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勇気と決断編
episode484
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夕刻になり、ベルトルドとアルカネットが帰宅した。
2人はいつものように、キュッリッキの部屋へ足早に向かう。そしてノックもそこそこに扉を勢いよく開け、ご機嫌で、
「帰ったぞー!!」
とベルトルドが声を上げる。
が。
いつもなら「おかえりなさーい」と元気に返事がかえってくるのだが、今日に限って無言の冷たい視線が投げかけられた。
2人は顔を見合わせ、ちょこっと首をかしげ合う。
リトヴァと数名のメイドたちに手伝われて、キュッリッキはドレッサーの前に座って髪をまとめてもらっている最中だった。ドレスにはまだ着替えていない。
「どうしたリッキー、ご機嫌ナナメ?」
ベルトルドがポツリと言うと、冷たさの中に、ありありと軽蔑を含んだ光が宿ってベルトルドを睨んできた。そして、
「ぷいっ」
と、顔を背けてしまった。
メイドたちが困惑した表情を浮かべる中、ベルトルドとアルカネットは真っ白な思考に陥って、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
「とりあえず旦那様がた、居間のほうでお待ちくださいませ。お嬢様のお支度にまだ少し時間がかかりますので」
リトヴァがやんわりと間に入り、背中を押し出すようにして部屋から追い出した。
追い出された2人はそのまま無言で居間まで行き、そしてすとんっと向かい合ってソファに座る。
すかさずセヴェリが紅茶を運んできて、2人の前にそっと置いて下がっても、2人は暫く無言だった。
紅茶から湯気がたたなくなった頃、ふとベルトルドが口を開いた。
「なあ、見たか、リッキーのあの目」
「……ええ」
ベルトルドは冷めた紅茶のカップを手に取って、一口すすった。
「あの、汚らわしいオッサンを見るような、軽蔑を含んだ目」
次第にワナワナと震えが足元から這い上がってきて、ベルトルドは感情をもてあますかのように頭をかきむしった。
「ありえん!! ありえないぞおおおあのリッキーが、俺たちをあんな蔑んだ目で見るなんてありえんことだ!!!」
「訂正しておきますけど、正確にはあなたを、じゃないんですか」
「一人だけ部外者になるな馬鹿者! お前も込みで見ていたんだリッキーは!!」
冷たさと軽蔑を含んだ神秘のあの目。神々の世界を視るあの神聖な目で、あんなふうに見られるのはキツイ。
「一体どうして急に……」
揃って腕を組んで考え込むと、2人は「うううん……」と唸って頭を抱えた。
「あ」
「なんだ」
「もしかしたら、ヴィヒトリ先生の講義で何かあったのかもしれませんね」
思い当たったようにアルカネットが言うと、ベルトルドはなるほどと頷く。
「よし、直で聞きただしてやる」
2人はいつものように、キュッリッキの部屋へ足早に向かう。そしてノックもそこそこに扉を勢いよく開け、ご機嫌で、
「帰ったぞー!!」
とベルトルドが声を上げる。
が。
いつもなら「おかえりなさーい」と元気に返事がかえってくるのだが、今日に限って無言の冷たい視線が投げかけられた。
2人は顔を見合わせ、ちょこっと首をかしげ合う。
リトヴァと数名のメイドたちに手伝われて、キュッリッキはドレッサーの前に座って髪をまとめてもらっている最中だった。ドレスにはまだ着替えていない。
「どうしたリッキー、ご機嫌ナナメ?」
ベルトルドがポツリと言うと、冷たさの中に、ありありと軽蔑を含んだ光が宿ってベルトルドを睨んできた。そして、
「ぷいっ」
と、顔を背けてしまった。
メイドたちが困惑した表情を浮かべる中、ベルトルドとアルカネットは真っ白な思考に陥って、ぽかんと口を開けて固まってしまった。
「とりあえず旦那様がた、居間のほうでお待ちくださいませ。お嬢様のお支度にまだ少し時間がかかりますので」
リトヴァがやんわりと間に入り、背中を押し出すようにして部屋から追い出した。
追い出された2人はそのまま無言で居間まで行き、そしてすとんっと向かい合ってソファに座る。
すかさずセヴェリが紅茶を運んできて、2人の前にそっと置いて下がっても、2人は暫く無言だった。
紅茶から湯気がたたなくなった頃、ふとベルトルドが口を開いた。
「なあ、見たか、リッキーのあの目」
「……ええ」
ベルトルドは冷めた紅茶のカップを手に取って、一口すすった。
「あの、汚らわしいオッサンを見るような、軽蔑を含んだ目」
次第にワナワナと震えが足元から這い上がってきて、ベルトルドは感情をもてあますかのように頭をかきむしった。
「ありえん!! ありえないぞおおおあのリッキーが、俺たちをあんな蔑んだ目で見るなんてありえんことだ!!!」
「訂正しておきますけど、正確にはあなたを、じゃないんですか」
「一人だけ部外者になるな馬鹿者! お前も込みで見ていたんだリッキーは!!」
冷たさと軽蔑を含んだ神秘のあの目。神々の世界を視るあの神聖な目で、あんなふうに見られるのはキツイ。
「一体どうして急に……」
揃って腕を組んで考え込むと、2人は「うううん……」と唸って頭を抱えた。
「あ」
「なんだ」
「もしかしたら、ヴィヒトリ先生の講義で何かあったのかもしれませんね」
思い当たったようにアルカネットが言うと、ベルトルドはなるほどと頷く。
「よし、直で聞きただしてやる」
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