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勇気と決断編
episode505
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アジトにも、狭いながら応接間がある。あまり高い家具ではないが、ルーファスのインテリアコーディネートで、落ち着いた品のいい部屋になっていた。
ちなみに、最初はカーティスがやったのだが、成金趣味が酷すぎて、全員から却下されている。
グンヒルドに椅子をすすめながら、メルヴィンは向かい側の椅子に座る。
マーゴットが紅茶のカップを運んできて2人の前に置くと、すぐ部屋を出て行った。
「オレに話っていうのは…?」
どこか困ったように言うメルヴィンをチラリと見て、グンヒルドは紅茶のカップを手に取る。
くゆる湯気を嗅いで、グンヒルドは満足そうに微笑んだ。
「現在わたくし、ベルトルド邸の出入りを禁止されておりますの」
「え?」
「キュッリッキさんのお勉強の再開は不明、ご本人に会うことも禁止、詳細は教えていただけず、困ってますのよ。お給料はちゃんと頂いているのですけれど」
紅茶を一口飲んで、グンヒルドは肩をすくめた。
「ですが、リトヴァさんから、メルヴィンさんにお訊ねになれば、なにか判るかもしれませんと伺いました」
「オレですか?」
メルヴィンは固まったまま、グンヒルドの顔を見つめる。
「副宰相閣下からハブられた者同士ですわね。詳しいことを、お話下さいませ。何かお力になれることが、あるかもしれませんから」
どこか、否と言わせない迫力を、その笑みの奥深くから感じ、メルヴィンは素直に首を縦に振った。
「これを、リッキーさんに渡してくれますか?」
今日も同じ時間に訪れたメルヴィンは、リトヴァに小さな花束を差し出した。
それは、ラベンダーの花束だった。
花束というには大袈裟すぎだが、3本のラベンダーの花を、細いピンク色のリボンで結んで束ねてある。
いつも手ぶらなのだが、今日はこうして花束を持参してきた。
ちょっと驚いたものの、リトヴァは可愛らしい花束をそっと両手で受け取ると、
「確かに、お渡ししておきますわ」
そう言って、帰っていくメルヴィンを見送った。
紫色の小さな花を見つめながら、リトヴァはメルヴィンのいじらしい想いを感じて、ますます深いため息をついた。
リトヴァは知っている。
ラベンダーの花言葉は『あなたを待っています』。
この小さな花束に込められた想いが、どれほど真摯で切ないものか、痛いほど伝わってくるのだ。
メルヴィンはけっして多くを言わず、態度も紳士的でリトヴァを困らせない。むしろ、悪態の一つでもついてくれれば、厄介払いをした、という気持ちになれるというのにそれもない。忍んで耐えるその姿もまた、切なかった。
「彼は、また来たのかね?」
心配そうに様子を見に来たセヴェリが、リトヴァの手にしているラベンダーの花束に目を留めた。
「お嬢様へお渡しして欲しいと」
セヴェリは小さく渋面を作ったが、
「誰が持ってきたかは言わず、お嬢様のお部屋に飾って差し上げるだけなら、いいと思いますよ」
そして重いため息をついた。
セヴェリもまた、リトヴァと同じ気持ちである。
「活けてすぐにお持ち致しますわ」
「そうですね。そうして差し上げて下さい」
ちなみに、最初はカーティスがやったのだが、成金趣味が酷すぎて、全員から却下されている。
グンヒルドに椅子をすすめながら、メルヴィンは向かい側の椅子に座る。
マーゴットが紅茶のカップを運んできて2人の前に置くと、すぐ部屋を出て行った。
「オレに話っていうのは…?」
どこか困ったように言うメルヴィンをチラリと見て、グンヒルドは紅茶のカップを手に取る。
くゆる湯気を嗅いで、グンヒルドは満足そうに微笑んだ。
「現在わたくし、ベルトルド邸の出入りを禁止されておりますの」
「え?」
「キュッリッキさんのお勉強の再開は不明、ご本人に会うことも禁止、詳細は教えていただけず、困ってますのよ。お給料はちゃんと頂いているのですけれど」
紅茶を一口飲んで、グンヒルドは肩をすくめた。
「ですが、リトヴァさんから、メルヴィンさんにお訊ねになれば、なにか判るかもしれませんと伺いました」
「オレですか?」
メルヴィンは固まったまま、グンヒルドの顔を見つめる。
「副宰相閣下からハブられた者同士ですわね。詳しいことを、お話下さいませ。何かお力になれることが、あるかもしれませんから」
どこか、否と言わせない迫力を、その笑みの奥深くから感じ、メルヴィンは素直に首を縦に振った。
「これを、リッキーさんに渡してくれますか?」
今日も同じ時間に訪れたメルヴィンは、リトヴァに小さな花束を差し出した。
それは、ラベンダーの花束だった。
花束というには大袈裟すぎだが、3本のラベンダーの花を、細いピンク色のリボンで結んで束ねてある。
いつも手ぶらなのだが、今日はこうして花束を持参してきた。
ちょっと驚いたものの、リトヴァは可愛らしい花束をそっと両手で受け取ると、
「確かに、お渡ししておきますわ」
そう言って、帰っていくメルヴィンを見送った。
紫色の小さな花を見つめながら、リトヴァはメルヴィンのいじらしい想いを感じて、ますます深いため息をついた。
リトヴァは知っている。
ラベンダーの花言葉は『あなたを待っています』。
この小さな花束に込められた想いが、どれほど真摯で切ないものか、痛いほど伝わってくるのだ。
メルヴィンはけっして多くを言わず、態度も紳士的でリトヴァを困らせない。むしろ、悪態の一つでもついてくれれば、厄介払いをした、という気持ちになれるというのにそれもない。忍んで耐えるその姿もまた、切なかった。
「彼は、また来たのかね?」
心配そうに様子を見に来たセヴェリが、リトヴァの手にしているラベンダーの花束に目を留めた。
「お嬢様へお渡しして欲しいと」
セヴェリは小さく渋面を作ったが、
「誰が持ってきたかは言わず、お嬢様のお部屋に飾って差し上げるだけなら、いいと思いますよ」
そして重いため息をついた。
セヴェリもまた、リトヴァと同じ気持ちである。
「活けてすぐにお持ち致しますわ」
「そうですね。そうして差し上げて下さい」
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