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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・30
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雲一つない澄んだ空は、朝日に照らされ薄らと水色をはいて明るんでいた。
今日も晴天だと思わせる清々しい空のもと、広大なキュラ平原のハワドウレ皇国側は、ずらりと黒い列が広がっている。徹夜で移動してきた正規部隊の全てが布陣しているのだ。
第一から第十まで全ての正規部隊が居並ぶと、その光景は圧倒的だった。
「徴兵どもの姿が見えねーな。後から来た部隊は徴兵は連れてこなかったのか」
ザカリーはガエルの肩車に乗って、皇国側を偵察して報告する。
「こちらの主力は傭兵だ。徴兵なんざ持ってきたところで死体の山を持って帰るだけになるからな。それなら正規の軍人だけで戦ったほうがいいだろうさ」
タバコをふかしながらギャリーが言う。それにメルヴィンとタルコットが頷いた。
「戦闘に不向きの素人たちを殺しても気分が悪いだけですから。徴兵たちが下がってくれて、正直ありがたいです」
苦笑しながら言うメルヴィンに、そうだな、とギャリーは同意した。
武器の扱い方も満足に判っていない徴兵たちが、剣や槍を持っておどおど突っ込んでくる光景を思い浮かべて渋面を作る。手心などを加えて不意をつかれては危険だから容赦なく倒すが、楽しくもないし気分も悪いものだ。
「王太子サマは~、今日も後方に陣取ってぇ、傭兵に全部押し付けちゃう作戦なのかしらん?」
化粧しながらマリオンが言うと、ザカリーが王太子の陣営の方を見る。
「ファランクス組んだまま、じっとしてるな」
「ほんじゃ今日もお、ウンと暴れても平気そうねえ~」
「だな」
「正規の連中が相手なら申し分ねえぜ」
「ギャリーには負けないぜ!」
「言ってろ格闘バカめ」
開始の合図が発せられる前から、すでにライオン傭兵団の皆は臨戦態勢だ。
「でも、さすがに正規部隊が勢揃いしたとなると、こちらはかなり不利な状況ですね」
シビルが小さな掌で頬をなぞる。それに対しカーティスも頷いた。
「我々は大丈夫でも、他が心配ですねえ。さすがに全部隊がこちらに向かってきたら逃げるしかありませんが。それに、ライオンの名を知らしめるためには、よその傭兵たちに無事に帰ってもらう必要もあります」
「確かに、力を見せつけても、広めてくれなくっちゃ意味ないですもんね」
「まあ、手付金だけで満足しているような連中は、状況を見て雲隠れを開始するでしょうし、その辺に期待をしておきますか。逃げる輩は口も軽いものです」
雑談で盛り上がることしばし1時間、ようやく王太子から突撃の合図が出て、傭兵たちは雄叫びをあげながら皇国軍へ向かって駆け出した。
これには新たに到着した第二、第三、第七部隊が迎え撃つために前に出た。
勢いにのる傭兵たちの士気を挫くために、魔法使いたちが攻撃魔法で遠距離攻撃を仕掛けてきた。
爆炎爆風起こる中、しかし傭兵たちはそんなことは織り込み済みで、防御魔法に長けた魔法使いたちに着弾を防がせ、遠距離攻撃に長けた砲撃手や魔法使いたちに攻撃をさせて、近接戦闘員たちが襲いかかっていった。
これにはライオン傭兵団が一役買い、ハーマンに攻撃魔法を大暴走させ、ザカリーのバーガットで小隊、中隊の指揮官を狙撃させる。ライオン傭兵団の周辺にいる傭兵たちはカーティスとシビルが広大な規模で防御魔法を展開して攻撃を防ぎ、ルーファスとマリオンもサイ《超能力》を使って攻防にあたった。そして脳筋組が手際よく近接戦闘に持ち込んで、他の傭兵たちも雪崩込むように突っ込んだ。
「いやはや……本当に手際のいい連中ですねえ。元々我々の軍に属していたこともあって、切り崩し方が上手い」
「そんなに褒めないでやってください。ますます増長します」
バツの悪そうな顔はそのままに、腕を組んだままベルトルドはむっすりと答えた。そんなベルトルドに、ブルーベル将軍はにっこりと微笑みかけた。
今日も晴天だと思わせる清々しい空のもと、広大なキュラ平原のハワドウレ皇国側は、ずらりと黒い列が広がっている。徹夜で移動してきた正規部隊の全てが布陣しているのだ。
第一から第十まで全ての正規部隊が居並ぶと、その光景は圧倒的だった。
「徴兵どもの姿が見えねーな。後から来た部隊は徴兵は連れてこなかったのか」
ザカリーはガエルの肩車に乗って、皇国側を偵察して報告する。
「こちらの主力は傭兵だ。徴兵なんざ持ってきたところで死体の山を持って帰るだけになるからな。それなら正規の軍人だけで戦ったほうがいいだろうさ」
タバコをふかしながらギャリーが言う。それにメルヴィンとタルコットが頷いた。
「戦闘に不向きの素人たちを殺しても気分が悪いだけですから。徴兵たちが下がってくれて、正直ありがたいです」
苦笑しながら言うメルヴィンに、そうだな、とギャリーは同意した。
武器の扱い方も満足に判っていない徴兵たちが、剣や槍を持っておどおど突っ込んでくる光景を思い浮かべて渋面を作る。手心などを加えて不意をつかれては危険だから容赦なく倒すが、楽しくもないし気分も悪いものだ。
「王太子サマは~、今日も後方に陣取ってぇ、傭兵に全部押し付けちゃう作戦なのかしらん?」
化粧しながらマリオンが言うと、ザカリーが王太子の陣営の方を見る。
「ファランクス組んだまま、じっとしてるな」
「ほんじゃ今日もお、ウンと暴れても平気そうねえ~」
「だな」
「正規の連中が相手なら申し分ねえぜ」
「ギャリーには負けないぜ!」
「言ってろ格闘バカめ」
開始の合図が発せられる前から、すでにライオン傭兵団の皆は臨戦態勢だ。
「でも、さすがに正規部隊が勢揃いしたとなると、こちらはかなり不利な状況ですね」
シビルが小さな掌で頬をなぞる。それに対しカーティスも頷いた。
「我々は大丈夫でも、他が心配ですねえ。さすがに全部隊がこちらに向かってきたら逃げるしかありませんが。それに、ライオンの名を知らしめるためには、よその傭兵たちに無事に帰ってもらう必要もあります」
「確かに、力を見せつけても、広めてくれなくっちゃ意味ないですもんね」
「まあ、手付金だけで満足しているような連中は、状況を見て雲隠れを開始するでしょうし、その辺に期待をしておきますか。逃げる輩は口も軽いものです」
雑談で盛り上がることしばし1時間、ようやく王太子から突撃の合図が出て、傭兵たちは雄叫びをあげながら皇国軍へ向かって駆け出した。
これには新たに到着した第二、第三、第七部隊が迎え撃つために前に出た。
勢いにのる傭兵たちの士気を挫くために、魔法使いたちが攻撃魔法で遠距離攻撃を仕掛けてきた。
爆炎爆風起こる中、しかし傭兵たちはそんなことは織り込み済みで、防御魔法に長けた魔法使いたちに着弾を防がせ、遠距離攻撃に長けた砲撃手や魔法使いたちに攻撃をさせて、近接戦闘員たちが襲いかかっていった。
これにはライオン傭兵団が一役買い、ハーマンに攻撃魔法を大暴走させ、ザカリーのバーガットで小隊、中隊の指揮官を狙撃させる。ライオン傭兵団の周辺にいる傭兵たちはカーティスとシビルが広大な規模で防御魔法を展開して攻撃を防ぎ、ルーファスとマリオンもサイ《超能力》を使って攻防にあたった。そして脳筋組が手際よく近接戦闘に持ち込んで、他の傭兵たちも雪崩込むように突っ込んだ。
「いやはや……本当に手際のいい連中ですねえ。元々我々の軍に属していたこともあって、切り崩し方が上手い」
「そんなに褒めないでやってください。ますます増長します」
バツの悪そうな顔はそのままに、腕を組んだままベルトルドはむっすりと答えた。そんなベルトルドに、ブルーベル将軍はにっこりと微笑みかけた。
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