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勇気と決断編
episode519
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ベルトルドたちから解放されたキュッリッキは、リトヴァに付き添われて自室に戻った。
「夕食は一緒にとろう」
応接室を出るときに、そうベルトルドから言われた。いつもの、優しい声で。
明日エルダー街のライオン傭兵団のアジトへ帰ることを許してもらった。アルカネットはまだ何か言いたげな顔をしていたが、複雑な表情を浮かべたまま黙っていた。
「お夕食の際のドレスは、これにいたしましょうか」
衣装部屋からリトヴァが選んできたドレスに着替える。そして鏡台の前に座って、髪を整えてもらった。
「ごめんね、リトヴァさん。アタシのせいで怒られちゃって…」
「まあまあ、何をおっしゃいますの。わたくし共はなにも気にしてはおりませんよ。お嬢様の恋路を邪魔するようなことを、旦那様方がなさっていただけです。馬に蹴られて当然ですわ。その馬の役は、リュリュ様がなさいましたけれど」
リトヴァの笑顔につられて、キュッリッキもクスッと笑った。
「これで、晴れてメルヴィン様と、恋人同士ですわね」
「恋人……同士」
イフーメの森での、メルヴィンとキスしたことを思い出し、キュッリッキは真っ赤になった。
そう、恋人になったのだ。
再び喜びが奥底から湧き上がってきて、キュッリッキの顔に幸せで明るい笑顔が広がっていった。
「絶妙なタイミングで現れやがって、忌々しいやつ」
「あらん、本当に偶然だったのよ。あーたの女々しい八つ当たりの声と、傷ついた小娘の泣き声が聞こえてきて、思わずドアを蹴破るところだったんだからっ」
すまし顔で紅茶をすすりながら、リュリュは鼻で笑う。
「ベルトルド様、本当にリッキーさんをエルダー街へ帰すおつもりですか?」
納得いかないと表情に書き込んで、アルカネットが身を乗り出す。
「仕方ないだろう、あんなに全力で泣かれて、大っ嫌いなんて言われたんだ」
愛する少女に「大っ嫌い!!」と怒鳴られたことは、ベルトルドの心に大きな衝撃と傷を与えていた。
「自業自得よ。我慢なさい」
「ぬぅ…」
「式典の放送で世界中に顔が知れ渡りました。イルマタル帝国のカステヘルミ皇女が乗り込んでくるのは予想外ではありましたが、ああしてリッキーさん目当てで侵入してくる輩も多いでしょう。ハーメンリンナの外へ出すのは危険です」
「ダエヴァの特殊チームに、24時間の護衛任務を命じておく」
「しかし」
「無理強いして、今後口も聞いてくれなくなったら、困るのは俺だ」
「ですが……」
「どうせ麻疹のようなものだ。今は燃え上がって盲目的になっているが、落ち着いてくればすぐに気づくさ。俺に比べれば、メルヴィンなど取るに足らない男だと」
「あなたではなく、私に比べれば、ですよ」
「あーたたちの、その恥ずかしいまでの自信は、どこから噴火してくンのよ……」
「ほっとけ」
「余計なお世話です」
双方に睨まれて、リュリュは「おー怖い」とわざとらしくのけぞってみせた。
「俺だって断腸の思いだが、リッキーは一旦、エルダー街へ帰す」
「………」
アルカネットは、やはり納得がいかない表情で黙り込んだ。
「アルカネット」
それきり返事もしないアルカネットに、ベルトルドはため息をついた。
「夕食は一緒にとろう」
応接室を出るときに、そうベルトルドから言われた。いつもの、優しい声で。
明日エルダー街のライオン傭兵団のアジトへ帰ることを許してもらった。アルカネットはまだ何か言いたげな顔をしていたが、複雑な表情を浮かべたまま黙っていた。
「お夕食の際のドレスは、これにいたしましょうか」
衣装部屋からリトヴァが選んできたドレスに着替える。そして鏡台の前に座って、髪を整えてもらった。
「ごめんね、リトヴァさん。アタシのせいで怒られちゃって…」
「まあまあ、何をおっしゃいますの。わたくし共はなにも気にしてはおりませんよ。お嬢様の恋路を邪魔するようなことを、旦那様方がなさっていただけです。馬に蹴られて当然ですわ。その馬の役は、リュリュ様がなさいましたけれど」
リトヴァの笑顔につられて、キュッリッキもクスッと笑った。
「これで、晴れてメルヴィン様と、恋人同士ですわね」
「恋人……同士」
イフーメの森での、メルヴィンとキスしたことを思い出し、キュッリッキは真っ赤になった。
そう、恋人になったのだ。
再び喜びが奥底から湧き上がってきて、キュッリッキの顔に幸せで明るい笑顔が広がっていった。
「絶妙なタイミングで現れやがって、忌々しいやつ」
「あらん、本当に偶然だったのよ。あーたの女々しい八つ当たりの声と、傷ついた小娘の泣き声が聞こえてきて、思わずドアを蹴破るところだったんだからっ」
すまし顔で紅茶をすすりながら、リュリュは鼻で笑う。
「ベルトルド様、本当にリッキーさんをエルダー街へ帰すおつもりですか?」
納得いかないと表情に書き込んで、アルカネットが身を乗り出す。
「仕方ないだろう、あんなに全力で泣かれて、大っ嫌いなんて言われたんだ」
愛する少女に「大っ嫌い!!」と怒鳴られたことは、ベルトルドの心に大きな衝撃と傷を与えていた。
「自業自得よ。我慢なさい」
「ぬぅ…」
「式典の放送で世界中に顔が知れ渡りました。イルマタル帝国のカステヘルミ皇女が乗り込んでくるのは予想外ではありましたが、ああしてリッキーさん目当てで侵入してくる輩も多いでしょう。ハーメンリンナの外へ出すのは危険です」
「ダエヴァの特殊チームに、24時間の護衛任務を命じておく」
「しかし」
「無理強いして、今後口も聞いてくれなくなったら、困るのは俺だ」
「ですが……」
「どうせ麻疹のようなものだ。今は燃え上がって盲目的になっているが、落ち着いてくればすぐに気づくさ。俺に比べれば、メルヴィンなど取るに足らない男だと」
「あなたではなく、私に比べれば、ですよ」
「あーたたちの、その恥ずかしいまでの自信は、どこから噴火してくンのよ……」
「ほっとけ」
「余計なお世話です」
双方に睨まれて、リュリュは「おー怖い」とわざとらしくのけぞってみせた。
「俺だって断腸の思いだが、リッキーは一旦、エルダー街へ帰す」
「………」
アルカネットは、やはり納得がいかない表情で黙り込んだ。
「アルカネット」
それきり返事もしないアルカネットに、ベルトルドはため息をついた。
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