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勇気と決断編
episode472
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「キューリさんはとくに容姿にこだわることもないですし、他人と比べることもなさそうな子です。見た目にはたいして関心も払わないように思えますが、あの片方の翼をどうしても見られたくなかったのでしょう。それなのに、我々の目の前でひろげてしまいました」
ソファに深々と座り直すと、カーティスは柔らかな笑みをメルヴィンへ向けた。
「よほど、あなたを失いたくなかったんですねえ。隠し通しておきたかったあの翼をひろげてまで、救いたかったくらいに」
メルヴィンの顔は、縋るような表情を滲ませていた。
「ルーファスが言うには、初恋なんだそうな。傍目から見ていて、とても不器用そうに、でも、可愛らしくて面白いですよ。あなたにドギマギしたり、好きだ好きだと無意識にアピールしているところなんて。ただ、初恋相手のほうが、昔から恋愛方面には疎すぎる度し難い性格の持ち主なのが、彼女には可哀想ですね」
ククッと可笑しそうにカーティスは笑う。
ベルトルド邸で見たキュッリッキの変わりように驚きもしたが、どこか嬉しさを感じるほど微笑ましくも思えた。初めて会った時からさほど時間も経っていないのに、ひと目で判るほど見違えたのだ。
恋をしている女性特有の、柔らかな華やぎのようなものが感じられた。とくにキュッリッキは子供っぽいところが目立っていたので、メルヴィンに向ける表情に”女”がはっきりと判る雰囲気がにじみ出ていた。そして。
「キューリさんに向けるあなたの目も、慈しみと愛情を込めた、一人の”女”を見る目をしていました。ベルトルド卿やアルカネットさんがキューリさんにベタベタしていると、嫉妬の色がありありと浮かんでいましたし」
「カーティスさん……」
「好きなんでしょう? 仲間なのは当然として、それ以上に恋愛対象者として。最初は年下の少女の世話を焼いているだけのことだったかもしれませんが、惹かれていったんでしょう、守りたい、だいじにしたいと」
咄嗟にメルヴィンは顔を伏せた。
今回のことで、薄々そうではないかと思う自分が心の隅にいた。ザカリーやカーティスに指摘されて、やはりそうなのだと頷く自分がいる。
自分もキュッリッキに対して、想いを寄せ始めていたことに。
心をモヤモヤ包み込んでいたものが、ゆっくりと薄れていく。惑っていたことも晴れていった。
「そう、ですね……。オレはいつの間にか、彼女のことが好きになっていました。はじめからじゃない、看病のためにそばにいることになってから、段々と…」
大怪我をして弱々しくベッドに横たわる彼女を励ましていくうちに、恋しさと愛おしさが芽生えて、心の中で膨らんでいた。しかしその心を、彼女を守らなければという使命感と、仲間として世話をする義務感に覆い隠されて、気づいていなかったのだ。それで無意識に嫉妬心が顔をのぞかせるようなことがあった。
「何がきっかけになって、恋愛感情が芽生えるかは誰にも判らないことですよ。キューリさんも似たような時期だったんじゃないですか? あなたの顔を見て真っ赤になったり、ひっくり返ったりしていたそうですし」
もちろんルーファスからの情報であり、それは仲間たちに共有されていることは内緒である。
「そうだったんですか……。オレに…その、照れたりしてああなっていたんですね」
手を握ったり顔を覗き込んだり、動けないキュッリッキを抱き上げたりした。その都度、キュッリッキが赤い顔を伏せたり焦ったりしていたではないか。それは単に、異性に対する羞恥心からくるものだと思っていた。それで緊張のあまり顔を赤らめたりしていたのかと。
それは全て、自分がそうしたから、照れて恥ずかしがっていたのだ。
ようやくそのことに気づいて、メルヴィンはクラクラする頭を抱えて背中で汗をかいた。
「本当にあなたは、恋愛方面だけは、鈍いですねえ」
メルヴィンの様子を見て、カーティスは愉快そうに笑い声を上げた。
ソファに深々と座り直すと、カーティスは柔らかな笑みをメルヴィンへ向けた。
「よほど、あなたを失いたくなかったんですねえ。隠し通しておきたかったあの翼をひろげてまで、救いたかったくらいに」
メルヴィンの顔は、縋るような表情を滲ませていた。
「ルーファスが言うには、初恋なんだそうな。傍目から見ていて、とても不器用そうに、でも、可愛らしくて面白いですよ。あなたにドギマギしたり、好きだ好きだと無意識にアピールしているところなんて。ただ、初恋相手のほうが、昔から恋愛方面には疎すぎる度し難い性格の持ち主なのが、彼女には可哀想ですね」
ククッと可笑しそうにカーティスは笑う。
ベルトルド邸で見たキュッリッキの変わりように驚きもしたが、どこか嬉しさを感じるほど微笑ましくも思えた。初めて会った時からさほど時間も経っていないのに、ひと目で判るほど見違えたのだ。
恋をしている女性特有の、柔らかな華やぎのようなものが感じられた。とくにキュッリッキは子供っぽいところが目立っていたので、メルヴィンに向ける表情に”女”がはっきりと判る雰囲気がにじみ出ていた。そして。
「キューリさんに向けるあなたの目も、慈しみと愛情を込めた、一人の”女”を見る目をしていました。ベルトルド卿やアルカネットさんがキューリさんにベタベタしていると、嫉妬の色がありありと浮かんでいましたし」
「カーティスさん……」
「好きなんでしょう? 仲間なのは当然として、それ以上に恋愛対象者として。最初は年下の少女の世話を焼いているだけのことだったかもしれませんが、惹かれていったんでしょう、守りたい、だいじにしたいと」
咄嗟にメルヴィンは顔を伏せた。
今回のことで、薄々そうではないかと思う自分が心の隅にいた。ザカリーやカーティスに指摘されて、やはりそうなのだと頷く自分がいる。
自分もキュッリッキに対して、想いを寄せ始めていたことに。
心をモヤモヤ包み込んでいたものが、ゆっくりと薄れていく。惑っていたことも晴れていった。
「そう、ですね……。オレはいつの間にか、彼女のことが好きになっていました。はじめからじゃない、看病のためにそばにいることになってから、段々と…」
大怪我をして弱々しくベッドに横たわる彼女を励ましていくうちに、恋しさと愛おしさが芽生えて、心の中で膨らんでいた。しかしその心を、彼女を守らなければという使命感と、仲間として世話をする義務感に覆い隠されて、気づいていなかったのだ。それで無意識に嫉妬心が顔をのぞかせるようなことがあった。
「何がきっかけになって、恋愛感情が芽生えるかは誰にも判らないことですよ。キューリさんも似たような時期だったんじゃないですか? あなたの顔を見て真っ赤になったり、ひっくり返ったりしていたそうですし」
もちろんルーファスからの情報であり、それは仲間たちに共有されていることは内緒である。
「そうだったんですか……。オレに…その、照れたりしてああなっていたんですね」
手を握ったり顔を覗き込んだり、動けないキュッリッキを抱き上げたりした。その都度、キュッリッキが赤い顔を伏せたり焦ったりしていたではないか。それは単に、異性に対する羞恥心からくるものだと思っていた。それで緊張のあまり顔を赤らめたりしていたのかと。
それは全て、自分がそうしたから、照れて恥ずかしがっていたのだ。
ようやくそのことに気づいて、メルヴィンはクラクラする頭を抱えて背中で汗をかいた。
「本当にあなたは、恋愛方面だけは、鈍いですねえ」
メルヴィンの様子を見て、カーティスは愉快そうに笑い声を上げた。
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