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勇気と決断編
episode461
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ふと目を覚ますと、薄暗さが目に飛び込んできた。
「あれ…、寝ちゃったんだ…」
透かして織られたカーテンから、柔らかな月明かりが青白く差し込んでいる。寝ている間に夜になってしまったんだと、キュッリッキはスッキリしない頭で思う。
顔を上げると、アルカネットの寝顔がある。枕に頭をあずけ、ぐっすりと眠っていた。
端整な寝顔には疲労の色が濃い。寝ていても常に隙がないアルカネットには珍しく、とても無防備である。よほど疲れていたのだろう。
ベッドに足を投げ出すようにして座り、大きな枕に上体を預けている。その膝の上に乗せられ、広い胸にもたれてキュッリッキは座っていた。
ベルトルド邸に帰り着いたあと、主治医のヴィヒトリが怪我の手当てに来てくれた。いつもなら冗談を言いながら、明るく笑いかけてくれる。しかしさすがに冗談は言わず、励ますように笑いかけてくれただけだった。
その後アルカネットに慰められながら、泣き疲れて眠ってしまったようだ。
キュッリッキの身体に回された手は、細い身体をしっかりと抱きしめていてる。腕や手から伝わる温もりを服越しに感じ、こうして抱きしめられていることで、心底安堵していた。
ゆっくりと上下する胸に再び顔をうずめるようにして、胸元のシャツをしっかりと握った。
意識がはっきりしてくると、頭を過ぎっていくのはメルヴィンの絶句した顔。自分の奇形の翼を見て、驚いたまま何も言ってくれなかった、あの顔を真っ先に思い出してしまう。
(メルヴィン…凄く、ビックリしてた…)
あの時のことを思い出すと、今すぐ記憶喪失になってしまいたい、なかったことにしたいと心が悲鳴を上げる。頭の中をグチャグチャに掻き回し、壊してしまいたいほど苦しくなるのだ。
形容しがたいほどの苦痛を心の中で繰り返し叫び、シャツを握る手は震えながら力がこもる。すると、キュッリッキを抱きしめているアルカネットの手が、更に抱き寄せるように動いた。
ハッとなって顔を上げると、アルカネットが穏やかに優しく見つめている。
「眠れませんか?」
キュッリッキは小さく首を横に振ると、僅かに表情を曇らせた。
「ごめんなさい、アタシ、起こしちゃった」
アルカネットは「かまいませんよ」と言って、自嘲するように笑う。
「起きているつもりでしたが、うっかり眠ってしまったようです」
つられてキュッリッキも小さく微笑むと、再びアルカネットの胸に頬を寄せた。
とくに話がしたいわけではないし、なにかして欲しいわけでもない。ただ、一人でいるのは嫌だった。辛い気持ちを埋めるように、こうして誰かに触れているとホッとする。
いまだ心の中は、色々な感情が渦巻いていて落ち着かない。
左側の翼を見られた羞恥、絶句したメルヴィンの顔、仲間たちに知られてしまった自分の本当の姿。
みんなには、自分は今、どう思われているのだろうか。そして、どんな顔でみんなの前に立てばいいんだろう。
(みっともない本当の姿を隠し続けてきて、ライオン傭兵団にアタシの居場所はまだあるの?)
バレちゃったことだし、これを機に全て打ち明けてスッキリしたいのか、果たしてきちんと話ができるのか。受け入れてくれるのだろうか。
「あれ…、寝ちゃったんだ…」
透かして織られたカーテンから、柔らかな月明かりが青白く差し込んでいる。寝ている間に夜になってしまったんだと、キュッリッキはスッキリしない頭で思う。
顔を上げると、アルカネットの寝顔がある。枕に頭をあずけ、ぐっすりと眠っていた。
端整な寝顔には疲労の色が濃い。寝ていても常に隙がないアルカネットには珍しく、とても無防備である。よほど疲れていたのだろう。
ベッドに足を投げ出すようにして座り、大きな枕に上体を預けている。その膝の上に乗せられ、広い胸にもたれてキュッリッキは座っていた。
ベルトルド邸に帰り着いたあと、主治医のヴィヒトリが怪我の手当てに来てくれた。いつもなら冗談を言いながら、明るく笑いかけてくれる。しかしさすがに冗談は言わず、励ますように笑いかけてくれただけだった。
その後アルカネットに慰められながら、泣き疲れて眠ってしまったようだ。
キュッリッキの身体に回された手は、細い身体をしっかりと抱きしめていてる。腕や手から伝わる温もりを服越しに感じ、こうして抱きしめられていることで、心底安堵していた。
ゆっくりと上下する胸に再び顔をうずめるようにして、胸元のシャツをしっかりと握った。
意識がはっきりしてくると、頭を過ぎっていくのはメルヴィンの絶句した顔。自分の奇形の翼を見て、驚いたまま何も言ってくれなかった、あの顔を真っ先に思い出してしまう。
(メルヴィン…凄く、ビックリしてた…)
あの時のことを思い出すと、今すぐ記憶喪失になってしまいたい、なかったことにしたいと心が悲鳴を上げる。頭の中をグチャグチャに掻き回し、壊してしまいたいほど苦しくなるのだ。
形容しがたいほどの苦痛を心の中で繰り返し叫び、シャツを握る手は震えながら力がこもる。すると、キュッリッキを抱きしめているアルカネットの手が、更に抱き寄せるように動いた。
ハッとなって顔を上げると、アルカネットが穏やかに優しく見つめている。
「眠れませんか?」
キュッリッキは小さく首を横に振ると、僅かに表情を曇らせた。
「ごめんなさい、アタシ、起こしちゃった」
アルカネットは「かまいませんよ」と言って、自嘲するように笑う。
「起きているつもりでしたが、うっかり眠ってしまったようです」
つられてキュッリッキも小さく微笑むと、再びアルカネットの胸に頬を寄せた。
とくに話がしたいわけではないし、なにかして欲しいわけでもない。ただ、一人でいるのは嫌だった。辛い気持ちを埋めるように、こうして誰かに触れているとホッとする。
いまだ心の中は、色々な感情が渦巻いていて落ち着かない。
左側の翼を見られた羞恥、絶句したメルヴィンの顔、仲間たちに知られてしまった自分の本当の姿。
みんなには、自分は今、どう思われているのだろうか。そして、どんな顔でみんなの前に立てばいいんだろう。
(みっともない本当の姿を隠し続けてきて、ライオン傭兵団にアタシの居場所はまだあるの?)
バレちゃったことだし、これを機に全て打ち明けてスッキリしたいのか、果たしてきちんと話ができるのか。受け入れてくれるのだろうか。
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