片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
523 / 882
勇気と決断編

episode504

しおりを挟む
 リトヴァはこのところ毎日一回は、必ず重いため息をついた。つかずにはいられない出来事が、ほぼ決まった時間に訪れるからだ。

 本来、来客などの応対は執事が行う。現在の執事は代理の肩書きを持つセヴェリだが、ある特定の人物にのみ、例外としてリトヴァが応対するよう命じられている。

「リッキーさんに、会わせてもらえませんか?」

 彼は毎日やってきて、そう頼んでくる。しかし、この頼みを受けることができない。

「いいか、ライオンの連中、とくにメルヴィンがきても、絶対にリッキーに会わせるな」

 こうベルトルドとアルカネットから、重々厳命されているからだ。

 こんな胸の悪くなるような命令は、無視したいのがリトヴァの本音である。

 キュッリッキの世話を特別に任されているリトヴァは、日々キュッリッキが「メルヴィンに会いたい」と言っているのを聞いている。そのメルヴィンがキュッリッキに会うために、毎日訪れているというのに、それを耳に入れることさえ禁じられていた。

 モナルダ大陸で行われた戦争に、キュッリッキも連れて行かれていたのだが、急にアルカネットに連れられて屋敷に戻ってから、どこか様子が変だった。

 詳細は知らされていないものの、キュッリッキが何か重いものを抱えて悩んでいることだけは判る。サイ《超能力》を持つリトヴァだが、勝手に他人の心を覗くことだけは絶対にしない。生憎ベルトルドのように、相手の記憶や心が勝手に流れ込んでくることがないだけマシだ。

 悩み苦しみつつも、ずっとメルヴィンを恋しく思っている様子のキュッリッキに、知らせてやりたくてしょうがない。

 かつて怪我で臥せっていたキュッリッキのそばに、献身的に付き添っていたメルヴィン。そんな2人の様子は微笑ましく、心に温かかった。それなのに、何故こうも思い合う2人を妨げる役を、押し付けられなければならないのだろうか。

「言ってやりとうございますよ…」

 リトヴァの鬱憤は、日に日に蓄積されていった。



 ハーメンリンナから戻ってくると、アジトの前に品の良い馬車が停まっていた。

「来客かな?」

 メルヴィンは小さく首をかしげながら、玄関のドアを開けた。

「ああ、帰りましたよ」

 簾のように垂れ下がる前髪の奥に、ホッとしたような表情を浮かべるカーティスが振り向いた。

「あ…、グンヒルドさん?」

 立ち上がった女性に、メルヴィンは驚きの表情を浮かべた。

「ご無沙汰しております、メルヴィンさん」

 キュッリッキの家庭教師をつとめるグンヒルドが、柔らかい笑みを浮かべた。

「どうしたんですか? こんな、ハーメンリンナの外になんて」

「あなたとお話がしたくて、押しかけましたのよ」

 ホホホ、と軽やかな笑い声を上げ、グンヒルドはいっそう笑みを深める。

「メルヴィン、このようなところで立ち話もなんですから、応接間のほうへ」

「あ、はい」

 カーティスに促され、メルヴィンはグンヒルドを伴って、応接間に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

前世で辛い思いをしたので、神様が謝罪に来ました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
日本でブラック企業に勤めるOL、咲は苦難の人生だった。 幼少の頃からの親のDV、クラスメイトからのイジメ、会社でも上司からのパワハラにセクハラ、同僚からのイジメなど、とうとう心に限界が迫っていた。 そしていつものように残業終わりの大雨の夜。 アパートへの帰り道、落雷に撃たれ死んでしまった。 自身の人生にいいことなどなかったと思っていると、目の前に神と名乗る男が現れて……。 辛い人生を送ったOLの2度目の人生、幸せへまっしぐら! ーーーーーーーーーーーーーーーーー のんびり書いていきますので、よかったら楽しんでください。

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。

恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。 ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。 クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。

旅行先で目を覚ましたら森長可になっていた私。京で政変と聞き急ぎ美濃を目指す中、唯一の協力者。出浦盛清から紹介された人物が……どうも怪しい。

俣彦
ファンタジー
旅先で目を覚ましたら森長可になっていた私。場面は本能寺直後の越後。急ぎ美濃に戻ろうと試みると周りは敵だらけ。唯一協力を申し出てくれた出浦盛清に助けられ、美濃を目指す途中。出浦盛清に紹介されたのが真田昌幸。

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

処理中です...