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勇気と決断編
episode521
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夕食は見事に通夜のような静けさの中で淡々と進み、「おやすみなさい」という短い挨拶だけがかわされて終わった。
ベルトルドもアルカネットも、次はいつになるか判らないキュッリッキとの夕食の時間だったというのに、メルヴィンへの嫉妬が積もりすぎて、会話がサッパリ思いつかなかったのだ。
ガッカリ感を貼り付けた顔で、ベルトルドとアルカネットはトボトボと書斎へ向かった。
「ご飯終わったのん?」
ウイスキーのグラスを傾けながら、リュリュが椅子にくつろいで座って出迎える。
「おう……」
「終わりました」
「世界でも終わりそうな顔してるわね、あーたたち」
ベルトルドとアルカネットは、揃ってため息をついた。
「では、眠くなる前に報告を済ませてしまいましょうか」
ワイングラスをテーブルに置いて、シ・アティウスが椅子を立ち上がった。
「エルアーラ遺跡内の掃除と点検は無事完了です。ダエヴァを内外で警備につけさせ、侵入者は今のところありません」
戦争の後始末の、もっとも陰に隠れているのはエルアーラ遺跡だった。さすがにベルトルドもそこまで手がまわらないため、シ・アティウスに権限を委ねて任せている。
「動力部も問題ありません。装置の運び込みが完了できれば、すぐにでも起動できるでしょう」
「ふむ」
「そして、ナルバ山の遺跡ですが、厄介な結界の解除方法が判りました」
「ほほお」
「あら」
「それはどういった方法で?」
話を黙って聞いていた3人から、興味深そうな反応を得て、シ・アティウスは口の端をほんの少し歪めた。
「その結界を解除するために、是非用意して欲しいものがあります」
「それは?」
「召喚士です」
自室に戻って風呂に入りながら、キュッリッキは明日が待ち遠しくて胸を高鳴らせていた。
エルダー街のアジトへ帰れば、毎日メルヴィンとひとつ屋根の下なのだ。会いたいときにすぐの距離で会える。昼でも夜でも毎日会えるのだ。それが嬉しくて仕方がない。
柔らかなスポンジで身体を洗っていると、ふと自分の胸に目が向く。
アイオン族の女性は、総じて胸の膨らみが小さい。多少個人差はあるものの、色香に欠けるサイズだ。
「もうちょっと、おっぱい大きくならないかなあ……」
今までもぺったんこな胸のサイズに凹んでいたが、メルヴィンと恋人同士になった今、余計大きな胸に憧れる。
メルヴィンとデートをするとき、胸の大きさをいかした大胆な服を着てオシャレをしてみたい。メルヴィンにつりあうように、もっと大人で女性的な雰囲気がにじみ出るような色香をまとってみたい。
しかしこればかりは、どうにもならなかった。
「あと1、2年もしたら、もっともっと色っぽくなるかなあ、アタシ」
そう呟いたとき、初めて自分の顔に興味を持った。
シャワーで泡を洗い落とし、鏡の前に立って覗き込む。
「美人の基準ってどうなのかな、自分じゃ綺麗なのかブスなのか、ちっとも判んない」
これまで顔に少しも関心を持たなかった。何故ならそんなことは生きていくことに、なにも関係なかったからだ。でも今は違う。
「毎日もっとお化粧もして、綺麗にしてなきゃだめだよね。服も子供っぽいのは止めようかな……ファニーやマリオンに相談しなくっちゃ」
メルヴィンは11歳も年上で、隣に立つなら見合うように装わなくては。メルヴィンに恥をかかせるわけにはいかない。
「そうよ、アタシ、恋人になったんだから!」
鏡の前で握り拳を作って気合を入れるが、恋人、と口に出すと全身がカッと熱くなって腰が砕けそうになる。
「早く、メルヴィンに会いたいな」
愛おしい人の名を呟いて、キュッリッキはさらに頬を染めた。
ベルトルドもアルカネットも、次はいつになるか判らないキュッリッキとの夕食の時間だったというのに、メルヴィンへの嫉妬が積もりすぎて、会話がサッパリ思いつかなかったのだ。
ガッカリ感を貼り付けた顔で、ベルトルドとアルカネットはトボトボと書斎へ向かった。
「ご飯終わったのん?」
ウイスキーのグラスを傾けながら、リュリュが椅子にくつろいで座って出迎える。
「おう……」
「終わりました」
「世界でも終わりそうな顔してるわね、あーたたち」
ベルトルドとアルカネットは、揃ってため息をついた。
「では、眠くなる前に報告を済ませてしまいましょうか」
ワイングラスをテーブルに置いて、シ・アティウスが椅子を立ち上がった。
「エルアーラ遺跡内の掃除と点検は無事完了です。ダエヴァを内外で警備につけさせ、侵入者は今のところありません」
戦争の後始末の、もっとも陰に隠れているのはエルアーラ遺跡だった。さすがにベルトルドもそこまで手がまわらないため、シ・アティウスに権限を委ねて任せている。
「動力部も問題ありません。装置の運び込みが完了できれば、すぐにでも起動できるでしょう」
「ふむ」
「そして、ナルバ山の遺跡ですが、厄介な結界の解除方法が判りました」
「ほほお」
「あら」
「それはどういった方法で?」
話を黙って聞いていた3人から、興味深そうな反応を得て、シ・アティウスは口の端をほんの少し歪めた。
「その結界を解除するために、是非用意して欲しいものがあります」
「それは?」
「召喚士です」
自室に戻って風呂に入りながら、キュッリッキは明日が待ち遠しくて胸を高鳴らせていた。
エルダー街のアジトへ帰れば、毎日メルヴィンとひとつ屋根の下なのだ。会いたいときにすぐの距離で会える。昼でも夜でも毎日会えるのだ。それが嬉しくて仕方がない。
柔らかなスポンジで身体を洗っていると、ふと自分の胸に目が向く。
アイオン族の女性は、総じて胸の膨らみが小さい。多少個人差はあるものの、色香に欠けるサイズだ。
「もうちょっと、おっぱい大きくならないかなあ……」
今までもぺったんこな胸のサイズに凹んでいたが、メルヴィンと恋人同士になった今、余計大きな胸に憧れる。
メルヴィンとデートをするとき、胸の大きさをいかした大胆な服を着てオシャレをしてみたい。メルヴィンにつりあうように、もっと大人で女性的な雰囲気がにじみ出るような色香をまとってみたい。
しかしこればかりは、どうにもならなかった。
「あと1、2年もしたら、もっともっと色っぽくなるかなあ、アタシ」
そう呟いたとき、初めて自分の顔に興味を持った。
シャワーで泡を洗い落とし、鏡の前に立って覗き込む。
「美人の基準ってどうなのかな、自分じゃ綺麗なのかブスなのか、ちっとも判んない」
これまで顔に少しも関心を持たなかった。何故ならそんなことは生きていくことに、なにも関係なかったからだ。でも今は違う。
「毎日もっとお化粧もして、綺麗にしてなきゃだめだよね。服も子供っぽいのは止めようかな……ファニーやマリオンに相談しなくっちゃ」
メルヴィンは11歳も年上で、隣に立つなら見合うように装わなくては。メルヴィンに恥をかかせるわけにはいかない。
「そうよ、アタシ、恋人になったんだから!」
鏡の前で握り拳を作って気合を入れるが、恋人、と口に出すと全身がカッと熱くなって腰が砕けそうになる。
「早く、メルヴィンに会いたいな」
愛おしい人の名を呟いて、キュッリッキはさらに頬を染めた。
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