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勇気と決断編
episode470
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キュッリッキが自分に恋をしている――。
(11歳も年が離れているのに? この…オレに…)
それは、メルヴィンの心に大きな衝撃を与えた。
嫌な感じではない。ただ、ひどく落ち着かない気分になる。知らないところへ放り出されたような、どうしていいか惑う、そんな感じだ。
ナルバ山で大怪我をおった彼女を看病するために、ベルトルドから指名されて、それからずっとそばにいるようになった。
指名された理由は、一番心を許している存在だからだという。ルーファスもそうなのだが、それは嬉しいことではある。仲間になって日も浅い中で、心許せる相手として認めてもらえているのだから。
兄を頼る妹のようなもの、そうメルヴィンは考えていた。ルーファスと接しているキュッリッキは、仲のいい本当の兄妹のように見えていたから。そして自分に対しても、同じようなものだろうと考えていたのに、まさか恋心を向けられていたなど思いもよらなかった。
ライオン傭兵団にやってきた彼女を見たとき、随分と子供っぽい感じの娘だと思った。当時まだ18歳だったが、実年齢よりも言葉も見た目も子供じみていた。本当にやっていけるのかと不安になるほど頼りなげで、もっとも気になったのは、どう仲間たちの中へ溶け込んでいいか、判らない素振りが目に付いたのだ。
人見知りしやすい子なのだろうと思ったが、ほんの少しばかり違うようにも感じられた。それで何かと気になり、世話を焼くようになった。危なっかしいところがあったから、放っておけなくて。
そうして面倒を見ていると、段々と自分が守っていかなくては、と思うようになっていた。そうなってくると、キュッリッキにベタベタと触り放題の、ベルトルドやアルカネットに不満が積もるようになる。何故そう思うのか、その頃からだろうか、彼女のことを特別意識することがある。同時に、ベルトルドやアルカネットに微かに嫉妬の感情も沸くのだ。
どうしてそんな風に思うのか? 別に、ベルトルドやアルカネットが彼女をかまってもいいじゃないか。それなのに、そうされることが気に入らない。
色々思い返していくと、ますます自分の心が判らず、メルヴィンは振り払うように激しく頭を振る。そして気持ちを落ち着かせるために小さく息を吐き出すと、気晴らしのために部屋を出た。
軽く何かをつまもうと談話室のほうへ足を向けると、ちょうど正面からカーティスが歩いてきた。
「ああ、メルヴィン。まだ頬が腫れていますねえ、痛みませんか?」
気遣わしげに言われて、メルヴィンは微苦笑を口元に浮かべた。
「まだ痛いです」
あれだけ感情をあらわにして怒りをぶつけてくるなど、ベルトルドにしてはたいへん珍しいことだとカーティスは思う。
普段尊大で威張り散らしているし、怒るときは怒るのだが、カッとなった剥き出しの怒りの感情は見せたことがない。少なくともカーティスは知らない。
いくら別のことに気を取られていたとはいえ、メルヴィンが殴り飛ばされたのである。それほどベルトルドの拳には、怒りの力がこもっていた。そのことにカーティスはとても驚いている。
「どうです、一緒に酒でも飲みませんか」
メルヴィンは若干考える素振りをしたが、小さく頷いた。
(11歳も年が離れているのに? この…オレに…)
それは、メルヴィンの心に大きな衝撃を与えた。
嫌な感じではない。ただ、ひどく落ち着かない気分になる。知らないところへ放り出されたような、どうしていいか惑う、そんな感じだ。
ナルバ山で大怪我をおった彼女を看病するために、ベルトルドから指名されて、それからずっとそばにいるようになった。
指名された理由は、一番心を許している存在だからだという。ルーファスもそうなのだが、それは嬉しいことではある。仲間になって日も浅い中で、心許せる相手として認めてもらえているのだから。
兄を頼る妹のようなもの、そうメルヴィンは考えていた。ルーファスと接しているキュッリッキは、仲のいい本当の兄妹のように見えていたから。そして自分に対しても、同じようなものだろうと考えていたのに、まさか恋心を向けられていたなど思いもよらなかった。
ライオン傭兵団にやってきた彼女を見たとき、随分と子供っぽい感じの娘だと思った。当時まだ18歳だったが、実年齢よりも言葉も見た目も子供じみていた。本当にやっていけるのかと不安になるほど頼りなげで、もっとも気になったのは、どう仲間たちの中へ溶け込んでいいか、判らない素振りが目に付いたのだ。
人見知りしやすい子なのだろうと思ったが、ほんの少しばかり違うようにも感じられた。それで何かと気になり、世話を焼くようになった。危なっかしいところがあったから、放っておけなくて。
そうして面倒を見ていると、段々と自分が守っていかなくては、と思うようになっていた。そうなってくると、キュッリッキにベタベタと触り放題の、ベルトルドやアルカネットに不満が積もるようになる。何故そう思うのか、その頃からだろうか、彼女のことを特別意識することがある。同時に、ベルトルドやアルカネットに微かに嫉妬の感情も沸くのだ。
どうしてそんな風に思うのか? 別に、ベルトルドやアルカネットが彼女をかまってもいいじゃないか。それなのに、そうされることが気に入らない。
色々思い返していくと、ますます自分の心が判らず、メルヴィンは振り払うように激しく頭を振る。そして気持ちを落ち着かせるために小さく息を吐き出すと、気晴らしのために部屋を出た。
軽く何かをつまもうと談話室のほうへ足を向けると、ちょうど正面からカーティスが歩いてきた。
「ああ、メルヴィン。まだ頬が腫れていますねえ、痛みませんか?」
気遣わしげに言われて、メルヴィンは微苦笑を口元に浮かべた。
「まだ痛いです」
あれだけ感情をあらわにして怒りをぶつけてくるなど、ベルトルドにしてはたいへん珍しいことだとカーティスは思う。
普段尊大で威張り散らしているし、怒るときは怒るのだが、カッとなった剥き出しの怒りの感情は見せたことがない。少なくともカーティスは知らない。
いくら別のことに気を取られていたとはいえ、メルヴィンが殴り飛ばされたのである。それほどベルトルドの拳には、怒りの力がこもっていた。そのことにカーティスはとても驚いている。
「どうです、一緒に酒でも飲みませんか」
メルヴィンは若干考える素振りをしたが、小さく頷いた。
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