485 / 882
勇気と決断編
episode466
しおりを挟む
「は~い、リッキーちゃんどうぞっ」
「あ…ありがと…」
目の前の応接テーブルの上には、誰が食べるんだろうと思える程の、大量のお菓子が所狭しと並んでいる。生クリームやスポンジの甘い香り、フルーツのフレッシュな香りなどがあたりに充満している。
キュッリッキの膝の上では、フローズヴィトニルが水色の目を輝かせてブンブン尻尾を振り、目の前のお菓子を食べたくて食べたくてうずうずしていた。
「おかわりたーっくさんあるから、どんどん食べてね」
語尾にハートマークでも付きそうなご機嫌のヘイディ少佐にすすめられ、キュッリッキはゲッソリしつつ銀のスプーンを手に取る。食欲は一切なかったが、取り敢えず手前にあるヨーグルトババロアにスプーンをつき入れた。
フローズヴィトニルが待ちきれなくなって、膝の上で跳ねたりクルクル回ったりと落ち着かないので、ババロアを口に放り込んでやった。
ヘイディ少佐はにこやかに見ながら、心の中でガッツリ握り拳を握る。
(閣下が素直に出仕してくれるなら、もう毎日でも召喚士様に同伴してもらえば万々歳だわ!! 事務仕事もすぐ片付くし、残業もしなくて済むもの!)
チラリと奥のデスクを見ると、書類の山に囲まれたアルカネットが、次々書類を処理していた。
(これで午後の会議には間に合いそうね! ありがとうございます、ありがとうございます神様召喚士様!!)
キュッリッキに土下座でもしたいくらいの大感謝で、ヘイディ少佐は心で滝の涙を流した。
副官の何気ない一言で、魔法部隊(ビリエル)の本部にキュッリッキを伴って出仕したアルカネットは、書類の山を減らしながら、時折キュッリッキに目を向けていた。
フローズヴィトニルにお菓子を食べさせているその様子は、傍目にはいつも通りだが、心の中はまだまだ痛みでいっぱいだろう。独りきりにすれば、悲しみにまた涙を流すに違いない。こうして外に連れ出してやれば、気も紛れて笑顔を見せてくれるだろう。
泣き顔よりも笑顔の方が、何倍も素敵な少女なのだから。
キュッリッキを想いながら、書類の内容に目を通していると、リュリュから念話が入った。
(はーい、アルカネット。小娘の様子はどうなの?)
(とても深く傷ついています。一人にしておけないくらいに……)
(……まあ、そうでしょうね)
さすがのリュリュも、何と言っていいのか調子の狂うような雰囲気を、声に滲ませていた。
(ところでどうしました、何か御用でも?)
(ああ、そうそう。今日の午後に控えてる会議だけど、魔法部隊はとくに用事もないから出席しなくて結構だそうよ)
(おや。――まあ、あまり戦争では出番がありませんでしたからねえ)
(正規部隊とダエヴァくらいで、この後動くことになるのも彼らと別の特殊部隊だし。てことで、ハーメンリンナに残って事務処理に精を出してン)
(ええ、助かります。リッキーさんを一人には出来ませんしね)
(ベルに何か伝言ある?)
アルカネットは暫し考え込むと、にっこりと笑顔を浮かべた。
(こちらのことは心配せず気にせず余計なことは粉微塵も考えず、しっかり現地で仕事に励んで、永遠に帰ってこなくていいです。そう、お願いします)
(………今すぐ飛んで帰りそうなコトを言ってるわね、あーた……)
(せっかリッキーさんとく2人きりだというのに、邪魔されたくはありませんから)
(一応、一言一句正しく伝えとくわ。じゃあねん)
リュリュからの念話が切れると、自分のデスクに齧り付いて仕事をしているヘイディ少佐を呼んだ。
「今日の午後の会議には出席の必要なしと、リュリュから連絡がきました」
「あら」
意外そうに目を見開くと、ヘイディ少佐はガッカリしたように肩で息をついた。
「事務処理が立て込んでいるので、出席しなくていいのは助かりますけど。総帥閣下のように空間転移出来るわけではないですし、移動にも時間がかかりますから」
「そういうことです。一応現地へ誰かやって、会議の報告書などを受け取ってくるよう指示を出しておいてください」
「承りました」
ヘイディ少佐は敬礼すると、颯爽とオフィスを出て行った。
「あ…ありがと…」
目の前の応接テーブルの上には、誰が食べるんだろうと思える程の、大量のお菓子が所狭しと並んでいる。生クリームやスポンジの甘い香り、フルーツのフレッシュな香りなどがあたりに充満している。
キュッリッキの膝の上では、フローズヴィトニルが水色の目を輝かせてブンブン尻尾を振り、目の前のお菓子を食べたくて食べたくてうずうずしていた。
「おかわりたーっくさんあるから、どんどん食べてね」
語尾にハートマークでも付きそうなご機嫌のヘイディ少佐にすすめられ、キュッリッキはゲッソリしつつ銀のスプーンを手に取る。食欲は一切なかったが、取り敢えず手前にあるヨーグルトババロアにスプーンをつき入れた。
フローズヴィトニルが待ちきれなくなって、膝の上で跳ねたりクルクル回ったりと落ち着かないので、ババロアを口に放り込んでやった。
ヘイディ少佐はにこやかに見ながら、心の中でガッツリ握り拳を握る。
(閣下が素直に出仕してくれるなら、もう毎日でも召喚士様に同伴してもらえば万々歳だわ!! 事務仕事もすぐ片付くし、残業もしなくて済むもの!)
チラリと奥のデスクを見ると、書類の山に囲まれたアルカネットが、次々書類を処理していた。
(これで午後の会議には間に合いそうね! ありがとうございます、ありがとうございます神様召喚士様!!)
キュッリッキに土下座でもしたいくらいの大感謝で、ヘイディ少佐は心で滝の涙を流した。
副官の何気ない一言で、魔法部隊(ビリエル)の本部にキュッリッキを伴って出仕したアルカネットは、書類の山を減らしながら、時折キュッリッキに目を向けていた。
フローズヴィトニルにお菓子を食べさせているその様子は、傍目にはいつも通りだが、心の中はまだまだ痛みでいっぱいだろう。独りきりにすれば、悲しみにまた涙を流すに違いない。こうして外に連れ出してやれば、気も紛れて笑顔を見せてくれるだろう。
泣き顔よりも笑顔の方が、何倍も素敵な少女なのだから。
キュッリッキを想いながら、書類の内容に目を通していると、リュリュから念話が入った。
(はーい、アルカネット。小娘の様子はどうなの?)
(とても深く傷ついています。一人にしておけないくらいに……)
(……まあ、そうでしょうね)
さすがのリュリュも、何と言っていいのか調子の狂うような雰囲気を、声に滲ませていた。
(ところでどうしました、何か御用でも?)
(ああ、そうそう。今日の午後に控えてる会議だけど、魔法部隊はとくに用事もないから出席しなくて結構だそうよ)
(おや。――まあ、あまり戦争では出番がありませんでしたからねえ)
(正規部隊とダエヴァくらいで、この後動くことになるのも彼らと別の特殊部隊だし。てことで、ハーメンリンナに残って事務処理に精を出してン)
(ええ、助かります。リッキーさんを一人には出来ませんしね)
(ベルに何か伝言ある?)
アルカネットは暫し考え込むと、にっこりと笑顔を浮かべた。
(こちらのことは心配せず気にせず余計なことは粉微塵も考えず、しっかり現地で仕事に励んで、永遠に帰ってこなくていいです。そう、お願いします)
(………今すぐ飛んで帰りそうなコトを言ってるわね、あーた……)
(せっかリッキーさんとく2人きりだというのに、邪魔されたくはありませんから)
(一応、一言一句正しく伝えとくわ。じゃあねん)
リュリュからの念話が切れると、自分のデスクに齧り付いて仕事をしているヘイディ少佐を呼んだ。
「今日の午後の会議には出席の必要なしと、リュリュから連絡がきました」
「あら」
意外そうに目を見開くと、ヘイディ少佐はガッカリしたように肩で息をついた。
「事務処理が立て込んでいるので、出席しなくていいのは助かりますけど。総帥閣下のように空間転移出来るわけではないですし、移動にも時間がかかりますから」
「そういうことです。一応現地へ誰かやって、会議の報告書などを受け取ってくるよう指示を出しておいてください」
「承りました」
ヘイディ少佐は敬礼すると、颯爽とオフィスを出て行った。
0
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる