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後日談編
ライオン傭兵団拡張計画-後編-
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「随分と規模を広げるんですね」
カーティスの部屋に呼ばれたメルヴィンは、改めて地図を見る。以前のアジトの敷地より、5倍くらい増えている。
「実は昨年ギルドから、傭兵見習いを預かれ、他にも傭兵たちを雇い入れろとせっつかれているんですよ」
「ああ…、ノラリクラリとかわしていましたね」
メルヴィンは肩をすくめて苦笑した。
「ライオン傭兵団を立ち上げたとき、気の置ける仲間たちと、やりたいように楽しくをモットーに稼いでいきたいと思っていました。しかしベルトルド卿たちが絡んできて、鬱陶しさこの上なかったですが、仕事の面では色々と贔屓させてもらいましたし」
簾のような前髪を払い除け、カーティスは小さく笑む。
「キューリさんと出会い、ファンタジーな体験もできて、なんかこう、今更だけどしっかり傭兵団としてやっていこう、という殊勝な気持ちになったわけです」
「宇宙へ行ったり、神様を見たり、話しかけられたり……、殆どの人間たちが経験できないことをしてしまいました」
2人は顔を見合わせると、軽く吹き出して笑ってしまった。
暫し笑ったあと、カーティスは笑いを引っ込めて、難しい表情をした。
「リュリュさんから聞いたんですが、ベルトルド卿が副宰相を辞してから、属国やらの小国から、不穏な空気がいくつも流れ始めたそうなんです」
「……ある意味、ベルトルド様が強烈な抑止力になっていましたから」
「ええ。ベルトルド卿のサイ《超能力》のランクはOver、もう伝説級の実力でしたし、配下にはOverランクの魔法使いであるアルカネットさんが控えていて、セットで畏怖を撒き散らしていました」
絶対敵に回したくない2人だったが、その2人と死闘を繰り広げたのは一ヶ月も前のことだ。
あの死闘を思い出すと、2人のため息は自然と重くなる。ただ憎み合って敵対したわけではない。互いに譲れない大切な想いのために戦ったのだ。
「そんなわけで、傭兵の出番が増える、と言ってました。現在軍は各国の救済活動などで飛び回っているようで、国がギルド経由で傭兵を雇うことも増えるみたいですよ」
「仕事には事欠かなさそう」
「なので、今のうちに人を増やす準備をしないといけません。それに乗じて、今まで無視し続けてきたギルドの要請にも応えていくようにしないと」
「ウチは隊長レベルしかいませんからね。でも、育成や指導など、みんなやる気になってもらえますかね?」
「そうなんです。命令という形なら従うでしょうが。――我々も、のほほん生活を卒業しないと」
「物凄く、ブーイングが出そう」
「オトナになってもらわなくちゃですよ」
「というわけで、ギルドの要請に従い、アジトが再建出来たら団員が増えることになります」
「まあ、あの敷地の規模を見たら、そんなんじゃねーかと、薄々思ってたがよ」
ぷか~っとタバコの煙を吐き出し、ギャリーは神妙な顔で頷いた。
「傭兵界のトップになった以上、その程度は受け入れていかないと、蔑みの目しか向けられないよねえ~」
ルーファスが朗らかに笑う。
「受け入れるからには、当然面接は厳しくするつもりです。採用基準のレベルを下げることはしません。ランクはAから下回ることは許さないですよ」
マーゴットという唯一の例外を抜かせば、全員ランクA以上なのだ。
「リュリュさんがバックにつくことは決まっていますが、もうベルトルド卿の時のような無茶はしてこないし、報酬も適正価格になるでしょう。そろそろ現実的に地に足をつけて、傭兵団をやっていかないとです」
カーティスは食堂に居並ぶメンバーをぐるっと見て、軽く顎をひく。
「反対の方はいますか?」
手を挙げる者はいなかった。
「新しいメンバーかあ。不足してる人材って言ったら、やっぱサイ《超能力》や魔法のスキル〈才能〉がある傭兵だよねえ」
ルーファスの呟きに、皆頷く。
「遠隔系も欲しいよ。今んとこザカリーしかできないし」
「でも、オレ達が隊長になると、実働部隊として全種欲しくなる」
ハーマンの意見に頷きつつも、ザカリーが別の意見を出すと、ガヤガヤと皆自分の意見を呟き始めた。
少人数で一個師団級の戦力を誇っていたが、これからはその形を維持しつつ、複数の隊を組んで、それぞれの仕事に向かう事になるだろう。
今は金銭的にもじゅうぶんすぎるほどの余裕はあるが、使えば減るものだし、増やしていかないといけない。人が増えれば支出も当然増えていく。
あらゆる仕事をこなしていくためには、少人数に耐えられる必須スキル〈才能〉を持つ者が必要となってくる。
「面接はいつからやるんでぃ?」
「ギルドエルダー街支部が再建できたら。今からやってたら、ハーツイーズ街支部に睨まれちゃいますからね。ウチはエルダー街支部登録ですから」
「そういえば、人数が増えるなら、台所担当も増やさないとキリ夫妻だけでは無理がでちゃいますよ」
「そうですね、3,4人くらいは増やさないとダメでしょうか」
「キリ夫妻は今旅行中なんだよな。帰ってきたら相談だな」
「ええ。台所担当なら、夫妻に面接をお願いしましょうか」
「畑違いだから、勝手に人材押し付けてもあれだしな」
「とりあえず、招集をかけるまでは自由に遊んでて結構です。いい人材を見つけたら、唾つけといてください」
カーティスの部屋に呼ばれたメルヴィンは、改めて地図を見る。以前のアジトの敷地より、5倍くらい増えている。
「実は昨年ギルドから、傭兵見習いを預かれ、他にも傭兵たちを雇い入れろとせっつかれているんですよ」
「ああ…、ノラリクラリとかわしていましたね」
メルヴィンは肩をすくめて苦笑した。
「ライオン傭兵団を立ち上げたとき、気の置ける仲間たちと、やりたいように楽しくをモットーに稼いでいきたいと思っていました。しかしベルトルド卿たちが絡んできて、鬱陶しさこの上なかったですが、仕事の面では色々と贔屓させてもらいましたし」
簾のような前髪を払い除け、カーティスは小さく笑む。
「キューリさんと出会い、ファンタジーな体験もできて、なんかこう、今更だけどしっかり傭兵団としてやっていこう、という殊勝な気持ちになったわけです」
「宇宙へ行ったり、神様を見たり、話しかけられたり……、殆どの人間たちが経験できないことをしてしまいました」
2人は顔を見合わせると、軽く吹き出して笑ってしまった。
暫し笑ったあと、カーティスは笑いを引っ込めて、難しい表情をした。
「リュリュさんから聞いたんですが、ベルトルド卿が副宰相を辞してから、属国やらの小国から、不穏な空気がいくつも流れ始めたそうなんです」
「……ある意味、ベルトルド様が強烈な抑止力になっていましたから」
「ええ。ベルトルド卿のサイ《超能力》のランクはOver、もう伝説級の実力でしたし、配下にはOverランクの魔法使いであるアルカネットさんが控えていて、セットで畏怖を撒き散らしていました」
絶対敵に回したくない2人だったが、その2人と死闘を繰り広げたのは一ヶ月も前のことだ。
あの死闘を思い出すと、2人のため息は自然と重くなる。ただ憎み合って敵対したわけではない。互いに譲れない大切な想いのために戦ったのだ。
「そんなわけで、傭兵の出番が増える、と言ってました。現在軍は各国の救済活動などで飛び回っているようで、国がギルド経由で傭兵を雇うことも増えるみたいですよ」
「仕事には事欠かなさそう」
「なので、今のうちに人を増やす準備をしないといけません。それに乗じて、今まで無視し続けてきたギルドの要請にも応えていくようにしないと」
「ウチは隊長レベルしかいませんからね。でも、育成や指導など、みんなやる気になってもらえますかね?」
「そうなんです。命令という形なら従うでしょうが。――我々も、のほほん生活を卒業しないと」
「物凄く、ブーイングが出そう」
「オトナになってもらわなくちゃですよ」
「というわけで、ギルドの要請に従い、アジトが再建出来たら団員が増えることになります」
「まあ、あの敷地の規模を見たら、そんなんじゃねーかと、薄々思ってたがよ」
ぷか~っとタバコの煙を吐き出し、ギャリーは神妙な顔で頷いた。
「傭兵界のトップになった以上、その程度は受け入れていかないと、蔑みの目しか向けられないよねえ~」
ルーファスが朗らかに笑う。
「受け入れるからには、当然面接は厳しくするつもりです。採用基準のレベルを下げることはしません。ランクはAから下回ることは許さないですよ」
マーゴットという唯一の例外を抜かせば、全員ランクA以上なのだ。
「リュリュさんがバックにつくことは決まっていますが、もうベルトルド卿の時のような無茶はしてこないし、報酬も適正価格になるでしょう。そろそろ現実的に地に足をつけて、傭兵団をやっていかないとです」
カーティスは食堂に居並ぶメンバーをぐるっと見て、軽く顎をひく。
「反対の方はいますか?」
手を挙げる者はいなかった。
「新しいメンバーかあ。不足してる人材って言ったら、やっぱサイ《超能力》や魔法のスキル〈才能〉がある傭兵だよねえ」
ルーファスの呟きに、皆頷く。
「遠隔系も欲しいよ。今んとこザカリーしかできないし」
「でも、オレ達が隊長になると、実働部隊として全種欲しくなる」
ハーマンの意見に頷きつつも、ザカリーが別の意見を出すと、ガヤガヤと皆自分の意見を呟き始めた。
少人数で一個師団級の戦力を誇っていたが、これからはその形を維持しつつ、複数の隊を組んで、それぞれの仕事に向かう事になるだろう。
今は金銭的にもじゅうぶんすぎるほどの余裕はあるが、使えば減るものだし、増やしていかないといけない。人が増えれば支出も当然増えていく。
あらゆる仕事をこなしていくためには、少人数に耐えられる必須スキル〈才能〉を持つ者が必要となってくる。
「面接はいつからやるんでぃ?」
「ギルドエルダー街支部が再建できたら。今からやってたら、ハーツイーズ街支部に睨まれちゃいますからね。ウチはエルダー街支部登録ですから」
「そういえば、人数が増えるなら、台所担当も増やさないとキリ夫妻だけでは無理がでちゃいますよ」
「そうですね、3,4人くらいは増やさないとダメでしょうか」
「キリ夫妻は今旅行中なんだよな。帰ってきたら相談だな」
「ええ。台所担当なら、夫妻に面接をお願いしましょうか」
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