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勇気と決断編
episode526
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勇気と決断編終わります。なのでちょっと文字数多めに詰め込ませていただきました。
物語の前半がこれで終了となります。
物語の後半に入る前に、次回からは、ちょっと番外編を1本挟まみます。主人公のキュッリッキさんが登場しない、本編から3年ほど前の、ベルトルドとライオン傭兵団のお話です。
本編でも度々出てきていた、コッコラ王国のことについてのお話になります。
たぶん、このお話を楽しく読んで頂くには、ここしかないな、と思っているので、番外編の方もよろしくお願いします~。
********************
一歩進むごとに、アジトが近くなる。
エルダー街に入ると、昼日中だというのに人通りが少ない。閑散とした雰囲気を漂わせるこれが、エルダー街だと実感させた。エルダー街に住む人々は、傭兵稼業、夜に店を開く者、夜に働く人々が多く住んでいるから、それで昼日中は寝静まっているのだ。明け方干されたままの、ロープに吊るされた洗濯物が、日陰の中風にそよいでいた。
やがて、白い漆喰に塗られた、界隈では比較的品の良い建物が見えてきた。
オレンジ色の瓦が抜きでて、陽の光を浴びて明るい。
元は宿屋だった建物を買い取って、改修してアジトとして使っている、ライオン傭兵団の本拠地。
メルヴィンが玄関のドアを開いて中に入る。キュッリッキはその後ろから入ると、目の前にはパンツ一枚だけ履いて、そのパンツの中に手を突っ込んで股間をボリボリ掻いているギャリーが立っていた。
「お、キューリじゃねえか! やっと帰ってきたかあ~」
「ギャリー、なんてカッコしてんのよ…」
「さっき起きたばっかでよ、まだねみぃ……」
そう言ってパンツから手を出すと、キュッリッキの頭を撫でようとして、メルヴィンに手を払われた。
「股間を掻いた手で、リッキーに触らないでください」
「ンな、ケチケチすんなや」
「触っちゃヤなのっ!」
「あー! リッキーさんだああああ」
「えっ、帰ってきたのか!!?」
シビルとザカリーが奥からドタドタ駆け寄ってきた。
「うわーん、おかえりなさいリッキーさ~~ん」
「キューリおっかえりい!」
「キューリちゃん帰ってきたの?!」
「シビルぅ~」
「また股間掻いた手で触られてるぞシビル」
「ぎやああああ」
「キューリちゃぁん~~ひっさしぶりん」
一斉に玄関ホールに皆が集まりだし、キュッリッキは面食らってメルヴィンの後ろに隠れてしまった。
「ほらほらみんな、キューリさんがビックリしちゃってるでしょう」
パンパンッと手を叩く音がして、カーティスが姿を見せた。
「よく帰ってきてくれました。おかえりなさい、キューリさん。ずっと待っていましたよ」
簾のような前髪の奥でにっこり笑う。
メルヴィンの後ろに隠れていたキュッリッキは顔をのぞかせると、とても照れくさそうに、
「ただいま」
と言ってはにかんだ。
「かかかかかかんぱいかんぱーーい!」
「うおらああああ!!」
わけのわからないザカリーとヴァルトの乾杯の音頭でスタートをきった宴会は、真昼間から盛大に行われた。
キリ夫妻も一緒に、料理に酒に大盛り上がりだ。
キュッリッキが帰ってきたら、すぐに宴会をしようと、皆で企んでいたのである。
「どうせカーティスのポケットマネーだからな、遠慮なんかすんなよキューリ! じゃんじゃん飲め、食え!!」
「いきなりこんなに飲めないよお!」
すでに酔っ払っているギャリーが、ビールジョッキにワインをなみなみと注いで、キュッリッキは目を回した。
ライオン傭兵団全員が、久しぶりにアジトに顔を揃えた。それでみんなテンションも上がってより盛り上がっている。いつも以上にみんな大はしゃぎしていた。
そんなみんなの様子を見て、キュッリッキは内心ホッとするところがあった。
アジトに帰ったら、みんなに話さなくては、と思っていた。
自分のことを、みんなに聞いてもらうために、話さなきゃと。
でも、今はこうして、自分が帰ってきたことを喜んでくれている。前と少しも変わらない様子が嬉しかった。もしかしたら、腫れものにでも触るように接してくるのではないだろうか、と不安だったのだ。
この様子では、今日は無理だろう。だから、明日話そう。みんなに聞いてもらおう。
「リッキー」
隣に座っているメルヴィンが、気遣わしげにキュッリッキの手をそっと握った。
「大丈夫」
メルヴィンににっこり笑うと、ビールジョッキを握ってワインをグイッと飲み干した。その様子にメルヴィンがギョッと目を剥く。
「おー! キューリのエンジンがかかったぞ!! ホラどんどん飲め飲めぃ!」
ギャリーがさらに雄叫びをあげると、ガエルが手にしていた蜂蜜酒の瓶を、キュッリッキのビールジョッキに傾けた。
「飲め」
「ガエルも、もう酔っ払ってる……」
すっかり目が据わっていた。
「盛り上がってるじゃないかクソッタレども!」
そこへ、いきなり偉そうな声が轟いて、皆一斉にドアのほうへ顔を向けて仰天した。
「おっさんがなんでいるんだよ!!?」
「誰がおっさんだザカリー! リッキーのための宴会なら、この俺が参加しなくてどうする!!」
「仕事はどうしたんすかっ」
「そんなもんは明日やればいい!!」
ふんぞり返るベルトルドの後ろから、アルカネットが爽やかな笑顔を覗かせる。
「リッキーさんのお荷物は、全部持ってきましたからね。今部屋に運ばせました」
「あ、アルカネットさんまで……」
「おいカーティス、リッキーのための衣装部屋を用意しろ! リッキーの部屋の箪笥じゃ全部入らん」
「そんな余分な部屋はありませんよ」
「だったら増築しろ! 金は俺が出してやる」
「んな無茶な……」
「さあ、酒も持ってきたぞ! どんどん飲むがいい!!」
「あーもーヤケだチキショー!!」
ギャリーが吠えて、宴会は再開した。
朝、あれだけ大仰に別れを惜しんだのは、一体なんだったんだろう。そうキュッリッキは引き攣りながら薄く笑った。
物語の前半がこれで終了となります。
物語の後半に入る前に、次回からは、ちょっと番外編を1本挟まみます。主人公のキュッリッキさんが登場しない、本編から3年ほど前の、ベルトルドとライオン傭兵団のお話です。
本編でも度々出てきていた、コッコラ王国のことについてのお話になります。
たぶん、このお話を楽しく読んで頂くには、ここしかないな、と思っているので、番外編の方もよろしくお願いします~。
********************
一歩進むごとに、アジトが近くなる。
エルダー街に入ると、昼日中だというのに人通りが少ない。閑散とした雰囲気を漂わせるこれが、エルダー街だと実感させた。エルダー街に住む人々は、傭兵稼業、夜に店を開く者、夜に働く人々が多く住んでいるから、それで昼日中は寝静まっているのだ。明け方干されたままの、ロープに吊るされた洗濯物が、日陰の中風にそよいでいた。
やがて、白い漆喰に塗られた、界隈では比較的品の良い建物が見えてきた。
オレンジ色の瓦が抜きでて、陽の光を浴びて明るい。
元は宿屋だった建物を買い取って、改修してアジトとして使っている、ライオン傭兵団の本拠地。
メルヴィンが玄関のドアを開いて中に入る。キュッリッキはその後ろから入ると、目の前にはパンツ一枚だけ履いて、そのパンツの中に手を突っ込んで股間をボリボリ掻いているギャリーが立っていた。
「お、キューリじゃねえか! やっと帰ってきたかあ~」
「ギャリー、なんてカッコしてんのよ…」
「さっき起きたばっかでよ、まだねみぃ……」
そう言ってパンツから手を出すと、キュッリッキの頭を撫でようとして、メルヴィンに手を払われた。
「股間を掻いた手で、リッキーに触らないでください」
「ンな、ケチケチすんなや」
「触っちゃヤなのっ!」
「あー! リッキーさんだああああ」
「えっ、帰ってきたのか!!?」
シビルとザカリーが奥からドタドタ駆け寄ってきた。
「うわーん、おかえりなさいリッキーさ~~ん」
「キューリおっかえりい!」
「キューリちゃん帰ってきたの?!」
「シビルぅ~」
「また股間掻いた手で触られてるぞシビル」
「ぎやああああ」
「キューリちゃぁん~~ひっさしぶりん」
一斉に玄関ホールに皆が集まりだし、キュッリッキは面食らってメルヴィンの後ろに隠れてしまった。
「ほらほらみんな、キューリさんがビックリしちゃってるでしょう」
パンパンッと手を叩く音がして、カーティスが姿を見せた。
「よく帰ってきてくれました。おかえりなさい、キューリさん。ずっと待っていましたよ」
簾のような前髪の奥でにっこり笑う。
メルヴィンの後ろに隠れていたキュッリッキは顔をのぞかせると、とても照れくさそうに、
「ただいま」
と言ってはにかんだ。
「かかかかかかんぱいかんぱーーい!」
「うおらああああ!!」
わけのわからないザカリーとヴァルトの乾杯の音頭でスタートをきった宴会は、真昼間から盛大に行われた。
キリ夫妻も一緒に、料理に酒に大盛り上がりだ。
キュッリッキが帰ってきたら、すぐに宴会をしようと、皆で企んでいたのである。
「どうせカーティスのポケットマネーだからな、遠慮なんかすんなよキューリ! じゃんじゃん飲め、食え!!」
「いきなりこんなに飲めないよお!」
すでに酔っ払っているギャリーが、ビールジョッキにワインをなみなみと注いで、キュッリッキは目を回した。
ライオン傭兵団全員が、久しぶりにアジトに顔を揃えた。それでみんなテンションも上がってより盛り上がっている。いつも以上にみんな大はしゃぎしていた。
そんなみんなの様子を見て、キュッリッキは内心ホッとするところがあった。
アジトに帰ったら、みんなに話さなくては、と思っていた。
自分のことを、みんなに聞いてもらうために、話さなきゃと。
でも、今はこうして、自分が帰ってきたことを喜んでくれている。前と少しも変わらない様子が嬉しかった。もしかしたら、腫れものにでも触るように接してくるのではないだろうか、と不安だったのだ。
この様子では、今日は無理だろう。だから、明日話そう。みんなに聞いてもらおう。
「リッキー」
隣に座っているメルヴィンが、気遣わしげにキュッリッキの手をそっと握った。
「大丈夫」
メルヴィンににっこり笑うと、ビールジョッキを握ってワインをグイッと飲み干した。その様子にメルヴィンがギョッと目を剥く。
「おー! キューリのエンジンがかかったぞ!! ホラどんどん飲め飲めぃ!」
ギャリーがさらに雄叫びをあげると、ガエルが手にしていた蜂蜜酒の瓶を、キュッリッキのビールジョッキに傾けた。
「飲め」
「ガエルも、もう酔っ払ってる……」
すっかり目が据わっていた。
「盛り上がってるじゃないかクソッタレども!」
そこへ、いきなり偉そうな声が轟いて、皆一斉にドアのほうへ顔を向けて仰天した。
「おっさんがなんでいるんだよ!!?」
「誰がおっさんだザカリー! リッキーのための宴会なら、この俺が参加しなくてどうする!!」
「仕事はどうしたんすかっ」
「そんなもんは明日やればいい!!」
ふんぞり返るベルトルドの後ろから、アルカネットが爽やかな笑顔を覗かせる。
「リッキーさんのお荷物は、全部持ってきましたからね。今部屋に運ばせました」
「あ、アルカネットさんまで……」
「おいカーティス、リッキーのための衣装部屋を用意しろ! リッキーの部屋の箪笥じゃ全部入らん」
「そんな余分な部屋はありませんよ」
「だったら増築しろ! 金は俺が出してやる」
「んな無茶な……」
「さあ、酒も持ってきたぞ! どんどん飲むがいい!!」
「あーもーヤケだチキショー!!」
ギャリーが吠えて、宴会は再開した。
朝、あれだけ大仰に別れを惜しんだのは、一体なんだったんだろう。そうキュッリッキは引き攣りながら薄く笑った。
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