510 / 882
勇気と決断編
episode491
しおりを挟む
「まあ、なんて可愛らしいお嬢様でしょう」
「ベルトルド様にあんなにだいじにされて」
ヒソヒソと貴婦人たちの囁きが耳に流れ込んでくる。好奇心の声、賞賛の声、嫉妬の声などがキュッリッキに向けられていた。
しっかり顔を上げて歩くよう、控え室でアルカネットから教えられていたので、恥ずかしさでうつむきそうになる顔を上げることで必死だった。
やたらと長い、いつ玉座に着くのだろうと思う距離を歩き、ようやくベルトルドが足を止めたので、キュッリッキはホッと小さく息をついた。
「立ったままで失礼、ご機嫌麗しそうでなにより陛下」
「心にもない気持ちが、言葉なき声に滲み出しておるわい」
「滅相もございませんとも」
光り輝くような笑顔を、壇上の皇王に向け、更ににっこりとベルトルドが笑んだ。
「張り倒してやりたいほど可愛いやつだ全く。アルカネットも大変そうだの」
「お察しいただき、痛み入ります」
アルカネットも負けないほど輝く笑みで、優雅に一礼した。その姿に、参列している貴婦人たちから、恍惚としたため息があちこちから漏れる。
「ブルーベルたちも、此度はご苦労であった。今宵はゆっくり楽しんでいくが良い」
「勿体無きお言葉、ありがとうございます」
ブルーベル将軍たちは、敬礼したのち、深々と頭を下げた。
「して、その娘が、召喚スキル〈才能〉を持つ召喚士じゃな」
次に自分に言葉が向けられ、キュッリッキはぴくっと肩を震わせて、ベルトルドの腕をぎゅっと握った。
恐る恐る皇王を見上げると、白髪の多く混じったグレーの髪と、グレーの口髭を蓄えた、温厚そうな老紳士だ。華美すぎない濃紺の上衣に白いスラックスをはいて、背筋は真っ直ぐで体格も痩せすぎず肥えすぎずだ。ベルトルドが散々「ジジイ」と連呼していたので、てっきりヨボヨボのお爺さんを想像していた。
「初めましてお嬢さん。ワシはタイト・ヴァリヤミ・ワイズキュールと申す」
小さな子供に語りかけるように自己紹介をする皇王に、キュッリッキはどこか安堵して、にっこり微笑んだ。
「キュッリッキです」
そしてはにかんだように、もう一度にっこり笑った。
「ふふふ、可愛い娘だのう」
「俺のリッキーに色目を使うなジジイ!」
憮然とした顔で睨まれて、皇王は「くわばらくわばら…」と肩をすくめた。
「あまり長い挨拶もなんだが、今日はそなたたちに客がおる」
「客?」
ベルトルドがオウム返しに呟くと、皇王は小さく頷いて、壇上の傍らに控えていた宰相マルックに手で合図した。
マルックは深々と一礼すると、後ろに控える下官に「お通しせよ」と命じた。
下官は素早くその場を離れると、皇王が出入りのために使う扉までかけていき、扉のそばに控える近衛兵に命じる。近衛兵は皇王に向けて敬礼すると、恭しく扉を開いた。
参列する紳士淑女の見守る中、扉の向こうから現れた人物を見て、ホールがざわめいた。
先頭に立って歩いてくるのは、冷たい輝きのある水色の髪を、豪奢な黄金の髪飾りで大きく結い上げ、雪のように白い肌をした美女。そして後ろには、金髪の容姿の美しい男女が続いてきた。
「え…」
キュッリッキは愕然と目を見開いた。
先頭の女と、後ろに続く男女に見覚えがある。
思い出すのも忌まわしい、幼い日々を過ごした修道院で。そして、自ら会いに出かけたあの町で。
小さな震えが伝わってきて、ベルトルドはハッとなる。アルカネットに目配せすると、アルカネットは小さく頷いた。
「ベルトルド様にあんなにだいじにされて」
ヒソヒソと貴婦人たちの囁きが耳に流れ込んでくる。好奇心の声、賞賛の声、嫉妬の声などがキュッリッキに向けられていた。
しっかり顔を上げて歩くよう、控え室でアルカネットから教えられていたので、恥ずかしさでうつむきそうになる顔を上げることで必死だった。
やたらと長い、いつ玉座に着くのだろうと思う距離を歩き、ようやくベルトルドが足を止めたので、キュッリッキはホッと小さく息をついた。
「立ったままで失礼、ご機嫌麗しそうでなにより陛下」
「心にもない気持ちが、言葉なき声に滲み出しておるわい」
「滅相もございませんとも」
光り輝くような笑顔を、壇上の皇王に向け、更ににっこりとベルトルドが笑んだ。
「張り倒してやりたいほど可愛いやつだ全く。アルカネットも大変そうだの」
「お察しいただき、痛み入ります」
アルカネットも負けないほど輝く笑みで、優雅に一礼した。その姿に、参列している貴婦人たちから、恍惚としたため息があちこちから漏れる。
「ブルーベルたちも、此度はご苦労であった。今宵はゆっくり楽しんでいくが良い」
「勿体無きお言葉、ありがとうございます」
ブルーベル将軍たちは、敬礼したのち、深々と頭を下げた。
「して、その娘が、召喚スキル〈才能〉を持つ召喚士じゃな」
次に自分に言葉が向けられ、キュッリッキはぴくっと肩を震わせて、ベルトルドの腕をぎゅっと握った。
恐る恐る皇王を見上げると、白髪の多く混じったグレーの髪と、グレーの口髭を蓄えた、温厚そうな老紳士だ。華美すぎない濃紺の上衣に白いスラックスをはいて、背筋は真っ直ぐで体格も痩せすぎず肥えすぎずだ。ベルトルドが散々「ジジイ」と連呼していたので、てっきりヨボヨボのお爺さんを想像していた。
「初めましてお嬢さん。ワシはタイト・ヴァリヤミ・ワイズキュールと申す」
小さな子供に語りかけるように自己紹介をする皇王に、キュッリッキはどこか安堵して、にっこり微笑んだ。
「キュッリッキです」
そしてはにかんだように、もう一度にっこり笑った。
「ふふふ、可愛い娘だのう」
「俺のリッキーに色目を使うなジジイ!」
憮然とした顔で睨まれて、皇王は「くわばらくわばら…」と肩をすくめた。
「あまり長い挨拶もなんだが、今日はそなたたちに客がおる」
「客?」
ベルトルドがオウム返しに呟くと、皇王は小さく頷いて、壇上の傍らに控えていた宰相マルックに手で合図した。
マルックは深々と一礼すると、後ろに控える下官に「お通しせよ」と命じた。
下官は素早くその場を離れると、皇王が出入りのために使う扉までかけていき、扉のそばに控える近衛兵に命じる。近衛兵は皇王に向けて敬礼すると、恭しく扉を開いた。
参列する紳士淑女の見守る中、扉の向こうから現れた人物を見て、ホールがざわめいた。
先頭に立って歩いてくるのは、冷たい輝きのある水色の髪を、豪奢な黄金の髪飾りで大きく結い上げ、雪のように白い肌をした美女。そして後ろには、金髪の容姿の美しい男女が続いてきた。
「え…」
キュッリッキは愕然と目を見開いた。
先頭の女と、後ろに続く男女に見覚えがある。
思い出すのも忌まわしい、幼い日々を過ごした修道院で。そして、自ら会いに出かけたあの町で。
小さな震えが伝わってきて、ベルトルドはハッとなる。アルカネットに目配せすると、アルカネットは小さく頷いた。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヒロインは始まる前に退場していました
サクラ
ファンタジー
とある乙女ゲームの世界で目覚めたのは、原作を知らない一人の少女
産まれた時点で本来あるべき道筋を外れてしまっていた彼女は、知らない世界でどう生き抜くのか。
母の愛情、突然の別れ、事故からの死亡扱いで目覚めた場所はゴミ捨て場
捨てる神あれば拾う神あり?
人の温かさに触れて成長する少女に再び訪れる試練。
そして、本来のヒロインが現れない世界ではどんな未来が訪れるのか。
主人公が7歳になる頃までは平和、ホノボノが続きます。
ダークファンタジーになる予定でしたが、主人公ヴィオの天真爛漫キャラに ダーク要素は少なめとなっております。
同作品を『小説を読もう』『カクヨム』でも配信中。カクヨム先行となっております
追いつくまで しばらくの間 0時、12時の一日2話更新としております
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる