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『魔女の呪い』編
6話:旅に出ますね
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ロッティとモンクリーフのやり取りを黙って見守っていたメイブは、チェルシー王女の胸の上に座り込み、意識のないチェルシー王女に語りかける。
「ぴよよ、ぴよぴよ…」
訳:[わたくしめが見る限り、あなたは非道な行いが出来るような女の子ではありません。イメルダしゃんのことを知らないのは、本当のことでしょうね。
”曲解の魔女”はどんな誤解をして、あなたに残酷な呪いを施したのかが判りませんが…]
チェルシー王女は、世界的に知れる美貌の持ち主だ。しかし今のチェルシー王女は、白桃のような頬は青ざめ、桜貝色の唇も生気がない。萎れた花のように痛々しい。
すでにチェルシー王女の魂が、黄泉に手をかけているのがメイブの目には見えていた。
「ぴよぴよ、ぴよぴよ、ぴよよ」
訳:[辛いメにあっている人間を見るのは、とっても心が痛みます。苦しいよって心が悲鳴を上げているのが、わたくしめには聴こえてくるのです。大好きなナッツ入りクッキーを取り上げられたときよりも、悲しくなってしまいます。
理不尽なめにあって本当に辛いでしょう。強力な『魔女の呪い』を打ち祓えるのは、わたくしめのご主人様だけ。必ず救ってくださいますから、それまで頑張るのですよ]
メイブは人語を理解しているが、人語は話せなかった。だからチェルシー王女に意識があっても、何を言っているのか判らないだろう。
でもメイブはそれでも一生懸命チェルシー王女を励ました。たとえ何を言っているか理解されずとも、励ましの心だけでも伝わればいい。
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[元気になる”おまじない”をしてあげますネ]
いっときでもチェルシー王女の心が安らげればと思い、メイブは心を込めて優しく囀る。
メイブの『心を癒す』魔法が、チェルシー王女を柔らかく包み込んでいった。
心なしか、チェルシー王女の息遣いが穏やかになっていた。
* * *
「おねーさま、『魔女の呪い』はどう解呪するの?」
「特にややこしい儀式や、難しい呪文は必要ないの。根深い闇の力を打ち祓うくらいの、強大な光と癒しの魔力で打ち消す」
「へえ…じゃあやっぱり、おねーさまじゃないとダメなのね」
「うん。他に方法があるなら知りたいけど、今のところこの方法が確実ね。でも…」
左目の丸ボタンにそっと触れながら、ロッティは肩を落とす。
「かれこれ500年ほど溜め続けている私の魔力なんだけど、解呪するにはまだ足りないの。『癒しの森』の力を借りても足りない。不足を補うためには、あるアイテムが必須よ」
「アイテム?」
「そう。『フェニックスの羽根』よ」
ロッティは提げていた巾着袋から、一枚の写真を取り出しモンクリーフに見せた。
写真には一つの美麗な鳥の羽根が写っている。
「フェニックスの特性は”不死”と”再生”。抜け落ちた羽根でも十二分にその特性を発揮する。羽根を媒介にして、私の魔力と『癒しの森』の力を注ぎこめば、何倍にも光の力が増すわ」
写真を見つめながら、モンクリーフは眉間を寄せ首を傾げる。
「『フェニックスの羽根』を探すとなると、それなりに時間かかりそうじゃない?見つけるまで姫様がもたないわよ?」
「そうね、私の見立てだと、このまま放置すれば王女様のタイムリミットは、もってひと月ってところかな」
残酷な余命宣告に、モンクリーフは文字通り飛び上がった。
「無理無理無理無理!時間食い過ぎよ!それならアタシたち別の魔女の魔力を使うのは?そうすれば膨大な魔力を確保できる!」
「それはダメ」
サクッと否定されて、モンクリーフは鼻白む。
「ど、どうして?」
「一口に魔力と言っても個性が宿るもの。例えばあんたの攻撃性むき出しの魔力が混ざったりしたら、私の魔法が乱れて失敗しちゃう。輸血だって同じ血液型の血を使わないとダメでしょ。でも魔力に同じ型なんてないの。おっけい?」
「おっけい…」
勢いの殺げたモンクリーフを尻目に、ロッティはチェルシー王女に視線を向けた。
「とにかく情報屋をフル活用で、情報集めてフェニックスの居所か、もしくはフェニックスが滞在していた場所を探すの。羽根1本でも手に入れられればイイわ。オークションに出回っていないかも調べるのよ」
「オークション関係は臣下たちにやらせましょ」
「うん。――レオン、陛下にお話があるの、呼んでくれる?」
「はい、判りました」
* * *
部屋へ入るなり、ロッティの開口一番の内容に国王は度肝を抜かれた。
「チェルシー王女を助ける必要なアイテムを手に入れるために、暫く旅に出ます」
「は?旅とはそんな悠長な!」
何を言い出すんだ!と表情に書いて、国王は拳を握る。
予想通りの国王の反応を、ロッティは真顔でスルーした。
「必要なことなのです。出来るだけなる早で見つけ出します。その間チェルシー王女の命を繋ぐため、『癒しの森』でお預かりします」
「『癒しの森』?」
「私の住処です。『癒しの森』は森自体に強い癒しの力が漲っています。『癒しの森』の中に居れば、癒しの効果を吸い込んで、呪いの進行は緩やかになり、痛みや苦しみも和らぐでしょう」
「おお…」
チェルシー王女を苦しめている呪いの効果が和らぐと判り、消沈した国王の顔に僅かに生気が戻った。
「『フェニックスの羽根』を見つけ出すまで、なんとしてもそこでチェルシー王女をもたせます。チェルシー王女を『癒しの森』へ連れて行く許可をください」
「もちろんじゃ!”癒しの魔女”殿のお言葉に従いましょう。――これ、侍女よ、姫の支度を急げ。そして姫に従い『癒しの森』へ赴け」
「それはダメ」
「え?」
「お支度までで。余計な人間は『癒しの森』に入れたくないから侍女はいりません」
「しかし世話係が…」
きっぱり拒否されて、国王は混乱の表情になった。それを見ながら、ロッティは口元を笑みの形にして頷いた。
「大丈夫です。私の使い魔たちがいます。あまり雑に多くの人間が出入りすると、『癒しの森』の気が乱れて悪影響が出てしまうので」
「陛下、ここは”癒しの魔女”殿に全てをお任せいたしましょう」
控えていたレオンが、見かねて口を挟んだ。
「姫様をお救いするためでございます」
「ふむ…」
レオンは国王の前に跪いた。
「陛下、わたくしは今回の責任を重く受け止め、レッドディアー騎士団の団長職を返上いたします。そして”癒しの魔女”殿に着いていき、『フェニックスの羽根』を探し出してきます」
「旅に同道するのはもちろんじゃが、団長職返上はならぬ!」
ゆるゆると頭を横に振り、レオンは切なく床に視線を這わせた。
「どうか臣愚にけじめをつけさせてください。――わたくしは陛下と姫様のお傍に居ながら、盾として役目を全うすることも出来ず、姫様に無用な苦しみを負わせてしまいました。万死に値する無能ぶり。しかし恥を忍んで申し上げます。少しでも姫様のために力を尽くし、そして首を差し出したく思います。団長職にはもっと有能な適任者がおりましょう。どうか」
「レオン卿…」
モクリーフは何故か焦りの色を顔に浮かべた。
「あの場にいた全員が同罪じゃ。ワシも姫を庇えなかった。――団長職の件は取り合えずあずかろう。今は”癒しの魔女”殿を支え、お助けして使命を果たすがよい」
「必ずや果たしてみせましょう!」
いっそうレオンは深々と頭をたれた。
「陛下、アタシも旅に同行しますわ」
「行って下さるか、”霊剣の魔女”殿」
「はい♪」
ウキウキした表情のモンクリーフとは対照的に、ロッティは疲労感を漂わせる表情をした。
「えー…、あんたも来るの」
「もっちろんよ!そんな嫌そうな顔しないでよ、おねーさまっ」
「はあ…」
チェルシー王女の支度で慌ただしくなった部屋に、騎士服を着た黒髪の青年が顔を覗かせた。
「あのお、俺も同行したいっす!」
「ぴよよ、ぴよぴよ…」
訳:[わたくしめが見る限り、あなたは非道な行いが出来るような女の子ではありません。イメルダしゃんのことを知らないのは、本当のことでしょうね。
”曲解の魔女”はどんな誤解をして、あなたに残酷な呪いを施したのかが判りませんが…]
チェルシー王女は、世界的に知れる美貌の持ち主だ。しかし今のチェルシー王女は、白桃のような頬は青ざめ、桜貝色の唇も生気がない。萎れた花のように痛々しい。
すでにチェルシー王女の魂が、黄泉に手をかけているのがメイブの目には見えていた。
「ぴよぴよ、ぴよぴよ、ぴよよ」
訳:[辛いメにあっている人間を見るのは、とっても心が痛みます。苦しいよって心が悲鳴を上げているのが、わたくしめには聴こえてくるのです。大好きなナッツ入りクッキーを取り上げられたときよりも、悲しくなってしまいます。
理不尽なめにあって本当に辛いでしょう。強力な『魔女の呪い』を打ち祓えるのは、わたくしめのご主人様だけ。必ず救ってくださいますから、それまで頑張るのですよ]
メイブは人語を理解しているが、人語は話せなかった。だからチェルシー王女に意識があっても、何を言っているのか判らないだろう。
でもメイブはそれでも一生懸命チェルシー王女を励ました。たとえ何を言っているか理解されずとも、励ましの心だけでも伝わればいい。
「ぴよぴよぴよ!」
訳:[元気になる”おまじない”をしてあげますネ]
いっときでもチェルシー王女の心が安らげればと思い、メイブは心を込めて優しく囀る。
メイブの『心を癒す』魔法が、チェルシー王女を柔らかく包み込んでいった。
心なしか、チェルシー王女の息遣いが穏やかになっていた。
* * *
「おねーさま、『魔女の呪い』はどう解呪するの?」
「特にややこしい儀式や、難しい呪文は必要ないの。根深い闇の力を打ち祓うくらいの、強大な光と癒しの魔力で打ち消す」
「へえ…じゃあやっぱり、おねーさまじゃないとダメなのね」
「うん。他に方法があるなら知りたいけど、今のところこの方法が確実ね。でも…」
左目の丸ボタンにそっと触れながら、ロッティは肩を落とす。
「かれこれ500年ほど溜め続けている私の魔力なんだけど、解呪するにはまだ足りないの。『癒しの森』の力を借りても足りない。不足を補うためには、あるアイテムが必須よ」
「アイテム?」
「そう。『フェニックスの羽根』よ」
ロッティは提げていた巾着袋から、一枚の写真を取り出しモンクリーフに見せた。
写真には一つの美麗な鳥の羽根が写っている。
「フェニックスの特性は”不死”と”再生”。抜け落ちた羽根でも十二分にその特性を発揮する。羽根を媒介にして、私の魔力と『癒しの森』の力を注ぎこめば、何倍にも光の力が増すわ」
写真を見つめながら、モンクリーフは眉間を寄せ首を傾げる。
「『フェニックスの羽根』を探すとなると、それなりに時間かかりそうじゃない?見つけるまで姫様がもたないわよ?」
「そうね、私の見立てだと、このまま放置すれば王女様のタイムリミットは、もってひと月ってところかな」
残酷な余命宣告に、モンクリーフは文字通り飛び上がった。
「無理無理無理無理!時間食い過ぎよ!それならアタシたち別の魔女の魔力を使うのは?そうすれば膨大な魔力を確保できる!」
「それはダメ」
サクッと否定されて、モンクリーフは鼻白む。
「ど、どうして?」
「一口に魔力と言っても個性が宿るもの。例えばあんたの攻撃性むき出しの魔力が混ざったりしたら、私の魔法が乱れて失敗しちゃう。輸血だって同じ血液型の血を使わないとダメでしょ。でも魔力に同じ型なんてないの。おっけい?」
「おっけい…」
勢いの殺げたモンクリーフを尻目に、ロッティはチェルシー王女に視線を向けた。
「とにかく情報屋をフル活用で、情報集めてフェニックスの居所か、もしくはフェニックスが滞在していた場所を探すの。羽根1本でも手に入れられればイイわ。オークションに出回っていないかも調べるのよ」
「オークション関係は臣下たちにやらせましょ」
「うん。――レオン、陛下にお話があるの、呼んでくれる?」
「はい、判りました」
* * *
部屋へ入るなり、ロッティの開口一番の内容に国王は度肝を抜かれた。
「チェルシー王女を助ける必要なアイテムを手に入れるために、暫く旅に出ます」
「は?旅とはそんな悠長な!」
何を言い出すんだ!と表情に書いて、国王は拳を握る。
予想通りの国王の反応を、ロッティは真顔でスルーした。
「必要なことなのです。出来るだけなる早で見つけ出します。その間チェルシー王女の命を繋ぐため、『癒しの森』でお預かりします」
「『癒しの森』?」
「私の住処です。『癒しの森』は森自体に強い癒しの力が漲っています。『癒しの森』の中に居れば、癒しの効果を吸い込んで、呪いの進行は緩やかになり、痛みや苦しみも和らぐでしょう」
「おお…」
チェルシー王女を苦しめている呪いの効果が和らぐと判り、消沈した国王の顔に僅かに生気が戻った。
「『フェニックスの羽根』を見つけ出すまで、なんとしてもそこでチェルシー王女をもたせます。チェルシー王女を『癒しの森』へ連れて行く許可をください」
「もちろんじゃ!”癒しの魔女”殿のお言葉に従いましょう。――これ、侍女よ、姫の支度を急げ。そして姫に従い『癒しの森』へ赴け」
「それはダメ」
「え?」
「お支度までで。余計な人間は『癒しの森』に入れたくないから侍女はいりません」
「しかし世話係が…」
きっぱり拒否されて、国王は混乱の表情になった。それを見ながら、ロッティは口元を笑みの形にして頷いた。
「大丈夫です。私の使い魔たちがいます。あまり雑に多くの人間が出入りすると、『癒しの森』の気が乱れて悪影響が出てしまうので」
「陛下、ここは”癒しの魔女”殿に全てをお任せいたしましょう」
控えていたレオンが、見かねて口を挟んだ。
「姫様をお救いするためでございます」
「ふむ…」
レオンは国王の前に跪いた。
「陛下、わたくしは今回の責任を重く受け止め、レッドディアー騎士団の団長職を返上いたします。そして”癒しの魔女”殿に着いていき、『フェニックスの羽根』を探し出してきます」
「旅に同道するのはもちろんじゃが、団長職返上はならぬ!」
ゆるゆると頭を横に振り、レオンは切なく床に視線を這わせた。
「どうか臣愚にけじめをつけさせてください。――わたくしは陛下と姫様のお傍に居ながら、盾として役目を全うすることも出来ず、姫様に無用な苦しみを負わせてしまいました。万死に値する無能ぶり。しかし恥を忍んで申し上げます。少しでも姫様のために力を尽くし、そして首を差し出したく思います。団長職にはもっと有能な適任者がおりましょう。どうか」
「レオン卿…」
モクリーフは何故か焦りの色を顔に浮かべた。
「あの場にいた全員が同罪じゃ。ワシも姫を庇えなかった。――団長職の件は取り合えずあずかろう。今は”癒しの魔女”殿を支え、お助けして使命を果たすがよい」
「必ずや果たしてみせましょう!」
いっそうレオンは深々と頭をたれた。
「陛下、アタシも旅に同行しますわ」
「行って下さるか、”霊剣の魔女”殿」
「はい♪」
ウキウキした表情のモンクリーフとは対照的に、ロッティは疲労感を漂わせる表情をした。
「えー…、あんたも来るの」
「もっちろんよ!そんな嫌そうな顔しないでよ、おねーさまっ」
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チェルシー王女の支度で慌ただしくなった部屋に、騎士服を着た黒髪の青年が顔を覗かせた。
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