片翼の召喚士-Rework-

ユズキ

文字の大きさ
上 下
475 / 882
エルアーラ遺跡編

episode456

しおりを挟む
 炎の中で灰に転じていくヒューゴの姿を冷ややかに見おろすベルトルドの横に、シ・アティウスが並んで立った。

「幽霊退治が終わりましたね」

「ああ、これでフリングホルニは完全に俺のものだ」

 戦いの間、ベルトルドが動力部に防御を張り巡らせていたので、どこにも損傷はなかった。それが判って、シ・アティウスは小さく安堵の吐息を漏らす。

「それと、アルカネットが放置してある3人の王の死体、あれの掃除はどうしてくれるんですか?」

「………ダエヴァを呼ぼうか……警備も兼ねて」

 わざわざ呼びつけられて、腐った死体の後始末をさせられるダエヴァには、同情しか湧いてこないとシ・アティウスは肩をすくめる。かといって、自分でやるのは絶対嫌だった。

「仕事のうちだ! 仕事!!」

 引き攣りながら断言すると、ベルトルドは身体を後ろに向ける。

 蚊帳の外に置かれたままのライオン傭兵団が、情けない表情(かお)でぽかんとこちらを見ている。

 可哀想に、とシ・アティウスは思っていた。

 遺跡に入ったらキュッリッキがいきなり行方不明になり、Encounter Gullveig Systemに追い掛け回され、キュッリッキがアイオン族で片翼だと知ってしまい、いきなり1万年前の思念体と戦わされ、挙句上司の大技から必殺技まで見せつけられたのだ。

 これを不憫と思わずしてなんと言う。

「お前たちご苦労だったな。出口まではシ・アティウスに案内させるから、歩いてエグザイルシステムのあるところまで行け。それからアジトに戻ってイイぞ。俺の屋敷においてきてある私物は使用人たちに送らせる」

 ツッコミもなく、ただ黙って皆頷いた。

「シ・アティウス、お前はダエヴァがくるまでここで待機しながら、システムなどのチェックをしておけ。近場にいるアルヴァーの部隊を寄越す」

「ケレヴィルの職員を幾人か呼んでもいいですか」

「うん。最終チェックもさせとけ」

「判りました」

「俺はアルイールへ行って、現場の大将どもの不満と愚痴を根性で聞いてやらねばならん。これから戦後処理で頭が痛くなる」

「仕方ありませんよ、自分で撒いたことです」

「………フンッ!」

 子供のようなふくれっ面で、ベルトルドはシ・アティウスを睨んだ。

「じゃあ俺は行く!」

 そう言って、ベルトルドは空間転移した。



 どこか曇天の雰囲気を貼り付けたライオン傭兵団を引率しているシ・アティウスは、黙々と出口を目指して歩いていた。

 当初動力部の幽霊退治は彼らに一任する予定だった。ところがEncounter Gullveig Systemの騒動でキュッリッキを欠いたため、急遽ベルトルドも出張ることになってしまったのである。

 幽霊の正体が1万年前に存在した騎士の残留思念体だったことから、断片的にではあるが衝撃的な話が飛び交い、居合わせたライオン傭兵団にしてみたら青天の霹靂のようなものだ。

 案の定彼らは疲れた頭を回転させながら、飛び交っていた謎の会話の数々に疑問や関心を向けてカーティスが真っ先に口を開いた。

「シ・アティウスさんあの……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

覚悟はありますか?

翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。 「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」 ご都合主義な創作作品です。 異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。 恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄され聖女も辞めさせられたので、好きにさせていただきます。

松石 愛弓
恋愛
国を守る聖女で王太子殿下の婚約者であるエミル・ファーナは、ある日突然、婚約破棄と国外追放を言い渡される。 全身全霊をかけて国の平和を祈り続けてきましたが、そういうことなら仕方ないですね。休日も無く、責任重すぎて大変でしたし、王太子殿下は思いやりの無い方ですし、王宮には何の未練もございません。これからは自由にさせていただきます♪

処理中です...