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勇気と決断編
episode512
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「そしてライオン傭兵団に入って、初めて居場所を見つけた気がしたの。これまで出会った傭兵たちとは違う、アタシここに居てもいいんだ、って思えて。――ザカリーには入ってすぐに翼を見られちゃって喧嘩してたけど……でもいつの間にか、仲間になれてて……」
キュッリッキは一度鼻をすすり、肩の力を抜く。
「アイオン族だってバレないように、ずっと壁を作っていたけど、そんなだからアタシね、アタシだけを可愛い、可愛いって、甘やかしてもらいたかったんだって、今はハッキリ判る。そんな風にしてもらったこと、なかったから。ベルトルドさんやアルカネットさんは、そのことが判っていたんだと思う。いっぱい可愛い可愛いってしてくれて。ちょっと過激なところもあるけど……」
そのことについては、メルヴィンもキュッリッキも、自然と呆れたようなため息が漏れた。
「世界中の幸せな人たちが羨ましかった。家族に恵まれている人たちに嫉妬してた。妬ましくって、大嫌いだった。自分だけが不幸じゃないのに、世界一不幸だと思ってたの。でも、ライオン傭兵団に入って、アタシもっと変わった。みんなと仲間になったから、もう独りぼっちじゃない、血が繋がってなくても、家族みたいな人達と仲間になれたから、いつか自分のことも、アイオン族であることも話せる。そう思っていたのに……」
キュッリッキはワンピースをきゅっと握り締める。
「片方だけの翼を見られたとき、急に昔の嫌なことがいっぺんに蘇ってきて、やっぱりみんなに嫌われたって思った。実の親だって見捨てた、アイオン族だって見捨てたアタシの、みっともない翼を見て、みんなだって嫌いになったって。………メルヴィンにも見れちゃって、あんなに驚いた顔をしてて、もう嫌われちゃったんだって……ずっと、そう思ってた」
涙は止まらず、メルヴィンの手の甲にたくさんの水たまりを作った。
「メルヴィンに会いたいのに、きっと嫌われてて、それを知るのが怖くて。でも会いたくて……」
そしてついに、キュッリッキは声をあげて泣き出した。
サワサワと木々の揺れる葉音とキュッリッキの泣き声だけが、辺りに響く。
黙って聞いていたメルヴィンは、やがて長い息を吐き出した。
「オレってほんと、鈍いですね……。鈍い上に、甘ちゃんです」
「え……」
ぐすりながらメルヴィンの顔を見上げると、苦いものを噛み潰したような表情を浮かべていた。
「もっと単純に考えてたオレが恥ずかしいです。きっと、話してくれた以上に、辛かったはずなのに」
「メルヴィン……?」
キュッリッキは急に不安になった。まさか、今話したことで、やはり自分では受け止めきれないと、そう思ってしまったのではないか? なかったことにしてほしい、そう考えてしまったのではないだろうか。
(やっぱり、話さないほうが良かったの…?)
キュッリッキの手の上に重ねられていたメルヴィンの手が離れた。そして、その手はキュッリッキの背に回され、力強く抱きしめられた。
キュッリッキは一度鼻をすすり、肩の力を抜く。
「アイオン族だってバレないように、ずっと壁を作っていたけど、そんなだからアタシね、アタシだけを可愛い、可愛いって、甘やかしてもらいたかったんだって、今はハッキリ判る。そんな風にしてもらったこと、なかったから。ベルトルドさんやアルカネットさんは、そのことが判っていたんだと思う。いっぱい可愛い可愛いってしてくれて。ちょっと過激なところもあるけど……」
そのことについては、メルヴィンもキュッリッキも、自然と呆れたようなため息が漏れた。
「世界中の幸せな人たちが羨ましかった。家族に恵まれている人たちに嫉妬してた。妬ましくって、大嫌いだった。自分だけが不幸じゃないのに、世界一不幸だと思ってたの。でも、ライオン傭兵団に入って、アタシもっと変わった。みんなと仲間になったから、もう独りぼっちじゃない、血が繋がってなくても、家族みたいな人達と仲間になれたから、いつか自分のことも、アイオン族であることも話せる。そう思っていたのに……」
キュッリッキはワンピースをきゅっと握り締める。
「片方だけの翼を見られたとき、急に昔の嫌なことがいっぺんに蘇ってきて、やっぱりみんなに嫌われたって思った。実の親だって見捨てた、アイオン族だって見捨てたアタシの、みっともない翼を見て、みんなだって嫌いになったって。………メルヴィンにも見れちゃって、あんなに驚いた顔をしてて、もう嫌われちゃったんだって……ずっと、そう思ってた」
涙は止まらず、メルヴィンの手の甲にたくさんの水たまりを作った。
「メルヴィンに会いたいのに、きっと嫌われてて、それを知るのが怖くて。でも会いたくて……」
そしてついに、キュッリッキは声をあげて泣き出した。
サワサワと木々の揺れる葉音とキュッリッキの泣き声だけが、辺りに響く。
黙って聞いていたメルヴィンは、やがて長い息を吐き出した。
「オレってほんと、鈍いですね……。鈍い上に、甘ちゃんです」
「え……」
ぐすりながらメルヴィンの顔を見上げると、苦いものを噛み潰したような表情を浮かべていた。
「もっと単純に考えてたオレが恥ずかしいです。きっと、話してくれた以上に、辛かったはずなのに」
「メルヴィン……?」
キュッリッキは急に不安になった。まさか、今話したことで、やはり自分では受け止めきれないと、そう思ってしまったのではないか? なかったことにしてほしい、そう考えてしまったのではないだろうか。
(やっぱり、話さないほうが良かったの…?)
キュッリッキの手の上に重ねられていたメルヴィンの手が離れた。そして、その手はキュッリッキの背に回され、力強く抱きしめられた。
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