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勇気と決断編
episode502
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アジトのあるエルダー街から、ハーメンリンナのベルトルド邸までの長い距離を、メルヴィンは色々なことを思い出しながら歩いていた。
初めてライオン傭兵団にやってきたキュッリッキの様子、ナルバ山での出来事、フェルトの町まで短い旅をしたことなど。元気で屈託のない笑顔が、沢山心に焼きついていた。それなのに寸分も自分の気持ちに気付かなかったのが、どうしようもなく鈍いと改めて自覚する。
なんだかキュッリッキに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、メルヴィンは頭を軽く振った。
ここまできて、もう凹んでいる場合ではない。
キュッリッキの想いも悩みも全て受け止め、ともに歩んでいく。そう、意思表示をするのだ。
ハーメンリンナの地下通路を歩き、ベルトルド邸のある地上通路に出る。ゴンドラは所有者しか出せず、招きのない者は地下通路を歩く決まりだった。
装飾された大きな鉄の門を開けて敷地に入る。門から玄関までは、さほど離れていない。
地方にある貴族たちのカントリーハウスなどは、門から玄関までがとにかく遠く離れている。ここはハーメンリンナの中なので、それほど遠く設置されていなかった。概ね建物以外の敷地は、中庭が大きくスペースをとっている設計が多い。
玄関前に立ち、獅子が輪を咥えているデザインのドアノッカーを数回叩く。あまり待たず鍵を開ける音がして、リトヴァが顔を見せた。
「これはメルヴィン様」
「こんにちは、リトヴァさん」
メルヴィンはにっこりと微笑んで会釈する。リトヴァもつられたように笑顔で会釈した。
「どうなさいましたか?」
「リッキーさんはいますか? 会わせて欲しいんです」
しかしリトヴァは複雑そうな表情で少し俯き、そして首を横に振った。
「申し訳ございません……。お嬢様はどなたにも、お会いになりません」
「……具合でも悪いんですか?」
「いえ、お元気でいらっしゃいますよ。ですが、その……」
言いにくそうに口ごもるリトヴァを見て、メルヴィンには薄々察しが付いていた。
おそらくベルトルドなどに、面会を断るように命じられているのだろう。そうでなければ、屋敷に通すかキュッリッキを呼びに行くはずだ。
(やはり、こうきたか…)
メルヴィンは小さく息をつくと、苦笑を浮かべた。
「出直してきます。リッキーさんに、俺が来たことを、伝えておいてください」
「はい、申し訳ございません」
丁寧に何度も謝られ、メルヴィンはねぎらいの言葉をかけて、ベルトルド邸をあとにした。
「あれ? メルヴィン一人なの?」
アジトに戻ってきたメルヴィンを、ランドンが出迎えてくれた。
「はい……。また明日、出直してきます」
苦笑を浮かべるメルヴィンを見て、「そっかあ」とランドンは残念そうに呟いた。
昼食前だったので、食堂にみな首を揃えていた。
「キューリいっしょじゃねーのか?」
ヴァルトがふんぞり返って言うと、メルヴィンは小さく頷いた。
初めてライオン傭兵団にやってきたキュッリッキの様子、ナルバ山での出来事、フェルトの町まで短い旅をしたことなど。元気で屈託のない笑顔が、沢山心に焼きついていた。それなのに寸分も自分の気持ちに気付かなかったのが、どうしようもなく鈍いと改めて自覚する。
なんだかキュッリッキに申し訳ない気持ちでいっぱいになり、メルヴィンは頭を軽く振った。
ここまできて、もう凹んでいる場合ではない。
キュッリッキの想いも悩みも全て受け止め、ともに歩んでいく。そう、意思表示をするのだ。
ハーメンリンナの地下通路を歩き、ベルトルド邸のある地上通路に出る。ゴンドラは所有者しか出せず、招きのない者は地下通路を歩く決まりだった。
装飾された大きな鉄の門を開けて敷地に入る。門から玄関までは、さほど離れていない。
地方にある貴族たちのカントリーハウスなどは、門から玄関までがとにかく遠く離れている。ここはハーメンリンナの中なので、それほど遠く設置されていなかった。概ね建物以外の敷地は、中庭が大きくスペースをとっている設計が多い。
玄関前に立ち、獅子が輪を咥えているデザインのドアノッカーを数回叩く。あまり待たず鍵を開ける音がして、リトヴァが顔を見せた。
「これはメルヴィン様」
「こんにちは、リトヴァさん」
メルヴィンはにっこりと微笑んで会釈する。リトヴァもつられたように笑顔で会釈した。
「どうなさいましたか?」
「リッキーさんはいますか? 会わせて欲しいんです」
しかしリトヴァは複雑そうな表情で少し俯き、そして首を横に振った。
「申し訳ございません……。お嬢様はどなたにも、お会いになりません」
「……具合でも悪いんですか?」
「いえ、お元気でいらっしゃいますよ。ですが、その……」
言いにくそうに口ごもるリトヴァを見て、メルヴィンには薄々察しが付いていた。
おそらくベルトルドなどに、面会を断るように命じられているのだろう。そうでなければ、屋敷に通すかキュッリッキを呼びに行くはずだ。
(やはり、こうきたか…)
メルヴィンは小さく息をつくと、苦笑を浮かべた。
「出直してきます。リッキーさんに、俺が来たことを、伝えておいてください」
「はい、申し訳ございません」
丁寧に何度も謝られ、メルヴィンはねぎらいの言葉をかけて、ベルトルド邸をあとにした。
「あれ? メルヴィン一人なの?」
アジトに戻ってきたメルヴィンを、ランドンが出迎えてくれた。
「はい……。また明日、出直してきます」
苦笑を浮かべるメルヴィンを見て、「そっかあ」とランドンは残念そうに呟いた。
昼食前だったので、食堂にみな首を揃えていた。
「キューリいっしょじゃねーのか?」
ヴァルトがふんぞり返って言うと、メルヴィンは小さく頷いた。
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