片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
556 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・11

しおりを挟む
 カーティスとガエルは、重厚な彫刻が並び、微細な天井絵に彩られた大理石廊下を並んで歩く。2人はそんな美術品にはなんの興味もわかず、目の端に眺めながら淡々と前を見ていた。

 コッコラ王国側の傭兵募集に乗ることを決めた翌日、出張用の荷物をまとめると、アジトの管理を任せているキリ夫妻に見送られて、傭兵団全員でコッコラ王国に出発した。

 移動はエグザイル・システムを使うのでラクなのだが、コッコラ王国への渡航は制限がかかりはじめたようで、とくに傭兵や職人などの出国には、ハワドウレ皇国の厳しい審査が始まっていた。

 そこでカーティス達は、わざわざ惑星タピオに飛んで、そこから惑星ヒイシに入り直してコッコラ王国へ飛ぶという、とても面倒な手順を踏んだ。惑星間の移動では、玄関口になる無人のエグザイル・システムに飛ぶ。そこまではハワドウレ皇国の管理下に置かれていない。

 幸い裏ワザ手順までは抑えられていないようで、ギリギリ間に合った感じだろう。

 エグザイル・システムとは、世界各地に多く点在する転送装置の名称である。

 半径1メートルほどの黒い石造りの台座に、短い銀の支柱のようなものが3本立っている。台座の中心にはその惑星の地図が平面上に彫り込まれていて、エグザイル・システムがある土地の位置にスイッチのような突起がある。そのスイッチを踏めば台座に乗っているもの全てを一瞬でそこへ飛ばしてもらえるのだ。重さや大きさは問わず、台座の上に収まれば大丈夫だ。

 惑星間を移動するときには銀の支柱に触れればよく、支柱はそれぞれの惑星へのスイッチの役割を持っていた。

 惑星間移動ではそれぞれの惑星で、必ず玄関口となる場所に飛ぶようになっている。そこから向かいたい土地を選択すればいいので、移動もスムーズだ。

 エグザイル・システムの利用はどの国でも無料で使える、便利で手頃な移動手段だった。

 コッコラ王国の首都エルマスに到着したライオン傭兵団は、その足でカーティスとガエルが傭兵募集を行っている宮殿へ、残りは宿屋探しにわかれた。

 宮殿から出て街に入ると、辺りに漂う雰囲気にカーティスは眉をしかめた。

 エルマスには物騒な連中が多くひしめき合っている。にもかかわらず、街の雰囲気は明るく、どこか異様に盛り上がっているような気配すらあるのだ。

 絶え間なく陽気に流れる舞踏の音楽、笑いさざめく人々、露天から香ってくる肉の香ばしい匂い、物を売り歩く陽気な商人たち。とても戦争を控えているという雰囲気ではない。

「心の底から、穏やかに楽しいというわけじゃないようですねえ。まるで恐怖を誤魔化す様な、気色の悪い陽気さを感じます」

「うむ」

 鼓舞するためのものではない。恐怖に怯える心を無理に隠すような熱気が、街全体を覆い尽くしているかのようだ。

 マリオンから念話で連絡をもらっていたカーティスは、街に漂う異様な空気を肌で感じながら、仲間たちの待つ宿へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

社畜から卒業したんだから異世界を自由に謳歌します

湯崎noa
ファンタジー
ブラック企業に入社して10年が経つ〈宮島〉は、当たり前の様な連続徹夜に心身ともに疲労していた。  そんな時に中高の同級生と再開し、その同級生への相談を行ったところ会社を辞める決意をした。  しかし!! その日の帰り道に全身の力が抜け、線路に倒れ込んでしまった。  そのまま呆気なく宮島の命は尽きてしまう。  この死亡は神様の手違いによるものだった!?  神様からの全力の謝罪を受けて、特殊スキル〈コピー〉を授かり第二の人生を送る事になる。  せっかくブラック企業を卒業して、異世界転生するのだから全力で謳歌してやろうじゃないか!! ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバでも連載中

ブラック・スワン  ~『無能』な兄は、優美な黒鳥の皮を被る~ 

ファンタジー
「詰んだ…」遠い眼をして呟いた4歳の夏、カイザーはここが乙女ゲーム『亡国のレガリアと王国の秘宝』の世界だと思い出す。ゲームの俺様攻略対象者と我儘悪役令嬢の兄として転生した『無能』なモブが、ブラコン&シスコンへと華麗なるジョブチェンジを遂げモブの壁を愛と努力でぶち破る!これは優雅な白鳥ならぬ黒鳥の皮を被った彼が、無自覚に周りを誑しこんだりしながら奮闘しつつ総愛され(慕われ)する物語。生まれ持った美貌と頭脳・身体能力に努力を重ね、財力・身分と全てを活かし悪役令嬢ルート阻止に励むカイザーだがある日謎の能力が覚醒して…?!更にはそのミステリアス超絶美形っぷりから隠しキャラ扱いされたり、様々な勘違いにも拍車がかかり…。鉄壁の微笑みの裏で心の中の独り言と突っ込みが炸裂する彼の日常。(一話は短め設定です)

処理中です...