片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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番外編・2

コッコラ王国の悲劇・21

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 遠くから王太子の顔をじっと見ていたザカリーは、釈然としない顔で鼻息を吹き出した。

「どったの?」

 ハーマンが足元からザカリーを見上げると、ザカリーはポリポリと頬を指先で掻いた。

「んー、なんか王太子サマのやる気は、ここじゃないところへ向けられてるような感じに見えんのよ」

 戦闘の遠隔武器系スキル〈才能〉持ちのザカリーは、1キロ以上も離れた場所からでも、米粒ほどの物体を見ることができる。視力が異常に発達しているのが遠隔武器系スキル〈才能〉持ちの特徴でもあった。

「敵意、っての? それが目の前の皇国軍じゃないところを向いてるような」

「ふーん? なんだろね」

 ハーマンはフサフサの尻尾を緩やかに振りながら、魔法の媒体にしている本を開いたり閉じたりしていた。

 平原に到着してすでに2時間が経過している。

 最初の1時間は陣形を組むためにひと騒動だったが、いざ陣形が完成してしまうと、戦いを前にして皆黙した。

 緊張と高揚感。傭兵たちはこの静かな時間がたまらなく大好きだ。開戦の火蓋が切って落とされたら、あとは勝つか負けるか。生き残るか死ぬか、ただそれだけなのだ。

 戦いの中でしか己を輝かせられない。だから精一杯戦場を走り抜ける。国の威信だの雇い主のメンツのために戦うわけではない、報酬と自分のためにだけ闘う。

 ライオン傭兵団も例外に漏れず、鬨の声を今か今かと待ち望んでいた。脳筋組は気を充実させいつでも万全の状態だ。

 カーティスとシビルは、暴れだしたら止まらないヴァルト、ガエル、ギャリー、タルコットにはとくに入念に強化魔法と防御魔法を施した。暴れはするが自重するメルヴィン、ルーファス、ペルラ、マリオンはそこそこに。

 攻撃魔法で大暴走するハーマンは、そもそも暴走した時点で誰も近寄れないのでほっといて、ランドンは自衛に任せていた。

 非戦闘員のブルニタルとマーゴットは、平原の入口まで下がらせている。彼女たちの位置では、戦場は土煙でなにも見えないだろう。狙撃手のザカリーは、カーティスと共に行動することになっていた。

 戦意が高まる中、ついに王太子の片手が高々と上がる。

 そしてその手は、鋭く振り下ろされた。



 晴天のもと、キュラ平原には凄まじいほどの叫び声がとどろき渡る。

 両軍合わせて約21万人ほどの人間たちがひしめいていた。

 コッコラ王国の王太子の合図で開戦した。

 コッコラ王国本軍はその場にとどまったままだが、右翼と左翼の傭兵たちの軍団が、一気にハワドウレ皇国軍へなだれ込む。これをハワドウレ皇国軍は迎え撃ったが、コッコラ王国本軍のようにファランクスを形成していたものの、傭兵たちはそれをよく心得ていて、たくみに魔法攻撃を盾の内側にヒットさせて、着々と鉄壁の盾の布陣を打ち破った。

 ハワドウレ皇国軍の魔法使い、サイ《超能力》使いたちも応戦したが、躊躇なく的確に突き進む傭兵たちの動きについていけず、フォローが後手に回っている有様だ。

 銃兵や砲撃兵たちは、敵味方が入り乱れすぎて狙いを定められずに手を出しあぐね、そこを次々と撃破されていった。
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