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勇気と決断編
episode515
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ドアの前まで来ると、目の前の少女は急にしょんぼりとした表情になった。それを見て、メルヴィンは苦笑する。
「このままオレと一緒に、エルダー街へ帰りますか?」
穏やかに語りかけると、ちょっと悩む風な素振りを見せたが、小さく首を横に振った。
「んーん、ちゃんとベルトルドさんたちに話してから帰る」
急に居なくなったら、凄く心配させちゃうから。そうキュッリッキは真顔で言った。
「そうですね」
「だから明日になったら、絶対迎えに来てね、メルヴィン!」
「はい。今日と同じくらいに、迎えに来ますね」
「うん、きっとね!」
「きっと」
キュッリッキは躊躇いかちに、小さな小指を差し出した。どこか緊張気味に、そして顔を赤くしている。その様子に、メルヴィンは笑いをこらえて小指で握り返した。
「これで約束です」
パッと顔を明るくしたキュッリッキに、メルヴィンは微笑んだ。
こういうところは、まだ子供っぽさが残っている。でも、それが逆に好ましく思えた。そして、どうしようもなく愛おしさが増していく。慌てて背伸びせず、ありのままでいてくれるから。
小指を結んで約束ができて、嬉しそうにしているキュッリッキを、メルヴィンは抱き寄せてキスをした。かけがえのない、大切な女性(ひと)。こうして腕に抱き、想いを噛み締めるように唇を重ねた。
これから共に歩んでいく。
キュッリッキは心に大きな傷を抱えている。そう簡単に癒せるものではないだろう。
全てを打ち明けられ、かつて怪我で臥せっていた彼女が、時折夜中に泣き声や悲鳴をあげていた理由も理解できた。この先またそういうこともあるだろう。その時は必ずそばにいて支え、慰めよう。心安らかな眠りが出来るようになるまで。
ベルトルドでもなく、アルカネットでもない。必ず自分が、キュッリッキを守るのだ。
この時初めて、ベルトルドとアルカネットに対抗意識が芽生えた。これまでは漠然とした嫉妬心しかなかったが、今ははっきりと対抗意識を持ったことが自覚できる。
唇を離すと、腰が砕けたように座り込みそうになるキュッリッキを、慌てて抱きとめた。
「だ、大丈夫ですか?」
「う……うん、平気……かな」
とろんと蕩けそうな表情で、メルヴィンにしがみつくように立った。さすがにまだ気持ちに身体がついてきていないようだ。
それでもどうにか一人で立てるようになると、安心してメルヴィンはアジトへと戻っていった。
夕暮れの中、メルヴィンの姿が見えなくなるまで見送って、キュッリッキは屋敷の中へ入る。
「お嬢様! お帰りなさいませ、どちらへいらしていたんですか心配しましたよ!」
メイドのアリサが血相を変えて、すっ飛んでくるように駆け寄ってきた。
「ただいまアリサ。ちょっとイフーメの森まで行ってたの」
心の中で、メルヴィンと一緒に、と付け加える。
「そういえば、セヴェリさんは?」
出迎えには必ずセヴェリが応対する。そのセヴェリがまだ姿を見せず、アリサが出てきてキュッリッキは首をかしげた。セヴェリが出られないときはリトヴァが代わりをするはずなのにと。
「それより、旦那様がたが、応接室でお待ちになっておりますよ」
「ベルトルドさんたちもう帰ってきたんだ」
「はい。とにかく、このままおいでくださいまし」
「うん」
アリサに急かされるようにして、応接室へ向かう。
初めてベルトルド邸へ来たときに、通された部屋だった。
「このままオレと一緒に、エルダー街へ帰りますか?」
穏やかに語りかけると、ちょっと悩む風な素振りを見せたが、小さく首を横に振った。
「んーん、ちゃんとベルトルドさんたちに話してから帰る」
急に居なくなったら、凄く心配させちゃうから。そうキュッリッキは真顔で言った。
「そうですね」
「だから明日になったら、絶対迎えに来てね、メルヴィン!」
「はい。今日と同じくらいに、迎えに来ますね」
「うん、きっとね!」
「きっと」
キュッリッキは躊躇いかちに、小さな小指を差し出した。どこか緊張気味に、そして顔を赤くしている。その様子に、メルヴィンは笑いをこらえて小指で握り返した。
「これで約束です」
パッと顔を明るくしたキュッリッキに、メルヴィンは微笑んだ。
こういうところは、まだ子供っぽさが残っている。でも、それが逆に好ましく思えた。そして、どうしようもなく愛おしさが増していく。慌てて背伸びせず、ありのままでいてくれるから。
小指を結んで約束ができて、嬉しそうにしているキュッリッキを、メルヴィンは抱き寄せてキスをした。かけがえのない、大切な女性(ひと)。こうして腕に抱き、想いを噛み締めるように唇を重ねた。
これから共に歩んでいく。
キュッリッキは心に大きな傷を抱えている。そう簡単に癒せるものではないだろう。
全てを打ち明けられ、かつて怪我で臥せっていた彼女が、時折夜中に泣き声や悲鳴をあげていた理由も理解できた。この先またそういうこともあるだろう。その時は必ずそばにいて支え、慰めよう。心安らかな眠りが出来るようになるまで。
ベルトルドでもなく、アルカネットでもない。必ず自分が、キュッリッキを守るのだ。
この時初めて、ベルトルドとアルカネットに対抗意識が芽生えた。これまでは漠然とした嫉妬心しかなかったが、今ははっきりと対抗意識を持ったことが自覚できる。
唇を離すと、腰が砕けたように座り込みそうになるキュッリッキを、慌てて抱きとめた。
「だ、大丈夫ですか?」
「う……うん、平気……かな」
とろんと蕩けそうな表情で、メルヴィンにしがみつくように立った。さすがにまだ気持ちに身体がついてきていないようだ。
それでもどうにか一人で立てるようになると、安心してメルヴィンはアジトへと戻っていった。
夕暮れの中、メルヴィンの姿が見えなくなるまで見送って、キュッリッキは屋敷の中へ入る。
「お嬢様! お帰りなさいませ、どちらへいらしていたんですか心配しましたよ!」
メイドのアリサが血相を変えて、すっ飛んでくるように駆け寄ってきた。
「ただいまアリサ。ちょっとイフーメの森まで行ってたの」
心の中で、メルヴィンと一緒に、と付け加える。
「そういえば、セヴェリさんは?」
出迎えには必ずセヴェリが応対する。そのセヴェリがまだ姿を見せず、アリサが出てきてキュッリッキは首をかしげた。セヴェリが出られないときはリトヴァが代わりをするはずなのにと。
「それより、旦那様がたが、応接室でお待ちになっておりますよ」
「ベルトルドさんたちもう帰ってきたんだ」
「はい。とにかく、このままおいでくださいまし」
「うん」
アリサに急かされるようにして、応接室へ向かう。
初めてベルトルド邸へ来たときに、通された部屋だった。
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