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勇気と決断編
episode513
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「メルヴィンっ」
突然のことに、驚いて目を見張っていると、
「ごめんなさい。辛いことを話させてしまって、本当にごめんなさい。そして、打ち明けてくれてありがとう。こんなオレに話してくれて、ありがとう」
噛み締めるようにメルヴィンは言った。
迂闊に話せることではないだろう。それに、口に出せば己の心が再び傷ついてしまう。更に、一人で抱え込むには、あまりにも重すぎる。
(支えてあげたい。ずっと、オレが支えになりたい)
支えになれるかは判らない。正直自信はない。しかし、自分を信じて打ち明けてくれたキュッリッキの勇気と決断に、メルヴィンの心に迷いはなかった。
「聞いてくれて、ありがと……」
キュッリッキもメルヴィンの背に両手を回し、しっかりと抱きしめた。
一生懸命話した。包み隠さず、自分を全部話せた。その安堵感で、キュッリッキは更に涙を流し続けていた。
「オレを助けてくれたとき、リッキーさんの背に翼があって、本当に驚きました。ヴァルトさんやヴィヒトリさんを見てるとあまり感じないですが、アイオン族は本当に、その、居丈高で態度が悪いって印象が強くって。だから、まさかリッキーさんがアイオン族だったというのは心底驚いたんです。素直で可愛いのに、本当に!?って」
キュッリッキはメルヴィンに抱きしめられながら、しどろもどろに焦ってしまった。自分ではよく判らないが、そんなにもアイオン族だと気づかれないものなのだろうか。
「今にして思えば、とても軽すぎたし、アイオン族はやたらと軽いっていうのを思い出しました。だからオレが驚いていたのはそのことで、片方の翼だけというのは、あまり視界に入ってなかったんです……」
「えっ」
驚いたことは確かだ。しかしメルヴィンが一番驚いたのは、何故そうまでして自分を助けようとしてくれていたのかだ。そしてその疑問はもう解決した。
こんな自分に、恋をしてくれていたからだと。
初めての恋を、自分に向けてくれていた。それは、こそばゆいくらい嬉しいことだった。
手はお互いの身体に触れたまま離れると、メルヴィンは心底面目なさそうな表情を浮かべていた。
勘違いして落ち込んでいたのかと、キュッリッキは魂の抜けたような顔をしてしまっていた。そんなキュッリッキに、メルヴィンは小さく笑いかける。
「オレはヴィプネン族なので、翼のあるなしがどれほど重いことなのかは判りません。でも、片腕がなかったら、片足がなかったら、そう考えると察することはできます。そして、一緒にそのことを乗り越えたいと思います。リッキーさんが片翼でも、そのことで嫌ったりすることは、けっしてありません」
キュッリッキはメルヴィンの顔を見つめながら、ぽつりと言う。
「……本当に?」
「はい」
「みっともないからって、お父さんやお母さんがしたように、捨てたりしない? アイオン族のみんながしたように、忌み嫌ったりしない?」
「絶対にしません」
「アタシのこと……、好きになってくれる?」
「もう、とっくに大好きになっています」
「本当に……?」
メルヴィンは穏やかに、そして優しく微笑むと、
「はい、あなたを愛しています」
そう言って、キュッリッキを再び抱き寄せ、無防備な唇に、そっと自らの唇を重ねた。
突然のことに、驚いて目を見張っていると、
「ごめんなさい。辛いことを話させてしまって、本当にごめんなさい。そして、打ち明けてくれてありがとう。こんなオレに話してくれて、ありがとう」
噛み締めるようにメルヴィンは言った。
迂闊に話せることではないだろう。それに、口に出せば己の心が再び傷ついてしまう。更に、一人で抱え込むには、あまりにも重すぎる。
(支えてあげたい。ずっと、オレが支えになりたい)
支えになれるかは判らない。正直自信はない。しかし、自分を信じて打ち明けてくれたキュッリッキの勇気と決断に、メルヴィンの心に迷いはなかった。
「聞いてくれて、ありがと……」
キュッリッキもメルヴィンの背に両手を回し、しっかりと抱きしめた。
一生懸命話した。包み隠さず、自分を全部話せた。その安堵感で、キュッリッキは更に涙を流し続けていた。
「オレを助けてくれたとき、リッキーさんの背に翼があって、本当に驚きました。ヴァルトさんやヴィヒトリさんを見てるとあまり感じないですが、アイオン族は本当に、その、居丈高で態度が悪いって印象が強くって。だから、まさかリッキーさんがアイオン族だったというのは心底驚いたんです。素直で可愛いのに、本当に!?って」
キュッリッキはメルヴィンに抱きしめられながら、しどろもどろに焦ってしまった。自分ではよく判らないが、そんなにもアイオン族だと気づかれないものなのだろうか。
「今にして思えば、とても軽すぎたし、アイオン族はやたらと軽いっていうのを思い出しました。だからオレが驚いていたのはそのことで、片方の翼だけというのは、あまり視界に入ってなかったんです……」
「えっ」
驚いたことは確かだ。しかしメルヴィンが一番驚いたのは、何故そうまでして自分を助けようとしてくれていたのかだ。そしてその疑問はもう解決した。
こんな自分に、恋をしてくれていたからだと。
初めての恋を、自分に向けてくれていた。それは、こそばゆいくらい嬉しいことだった。
手はお互いの身体に触れたまま離れると、メルヴィンは心底面目なさそうな表情を浮かべていた。
勘違いして落ち込んでいたのかと、キュッリッキは魂の抜けたような顔をしてしまっていた。そんなキュッリッキに、メルヴィンは小さく笑いかける。
「オレはヴィプネン族なので、翼のあるなしがどれほど重いことなのかは判りません。でも、片腕がなかったら、片足がなかったら、そう考えると察することはできます。そして、一緒にそのことを乗り越えたいと思います。リッキーさんが片翼でも、そのことで嫌ったりすることは、けっしてありません」
キュッリッキはメルヴィンの顔を見つめながら、ぽつりと言う。
「……本当に?」
「はい」
「みっともないからって、お父さんやお母さんがしたように、捨てたりしない? アイオン族のみんながしたように、忌み嫌ったりしない?」
「絶対にしません」
「アタシのこと……、好きになってくれる?」
「もう、とっくに大好きになっています」
「本当に……?」
メルヴィンは穏やかに、そして優しく微笑むと、
「はい、あなたを愛しています」
そう言って、キュッリッキを再び抱き寄せ、無防備な唇に、そっと自らの唇を重ねた。
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