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勇気と決断編
episode516
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まずアリサがノックをして、キュッリッキが帰ったことを告げてドアを開けた。
「さ、お嬢様」
押し込められるように応接室へ入ると、青い天鵞絨張りのソファの上座にベルトルドが、その斜め右側にアルカネットが座っている。そして2人共にこりともせず、難しい表情を浮かべていた。
「ただいま」
頓着しない様子のキュッリッキに対し、ベルトルドはしかめっ面でアルカネットの対面側のソファを指差す。
「座りなさい」
有無を言わせない迫力のこもった、しかし抑えた声で言われて、キュッリッキはちょっと首をかしげたが素直に座った。
「セヴェリさん、リトヴァさん」
ようやくドアの近くに控えるように立つ2人に気づく。
「こんな時間まで、一体どこへ行っていたのかな」
ベルトルドは腕を組み、険しい表情をキュッリッキに向ける。
「イフーメの森まで」
「一人で行ったのかな?」
途端、キュッリッキは顔を真っ赤にして俯いた。そして、両手で頬を抑えると、小さな声で、
「メルヴィンと……」
そう言って、恥ずかしそうに目を閉じた。
ベルトルドとアルカネットは眉をひくつかせ、アルカネットは感情を抑え込むようにして、膝頭をこれでもかと握り締める。
「あ、それでね、アタシ明日、エルダー街のアジトに帰るね」
嬉しそうに言うキュッリッキの様子に、堪りかねたようにベルトルドがぷっつんとキレた。
「ダメだ! 今後ハーメンリンナの外に出ることは許さん!!」
応接テーブルに拳を叩きつけ、怒鳴るように言った。ベルトルドの態度が、あまりにも普段の様子とかけ離れすぎていて、キュッリッキは面食らって目を白黒させてしまった。
「リッキーはもう、傭兵はしなくていい。ずっとこの屋敷で暮らす、いいな」
「な、なんで!?」
吃驚したキュッリッキは、ベルトルドのほうへ身を乗り出した。
「すでに皇王と社交界にお披露目を済ませた召喚士だ。定住地として正式にここ、ハーメンリンナの俺の屋敷が、リッキーの住まいとして登録してある。召喚スキル〈才能〉を持つ者は、大切に国で保護し、一生危険とは無縁の暮らしを約束している。もう傭兵なんてする必要はない。これからは、ここで安全に暮らしなさい」
「このお屋敷にいれば安全です。そして外出をするときは、必ず供の者と一緒に出るようにするのですよ。まさか、我々の留守中にメルヴィンがきて、あなたを連れ出すなんて……巫山戯た真似をしてくれたものです」
「何を言ってるの2人とも……」
ベルトルドについで、アルカネットからも畳み掛けられるように言われて、キュッリッキは頭が混乱してしまった。
「メルヴィンはアタシに会いに来てくれてたんだよ。これまでずっと会いに来てくれていたのに、セヴェリさんとリトヴァさんに口止めするなんて、酷すぎるんだから!」
「そうだ、命令を守らずリッキーが飛び出していくのを止めなかったそうじゃないか。全く、使用人風情が主(あるじ)の命令を無視するとは、いい度胸だ」
心底怒っているのだろう、ベルトルドの声は普段優しく話しかけてくる声とは違っていた。そのことに、初めてベルトルドにゾッと恐怖を感じた。
しかし、その恐怖に竦んでいる場合ではない。
「ふ…2人は悪くないんだよ……、勝手に外に出たのはアタシのせいなんだもん! それにメルヴィンがきた、とは言ってないからね」
「名前を告げずとも、ニュアンスで判るように教えたのだろう。同罪だ」
「なんで、そんなこと言うの……」
先程まで幸せでいっぱいに満たされていた心が、急激にしぼんで萎れていってしまった。
「さ、お嬢様」
押し込められるように応接室へ入ると、青い天鵞絨張りのソファの上座にベルトルドが、その斜め右側にアルカネットが座っている。そして2人共にこりともせず、難しい表情を浮かべていた。
「ただいま」
頓着しない様子のキュッリッキに対し、ベルトルドはしかめっ面でアルカネットの対面側のソファを指差す。
「座りなさい」
有無を言わせない迫力のこもった、しかし抑えた声で言われて、キュッリッキはちょっと首をかしげたが素直に座った。
「セヴェリさん、リトヴァさん」
ようやくドアの近くに控えるように立つ2人に気づく。
「こんな時間まで、一体どこへ行っていたのかな」
ベルトルドは腕を組み、険しい表情をキュッリッキに向ける。
「イフーメの森まで」
「一人で行ったのかな?」
途端、キュッリッキは顔を真っ赤にして俯いた。そして、両手で頬を抑えると、小さな声で、
「メルヴィンと……」
そう言って、恥ずかしそうに目を閉じた。
ベルトルドとアルカネットは眉をひくつかせ、アルカネットは感情を抑え込むようにして、膝頭をこれでもかと握り締める。
「あ、それでね、アタシ明日、エルダー街のアジトに帰るね」
嬉しそうに言うキュッリッキの様子に、堪りかねたようにベルトルドがぷっつんとキレた。
「ダメだ! 今後ハーメンリンナの外に出ることは許さん!!」
応接テーブルに拳を叩きつけ、怒鳴るように言った。ベルトルドの態度が、あまりにも普段の様子とかけ離れすぎていて、キュッリッキは面食らって目を白黒させてしまった。
「リッキーはもう、傭兵はしなくていい。ずっとこの屋敷で暮らす、いいな」
「な、なんで!?」
吃驚したキュッリッキは、ベルトルドのほうへ身を乗り出した。
「すでに皇王と社交界にお披露目を済ませた召喚士だ。定住地として正式にここ、ハーメンリンナの俺の屋敷が、リッキーの住まいとして登録してある。召喚スキル〈才能〉を持つ者は、大切に国で保護し、一生危険とは無縁の暮らしを約束している。もう傭兵なんてする必要はない。これからは、ここで安全に暮らしなさい」
「このお屋敷にいれば安全です。そして外出をするときは、必ず供の者と一緒に出るようにするのですよ。まさか、我々の留守中にメルヴィンがきて、あなたを連れ出すなんて……巫山戯た真似をしてくれたものです」
「何を言ってるの2人とも……」
ベルトルドについで、アルカネットからも畳み掛けられるように言われて、キュッリッキは頭が混乱してしまった。
「メルヴィンはアタシに会いに来てくれてたんだよ。これまでずっと会いに来てくれていたのに、セヴェリさんとリトヴァさんに口止めするなんて、酷すぎるんだから!」
「そうだ、命令を守らずリッキーが飛び出していくのを止めなかったそうじゃないか。全く、使用人風情が主(あるじ)の命令を無視するとは、いい度胸だ」
心底怒っているのだろう、ベルトルドの声は普段優しく話しかけてくる声とは違っていた。そのことに、初めてベルトルドにゾッと恐怖を感じた。
しかし、その恐怖に竦んでいる場合ではない。
「ふ…2人は悪くないんだよ……、勝手に外に出たのはアタシのせいなんだもん! それにメルヴィンがきた、とは言ってないからね」
「名前を告げずとも、ニュアンスで判るように教えたのだろう。同罪だ」
「なんで、そんなこと言うの……」
先程まで幸せでいっぱいに満たされていた心が、急激にしぼんで萎れていってしまった。
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