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勇気と決断編
episode511
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けっしていい加減で、軽い気持ちで言っていないことは判る。そもそもメルヴィンはそういう人ではない。
自分の口から話すと決めたし、メルヴィンには打ち明けなくてはいけない。
メルヴィンが自分を好きでいてくれているのは判る。興味本位で聞きたいわけではない、自分を理解しようとしてくれているから。だから、知りたいのだと。
心が波のように、ユラユラと揺れる。
過去や生い立ちを打ち明けても大丈夫な人、突き放したり、それをきっかけに去っていく人じゃない。自分のことを知ってもらって、それでもきっと、好きだと言ってくれる人。
信じたい。信じたいほど、大好きだから。
(勇気を、出さなきゃ……。メルヴィンにアタシのこと、知ってほしい。そしてずっと、好きでいてほしいから)
膝の上に揃えた手が臆病なほどに震えている。勇気を持とう、勇気を出そうと毎日自分の心に言い続けていたのに、こんなにも震えてしまう。
その時、温かな手が、震える手の上にそっと重ねられた。
顔を上げると、穏やかな光を宿す、メルヴィンの目と視線が重なった。
「あの、アタシ、ね、……」
キュッリッキは言いよどみ俯く。けど、メルヴィンは何も言わず、じっと耳を傾けていた。
「生まれた時ね、片方の翼が、その……奇形だったの」
「うん」
「そのせいでね、アタシ捨てられちゃったの……。みっともない翼だから、空を、翔べないから、出来損ないだから……お父さんと、お母さんに捨てられちゃった」
次第に涙が溢れてくる。そして、メルヴィンの手の甲にポタ、ポタっと、涙が落ちて弾けた。それを涙で曇る目で見つめながら、キュッリッキは話を続ける。
「アタシが生まれたのはイルマタル帝国で、国もアタシを引き取ることを拒絶したから、修道院に預けられたの。でも、そこでも片方しか翼がないから、みんなに苛められて。それで、7歳のときに、崖から突き落とされて、フェンリルが助けてくれたけど、修道院には戻らなかった。それから、フェンリルと一緒に惑星ヒイシに来て、各地を転々としながら、戦場を探して走り回って、傭兵になったの」
心を突き刺すほどの辛い思い出。苦しいことばかりの幼い時分。
(両親と国に捨てられた…)
それがどれだけ途方もないくらい残酷なことなのか、メルヴィンは想像を絶する事実に絶句してしまった。
「アイオン族であることはね、必死に隠してたの。翼は片方しかないし、もしそれがバレたりしたら、絶対馬鹿にされるし貶される。アイオン族は他種族に態度が悪いから、嫌われてるし。――同族にすら見捨てられたのに、他種族に笑われるのは耐えられないもん」
だから翼を隠して、アイオン族であることも黙っていた。
しゃくりあげながら必死に話すキュッリッキを見つめ、メルヴィンの表情に苦いものが広がっていく。
「翼を見られないように、アイオン族だとバレないように、誰も信じない、心なんて許すもんかって生きてきたの。でもね、ファニーとハドリーに出会ってね、2人と一緒に仕事したり遊んだりしてたら、アタシ段々変わっていったの。自分でも判るくらい」
突っ慳貪な態度をとり続けていた。それなのに2人は、どんどんキュッリッキの手を引っ張って一緒に歩いてくれるのだ。手を放して、突き飛ばすこともしない。引き寄せて抱きしめてくれる。
最初は鬱陶しさや疑う心しかなかった。しかし、接していくうちに、次第に2人に打ち解けていって、自分のことも話せるようになっていった。いつのまにか、友達になっていた。
「ファニーとハドリーは、初めてアタシを理解してくれて、アタシちょっとだけマシになってきたの。人間っぽくなってきたのかな…。だって、今までアタシに何かを教えてくれるのは、フェンリルしかいなかったから」
メルヴィンはちらりと、足元に静かに座るフェンリルを見る。フェンリルは難しそうな表情を浮かべているが、水色の瞳でキュッリッキをじっと見守っていた。
自分の口から話すと決めたし、メルヴィンには打ち明けなくてはいけない。
メルヴィンが自分を好きでいてくれているのは判る。興味本位で聞きたいわけではない、自分を理解しようとしてくれているから。だから、知りたいのだと。
心が波のように、ユラユラと揺れる。
過去や生い立ちを打ち明けても大丈夫な人、突き放したり、それをきっかけに去っていく人じゃない。自分のことを知ってもらって、それでもきっと、好きだと言ってくれる人。
信じたい。信じたいほど、大好きだから。
(勇気を、出さなきゃ……。メルヴィンにアタシのこと、知ってほしい。そしてずっと、好きでいてほしいから)
膝の上に揃えた手が臆病なほどに震えている。勇気を持とう、勇気を出そうと毎日自分の心に言い続けていたのに、こんなにも震えてしまう。
その時、温かな手が、震える手の上にそっと重ねられた。
顔を上げると、穏やかな光を宿す、メルヴィンの目と視線が重なった。
「あの、アタシ、ね、……」
キュッリッキは言いよどみ俯く。けど、メルヴィンは何も言わず、じっと耳を傾けていた。
「生まれた時ね、片方の翼が、その……奇形だったの」
「うん」
「そのせいでね、アタシ捨てられちゃったの……。みっともない翼だから、空を、翔べないから、出来損ないだから……お父さんと、お母さんに捨てられちゃった」
次第に涙が溢れてくる。そして、メルヴィンの手の甲にポタ、ポタっと、涙が落ちて弾けた。それを涙で曇る目で見つめながら、キュッリッキは話を続ける。
「アタシが生まれたのはイルマタル帝国で、国もアタシを引き取ることを拒絶したから、修道院に預けられたの。でも、そこでも片方しか翼がないから、みんなに苛められて。それで、7歳のときに、崖から突き落とされて、フェンリルが助けてくれたけど、修道院には戻らなかった。それから、フェンリルと一緒に惑星ヒイシに来て、各地を転々としながら、戦場を探して走り回って、傭兵になったの」
心を突き刺すほどの辛い思い出。苦しいことばかりの幼い時分。
(両親と国に捨てられた…)
それがどれだけ途方もないくらい残酷なことなのか、メルヴィンは想像を絶する事実に絶句してしまった。
「アイオン族であることはね、必死に隠してたの。翼は片方しかないし、もしそれがバレたりしたら、絶対馬鹿にされるし貶される。アイオン族は他種族に態度が悪いから、嫌われてるし。――同族にすら見捨てられたのに、他種族に笑われるのは耐えられないもん」
だから翼を隠して、アイオン族であることも黙っていた。
しゃくりあげながら必死に話すキュッリッキを見つめ、メルヴィンの表情に苦いものが広がっていく。
「翼を見られないように、アイオン族だとバレないように、誰も信じない、心なんて許すもんかって生きてきたの。でもね、ファニーとハドリーに出会ってね、2人と一緒に仕事したり遊んだりしてたら、アタシ段々変わっていったの。自分でも判るくらい」
突っ慳貪な態度をとり続けていた。それなのに2人は、どんどんキュッリッキの手を引っ張って一緒に歩いてくれるのだ。手を放して、突き飛ばすこともしない。引き寄せて抱きしめてくれる。
最初は鬱陶しさや疑う心しかなかった。しかし、接していくうちに、次第に2人に打ち解けていって、自分のことも話せるようになっていった。いつのまにか、友達になっていた。
「ファニーとハドリーは、初めてアタシを理解してくれて、アタシちょっとだけマシになってきたの。人間っぽくなってきたのかな…。だって、今までアタシに何かを教えてくれるのは、フェンリルしかいなかったから」
メルヴィンはちらりと、足元に静かに座るフェンリルを見る。フェンリルは難しそうな表情を浮かべているが、水色の瞳でキュッリッキをじっと見守っていた。
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