継ぎ様が、馬ごと真っ二つに切り裂かれて死んだのだ。

 それだけではない。

 総大将が死んでしまった――!

 だがそれを嘆いて悲嘆に暮れるのはコッコラ王国本軍のみで、傭兵たちはなんの興味も感慨も浮かんでいなかった。金を払ってくれるのはコッコラ王国であり、その最高責任者である国王が健在なのだ。王太子が死んだところですぐ困るわけではないからだ。

 それよりも、突如沸いた白黒の人物に興味が集中していることもある。



「副宰相が殺したの、あれは王太子殿下では……」

 ハギが声を顰めてブルーベル将軍に言うと、ブルーベル将軍も呆気にとられたように小さく頷いた。

「たぶん副宰相どのは、王太子殿下だということは知らずに殺したんだと思いますよ」

 正規部隊の大将たちも、唖然と戦場を見つめていた。

 普段は、書類の山と格闘しているベルトルドしか知らない。まさかあのように、躊躇の欠片もなく一刀両断で人の命を奪う姿を見るのは衝撃的だった。しかも気にした風もなく、ふんぞり返っている。

 敵味方に衝撃的場面を見せつけたベルトルドは、しかし平然とライオン傭兵団の面々を睨みつけていた。

「お前たちのせいでこーんなところまで出張させられるわ、皇王に叱られるわ、リュリュにしゃぶられるわ、徹底的にお仕置きしてやるからな、覚悟せい!!」

 この発言を聞いていた人々は「リュリュにしゃぶられる」という部分だけが最大の謎である。もちろんリュリュからのお仕置きは、この件には関係ない。

「チョーやる気モードだなおっさん、オレたちもいくぜえ!」

 ギャリーの号令を合図に、意気揚々とライオン傭兵団が飛び出した。

「ボクからいっくよー!

 神聖な雷が鳴りわたるとき

 大地はふるえ

 山々はおののき

 高地は揺れどよめく

 ビュー・レイプト!!」

 ハーマンは魔力媒体にしている本を開き呪文を唱えると、風属性と雷属性の複合攻撃魔法を放った。最上級レベルに属する攻撃魔法だ。

 逆巻く風に混じって稲妻が走る。これが突風のようにしてベルトルドとアルカネットに襲いかかった。

「風と雷の比率が適当ですね。殺傷力に欠けますよ」

 アルカネットは無感動に言い放つと、片手を前にかざした。

「トゥムルトゥス・リーフ」

 魔法の名のみを一言だけ呟くと、目に見えて柔らかな緑色の風が沸き起こり、ハーマンの放ったビュー・レイプトを包み込むようにして相殺してしまった。

「うっそーん」

 耳と尻尾をピンッと立てて、ハーマンは頭を抱えた。
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