530 / 882
勇気と決断編
episode511
しおりを挟む
けっしていい加減で、軽い気持ちで言っていないことは判る。そもそもメルヴィンはそういう人ではない。
自分の口から話すと決めたし、メルヴィンには打ち明けなくてはいけない。
メルヴィンが自分を好きでいてくれているのは判る。興味本位で聞きたいわけではない、自分を理解しようとしてくれているから。だから、知りたいのだと。
心が波のように、ユラユラと揺れる。
過去や生い立ちを打ち明けても大丈夫な人、突き放したり、それをきっかけに去っていく人じゃない。自分のことを知ってもらって、それでもきっと、好きだと言ってくれる人。
信じたい。信じたいほど、大好きだから。
(勇気を、出さなきゃ……。メルヴィンにアタシのこと、知ってほしい。そしてずっと、好きでいてほしいから)
膝の上に揃えた手が臆病なほどに震えている。勇気を持とう、勇気を出そうと毎日自分の心に言い続けていたのに、こんなにも震えてしまう。
その時、温かな手が、震える手の上にそっと重ねられた。
顔を上げると、穏やかな光を宿す、メルヴィンの目と視線が重なった。
「あの、アタシ、ね、……」
キュッリッキは言いよどみ俯く。けど、メルヴィンは何も言わず、じっと耳を傾けていた。
「生まれた時ね、片方の翼が、その……奇形だったの」
「うん」
「そのせいでね、アタシ捨てられちゃったの……。みっともない翼だから、空を、翔べないから、出来損ないだから……お父さんと、お母さんに捨てられちゃった」
次第に涙が溢れてくる。そして、メルヴィンの手の甲にポタ、ポタっと、涙が落ちて弾けた。それを涙で曇る目で見つめながら、キュッリッキは話を続ける。
「アタシが生まれたのはイルマタル帝国で、国もアタシを引き取ることを拒絶したから、修道院に預けられたの。でも、そこでも片方しか翼がないから、みんなに苛められて。それで、7歳のときに、崖から突き落とされて、フェンリルが助けてくれたけど、修道院には戻らなかった。それから、フェンリルと一緒に惑星ヒイシに来て、各地を転々としながら、戦場を探して走り回って、傭兵になったの」
心を突き刺すほどの辛い思い出。苦しいことばかりの幼い時分。
(両親と国に捨てられた…)
それがどれだけ途方もないくらい残酷なことなのか、メルヴィンは想像を絶する事実に絶句してしまった。
「アイオン族であることはね、必死に隠してたの。翼は片方しかないし、もしそれがバレたりしたら、絶対馬鹿にされるし貶される。アイオン族は他種族に態度が悪いから、嫌われてるし。――同族にすら見捨てられたのに、他種族に笑われるのは耐えられないもん」
だから翼を隠して、アイオン族であることも黙っていた。
しゃくりあげながら必死に話すキュッリッキを見つめ、メルヴィンの表情に苦いものが広がっていく。
「翼を見られないように、アイオン族だとバレないように、誰も信じない、心なんて許すもんかって生きてきたの。でもね、ファニーとハドリーに出会ってね、2人と一緒に仕事したり遊んだりしてたら、アタシ段々変わっていったの。自分でも判るくらい」
突っ慳貪な態度をとり続けていた。それなのに2人は、どんどんキュッリッキの手を引っ張って一緒に歩いてくれるのだ。手を放して、突き飛ばすこともしない。引き寄せて抱きしめてくれる。
最初は鬱陶しさや疑う心しかなかった。しかし、接していくうちに、次第に2人に打ち解けていって、自分のことも話せるようになっていった。いつのまにか、友達になっていた。
「ファニーとハドリーは、初めてアタシを理解してくれて、アタシちょっとだけマシになってきたの。人間っぽくなってきたのかな…。だって、今までアタシに何かを教えてくれるのは、フェンリルしかいなかったから」
メルヴィンはちらりと、足元に静かに座るフェンリルを見る。フェンリルは難しそうな表情を浮かべているが、水色の瞳でキュッリッキをじっと見守っていた。
自分の口から話すと決めたし、メルヴィンには打ち明けなくてはいけない。
メルヴィンが自分を好きでいてくれているのは判る。興味本位で聞きたいわけではない、自分を理解しようとしてくれているから。だから、知りたいのだと。
心が波のように、ユラユラと揺れる。
過去や生い立ちを打ち明けても大丈夫な人、突き放したり、それをきっかけに去っていく人じゃない。自分のことを知ってもらって、それでもきっと、好きだと言ってくれる人。
信じたい。信じたいほど、大好きだから。
(勇気を、出さなきゃ……。メルヴィンにアタシのこと、知ってほしい。そしてずっと、好きでいてほしいから)
膝の上に揃えた手が臆病なほどに震えている。勇気を持とう、勇気を出そうと毎日自分の心に言い続けていたのに、こんなにも震えてしまう。
その時、温かな手が、震える手の上にそっと重ねられた。
顔を上げると、穏やかな光を宿す、メルヴィンの目と視線が重なった。
「あの、アタシ、ね、……」
キュッリッキは言いよどみ俯く。けど、メルヴィンは何も言わず、じっと耳を傾けていた。
「生まれた時ね、片方の翼が、その……奇形だったの」
「うん」
「そのせいでね、アタシ捨てられちゃったの……。みっともない翼だから、空を、翔べないから、出来損ないだから……お父さんと、お母さんに捨てられちゃった」
次第に涙が溢れてくる。そして、メルヴィンの手の甲にポタ、ポタっと、涙が落ちて弾けた。それを涙で曇る目で見つめながら、キュッリッキは話を続ける。
「アタシが生まれたのはイルマタル帝国で、国もアタシを引き取ることを拒絶したから、修道院に預けられたの。でも、そこでも片方しか翼がないから、みんなに苛められて。それで、7歳のときに、崖から突き落とされて、フェンリルが助けてくれたけど、修道院には戻らなかった。それから、フェンリルと一緒に惑星ヒイシに来て、各地を転々としながら、戦場を探して走り回って、傭兵になったの」
心を突き刺すほどの辛い思い出。苦しいことばかりの幼い時分。
(両親と国に捨てられた…)
それがどれだけ途方もないくらい残酷なことなのか、メルヴィンは想像を絶する事実に絶句してしまった。
「アイオン族であることはね、必死に隠してたの。翼は片方しかないし、もしそれがバレたりしたら、絶対馬鹿にされるし貶される。アイオン族は他種族に態度が悪いから、嫌われてるし。――同族にすら見捨てられたのに、他種族に笑われるのは耐えられないもん」
だから翼を隠して、アイオン族であることも黙っていた。
しゃくりあげながら必死に話すキュッリッキを見つめ、メルヴィンの表情に苦いものが広がっていく。
「翼を見られないように、アイオン族だとバレないように、誰も信じない、心なんて許すもんかって生きてきたの。でもね、ファニーとハドリーに出会ってね、2人と一緒に仕事したり遊んだりしてたら、アタシ段々変わっていったの。自分でも判るくらい」
突っ慳貪な態度をとり続けていた。それなのに2人は、どんどんキュッリッキの手を引っ張って一緒に歩いてくれるのだ。手を放して、突き飛ばすこともしない。引き寄せて抱きしめてくれる。
最初は鬱陶しさや疑う心しかなかった。しかし、接していくうちに、次第に2人に打ち解けていって、自分のことも話せるようになっていった。いつのまにか、友達になっていた。
「ファニーとハドリーは、初めてアタシを理解してくれて、アタシちょっとだけマシになってきたの。人間っぽくなってきたのかな…。だって、今までアタシに何かを教えてくれるのは、フェンリルしかいなかったから」
メルヴィンはちらりと、足元に静かに座るフェンリルを見る。フェンリルは難しそうな表情を浮かべているが、水色の瞳でキュッリッキをじっと見守っていた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。
凜
恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。
ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。
クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる