片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
516 / 882
勇気と決断編

episode497

しおりを挟む
「こちらへ来なさい」

 片手でちょいちょいっと手招きする。

 キュッリッキはちょっと首をかしげると、ドレスの裾を小さく持ち上げて、壇の階段をのぼった。

 ベルトルドとアルカネットが訝しんでいると、皇王は目の前に立つキュッリッキに、いきなり抱きついた。

「あああああっ!! 何をしてるんだジジイ!!」

「何ということをっ!! 手をお離しなさい皇王様!!」

 喚く2人に、皇王は小さく「べーっ」と舌を出して、ふふんっと嫌味な笑いを向けた。

「あんまりにも可愛いから、つい抱きしめてしもうたわい。随分と華奢じゃのう、ワシの連れ合いの若い頃を思い出す」

「そ、そうなんですか……」

 どう対応していいか困って、キュッリッキは苦笑を浮かべた。いきなり抱きつかれることにはベルトルドとアルカネットで慣れているが、皇王が抱きついてきたのは驚きだった。

「どれどれ、せっかくの舞踏会じゃ、一緒に踊ろうかの」

「えっ」

 皇王は玉座を立つと、驚いているキュッリッキの手を取って壇を降りた。

「まだまだ若いモンには負けぬぞ。ワシの華麗なるステップを、とくと見るがよい」

 皇王は素早くキュッリッキの手を取り腰に手を回すと、ホールの中心に颯爽と踊りながら移動していた。それは、あまりにも突然だったので、ベルトルドとアルカネットは意表をつかれてすっかり出遅れてしまった。

「こんのぉ……クソジジイっ!」

 ベルトルドは握り拳をワナワナ震わせ皇王を睨みつける。

「リッキーさんのデビューの相手が、よりによって皇王様とか」

 心底悔しそうにアルカネットが歯ぎしりした。

 社交界デビューを果たした娘は、ワルツを一曲招待客たちに披露する。その時の踊る相手を、ベルトルドもアルカネットも虎視眈々と狙っていた。なぜなら、最初に一曲を踊った男女は結ばれるという伝説が、実しやかにあるからだ。

 もちろんそんなものは信じていないが、それを餌にキュッリッキに信じ込ませようという下心があったりする。ところが、あっさりと皇王にその大事な役を取られてしまい、玉座の壇上前で憤慨する羽目になってしまっていた。

 皇王が踊り出てきたので、踊っていた招待客たちは、花びらが舞うように場をあけていく。

 ホールの中心に落ち着いた皇王は、まだたどたどしいキュッリッキを優しく、そして優雅にリードしていた。

「ごめんなさい、まだちゃんと踊れなくって」

「よいよい。初々しくて可愛らしいしの。こんなもんは、ワシに任せて音楽に乗れば良い」

「はいっ」

 一応セヴェリを相手にベルトルド邸で1時間ほど練習はしたのだが、いざ本番となると頭が真っ白だ。周りの招待客たちの好奇の視線も気にならないほどに。

「のう、キュッリッキよ、誰ぞ好きな者はおるか?」

「え?」

 皇王の足を踏まないように必死になっていたキュッリッキは、唐突な質問にきょとんとした顔を上げた。そして、質問の意味を理解して、ボッと顔を真っ赤にする。

 そんなキュッリッキを見て、皇王はにこにこと笑った。

「どんな男かの? まさかベルトルドやアルカネットじゃあるまいな?」

「え、えと、えと、あの…………メルヴィン」

 と言って、耳まで真っ赤になる。どんな男なのかと聞かれていたのに、うっかり名前を言ってしまって更に焦る。

 皇王はしばし目線を天井に向け、

「ああ、あの実直そうな剣術使いか」

 ふむふむと頷く。

「し、知ってるんですか!?」

「ほほ、あやつはこの国でも五指に入るほどの剣士じゃからの。昔御前試合で何度かその勇姿を目にしたことがあるんじゃ」

「うわぁ……そうなんだ~」

 皇王に覚えられるほど、凄い剣士であるメルヴィン。自分が褒められたわけではないのに、何故か嬉しくてしょうがない。キュッリッキは顔を赤らめたまま、嬉しそうに微笑んだ。

「して、もう、ちゅーはしたのかの?」

「ちゅー?」

「ちゅー。キスじゃ」

 瞬間、キュッリッキは後ろにひっくり返りそうになり、皇王は慌てて腰に当てている手に力を込めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

転生することになりました。~神様が色々教えてくれます~

柴ちゃん
ファンタジー
突然、神様に転生する?と、聞かれた私が異世界でほのぼのすごす予定だった物語。 想像と、違ったんだけど?神様! 寿命で亡くなった長島深雪は、神様のサーヤにより、異世界に行く事になった。 神様がくれた、フェンリルのスズナとともに、異世界で妖精と契約をしたり、王子に保護されたりしています。そんななか、誘拐されるなどの危険があったりもしますが、大変なことも多いなか学校にも行き始めました❗ もふもふキュートな仲間も増え、毎日楽しく過ごしてます。 とにかくのんびりほのぼのを目指して頑張ります❗ いくぞ、「【【オー❗】】」 誤字脱字がある場合は教えてもらえるとありがたいです。 「~紹介」は、更新中ですので、たまに確認してみてください。 コメントをくれた方にはお返事します。 こんな内容をいれて欲しいなどのコメントでもOKです。 2日に1回更新しています。(予定によって変更あり) 小説家になろうの方にもこの作品を投稿しています。進みはこちらの方がはやめです。 少しでも良いと思ってくださった方、エールよろしくお願いします。_(._.)_

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

貧乏秀才令嬢がヤサグレ天才少年と、世界の理を揺るがします。

恋愛
貧乏貴族のダリアは、国一番の魔法学校の副首席。首席になりたいのに、その壁はとんでもなくぶあつく…。 ある日謎多き少年シアンと出会い、彼が首席とわかるやいなや強烈な興味を持ち粘着するようになった。 クセの多い登場人物が織りなす、身分、才能、美醜が絡み、陰謀渦巻く魔法学校でのスクールストーリー。

旅行先で目を覚ましたら森長可になっていた私。京で政変と聞き急ぎ美濃を目指す中、唯一の協力者。出浦盛清から紹介された人物が……どうも怪しい。

俣彦
ファンタジー
旅先で目を覚ましたら森長可になっていた私。場面は本能寺直後の越後。急ぎ美濃に戻ろうと試みると周りは敵だらけ。唯一協力を申し出てくれた出浦盛清に助けられ、美濃を目指す途中。出浦盛清に紹介されたのが真田昌幸。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...