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勇気と決断編
episode494
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「先日の、我が国の流した式典の放送を見て、急に欲しくなったのだろうの?」
「そんなところでございましょうな。あれほど見事にアルケラの神々を呼び寄せるなど、見たことがございませぬ」
宰相マルックも、カステヘルミ皇女に含むように言った。
カステヘルミ王女は微笑みもせず、また怒りもせず、氷の彫像のように固まっていた。しかし、まるで冷気でも漂わせるかのように、全身からは冷たい雰囲気が滲み出している。
「下賤の者共は礼儀を知らぬ者がなんと多すぎることか……。わらわを侮辱した罪、外交問題になるぞ」
水がひいたようにホールが静まり返る。それに気をよくしたように、カステヘルミ皇女は「フンッ」と笑った。
「首に縄を引っ掛けてでも、イルマタル帝国に連れて帰る。ほれ、そこなみっともない娘、こちらへくるのじゃ。手を焼かせるでない」
キュッリッキはベルトルドにしがみつきながら、首を横に振った。
――もう、あんな辛い思いをした、あの惑星(ほし)には帰りたくない……
キュッリッキ(じぶん)を拒絶したアイオン族の国へなど、絶対に帰りたくない。思い出せば今でもこんなに辛いのだ。
目の前にいる両親は、けしてキュッリッキと目を合わせようとしない。皇女の後ろで目を伏せている。その様子をみただけで、キュッリッキの帰還を望み、親子の縁を修復して一緒に暮らしたいと、そんなことは全く望んでいないことが判る。2人の本心は、今すぐ手ぶらで国へ帰りたい、そう思っているのだろう。
「ベンヤミン、アンネッテ!!」
皇女の甲高い一括に、後ろで黙って控えていた2人は、ビクッと身体を震わせ顔を上げた。そして、
「さ、さあ、帰ろうキュッリッキ」
「いらっしゃい、妹も待っているのよ」
引きつった笑みを浮かべ、キュッリッキに手を差し伸べてくる。
その瞬間、キュッリッキは心が急激に冷えていくのを感じていた。
自分を捨てた両親だけど、会って抱きしめてもらいたかった。
本当は捨てる気などなかった、あんなことをして悪かった、そう謝ってもらいたかった。
一緒に暮らしてみたかった。甘えてみたかった。優しく頭を撫でて欲しかった。
皇女に命令されて、自分を迎えに来た両親。たとえここで素直にあの両親のところへ戻ったとしても、一生後悔し続けるだろう。
もうあの2人のところに、居場所なんてないのだから。幼いあの日にも、そう確信したのだ。
「帰らない。イルマタル帝国に、アタシの帰る場所なんてないから」
キュッリッキはそれだけをしっかり言うと、ベルトルドの胸に顔を伏せた。ベルトルドは優しく笑んで、キュッリッキの背を優しく撫でてやる。
その様子を見て皇王は深く頷くと、扉を指さした。
「召喚士キュッリッキの意思は伝わったな? お帰りいただこうか、カステヘルミ皇女」
「なにを馬鹿なことを! 同族の民をわらわが自ら迎えに来たというのに、手ぶらで帰れと?」
「この子は我がハワドウレ皇国の民じゃ。戸籍も既に登録しておるでな、マルック」
「はい、これでございます」
宰相マルックが一枚の書面を皇王に手渡した。
「皇帝エサイアス殿から正式に譲り受けた、キュッリッキの戸籍じゃ。もう3ヶ月も前に正式な手続きを行い、我が国に戸籍を移しておる」
「なんじゃと!?」
これにはカステヘルミ皇女が驚いた。そしてキュッリッキもびっくりして顔を上げた。
「リッキーに黙っていてすまなかったが、面倒な役所ごとの手続きは全て済ませてある」
にっこりとベルトルドに言われて、キュッリッキは目をぱちくりさせた。
「そんなところでございましょうな。あれほど見事にアルケラの神々を呼び寄せるなど、見たことがございませぬ」
宰相マルックも、カステヘルミ皇女に含むように言った。
カステヘルミ王女は微笑みもせず、また怒りもせず、氷の彫像のように固まっていた。しかし、まるで冷気でも漂わせるかのように、全身からは冷たい雰囲気が滲み出している。
「下賤の者共は礼儀を知らぬ者がなんと多すぎることか……。わらわを侮辱した罪、外交問題になるぞ」
水がひいたようにホールが静まり返る。それに気をよくしたように、カステヘルミ皇女は「フンッ」と笑った。
「首に縄を引っ掛けてでも、イルマタル帝国に連れて帰る。ほれ、そこなみっともない娘、こちらへくるのじゃ。手を焼かせるでない」
キュッリッキはベルトルドにしがみつきながら、首を横に振った。
――もう、あんな辛い思いをした、あの惑星(ほし)には帰りたくない……
キュッリッキ(じぶん)を拒絶したアイオン族の国へなど、絶対に帰りたくない。思い出せば今でもこんなに辛いのだ。
目の前にいる両親は、けしてキュッリッキと目を合わせようとしない。皇女の後ろで目を伏せている。その様子をみただけで、キュッリッキの帰還を望み、親子の縁を修復して一緒に暮らしたいと、そんなことは全く望んでいないことが判る。2人の本心は、今すぐ手ぶらで国へ帰りたい、そう思っているのだろう。
「ベンヤミン、アンネッテ!!」
皇女の甲高い一括に、後ろで黙って控えていた2人は、ビクッと身体を震わせ顔を上げた。そして、
「さ、さあ、帰ろうキュッリッキ」
「いらっしゃい、妹も待っているのよ」
引きつった笑みを浮かべ、キュッリッキに手を差し伸べてくる。
その瞬間、キュッリッキは心が急激に冷えていくのを感じていた。
自分を捨てた両親だけど、会って抱きしめてもらいたかった。
本当は捨てる気などなかった、あんなことをして悪かった、そう謝ってもらいたかった。
一緒に暮らしてみたかった。甘えてみたかった。優しく頭を撫でて欲しかった。
皇女に命令されて、自分を迎えに来た両親。たとえここで素直にあの両親のところへ戻ったとしても、一生後悔し続けるだろう。
もうあの2人のところに、居場所なんてないのだから。幼いあの日にも、そう確信したのだ。
「帰らない。イルマタル帝国に、アタシの帰る場所なんてないから」
キュッリッキはそれだけをしっかり言うと、ベルトルドの胸に顔を伏せた。ベルトルドは優しく笑んで、キュッリッキの背を優しく撫でてやる。
その様子を見て皇王は深く頷くと、扉を指さした。
「召喚士キュッリッキの意思は伝わったな? お帰りいただこうか、カステヘルミ皇女」
「なにを馬鹿なことを! 同族の民をわらわが自ら迎えに来たというのに、手ぶらで帰れと?」
「この子は我がハワドウレ皇国の民じゃ。戸籍も既に登録しておるでな、マルック」
「はい、これでございます」
宰相マルックが一枚の書面を皇王に手渡した。
「皇帝エサイアス殿から正式に譲り受けた、キュッリッキの戸籍じゃ。もう3ヶ月も前に正式な手続きを行い、我が国に戸籍を移しておる」
「なんじゃと!?」
これにはカステヘルミ皇女が驚いた。そしてキュッリッキもびっくりして顔を上げた。
「リッキーに黙っていてすまなかったが、面倒な役所ごとの手続きは全て済ませてある」
にっこりとベルトルドに言われて、キュッリッキは目をぱちくりさせた。
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