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勇気と決断編
episode463
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キュッリッキが泣きつかれて再び眠ってしまうと、ベッドにそっと寝かせ直して、アルカネットは一旦自分の部屋へ戻った。
ソファの上に雑に衣服を脱ぎ捨てると、浴室に飛び込むようにして入り、冷たいシャワーをかぶった。
煮えたぎるように熱い頭を冷やすためだ。
メルヴィンへの殺意が膨れ上がりすぎて、少々感情を抑えきれなくなってきたためである。その感情はメルヴィンの名を呟き泣き続けるキュッリッキへも、怒りという形で向きかけ、このままだと怒り任せにキュッリッキを犯しそうになって慌てたのだ。
あんなに心が傷ついてまで、尚メルヴィンを恋しく求めるキュッリッキ。そのいじらしいまでの想いも、今のアルカネットには怒りを煽る何ものでもない。
壁に両手をついて身体を前に折り曲げると、背中に冷たいシャワーを叩きつけた。
やや痩身だが、筋肉がほどよくついて、よく引き締まった体躯をしている。腕力などは十分あるが、戦闘スキル〈才能〉持ちではないので、肉弾戦ではメルヴィンには敵わない。しかしアルカネットには魔法の力がある。それも、世界最強を誇る強大な力が。
「いつ、殺してやろうか……」
身体中を苛んでいた火照りは冷めている。だがメルヴィンへの殺意は、少しもおさまってはいない。心の中でじわじわと燃え盛り続けていた。
激しい殺意と、激しい憎悪。そして、それらも凌駕するほどの激しい嫉妬。
何者にも代え難い、愛おしいキュッリッキ。彼女を苦しめるものは、なんであろうと許せない存在だ。
普段アルカネットは、本音の感情を表に出さないようにしている。温厚な笑顔と、そつのない立ち居振る舞いの中に隠して。しかし抑制し続けていると、一度暴発すると鎮めるのに物凄い労力が要る。
いつもはベルトルドがそばにいるので、どうしても抑えきれなくなればベルトルドにぶつけることができた。ベルトルドも全てを承知のうえで、全力で受け止めてくれる。しかし今、ベルトルドはいない。遠く離れたモナルダ大陸にいるのだ。
アルカネットは長い時間水に打たれながら、感情をどうにか鎮めると、タオルを手に取り髪を拭きながら浴室を出た。
開けっ放しの窓から、蒸れた風が流れ込んでくる。温度管理のされたハーメンリンナの中でも、夏を感じさせる風は容赦なく吹くのだ。
すでに陽の光が部屋の中に差し込んでいて、アルカネットの裸身を明るく照らしていた。
そこへノックもなしに部屋の扉が開かれ、メイドが入り込んできてアルカネットは小さく首をかしげた。
「きゃっ、あ、あの、アルカネット様」
チェインバーメイドのブリッタは、アルカネットはてっきりキュッリッキの部屋で寝ているものとばかり思っていた。着替えのためにアルカネットが戻る前に、簡単な掃除とシーツ替えなどをやっておこうと入ってきたのである。
キュッリッキと同い年のブリッタは、主の裸体を目にして、心臓が飛び上がるほどびっくりしてしまった。キュッリッキほど世間知らずではないが、男の裸をそんなに目にすることなどないし、恥ずかしさの方が上回る。密かに憧れているのだから。
前も隠そうとせず裸身をさらして立っているアルカネットに、目のやり場に困ってしどろもどろしていると、
「お前でもいいか」
感情の伺えない声が、ぽつりと耳に飛び込んでくる。そして唐突に乱暴に手を掴まれ、ベッドの上に放るようにして投げられた。
あまりに突然のことに悲鳴を上げるのも忘れて、ブリッタは慌てて身体を起こそうとすると、アルカネットの顔が至近距離にあって「ひっ」と喉で引き攣れた悲鳴をあげた。
アルカネットの顔は普段見慣れた温厚な笑みではなく、殺伐とした昏いものを浮かべていたからだ。足元からザワッと冷たい恐怖が這いのぼってくる。ブルブルと身体が震え、ブリッタは小さく身をすくませた。
「すぐに済むから、おとなしくしていなさい」
そう言ってアルカネットは身を起こすと、ブリッタのスカートを勢いよくまくりあげて、閉じている足の間に強引に膝を割り込ませ、払うようにして乱暴に押し広げた。
ソファの上に雑に衣服を脱ぎ捨てると、浴室に飛び込むようにして入り、冷たいシャワーをかぶった。
煮えたぎるように熱い頭を冷やすためだ。
メルヴィンへの殺意が膨れ上がりすぎて、少々感情を抑えきれなくなってきたためである。その感情はメルヴィンの名を呟き泣き続けるキュッリッキへも、怒りという形で向きかけ、このままだと怒り任せにキュッリッキを犯しそうになって慌てたのだ。
あんなに心が傷ついてまで、尚メルヴィンを恋しく求めるキュッリッキ。そのいじらしいまでの想いも、今のアルカネットには怒りを煽る何ものでもない。
壁に両手をついて身体を前に折り曲げると、背中に冷たいシャワーを叩きつけた。
やや痩身だが、筋肉がほどよくついて、よく引き締まった体躯をしている。腕力などは十分あるが、戦闘スキル〈才能〉持ちではないので、肉弾戦ではメルヴィンには敵わない。しかしアルカネットには魔法の力がある。それも、世界最強を誇る強大な力が。
「いつ、殺してやろうか……」
身体中を苛んでいた火照りは冷めている。だがメルヴィンへの殺意は、少しもおさまってはいない。心の中でじわじわと燃え盛り続けていた。
激しい殺意と、激しい憎悪。そして、それらも凌駕するほどの激しい嫉妬。
何者にも代え難い、愛おしいキュッリッキ。彼女を苦しめるものは、なんであろうと許せない存在だ。
普段アルカネットは、本音の感情を表に出さないようにしている。温厚な笑顔と、そつのない立ち居振る舞いの中に隠して。しかし抑制し続けていると、一度暴発すると鎮めるのに物凄い労力が要る。
いつもはベルトルドがそばにいるので、どうしても抑えきれなくなればベルトルドにぶつけることができた。ベルトルドも全てを承知のうえで、全力で受け止めてくれる。しかし今、ベルトルドはいない。遠く離れたモナルダ大陸にいるのだ。
アルカネットは長い時間水に打たれながら、感情をどうにか鎮めると、タオルを手に取り髪を拭きながら浴室を出た。
開けっ放しの窓から、蒸れた風が流れ込んでくる。温度管理のされたハーメンリンナの中でも、夏を感じさせる風は容赦なく吹くのだ。
すでに陽の光が部屋の中に差し込んでいて、アルカネットの裸身を明るく照らしていた。
そこへノックもなしに部屋の扉が開かれ、メイドが入り込んできてアルカネットは小さく首をかしげた。
「きゃっ、あ、あの、アルカネット様」
チェインバーメイドのブリッタは、アルカネットはてっきりキュッリッキの部屋で寝ているものとばかり思っていた。着替えのためにアルカネットが戻る前に、簡単な掃除とシーツ替えなどをやっておこうと入ってきたのである。
キュッリッキと同い年のブリッタは、主の裸体を目にして、心臓が飛び上がるほどびっくりしてしまった。キュッリッキほど世間知らずではないが、男の裸をそんなに目にすることなどないし、恥ずかしさの方が上回る。密かに憧れているのだから。
前も隠そうとせず裸身をさらして立っているアルカネットに、目のやり場に困ってしどろもどろしていると、
「お前でもいいか」
感情の伺えない声が、ぽつりと耳に飛び込んでくる。そして唐突に乱暴に手を掴まれ、ベッドの上に放るようにして投げられた。
あまりに突然のことに悲鳴を上げるのも忘れて、ブリッタは慌てて身体を起こそうとすると、アルカネットの顔が至近距離にあって「ひっ」と喉で引き攣れた悲鳴をあげた。
アルカネットの顔は普段見慣れた温厚な笑みではなく、殺伐とした昏いものを浮かべていたからだ。足元からザワッと冷たい恐怖が這いのぼってくる。ブルブルと身体が震え、ブリッタは小さく身をすくませた。
「すぐに済むから、おとなしくしていなさい」
そう言ってアルカネットは身を起こすと、ブリッタのスカートを勢いよくまくりあげて、閉じている足の間に強引に膝を割り込ませ、払うようにして乱暴に押し広げた。
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