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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・5
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ハワドウレ皇国の皇都イララクスは、3種族の首都の中でも一番の規模を誇る広さである。
王侯貴族たちの住まう堅牢な城壁に囲まれた区画をハーメンリンナと呼び、そこを中心として扇を描くように、海の方へ広がりながら街が出来ている。それらをひっくるめて『皇都イララクス』と称するようになったのは300年ほど前だ。
ハーメンリンナの外は庶民の生活街、貧富の差はあるものの、色々な職種についている人々が暮らしていた。
その中でとくに一般庶民は近寄らず、傭兵という職業を生業とする人々が暮らす街がある。
ハーメンリンナから徒歩30分ほどの場所にあり、色々な傭兵団のアジトや宿舎、そんな人々を相手に商売をする店や、ボロいアパートが立ち並ぶエルダー街。別名を傭兵街、などとも呼ばれていた。
エルダー街に立ち並ぶ建物には統一性がなく、個性をむき出しにした外観を持つ建物がひしめいていた。その中では比較的趣味のいい、オレンジ色のレンガの屋根を持った白く塗装された外壁を持つ屋敷がある。
表通りに面した白い壁には黒い木枠の窓が並び、所々色鮮やかな花の鉢植えが置いてある。元は宿屋だったらしいが、負債が続いて主が手放した後、ライオン傭兵団が買い取ってアジトにして住んでいた。
2年前に設立された新興の傭兵団で、団、と呼ぶには極端に人数も少なく、”傭兵チーム”と称したほうがしっくりくるが、彼らは”傭兵団”と言い張っていた。
まだまだ無名に近い存在である彼らが立派なアジトを持ち、普通に食べていけるのは、強力な後ろ盾が存在しているからで、そのことは公にはされていない。台所事情を知らない町民たちは、ただただ、新参者たちが快適に生活できていることを疑問に思う者は多い。
最近傭兵団のメンバーが新しく購入したという、オレンジ色のソファに偉そうに寝そべり、つまみを持って来い、酒がきれた、酌をしろと喚きたてる男がいた。
ハワドウレ皇国で副宰相の地位をいただき、『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を持つベルトルドである。
見た目は20代後半に差し掛かったくらい若く見えるが、御歳38になる。
塑像のように整った顔立ちと、灰青色の瞳の嵌った切れ長の目、しかしどことなく険のある強気が前面に出た表情と、ふてぶてしい態度が、麗しいという印象を見事に押し退けている。
更に今は襟元を大きくはだけたワイシャツとスラックス姿でくつろいでいるので、副宰相だと言われても、きっと誰も信じないだろう。
ベルトルドのグラスにビールを注ぎながら、そういえば、とルーファスは切り出した。
「ベルトルド様お気に入りの、近所のストリップ劇場が近々閉館になるそうですよ」
「なんだと!?」
ガバッと身体を起こすと、ベルトルドはルーファスの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「俺の憩いの場だぞ!!」
「な、なんでも経営難に陥って、負債が多くてどうにもならないと……」
鬼気迫るベルトルドに、ルーファスはドン引きしながら答える。
ベルトルドはルーファスを放り出すように解放すると、両手で頭を抱えてブツブツとひとりごち始めた。
「ブリットやダニエラの、あの悩ましくも素晴らしい裸体がもう見れないっていうのか……! あの眩しいステージを見ることが、仕事に忙殺されて溜まりまくるストレスの、唯一の解消だったのになんてことだ」
ブリットとダニエラは、ストリップ劇場のダンサーたちのことである。
まるで世界滅亡カウントダウンでも起こりそうなほどの深刻な表情で、ベルトルドはガッカリと再びソファに寝転んだ。
王侯貴族たちの住まう堅牢な城壁に囲まれた区画をハーメンリンナと呼び、そこを中心として扇を描くように、海の方へ広がりながら街が出来ている。それらをひっくるめて『皇都イララクス』と称するようになったのは300年ほど前だ。
ハーメンリンナの外は庶民の生活街、貧富の差はあるものの、色々な職種についている人々が暮らしていた。
その中でとくに一般庶民は近寄らず、傭兵という職業を生業とする人々が暮らす街がある。
ハーメンリンナから徒歩30分ほどの場所にあり、色々な傭兵団のアジトや宿舎、そんな人々を相手に商売をする店や、ボロいアパートが立ち並ぶエルダー街。別名を傭兵街、などとも呼ばれていた。
エルダー街に立ち並ぶ建物には統一性がなく、個性をむき出しにした外観を持つ建物がひしめいていた。その中では比較的趣味のいい、オレンジ色のレンガの屋根を持った白く塗装された外壁を持つ屋敷がある。
表通りに面した白い壁には黒い木枠の窓が並び、所々色鮮やかな花の鉢植えが置いてある。元は宿屋だったらしいが、負債が続いて主が手放した後、ライオン傭兵団が買い取ってアジトにして住んでいた。
2年前に設立された新興の傭兵団で、団、と呼ぶには極端に人数も少なく、”傭兵チーム”と称したほうがしっくりくるが、彼らは”傭兵団”と言い張っていた。
まだまだ無名に近い存在である彼らが立派なアジトを持ち、普通に食べていけるのは、強力な後ろ盾が存在しているからで、そのことは公にはされていない。台所事情を知らない町民たちは、ただただ、新参者たちが快適に生活できていることを疑問に思う者は多い。
最近傭兵団のメンバーが新しく購入したという、オレンジ色のソファに偉そうに寝そべり、つまみを持って来い、酒がきれた、酌をしろと喚きたてる男がいた。
ハワドウレ皇国で副宰相の地位をいただき、『泣く子も黙らせる副宰相』という通り名を持つベルトルドである。
見た目は20代後半に差し掛かったくらい若く見えるが、御歳38になる。
塑像のように整った顔立ちと、灰青色の瞳の嵌った切れ長の目、しかしどことなく険のある強気が前面に出た表情と、ふてぶてしい態度が、麗しいという印象を見事に押し退けている。
更に今は襟元を大きくはだけたワイシャツとスラックス姿でくつろいでいるので、副宰相だと言われても、きっと誰も信じないだろう。
ベルトルドのグラスにビールを注ぎながら、そういえば、とルーファスは切り出した。
「ベルトルド様お気に入りの、近所のストリップ劇場が近々閉館になるそうですよ」
「なんだと!?」
ガバッと身体を起こすと、ベルトルドはルーファスの胸ぐらを掴んで引き寄せた。
「俺の憩いの場だぞ!!」
「な、なんでも経営難に陥って、負債が多くてどうにもならないと……」
鬼気迫るベルトルドに、ルーファスはドン引きしながら答える。
ベルトルドはルーファスを放り出すように解放すると、両手で頭を抱えてブツブツとひとりごち始めた。
「ブリットやダニエラの、あの悩ましくも素晴らしい裸体がもう見れないっていうのか……! あの眩しいステージを見ることが、仕事に忙殺されて溜まりまくるストレスの、唯一の解消だったのになんてことだ」
ブリットとダニエラは、ストリップ劇場のダンサーたちのことである。
まるで世界滅亡カウントダウンでも起こりそうなほどの深刻な表情で、ベルトルドはガッカリと再びソファに寝転んだ。
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