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勇気と決断編
episode473
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恋愛ごとに第三者が出しゃばることは、あまり望ましくないと思っている。しかし、こうもメルヴィンが恋愛方面に鈍感すぎると、差し出口もお節介も遠慮している場合ではない。気づいてもらえないキュッリッキも可哀想だし、何よりメルヴィンも憐れである。相手の気持ちどころか、自分自身の気持ちにさえ気づいていなかったのだから。
そして、失恋確定と判りながらも、一肌脱いだザカリーも可哀想だ。
メルヴィンが自分の気持ちに気付いたから、あとは2人の恋が成就するのは時間の問題だろう。ザカリーもキュッリッキへの気持ちが本気だから、見かねてメルヴィンに指摘したのだ。それに、他のメンバー達も、キュッリッキとメルヴィンが恋人同士になることは応援している。
うまくいけば、何も問題はない。
のだが。
「メルヴィン、さっきも言いましたが、キューリさんは片側の、あの翼のことを隠しておきたかったようですし、ベルトルド卿とアルカネットさんがキューリさんを邸(やしき)に連れ帰ってしまいました。あの様子からすると、とても奥が深い、何かがあるようです」
「ええ……」
キュッリッキの、あの途方に暮れた表情(かお)が忘れられない。そして心の苦しみをあらわしたかのような悲鳴。
ワイングラスを見つめながら、ふと、メルヴィンはあることを思い出していた。
――アタシね、昔、イヤなことがいっぱいあったの。それをずっと、思い出さないようにしていたのね。でも最近、毎日夢に見て、思い出しちゃって…。
――でね、もうちょっとだけ時間くれる? メルヴィンにもルーさんにも、傭兵団のみんなにも、ちゃんと話すから。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから。
まだ身体も満足に動かせず、ベッドに横たわる彼女から、そう言われていたことを。
きっと、あの翼のことも含まれていたに違いない。
だとしたら、自ら話す前に、最悪の形でさらけ出させてしまったということではないのか。
「なんてことだ…」
メルヴィンは額に手をあて俯いた。
「どうしました?」
急に俯いたメルヴィンに、カーティスが怪訝そうに問う。
偶然が重なったことだったとはいえ、キュッリッキに翼をさらけ出させてしまった原因は、自分にあるということだ。
「オレ、最低ですね」
気持ちに気付いてやれないどころか、心を傷つけてしまっていた。
今頃深く傷ついて、苦しんでいるのだろう。泣いている姿が想像できて、自分自身に腹が立った。
そして、全ての事情を知っていたからこそ、ベルトルドが怒りにまかせて殴りつけてきた、そのこともようやく理解出来た。
(殴られて当然だ…)
あれだけキュッリッキを可愛がっているのだから、殴らずにはいられなかったのだろう。
「我々のもとへ帰してくれるか、微妙ですね…」
もう傷つかないようにと、手元に閉じ込めてしまうのではないか。傭兵として外に出さないんじゃないかと思ってしまう。それはライオン傭兵団のリーダーとして、納得できないことだとカーティスは考えている。キュッリッキが自らの意思で傭兵団を抜けるというのなら、仕方のないことだが、ベルトルドといえど勝手をされるのは心外だ。
「メルヴィン、頑張って下さいよ」
「えっ」
「キューリさんが、ここへ帰ってくるように、あなたがしっかりと迎えに行ってください」
有無を言わさない笑顔で発破をかけられ、メルヴィンは言葉に詰まった。だが、そうなのだ。キュッリッキを迎えに行くのは自分でなくてはならない。そして今も変わらず自分を想ってくれていると信じ、自分の気持ちも伝え、彼女の心の傷を癒してやりたい。
ベルトルドやアルカネットの好きにはさせたくない。
「はい、必ずオレが連れ戻します」
真摯な表情で言われ、カーティスは安堵したように微笑んだ。
「あ、それと」
「はい?」
「せめてその頬の腫れがひいてからにしましょうか。せっかくの色男が台無しですし、腫れ上がっているのを見たら、キューリさんが吃驚しますよ」
そう指摘され、暫く痛みのことを忘れていたのに、急に頬がじくじく痛み出して、メルヴィンは苦笑を浮かべた。
そして、失恋確定と判りながらも、一肌脱いだザカリーも可哀想だ。
メルヴィンが自分の気持ちに気付いたから、あとは2人の恋が成就するのは時間の問題だろう。ザカリーもキュッリッキへの気持ちが本気だから、見かねてメルヴィンに指摘したのだ。それに、他のメンバー達も、キュッリッキとメルヴィンが恋人同士になることは応援している。
うまくいけば、何も問題はない。
のだが。
「メルヴィン、さっきも言いましたが、キューリさんは片側の、あの翼のことを隠しておきたかったようですし、ベルトルド卿とアルカネットさんがキューリさんを邸(やしき)に連れ帰ってしまいました。あの様子からすると、とても奥が深い、何かがあるようです」
「ええ……」
キュッリッキの、あの途方に暮れた表情(かお)が忘れられない。そして心の苦しみをあらわしたかのような悲鳴。
ワイングラスを見つめながら、ふと、メルヴィンはあることを思い出していた。
――アタシね、昔、イヤなことがいっぱいあったの。それをずっと、思い出さないようにしていたのね。でも最近、毎日夢に見て、思い出しちゃって…。
――でね、もうちょっとだけ時間くれる? メルヴィンにもルーさんにも、傭兵団のみんなにも、ちゃんと話すから。話せる勇気が持てたら、絶対に話すから。
まだ身体も満足に動かせず、ベッドに横たわる彼女から、そう言われていたことを。
きっと、あの翼のことも含まれていたに違いない。
だとしたら、自ら話す前に、最悪の形でさらけ出させてしまったということではないのか。
「なんてことだ…」
メルヴィンは額に手をあて俯いた。
「どうしました?」
急に俯いたメルヴィンに、カーティスが怪訝そうに問う。
偶然が重なったことだったとはいえ、キュッリッキに翼をさらけ出させてしまった原因は、自分にあるということだ。
「オレ、最低ですね」
気持ちに気付いてやれないどころか、心を傷つけてしまっていた。
今頃深く傷ついて、苦しんでいるのだろう。泣いている姿が想像できて、自分自身に腹が立った。
そして、全ての事情を知っていたからこそ、ベルトルドが怒りにまかせて殴りつけてきた、そのこともようやく理解出来た。
(殴られて当然だ…)
あれだけキュッリッキを可愛がっているのだから、殴らずにはいられなかったのだろう。
「我々のもとへ帰してくれるか、微妙ですね…」
もう傷つかないようにと、手元に閉じ込めてしまうのではないか。傭兵として外に出さないんじゃないかと思ってしまう。それはライオン傭兵団のリーダーとして、納得できないことだとカーティスは考えている。キュッリッキが自らの意思で傭兵団を抜けるというのなら、仕方のないことだが、ベルトルドといえど勝手をされるのは心外だ。
「メルヴィン、頑張って下さいよ」
「えっ」
「キューリさんが、ここへ帰ってくるように、あなたがしっかりと迎えに行ってください」
有無を言わさない笑顔で発破をかけられ、メルヴィンは言葉に詰まった。だが、そうなのだ。キュッリッキを迎えに行くのは自分でなくてはならない。そして今も変わらず自分を想ってくれていると信じ、自分の気持ちも伝え、彼女の心の傷を癒してやりたい。
ベルトルドやアルカネットの好きにはさせたくない。
「はい、必ずオレが連れ戻します」
真摯な表情で言われ、カーティスは安堵したように微笑んだ。
「あ、それと」
「はい?」
「せめてその頬の腫れがひいてからにしましょうか。せっかくの色男が台無しですし、腫れ上がっているのを見たら、キューリさんが吃驚しますよ」
そう指摘され、暫く痛みのことを忘れていたのに、急に頬がじくじく痛み出して、メルヴィンは苦笑を浮かべた。
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