片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
558 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・13

しおりを挟む
 ライオン傭兵団に集まっている猛者たちは、一人当千の実力を備え、またそれに匹敵するほどの知識や能力を持つ人々だ。そんな中、特殊スキル〈才能〉に分類される魔法を持つマーゴットだが、これが申し訳ないほど扱いが下手なのである。

 低級レベルの魔法すら満足に扱えず、しかもマーゴット自身は回復系魔法が得意だと思い込んでいた。当然扱いが下手なのは魔法全般なので、マーゴットが回復魔法を使えば擦り傷すら悪化し、重症人に使えば死人を出す有様だ。しかしマーゴットは自身が下手なことをけっして認めない。もはや可愛げがないとかそういうレベルではない。

 メンバーを集める際、一流で凄腕ばかりを望んだ手前、マーゴットの存在はライオン傭兵団にとっては唯一の汚点である。それでもあえて彼女を入れているのは、カーティスの恋人だからであり、それが判っているから皆も我慢してくれている。これでせめてマーゴットが空気を読んでしおらしく振舞ってくれればまだよかったが、強情で頑固、つんけんして態度も女王様気取りな部分が大きい。

 今も与えられた分け前を当然のように自分の荷物にしまっているので、皆の抑えた反感を買ってることにも気づいていないのだった。

 自分が望んだこととは言え、少しは気を使って欲しい、そうカーティスも思っている。

「分配完了しましたよ、カーティスさん」

 シビルが余った50枚くらいの金貨を、袋に詰め直してカーティスに渡す。この残金で、当分の食費やら酒代が支払われることになる。

「ありがとうございます」

「母屋のほうから朝食は振舞われるらしいですが、昼食と夕食は自分たちで何とかして欲しい、とのことでした」

 交渉にあたったブルニタルからの報告に、カーティスは頷いた。

「明日にでも戦端が開かれるというわけではないようですから、5日間くらいはのんびりできそうです」

「なんで5日?」

 ギャリーが首をかしげると、カーティスは前金と一緒に受け取っていた書類をギャリーに手渡す。

「なんでぇ、えらく大雑把だな」

 書類に視線を走らせたギャリーは、不精ひげの生える顎を摩りながら、眉間にシワを寄せる。

「4日後までは傭兵を募る期間、5日後に戦端を開く。て、オイオイ、一体何時軍を編成するんだ? ある程度は体裁を整えないとマズイだろ。それに作戦説明とかはどーすんだよ」

「準備まるでナシ、だね」

 ルーファスが肩をすくめた。

「コッコラ王国領内に皇国軍が来るまでは、当然準備に追われるんでしょうが、こちらの都合に合わせて皇国軍が待ってくれるんか?」

「皇国軍にきてもらうのが前提なんだな。遠征するとか全く予定はない感じだ」

「つか、予定通りに皇国軍が5日後にくんの?」

 皆は呆れ顔を見合わせて視線を上に向ける。ライオン傭兵団のメンバーは、ほぼ元軍人だったのだ。コッコラ王国の杜撰すぎる様子に、ツッコミどころ満載である。国同士が闘うというより、街の縄張り争いのような稚拙さが浮き彫りだ。

 せっかく募集に乗っかってみたのはいいが、開始前からすでにグデグデなのには正直恐れ入る。

「これは私の想像ですが…、作戦なんてないと思います」

 にっこりと言うカーティスの顔を見て、全員ゲソーッと表情を歪ませた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。

松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。 全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪

処理中です...