片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
555 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・10

しおりを挟む
 ワイ・メア大陸のほぼ北側に位置するコッコラ王国は、ハワドウレ皇国を建国したワイズキュール家と共に、戦場を駆け抜けた戦友の一人、ハルク・メティンが賜った領地である。

 豊かな油田が多く、石油を税としてハワドウレ皇国に献上する条件で、属国という形ではあるが、独立を勝ち取った国だ。

 現在は65歳になる、エルディミル・セミフ・メティン国王が治めている。

 これといって目立たず、暴君でも名君でもなく、無難に先祖代々からの玉座を温めるだけの温厚な国王という程度の評判だった。そんなメティン国王が、どういうわけか豊かな財力を背景に、世界各地から腕利きの傭兵たちを募り、ハワドウレ皇国に弓をひこうとしている。

 3000万人程度のそれほど大きな国ではないが、財力がとてつもないことは世界中でも有名なことだ。その国が大々的に傭兵を募っているというニュースは、水面下でも瞬く間に世界中に広がった。

 くすぶりまくる傭兵たちは、大金を稼ぐチャンスとばかりに、コッコラ王国に集結していた。



 美しい幾何学模様を描く装飾に装われたグシャスプ宮殿。その一角が傭兵たちの受付所として解放され、白亜の彫刻と黄金細工で彩られた豪奢な室内には、およそ不似合い過ぎる厳つい顔の猛者たちがひしめいていた。

 窓際近くに並べられた3つのテーブルには、役人風の身なりの男たちと警備兵たちが並び、テーブルを挟んで対岸に傭兵たちが3列に行儀よく並んでいる。

 前に立っていた男がどくと、「次」と呼ばれてカーティスは一歩進み出た。

「これに目を通しサインを」

 彫りの深い顔立ちの黒髪の男が、無表情に一枚の書面を差し出す。

 無言で頷いて書面を受け取ると、カーティスは仰天したように目を見開いた。

 支払われる報酬の全額は7千万エンフ、前金として1千万エンフが支払われる旨の記述だった。

 左右隣の列に並ぶ先頭の男たちも、同様に目をひん剥いていた。

 カーティスは驚きの表情を引っ込め、すぐさま借りたペンを走らせ署名する。

 目の前の無表情な男にサインした書面と、あらかじめ用意していたメンバーリストを渡す。かわりにやたらと重たい布袋を3つと、書類を折らずに入ることのできる封筒を手渡された。

 邪魔にならないようにすぐさま列から離れ、出口へと向かう。

「持とう」

 出口の外で待機していたガエルが、フラフラ歩くカーティスの手から布袋を全部受け取る。カーティスはホッとした表情で、封筒に書類を入れて、小脇に抱えた。

「ありがとうございます。手が痺れてしまう重さですねえ」

「随分ぎっしり詰まってるな」

 にやりとガエルが笑むと、それだけで凄みを増す迫力が満面に広がる。クマのトゥーリ族であるガエルは、3つの布袋を軽々と抱えていた。

「これは前金だろう? 随分と気前の良い国だな」

 珍しくお喋りになるガエルに苦笑を向けて、カーティスは頷いた。

「1千万エンフですから。念のため、宿に戻ったら中身を確認しましょう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

処理中です...