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勇気と決断編
episode509
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目的地へ向かう間、2人は無言だった。
気まずくて言葉が出ないわけではない。会話が思いつかないわけでもない。
手をつないで寄り添っているだけで、言葉など紡がなくても、2人の心は通いあっているから。それが判っているから、お互い口は開かなかった。
小さくて華奢な手。脆くてほっそりとしたその手をしっかりと握り、メルヴィンはようやくだ、という気持ちを噛み締めていた。
2週間ベルトルド邸に通いつめ、キュッリッキに想いが届いた。そしてその想いを抱きしめ、目の前にキュッリッキは姿を見せてくれた。
こうして一緒に歩いている間、時折キュッリッキは見上げてくる。それに応えるように振り向くと、恥ずかしそうにすぐ顔を伏せてしまう。ならばと振り向くのをやめていると、どこか寂しげな雰囲気を漂わせてくるので、振り向いて微笑んでやる。そうするとまた顔を伏せてしまうのだ。
なんだかそのやり取りがおかしくもあり、メルヴィンは必死に笑いをこらえていた。
一方キュッリッキは、メルヴィンとこうして手をつないで一緒に歩いていることが幸せで、その嬉しさを伝えたくてメルヴィンを見上げる。そうするとメルヴィンが振り向いて微笑んでくれるので、気持ちが伝わったと思い、つい恥ずかしくて俯いてしまっていた。
長すぎる地下通路をゆっくり歩き、やがて2人は地上への階段をあがっていった。
階段をあがり地上に出ると、キュッリッキは目を見開いて小さく驚きの声を上げた。
「凄い、ミモザの花がいっぱい」
目の前に咲きほこる黄色い花々。それは、可憐なミモザの花々だった。しかし、とキュッリッキは僅かに首をかしげる。
「ミモザの花って、春頃に咲くんじゃなかったっけ?」
「ええ。ここはイフーメの森といって、ハーメンリンナのなかに作られた、人工の森なんです」
2人は整備された、薄い茶褐色のレンガが敷き詰められた道を歩く。
「貴族たちの要望に応じた、季節ごとに咲く様々な草木や花々が植えられて、特殊な管理のもと、一年中枯れることなく咲いているんです」
「うわあ……」
自然の法則を無視した、見事な人工の森だった。
メルヴィンは白いベンチを見つけ、そこへキュッリッキを座らせると、自分も隣に腰を下ろした。
「ここへ、どうしてもリッキーさんを、連れてきたかったんです。タネの内容はともかく、素敵な場所ですから」
「うん、とっても綺麗なところだね」
数ヶ月ほどハーメンリンナにいるが、この森へ来たことはない。ベルトルドもアルカネットも、あまり屋敷の外へは出してくれないのだ。
「メルヴィンは、ここに詳しいの?」
「数年ハーメンリンナに住んでいました。軍の官舎がこのハーメンリンナの中にあるんです。オレは元軍人だから、それで知ってました」
「そうなんだ~」
時折、恋人同士のように見える男女が歩いていく。それを見つめながら、ふとキュッリッキは引っかかるものを感じてメルヴィンを見る。
「メルヴィンは、その……、一人でお散歩とかにきていたの?」
躊躇いがちなキュッリッキが言わんとすることに気づき、メルヴィンは悪戯っぽい笑みを浮かべて、ちらりとキュッリッキに顔を向けた。
「もちろん、恋人と来てました」
「え…」
気まずくて言葉が出ないわけではない。会話が思いつかないわけでもない。
手をつないで寄り添っているだけで、言葉など紡がなくても、2人の心は通いあっているから。それが判っているから、お互い口は開かなかった。
小さくて華奢な手。脆くてほっそりとしたその手をしっかりと握り、メルヴィンはようやくだ、という気持ちを噛み締めていた。
2週間ベルトルド邸に通いつめ、キュッリッキに想いが届いた。そしてその想いを抱きしめ、目の前にキュッリッキは姿を見せてくれた。
こうして一緒に歩いている間、時折キュッリッキは見上げてくる。それに応えるように振り向くと、恥ずかしそうにすぐ顔を伏せてしまう。ならばと振り向くのをやめていると、どこか寂しげな雰囲気を漂わせてくるので、振り向いて微笑んでやる。そうするとまた顔を伏せてしまうのだ。
なんだかそのやり取りがおかしくもあり、メルヴィンは必死に笑いをこらえていた。
一方キュッリッキは、メルヴィンとこうして手をつないで一緒に歩いていることが幸せで、その嬉しさを伝えたくてメルヴィンを見上げる。そうするとメルヴィンが振り向いて微笑んでくれるので、気持ちが伝わったと思い、つい恥ずかしくて俯いてしまっていた。
長すぎる地下通路をゆっくり歩き、やがて2人は地上への階段をあがっていった。
階段をあがり地上に出ると、キュッリッキは目を見開いて小さく驚きの声を上げた。
「凄い、ミモザの花がいっぱい」
目の前に咲きほこる黄色い花々。それは、可憐なミモザの花々だった。しかし、とキュッリッキは僅かに首をかしげる。
「ミモザの花って、春頃に咲くんじゃなかったっけ?」
「ええ。ここはイフーメの森といって、ハーメンリンナのなかに作られた、人工の森なんです」
2人は整備された、薄い茶褐色のレンガが敷き詰められた道を歩く。
「貴族たちの要望に応じた、季節ごとに咲く様々な草木や花々が植えられて、特殊な管理のもと、一年中枯れることなく咲いているんです」
「うわあ……」
自然の法則を無視した、見事な人工の森だった。
メルヴィンは白いベンチを見つけ、そこへキュッリッキを座らせると、自分も隣に腰を下ろした。
「ここへ、どうしてもリッキーさんを、連れてきたかったんです。タネの内容はともかく、素敵な場所ですから」
「うん、とっても綺麗なところだね」
数ヶ月ほどハーメンリンナにいるが、この森へ来たことはない。ベルトルドもアルカネットも、あまり屋敷の外へは出してくれないのだ。
「メルヴィンは、ここに詳しいの?」
「数年ハーメンリンナに住んでいました。軍の官舎がこのハーメンリンナの中にあるんです。オレは元軍人だから、それで知ってました」
「そうなんだ~」
時折、恋人同士のように見える男女が歩いていく。それを見つめながら、ふとキュッリッキは引っかかるものを感じてメルヴィンを見る。
「メルヴィンは、その……、一人でお散歩とかにきていたの?」
躊躇いがちなキュッリッキが言わんとすることに気づき、メルヴィンは悪戯っぽい笑みを浮かべて、ちらりとキュッリッキに顔を向けた。
「もちろん、恋人と来てました」
「え…」
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