片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
551 / 882
番外編・2

コッコラ王国の悲劇・6

しおりを挟む
「んな場末のストリップ劇場が潰れるくらいで、そんな落ち込まんでも……。ベルトルド様なら社交界の美姫を独占し放題っしょ」

 首をすくめながらギャリーがつっこむと、

「宮廷のメス豚共はもう飽きた」

 とそっけない返事が戻ってきて、談話室内には「やれやれ」といったため息が流れた。

「家柄を鼻にかける厚化粧共の分際で、やってることは男日照りの淫売だ」

「……否定はできないものがありますね」

 ストレートすぎる表現に、苦笑交じりにルーファスが同意した。

 恋のゲーム、恋の駆け引きと称して、性欲旺盛な貴婦人が多いことを、かつて宮廷騎士を務めていたルーファスはよく知っていた。何故なら自分もご相伴にあずかることが多かったからだ。

 どこか人懐っこさのある、優しい甘いマスクに金髪で長身の彼は、騎士甲冑をまとって立っているだけで、妙齢から高齢までの貴婦人たちの憧れの的だったのだ。

「なんなら俺が買い取ってもいいんだが」

「ストリップ劇場をですか!?」

 縞模様の混じった尻尾を逆立てながら、シビルが仰天した声を上げる。

「アルカネットにバレると殺される……」

 眉をしかめてベルトルドが渋面を作る。

「止めておいたほうがよろしいかと」

 ため息混じりにカーティスが言うと、ベルトルドは「ふんっ」と鼻息を吐きだした。

「あいつを執事にしたら、小遣いの使い道まで五月蝿くなった。お陰で小遣いが減るたびに、説教まみれなんだぞ」

「女性問題の後始末を、いつも押し付けるからツケが回ってきたんじゃね……」

 ぼそりとギャリーがつっこむと、ベルトルドにじろりと睨まれて首をすくめた。

「唯一の息抜きが、ここで愚痴を垂れるだけとはな。色気もなんもナイようなところでまったく」

「あら~、アタシがいるじゃないですかぁ」

 うふんとセクシーポーズを作ってアピールするマリオンを一瞥し、ベルトルドは真顔になって率直に感想を述べる。

「お前がそうするとキモイからやめておけ」

「え~~~~~ひどぉおおおい」

 嘆くマリオンをよそに、皆納得したように深く頷いていた。

 王侯貴族が住み、国の中枢機関が集まるハーメンリンナの中に広大な屋敷を持ち、贅沢放題が出来る御仁が、傭兵のアジトで酒を片手にくつろいでいるのは、ベルトルドこそがライオン傭兵団の後ろ盾であり、資金源のスポンサーだからである。

 週に1回くらいはこうしてふらりと遊びにやってきて、談話室でみんなを相手に雑談をしていた。

 ライオン傭兵団のアジトでは、各自立派な個室が与えられている。もともと宿屋だったこともあり、シングルルーム程度の広さだが、ベッドに調度品なども整っている良い部屋だ。他には広い食堂やら各生活スペースがあるが、みんなで集まってのんびりくつろげる空間があるといいですね、とカーティスの提案で作られたのが談話室だった。

 元はダンスフロアだった部屋に若干手を入れ、各々好きなものを持ち込んでちょっとした遊びの空間に変わった。

 談笑できるソファセット、カードゲームのためのテーブルセット、トレーニング用の器具類、床に寝そべることができるような大きめのカーペットが敷かれ、読書が出来るように本棚と本が置かれた。憩いの部屋らしく観葉植物や花が活けられ、小腹がすいたときにつまめる菓子鉢もある。

 部屋に閉じこもって気ままに過ごす者もいるが、みんな大抵はこの談話室に集まり、自由気ままに時間を過ごすのが当たり前となっていた。

 あまり積極的に会話に参加しないメンバーも、同じ空間にいることで、自然とコミュニケーションも取れているのだ。

 こうしてベルトルドが遊びに来たときは、全員必ずこの談話室に集まるようにカーティスから指示されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。

松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。 全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪

処理中です...