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勇気と決断編
episode524
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ドアノッカーを叩く音がして、セヴェリが出迎える。
「いらっしゃいませ、メルヴィン様」
「こんにちは。リッキーは用意出来ていますか? 迎えに来ました」
白いスタンディング・カラーの丈の長い上着を着込んだメルヴィンが、柔らかな笑顔をセヴェリに向けた。
「それが……」
セヴェリは堪りかねたように吹き出した。
「ど、どうしたんです?」
「2時間ほど前からお仕度を始めたのですが、何を着ていくかお悩み状態で。衣装部屋でリトヴァと共に大騒ぎでございますよ」
「そ、そうなんですか」
「こちらでお待ちください、お茶を持ってこさせます。お嬢様におしらせしてきますね」
「お願いします」
メルヴィンは苦笑すると、玄関フロアにある待合用のソファに腰を下ろした。
「もっともっと、大人っぽい服がいいの!」
「そうおっしゃられても……」
ハンガーから離れて床に散乱する衣服を眺め、リトヴァは困ったようにため息をついた。そこへノックの音が聞こえて衣装部屋から出る。
「もぉ……大人っぽい服がナイよぅ」
ベルトルドとアルカネットがキュッリッキのために用意した服は、どれも可愛らしく、キュッリッキにとてもよく似合うものばかりだった。しかし、キュッリッキが思い描く”大人っぽい服”に該当するデザインのものがない。
「お嬢様、メルヴィン様がお迎えにみえられましたよ」
「えええっ! もうそんな時間なの!?」
床に散らかる服を摘んでは放り投げ、また摘んでは放り投げ。
「どうしようリトヴァさん」
「お嬢様、無理に背伸びしようとなさらないでください。これらの服は、どれもお嬢様にお似合いになるものばかりでございますよ。メルヴィン様は今のお嬢様がお好きなのでしょう?」
「う……うん」
「さあ、早く選んでしまいましょう。あまりお待たせしてはいけませんわ」
「うん」
散々悩んだ挙句、オールドローズ色のシルクに、白いレースとシアン・ヤー・ホン色のリボンで飾られた、クラシカルな可愛らしいワンピースを選んだ。夏も終わり秋に入り始めた季節によく合う。
「やっぱ、子供っぽいかも……」
鏡の前で唇を尖らせるキュッリッキに、リトヴァは笑ってみせた。
「お嬢様、こうしたデザインのワンピースは、今しか着れないものですのよ」
「どうして?」
「あと10年もしたら、きっとお似合いになりませんわ」
「え……そうなの?」
「そうですとも。こうしたデザインのものは、お若い頃しか似合わないようになっているのでございますよ。わたくしが着たら、自分でガッカリしてしまいます」
「うーん……」
「お嬢様のお気持ちも判らないわけではありませんが、そのお年の頃に似合うオシャレを楽しみなさいませ。メルヴィン様は、今のお嬢様の可愛らしさを好ましく望みますよ」
「そっかなあ」
「そうですとも。もっとご自分に自信をお持ちになってください。大切なのは、メルヴィン様を思うお心。見かけではなく、ありのままのご自分をお見せになって、幸せになってくださいまし」
「そうだね……うん。アタシ頑張る!」
力んで返事をするキュッリッキに、リトヴァは優しく微笑んだ。
「いらっしゃいませ、メルヴィン様」
「こんにちは。リッキーは用意出来ていますか? 迎えに来ました」
白いスタンディング・カラーの丈の長い上着を着込んだメルヴィンが、柔らかな笑顔をセヴェリに向けた。
「それが……」
セヴェリは堪りかねたように吹き出した。
「ど、どうしたんです?」
「2時間ほど前からお仕度を始めたのですが、何を着ていくかお悩み状態で。衣装部屋でリトヴァと共に大騒ぎでございますよ」
「そ、そうなんですか」
「こちらでお待ちください、お茶を持ってこさせます。お嬢様におしらせしてきますね」
「お願いします」
メルヴィンは苦笑すると、玄関フロアにある待合用のソファに腰を下ろした。
「もっともっと、大人っぽい服がいいの!」
「そうおっしゃられても……」
ハンガーから離れて床に散乱する衣服を眺め、リトヴァは困ったようにため息をついた。そこへノックの音が聞こえて衣装部屋から出る。
「もぉ……大人っぽい服がナイよぅ」
ベルトルドとアルカネットがキュッリッキのために用意した服は、どれも可愛らしく、キュッリッキにとてもよく似合うものばかりだった。しかし、キュッリッキが思い描く”大人っぽい服”に該当するデザインのものがない。
「お嬢様、メルヴィン様がお迎えにみえられましたよ」
「えええっ! もうそんな時間なの!?」
床に散らかる服を摘んでは放り投げ、また摘んでは放り投げ。
「どうしようリトヴァさん」
「お嬢様、無理に背伸びしようとなさらないでください。これらの服は、どれもお嬢様にお似合いになるものばかりでございますよ。メルヴィン様は今のお嬢様がお好きなのでしょう?」
「う……うん」
「さあ、早く選んでしまいましょう。あまりお待たせしてはいけませんわ」
「うん」
散々悩んだ挙句、オールドローズ色のシルクに、白いレースとシアン・ヤー・ホン色のリボンで飾られた、クラシカルな可愛らしいワンピースを選んだ。夏も終わり秋に入り始めた季節によく合う。
「やっぱ、子供っぽいかも……」
鏡の前で唇を尖らせるキュッリッキに、リトヴァは笑ってみせた。
「お嬢様、こうしたデザインのワンピースは、今しか着れないものですのよ」
「どうして?」
「あと10年もしたら、きっとお似合いになりませんわ」
「え……そうなの?」
「そうですとも。こうしたデザインのものは、お若い頃しか似合わないようになっているのでございますよ。わたくしが着たら、自分でガッカリしてしまいます」
「うーん……」
「お嬢様のお気持ちも判らないわけではありませんが、そのお年の頃に似合うオシャレを楽しみなさいませ。メルヴィン様は、今のお嬢様の可愛らしさを好ましく望みますよ」
「そっかなあ」
「そうですとも。もっとご自分に自信をお持ちになってください。大切なのは、メルヴィン様を思うお心。見かけではなく、ありのままのご自分をお見せになって、幸せになってくださいまし」
「そうだね……うん。アタシ頑張る!」
力んで返事をするキュッリッキに、リトヴァは優しく微笑んだ。
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