片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
482 / 882
勇気と決断編

episode463

しおりを挟む
 キュッリッキが泣きつかれて再び眠ってしまうと、ベッドにそっと寝かせ直して、アルカネットは一旦自分の部屋へ戻った。

 ソファの上に雑に衣服を脱ぎ捨てると、浴室に飛び込むようにして入り、冷たいシャワーをかぶった。

 煮えたぎるように熱い頭を冷やすためだ。

 メルヴィンへの殺意が膨れ上がりすぎて、少々感情を抑えきれなくなってきたためである。その感情はメルヴィンの名を呟き泣き続けるキュッリッキへも、怒りという形で向きかけ、このままだと怒り任せにキュッリッキを犯しそうになって慌てたのだ。

 あんなに心が傷ついてまで、尚メルヴィンを恋しく求めるキュッリッキ。そのいじらしいまでの想いも、今のアルカネットには怒りを煽る何ものでもない。

 壁に両手をついて身体を前に折り曲げると、背中に冷たいシャワーを叩きつけた。

 やや痩身だが、筋肉がほどよくついて、よく引き締まった体躯をしている。腕力などは十分あるが、戦闘スキル〈才能〉持ちではないので、肉弾戦ではメルヴィンには敵わない。しかしアルカネットには魔法の力がある。それも、世界最強を誇る強大な力が。

「いつ、殺してやろうか……」

 身体中を苛んでいた火照りは冷めている。だがメルヴィンへの殺意は、少しもおさまってはいない。心の中でじわじわと燃え盛り続けていた。

 激しい殺意と、激しい憎悪。そして、それらも凌駕するほどの激しい嫉妬。

 何者にも代え難い、愛おしいキュッリッキ。彼女を苦しめるものは、なんであろうと許せない存在だ。

 普段アルカネットは、本音の感情を表に出さないようにしている。温厚な笑顔と、そつのない立ち居振る舞いの中に隠して。しかし抑制し続けていると、一度暴発すると鎮めるのに物凄い労力が要る。

 いつもはベルトルドがそばにいるので、どうしても抑えきれなくなればベルトルドにぶつけることができた。ベルトルドも全てを承知のうえで、全力で受け止めてくれる。しかし今、ベルトルドはいない。遠く離れたモナルダ大陸にいるのだ。

 アルカネットは長い時間水に打たれながら、感情をどうにか鎮めると、タオルを手に取り髪を拭きながら浴室を出た。

 開けっ放しの窓から、蒸れた風が流れ込んでくる。温度管理のされたハーメンリンナの中でも、夏を感じさせる風は容赦なく吹くのだ。

 すでに陽の光が部屋の中に差し込んでいて、アルカネットの裸身を明るく照らしていた。

 そこへノックもなしに部屋の扉が開かれ、メイドが入り込んできてアルカネットは小さく首をかしげた。

「きゃっ、あ、あの、アルカネット様」

 チェインバーメイドのブリッタは、アルカネットはてっきりキュッリッキの部屋で寝ているものとばかり思っていた。着替えのためにアルカネットが戻る前に、簡単な掃除とシーツ替えなどをやっておこうと入ってきたのである。

 キュッリッキと同い年のブリッタは、主の裸体を目にして、心臓が飛び上がるほどびっくりしてしまった。キュッリッキほど世間知らずではないが、男の裸をそんなに目にすることなどないし、恥ずかしさの方が上回る。密かに憧れているのだから。

 前も隠そうとせず裸身をさらして立っているアルカネットに、目のやり場に困ってしどろもどろしていると、

「お前でもいいか」

 感情の伺えない声が、ぽつりと耳に飛び込んでくる。そして唐突に乱暴に手を掴まれ、ベッドの上に放るようにして投げられた。

 あまりに突然のことに悲鳴を上げるのも忘れて、ブリッタは慌てて身体を起こそうとすると、アルカネットの顔が至近距離にあって「ひっ」と喉で引き攣れた悲鳴をあげた。

 アルカネットの顔は普段見慣れた温厚な笑みではなく、殺伐とした昏いものを浮かべていたからだ。足元からザワッと冷たい恐怖が這いのぼってくる。ブルブルと身体が震え、ブリッタは小さく身をすくませた。

「すぐに済むから、おとなしくしていなさい」

 そう言ってアルカネットは身を起こすと、ブリッタのスカートを勢いよくまくりあげて、閉じている足の間に強引に膝を割り込ませ、払うようにして乱暴に押し広げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

神様の許嫁

衣更月
ファンタジー
信仰心の篤い町で育った久瀬一花は、思いがけずに神様の許嫁(仮)となった。 神様の名前は須久奈様と言い、古くから久瀬家に住んでいるお酒の神様だ。ただ、神様と聞いてイメージする神々しさは欠片もない。根暗で引きこもり。コミュニケーションが不得手ながらに、一花には無償の愛を注いでいる。 一花も須久奈様の愛情を重いと感じながら享受しつつ、畏敬の念を抱く。 ただ、1つだけ須久奈様の「目を見て話すな」という忠告に従えずにいる。どんなに頑張っても、長年染み付いた癖が直らないのだ。 神様を見る目を持つ一花は、その危うさを軽視し、トラブルばかりを引き当てて来る。 *** 1部完結 2部より「幽世の理」とリンクします。 ※「幽世の理」と同じ世界観です。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...