544 / 882
勇気と決断編
episode525
しおりを挟む
「メルヴィン!」
階段の上に姿を見せたキュッリッキに、メルヴィンは眩しげに笑顔を向けた。
飾っておきたいほど可愛らしく装われた少女が、満面の笑顔で小走りに階段を駆け下りてくる。両手を広げると、勢いよく飛び込んできた。
「お待たせっ」
「今日も素敵です」
照れくさそうに言うと、メルヴィンはキュッリッキの顔を上向けさせてキスをした。
メルヴィンが迎えに来てくれ、こうしてキスもしてもらい、キュッリッキは嬉しさのあまり全身から力が抜けて座り込みそうになった。
崩れ落ちそうになるキュッリッキをしっかり抱きしめ、メルヴィンは見送りに来たリトヴァや使用人たちに会釈する。
「リッキーを連れて帰りますね。ベルトルドさんとアルカネットさんに、よろしくお伝えください」
「承りました」
一同を代表して、リトヴァがにこやかに頭を下げた。
「お荷物などは、今日中にエルダー街のほうへお運び致しますので」
「お願いします」
「リトヴァさん、セヴェリさん、アリサ、みんな、お世話になりました」
ようやく自力で立って、キュッリッキはぺこりと皆に頭を下げる。
大怪我をおってこの屋敷にきてからというもの、沢山お世話になった使用人たち。
「でも、また来週テレビ観に来るね」
にっこり言うキュッリッキに、セヴェリは涙を浮かべて頷いた。
「いつでも我々は、お待ち申し上げております」
「お身体にお気をつけて」
「お幸せに、お嬢様!」
使用人たちは各々、2人の門出を祝福するように、応援や励ましの言葉を投げかけていた。
「行こうか、リッキー」
「うん。じゃあね」
メルヴィンに肩を抱かれて、キュッリッキは使用人たちに手を振った。
メルヴィンと手をつなぎ、ハーメンリンナの地下通路をゆっくりと歩く。こんな日は、地上をゴンドラでゆっくり進むのも悪くはないかも、とふと思う。メルヴィンと一緒なら、瞬く間に時間は過ぎてしまうだろう。
大きな手に握られた自分の手に目を向け、キュッリッキは幸せそうに微笑んだ。
こうして迎えに来てもらったことと、もう一つ嬉しいことがある。
自分の愛称を、敬称付ずに呼んでもらえたことだ。
いつも「さん」を付けて呼ばれていた。でも、今は呼び捨てられる。それがとても嬉しい。
誰にでもそう呼ばれたいわけではない。近しい友人や、仲間、そしてメルヴィンのように恋人には、とくに敬称付けて呼ばれるのは嫌だ。他人行儀に聞こえてしまうから。呼び捨てられることで、関係がもっとも近しくなった気がするから、だから「リッキー」と呼び捨てられて嬉しかった。
「みんなも楽しみに待っていますよ。キリ夫妻は早朝からご馳走の仕込みに大忙しでしたし」
「おばさんの料理、とっても久しぶり」
「はい」
「ライオン傭兵団にきて、アタシってばアジトにいた時間の方がすごく短いんだよね」
「そういえば、そうですねえ……」
1ヶ月も居ないまま、ハーメンリンナに行ってしまっていたな、とメルヴィンは思い返す。
「でもね、なんだかとっても懐かしいの。ずっと住んでた場所みたいな感じがして。だから、早く帰りたかった」
キュッリッキには故郷と呼べる場所がない。生まれたのは惑星ペッコで、幼い頃を過ごしたのは修道院。しかしそこは、キュッリッキにとっては忌むべき場所だ。
現在は皇王とベルトルドによって、皇都イララクスのハーメンリンナに住所登録をされている。でもあまりにもこれまでとはかけ離れるほど上級階級の世界すぎて、いまいち実感がわかない。ライオン傭兵団へ来る前に暮らしていた港町のハーツイーズにも、とくに愛着は湧いていなかった。
今のキュッリッキにとって、故郷と呼んでも差し支えのない場所は、仲間たちの待つエルダー街のアジトだ。
自分の帰りを待っていてくれる仲間たちがいて、そして、メルヴィンもいる。
ハーメンリンナの外に出ると、途端に見慣れ親しんだ街の光景が目に飛び込んできた。行き交う人々の姿も、ハーメンリンナの中とは大違いだ。
「さあ、行きましょう」
「うん」
階段の上に姿を見せたキュッリッキに、メルヴィンは眩しげに笑顔を向けた。
飾っておきたいほど可愛らしく装われた少女が、満面の笑顔で小走りに階段を駆け下りてくる。両手を広げると、勢いよく飛び込んできた。
「お待たせっ」
「今日も素敵です」
照れくさそうに言うと、メルヴィンはキュッリッキの顔を上向けさせてキスをした。
メルヴィンが迎えに来てくれ、こうしてキスもしてもらい、キュッリッキは嬉しさのあまり全身から力が抜けて座り込みそうになった。
崩れ落ちそうになるキュッリッキをしっかり抱きしめ、メルヴィンは見送りに来たリトヴァや使用人たちに会釈する。
「リッキーを連れて帰りますね。ベルトルドさんとアルカネットさんに、よろしくお伝えください」
「承りました」
一同を代表して、リトヴァがにこやかに頭を下げた。
「お荷物などは、今日中にエルダー街のほうへお運び致しますので」
「お願いします」
「リトヴァさん、セヴェリさん、アリサ、みんな、お世話になりました」
ようやく自力で立って、キュッリッキはぺこりと皆に頭を下げる。
大怪我をおってこの屋敷にきてからというもの、沢山お世話になった使用人たち。
「でも、また来週テレビ観に来るね」
にっこり言うキュッリッキに、セヴェリは涙を浮かべて頷いた。
「いつでも我々は、お待ち申し上げております」
「お身体にお気をつけて」
「お幸せに、お嬢様!」
使用人たちは各々、2人の門出を祝福するように、応援や励ましの言葉を投げかけていた。
「行こうか、リッキー」
「うん。じゃあね」
メルヴィンに肩を抱かれて、キュッリッキは使用人たちに手を振った。
メルヴィンと手をつなぎ、ハーメンリンナの地下通路をゆっくりと歩く。こんな日は、地上をゴンドラでゆっくり進むのも悪くはないかも、とふと思う。メルヴィンと一緒なら、瞬く間に時間は過ぎてしまうだろう。
大きな手に握られた自分の手に目を向け、キュッリッキは幸せそうに微笑んだ。
こうして迎えに来てもらったことと、もう一つ嬉しいことがある。
自分の愛称を、敬称付ずに呼んでもらえたことだ。
いつも「さん」を付けて呼ばれていた。でも、今は呼び捨てられる。それがとても嬉しい。
誰にでもそう呼ばれたいわけではない。近しい友人や、仲間、そしてメルヴィンのように恋人には、とくに敬称付けて呼ばれるのは嫌だ。他人行儀に聞こえてしまうから。呼び捨てられることで、関係がもっとも近しくなった気がするから、だから「リッキー」と呼び捨てられて嬉しかった。
「みんなも楽しみに待っていますよ。キリ夫妻は早朝からご馳走の仕込みに大忙しでしたし」
「おばさんの料理、とっても久しぶり」
「はい」
「ライオン傭兵団にきて、アタシってばアジトにいた時間の方がすごく短いんだよね」
「そういえば、そうですねえ……」
1ヶ月も居ないまま、ハーメンリンナに行ってしまっていたな、とメルヴィンは思い返す。
「でもね、なんだかとっても懐かしいの。ずっと住んでた場所みたいな感じがして。だから、早く帰りたかった」
キュッリッキには故郷と呼べる場所がない。生まれたのは惑星ペッコで、幼い頃を過ごしたのは修道院。しかしそこは、キュッリッキにとっては忌むべき場所だ。
現在は皇王とベルトルドによって、皇都イララクスのハーメンリンナに住所登録をされている。でもあまりにもこれまでとはかけ離れるほど上級階級の世界すぎて、いまいち実感がわかない。ライオン傭兵団へ来る前に暮らしていた港町のハーツイーズにも、とくに愛着は湧いていなかった。
今のキュッリッキにとって、故郷と呼んでも差し支えのない場所は、仲間たちの待つエルダー街のアジトだ。
自分の帰りを待っていてくれる仲間たちがいて、そして、メルヴィンもいる。
ハーメンリンナの外に出ると、途端に見慣れ親しんだ街の光景が目に飛び込んできた。行き交う人々の姿も、ハーメンリンナの中とは大違いだ。
「さあ、行きましょう」
「うん」
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる