片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
564 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・19

しおりを挟む
 ハワドウレ皇国に牙を剥いたコッコラ王国の軍は、一足先に、国境の最も戦闘のしやすいキュラ平原に陣を敷いた。

 ハワドウレ皇国と隣接しているコッコラ王国は、国境沿いには町や村を建てていない。叛意なしの意思表示のため、他国でもハワドウレ皇国に隣接している場合は、国境沿いにはなにも置かないのが慣例だ。

 万が一小さくても村や町があった場合、軍事拠点と疑われることを避けるためである。独立を勝ち取っても、本当の意味で独立ではない。対等ではないからだ。

 草が生えているだけのだだっ広いキュラ平原には、青い軍服をまとった軍人たちで溢れかえっている。その中で、一際派手に目立つ黄金の鎧一式に身を包んだ青年は、馬上でじっとハワドウレ皇国側を睨んでいた。

 アイバク・イゼット・メティン王太子。まだ25歳と若いが、戦闘スキル〈才能〉の武器系槍術使いだ。

 褐色の肌と黒い髪と瞳を持ち、血気にはやる精悍な顔つきをしている。

 今回の戦争の発端を知っている王太子は、たいそう不快感と不機嫌に蝕まれていた。そして王家の威信にかけて、この戦争を勝ち、ある目的を果たす覚悟でキュラ平原に立ちはだかっていた。

「ベルトルドという男の首は、必ず俺がとる」

 怒りを抑えるように静かに呟くと、遠方に見える砂塵に視線を向けた。



 あまり乗り心地がいいとは言えない汽車の中に押し込まれ、ライオン傭兵団は他の傭兵たちと共にキュラ平原へ向かっていた。

 首都エルマスから汽車でおよそ4時間の道程で、キュラ平原付近の街コラユに着く。3万人もの傭兵たちを運ぶために、臨時で汽車が多数運行され、ライオン傭兵団は最後の汽車に乗せられていた。

(オレたちは、どのあたりに布陣予定なんです?)

(中央に王太子の本陣、右翼に《カリンダラージャ》傭兵騎士団、左翼に《夜明けの孔雀》傭兵団、本陣の後方に《栄光の太陽》傭兵団がそれぞれ配置されるそうですよ)

 ルーファスとマリオンが、メンバー全員と念話が出来るよう中継して、汽車の中では念話で会話が弾んでいた。

(何だか判りやすい布陣だな)

(全体の指揮は王太子がとるそうですが、傭兵団は好きに暴れていいそうなので、こういう単純な布陣で問題ないでしょう)

(キュラ平原以外のところに、皇国軍が現れたりはしねーの?)

(国境沿いで戦うなら、キュラ平原以外はありえません。ほかの場所は山脈が通ったり地理的に難しいんです)

(なるほどなるほど)

(皇国軍は誰が出てくんだろな? そういう情報はおせーてもらってんの?)

(第一、第五、第六と、ラーシュ=オロフ長官のダエヴァ第二部隊が出てくるそうですよ)

(なんだよ、どーせだったら全軍出てくりゃいいのによ)

(準備不足の弱小軍隊と、寄せ集めの傭兵軍団ですから、皇国もそこまで本気じゃないってことですかね)

(でも直々にブルーベル将軍がいらっしゃるそうですよ)

(ガエルの親戚だろ? すっこんでろって連絡しとけよ)

(伯父貴と手合わせできるだろうか。楽しみだな)

(伯父と甥で格闘バカかよったく)

(順番的に第六正規部隊とウチは当たりそうでしょうかね。リクハルド大将は計略型の指揮官ですから、油断できないです)

(だだーっぴろ~い大平原で、計略もなにも働かないわよぉ。なんせ無軌道に動く傭兵団が殆ど主力なんだもーん)

(まさかあちらさんも、勝手に動けなんて指示されてるとは思ってねーだろな)

(男は黙ってしょーめんしょーとつあるのみだ!!)

(蹴散らしてやんよ)

 盛り上がる彼らを乗せた汽車は、到着予定時刻を裏切ることなく、コラユの街のステーションに到着した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。

恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。 ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。 クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。

処理中です...