片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

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勇気と決断編

episode500

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 深夜、ベルトルドはこっそりと、キュッリッキの部屋の中へ空間転移した。

 風呂上がりにバスローブを羽織ると、急にキュッリッキの顔が見たくなって侵入してきたのだ。何せパーティーではオイシイところを皇王に持って行かれ、舞踏会では土下座までして頼み込み、キュッリッキと一曲だけを、ようやく踊ってもらえたのだ。そのため欲求不満が溜まりまくってしょうがない。

 正攻法で部屋へ入ろうとすれば、どういうわけだかアルカネットにバレてしまう。なにか特殊な魔法でも張り巡らせているとしか思えない。そうでなければ、野生の勘以上である。

 一緒に寝るために特注で作らせた広すぎるベッドに、キュッリッキはいつもの定位置で寝ていた。

 ベルトルドとアルカネットがキュッリッキを挟んで寝るものだから、自然と身体がその位置を覚えてしまっているのだろう。

 仰向けに身体を横たえ、ぐっすりと眠っている。寝顔はとても穏やかだ。

 ベッドに腰をかけ、ベルトルドはそっとキュッリッキの頬に触れた。なめらかで手に吸い付くような肌の感触が、とても気持ちがいい。

 寝てるのをこれ幸いにと撫で繰り回していたが、目を覚まされたら激怒するだろうと予想し、ベルトルドは手を引っ込めた。怒っている顔もそれはもう愛らしいのだが、嫌われたら目も当てられない。それなりに気にしているのだった。

 しかしよほど疲れているのだろう、眠りはとても深いようだ。

「無理もあるまい。初の社交界、嬉しくもないサプライズゲスト、舞踏会……。ああ、男の身体と、性的な意味も知ったのだったな」

 ベルトルドは苦笑をにじませる。

 教師役を押し付けたヴィヒトリが、ベルトルドが大事に隠し持っていたポルノ映像データを見つけ出し、まさかそれをキュッリッキに見せるとは予想していなかった。

 流石にあれは、キュッリッキにはどぎつかっただろうに。そのおかげで、すっかり”汚らわしいエロオヤジ”を見る目で見られてしまったのだが、そればかりは自業自得かと自嘲する。

 ベルトルドは暫くキュッリッキの寝顔を見つめていた。

 愛おしむように、慈しむように。キュッリッキにしか見せない、優しい表情(かお)で見つめていた。

 どのくらいの時間が経ったのか、ベルトルド自身判っていない。こうして愛しいキュッリッキを見つめているだけで幸せだ。時間など気にならないほどに。そしてこの幸せは、いつまで続くのだろう。

 常人には理解出来ないほどの、波乱な過去を生きてきたキュッリッキ。ようやく居場所を見つけ、そこで初めての恋をした。もとより美しい娘だが、恋をしたことによる内面的な華やぎが、より美しさを際立たせている。眩しくて仕方がないとさえ思えるほどに。

 そうさせた男が自分ではないことが、悔やまれてしょうがない。だが、まだ負けたわけではない。所詮初恋は麻疹と同じ、すぐに目が覚めて、自分(ベルトルド)を愛するようになる。そうさせる自信があり、それを寸分も疑っていない。

「リッキーは俺のものだ。ずっと、俺だけのものだ」

 そう呟いてふと顔を上げる。レースで編まれた薄いカーテンの隙間から、明るい月明かりが部屋に差し込んでいる。もう少しすると、ベッドにまで明かりが伸びそうだ。

 もしかしたら、明かりで目を覚ますかもしれない。そう思ったベルトルドは念力を使い、重厚な布で作られたカーテンで窓を覆った。

 再び暗いなかに落とし込まれたキュッリッキの部屋の中で、ベルトルドはそっと囁くように呟いた。

「これから俺がしようとすることに、リッキーを巻き込むことになるかもしれない。もしそうなったら、俺を許してくれるか? それとも怨むか? それでも、俺の愛も想いも変わらない。永遠にリッキーを愛している。それだけは、どうか信じていて欲しい……リッキー」

 そう言って、小さく寝息をたてるキュッリッキの口に、そっと自分の唇を重ねた。
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