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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・19
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ハワドウレ皇国に牙を剥いたコッコラ王国の軍は、一足先に、国境の最も戦闘のしやすいキュラ平原に陣を敷いた。
ハワドウレ皇国と隣接しているコッコラ王国は、国境沿いには町や村を建てていない。叛意なしの意思表示のため、他国でもハワドウレ皇国に隣接している場合は、国境沿いにはなにも置かないのが慣例だ。
万が一小さくても村や町があった場合、軍事拠点と疑われることを避けるためである。独立を勝ち取っても、本当の意味で独立ではない。対等ではないからだ。
草が生えているだけのだだっ広いキュラ平原には、青い軍服をまとった軍人たちで溢れかえっている。その中で、一際派手に目立つ黄金の鎧一式に身を包んだ青年は、馬上でじっとハワドウレ皇国側を睨んでいた。
アイバク・イゼット・メティン王太子。まだ25歳と若いが、戦闘スキル〈才能〉の武器系槍術使いだ。
褐色の肌と黒い髪と瞳を持ち、血気にはやる精悍な顔つきをしている。
今回の戦争の発端を知っている王太子は、たいそう不快感と不機嫌に蝕まれていた。そして王家の威信にかけて、この戦争を勝ち、ある目的を果たす覚悟でキュラ平原に立ちはだかっていた。
「ベルトルドという男の首は、必ず俺がとる」
怒りを抑えるように静かに呟くと、遠方に見える砂塵に視線を向けた。
あまり乗り心地がいいとは言えない汽車の中に押し込まれ、ライオン傭兵団は他の傭兵たちと共にキュラ平原へ向かっていた。
首都エルマスから汽車でおよそ4時間の道程で、キュラ平原付近の街コラユに着く。3万人もの傭兵たちを運ぶために、臨時で汽車が多数運行され、ライオン傭兵団は最後の汽車に乗せられていた。
(オレたちは、どのあたりに布陣予定なんです?)
(中央に王太子の本陣、右翼に《カリンダラージャ》傭兵騎士団、左翼に《夜明けの孔雀》傭兵団、本陣の後方に《栄光の太陽》傭兵団がそれぞれ配置されるそうですよ)
ルーファスとマリオンが、メンバー全員と念話が出来るよう中継して、汽車の中では念話で会話が弾んでいた。
(何だか判りやすい布陣だな)
(全体の指揮は王太子がとるそうですが、傭兵団は好きに暴れていいそうなので、こういう単純な布陣で問題ないでしょう)
(キュラ平原以外のところに、皇国軍が現れたりはしねーの?)
(国境沿いで戦うなら、キュラ平原以外はありえません。ほかの場所は山脈が通ったり地理的に難しいんです)
(なるほどなるほど)
(皇国軍は誰が出てくんだろな? そういう情報はおせーてもらってんの?)
(第一、第五、第六と、ラーシュ=オロフ長官のダエヴァ第二部隊が出てくるそうですよ)
(なんだよ、どーせだったら全軍出てくりゃいいのによ)
(準備不足の弱小軍隊と、寄せ集めの傭兵軍団ですから、皇国もそこまで本気じゃないってことですかね)
(でも直々にブルーベル将軍がいらっしゃるそうですよ)
(ガエルの親戚だろ? すっこんでろって連絡しとけよ)
(伯父貴と手合わせできるだろうか。楽しみだな)
(伯父と甥で格闘バカかよったく)
(順番的に第六正規部隊とウチは当たりそうでしょうかね。リクハルド大将は計略型の指揮官ですから、油断できないです)
(だだーっぴろ~い大平原で、計略もなにも働かないわよぉ。なんせ無軌道に動く傭兵団が殆ど主力なんだもーん)
(まさかあちらさんも、勝手に動けなんて指示されてるとは思ってねーだろな)
(男は黙ってしょーめんしょーとつあるのみだ!!)
(蹴散らしてやんよ)
盛り上がる彼らを乗せた汽車は、到着予定時刻を裏切ることなく、コラユの街のステーションに到着した。
ハワドウレ皇国と隣接しているコッコラ王国は、国境沿いには町や村を建てていない。叛意なしの意思表示のため、他国でもハワドウレ皇国に隣接している場合は、国境沿いにはなにも置かないのが慣例だ。
万が一小さくても村や町があった場合、軍事拠点と疑われることを避けるためである。独立を勝ち取っても、本当の意味で独立ではない。対等ではないからだ。
草が生えているだけのだだっ広いキュラ平原には、青い軍服をまとった軍人たちで溢れかえっている。その中で、一際派手に目立つ黄金の鎧一式に身を包んだ青年は、馬上でじっとハワドウレ皇国側を睨んでいた。
アイバク・イゼット・メティン王太子。まだ25歳と若いが、戦闘スキル〈才能〉の武器系槍術使いだ。
褐色の肌と黒い髪と瞳を持ち、血気にはやる精悍な顔つきをしている。
今回の戦争の発端を知っている王太子は、たいそう不快感と不機嫌に蝕まれていた。そして王家の威信にかけて、この戦争を勝ち、ある目的を果たす覚悟でキュラ平原に立ちはだかっていた。
「ベルトルドという男の首は、必ず俺がとる」
怒りを抑えるように静かに呟くと、遠方に見える砂塵に視線を向けた。
あまり乗り心地がいいとは言えない汽車の中に押し込まれ、ライオン傭兵団は他の傭兵たちと共にキュラ平原へ向かっていた。
首都エルマスから汽車でおよそ4時間の道程で、キュラ平原付近の街コラユに着く。3万人もの傭兵たちを運ぶために、臨時で汽車が多数運行され、ライオン傭兵団は最後の汽車に乗せられていた。
(オレたちは、どのあたりに布陣予定なんです?)
(中央に王太子の本陣、右翼に《カリンダラージャ》傭兵騎士団、左翼に《夜明けの孔雀》傭兵団、本陣の後方に《栄光の太陽》傭兵団がそれぞれ配置されるそうですよ)
ルーファスとマリオンが、メンバー全員と念話が出来るよう中継して、汽車の中では念話で会話が弾んでいた。
(何だか判りやすい布陣だな)
(全体の指揮は王太子がとるそうですが、傭兵団は好きに暴れていいそうなので、こういう単純な布陣で問題ないでしょう)
(キュラ平原以外のところに、皇国軍が現れたりはしねーの?)
(国境沿いで戦うなら、キュラ平原以外はありえません。ほかの場所は山脈が通ったり地理的に難しいんです)
(なるほどなるほど)
(皇国軍は誰が出てくんだろな? そういう情報はおせーてもらってんの?)
(第一、第五、第六と、ラーシュ=オロフ長官のダエヴァ第二部隊が出てくるそうですよ)
(なんだよ、どーせだったら全軍出てくりゃいいのによ)
(準備不足の弱小軍隊と、寄せ集めの傭兵軍団ですから、皇国もそこまで本気じゃないってことですかね)
(でも直々にブルーベル将軍がいらっしゃるそうですよ)
(ガエルの親戚だろ? すっこんでろって連絡しとけよ)
(伯父貴と手合わせできるだろうか。楽しみだな)
(伯父と甥で格闘バカかよったく)
(順番的に第六正規部隊とウチは当たりそうでしょうかね。リクハルド大将は計略型の指揮官ですから、油断できないです)
(だだーっぴろ~い大平原で、計略もなにも働かないわよぉ。なんせ無軌道に動く傭兵団が殆ど主力なんだもーん)
(まさかあちらさんも、勝手に動けなんて指示されてるとは思ってねーだろな)
(男は黙ってしょーめんしょーとつあるのみだ!!)
(蹴散らしてやんよ)
盛り上がる彼らを乗せた汽車は、到着予定時刻を裏切ることなく、コラユの街のステーションに到着した。
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