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第2章
トゥーア領 廃村
しおりを挟むざわりと身体の皮膚を撫でられる様な感覚が、下半身から上半身へとかけ上がっていく。
「っ……」
魔物達が発する威圧や障気を感じて、多少なりとも鳥肌が立つ。
「結構居るわね」
「そうだね」
私の呟きに応える様に、言うアレクサンダーはじっと前を見詰めている。
「潰せるだけ潰していくのがいいかな?」
「少ない所からやっていくのが良いかな? アレクはどう思う?」
アレクサンダーに問うと、彼は左右を見渡してから私に視線を移す。左側を指し示して口を開く。
「あっちの方がここから近くて気配が少ないから、そちらからがいいと思う。一番気配が濃いのは、右奥の方だね」
「左の方が無難ってことね。じゃあ、そっから行こうか」
そう答えて私達は歩き出す。
時折、周辺の様子を伺いつつ歩くと、遠目に影が見えて何かが居るのが解る。
「……あれかな?」
「アンデッド系のモンスターだね。準備は良い? ティーナ」
「勿論、何時でもOKだよ」
ディバインロッドをしっかりと持ち、アレクサンダーに返事をする。
まずは、防御耐性がどこまで上がっているかや、回復魔法の攻撃ダメージがアンデッドにどこまで効くかを試さなくては、この先のモンハウに耐えられるか判別が出来ない。後は、ある程度のレベルまで通常状態を引き上げなくては誤魔化しがきかない。アンデッドモンスターに対して、ヒール砲で無茶振りは基本中の基本だが、流石にそれを堂々と言って怒られるのも嫌なので適度なレベルは真面目に欲しいところである。
後は、ディバインロッドで殴ると、どうなるかもお試し案件である。ちなみに以前の装備品は普通の棍棒並みの威力しかない。囲まれた時などの牽制で殴りつけるくらいである。
「あ。こっちに気付いた」
アレクサンダーが冷静に声を上げる。
アンデッドモンスターの中でも最弱のゾンビ3体がこちらへをゆっくり来る。最弱と言われるだけあり移動速度はとても遅い。
一般的にゾンビ、スケルトン、キョンシー、マミー、レイス、デュラハンなどがいる。更に上のレベルのモンスターは中ボス、大ボスになり下位のモンスターを取り巻きにしている事もある。
この領地の大ボスは、元領主で現在ファントム化しているらしい。ただ、管理神により神罰として領主の城に封じられている。永遠の命を求めた結果が不死者だ。時の流れに朽ちるていく城と、仕える者も居ない城内。人が入る事が許されぬ城は、倒す者も訪れないという事である。神が認めた時に倒されるのであろうが、それがいつかは神のみぞ知るである。
神が決めた世界の理に組み込まれた人も、魔物もそれから逃れる事は出来ない。人が魔物になろうとも。それこそ転生か異世界転移でもしない限り、世界を飛び越えた先にあるのはその世界の理だろうけども。
低い唸り声を上げて近づいて来るゾンビには、人だった意識が無い。領主に加担した者は意識があり、何も知らずに贄にされた者は意識はない。奥地まで行った事のある冒険者の談で聞いた事がある。私は実際に意識のあるモンスターに出会った事はないが。
つらつらとそんな事を考えながら、射程内に入ったゾンビ1体に一撃を加える。
「ヒール!」
ゾンビを癒しの光が包む。ゾンビの体が輝くと、キラキラと光の粉になり消滅する。
「ヒール」
もう1体に向けてヒールを掛ける。同じ様に光の粒子になって消えた。
「……次は殴ってみるか」
タッと駆け出して、ゾンビに向かってディバインロッドを振りかぶる。がつ! と音がして、手にインパクトの感触が伝わる。ばたりと、ゾンビが倒れるとそのまま消え去る。
「うーん、流石に弱過ぎ?」
「まぁ、ゾンビだからねー」
「これだと、武器と魔法のポテンシャルが解り難いわねぇ……」
「……もう少し、強いアンデッドでないと駄目だね。そうなると、あっちの方が良いかな」
アレクサンダーは気配の強い方を示して言う。
「じゃ、サクサク行こうか!」
「アレク、ナビよろしく!」
「うん」
アレクサンダーの先導で、移動を開始する。暫くすると、廃村が見えてくる。雰囲気からしておどろどろしい感じを醸し出している。
「……村の中にいる感じ?」
「うん。それなりに強いと思うよ? 多分、村から出られないヤツだと思うから無理そうだったら離れれば良いと思う」
「分かった」
私達は廃村に足を踏み入れると、ユラユラしたそれが4体出てくる。
「レイスだね」
「そうね」
幽体のモンスターである。アコライトの時には、かなり苦戦しまくって倒した事がある。
射程圏内に入ったのを確認して、魔法を唱える。
「ヒール!」
バシュン! と一撃で消え去る。
「ヒール!」
もう1体も消滅させてから、とりあえず殴り掛かってみる。
「はぁぁッ!!」
べしっと音がするものの、大した感触は無い。微妙に打撃が効いているらしく、レイスが怯える様に揺らぐ。聖属性の武器だからかもしれない。
「【杖収納】!」
杖を格納するとレイスの雰囲気が変わる。多少の威圧が増えたのが解るが、他の神具装備があるからか変わったのは僅かだ。
「ヒール!」
レイスを癒しの光が包み込んだが、1回のヒールでは消滅しない。
「ヒール!」
2回目を掛けるが、まだ消滅しない。完全に接近されると面倒なので、腰の銃を手にしてレイスに向かって撃つ。ガン! と発砲音が響き、バシュっとレイスが消滅した。
「ヒール、ヒール、ヒール!」
連呼してみると、ほんの少しディレイ(魔法発動の間)があってからヒールによって最後のレイスが消滅する。
「やっぱりロッドなしだと差は出るわね。それでも反則的な速さで発動するわねー。オープン」
私はそう言って、右手にディバインロッドをサラッと出しておく。最小限の力で倒せたらそれはそれで良いのだから。試せる事はその都度適当に試していくので、危険な状況は作らないでおくことに越したことない。
そして、祓魔の螺旋【スパイラルエクソシズム】まで習得はしたいところだが、どこまで出来るかは正直分からない。 回復陣【サンクトゥスサークル】と魔法壁【バリアー】を各LV5までどちらも習得しないと祓魔の螺旋【スパイラルエクソシズム】へのスキルが解放されない。
となると、合計10~20のスキルレベルアップが必要という事なので、それなりに頑張らないと習得は難しい。
「うーん……とりあえずモンハウに突っ込んでヒール連発かなぁ?」
レイスの山ならディバインロッドを装備していれば、一撃で沈むのは確認済みだし。消費MP5だしコストパフォーマンスは良い。
「突っ込むのティーナ?」
「そうだね、早口言葉に挑戦☆ 的な感じになるだろうけどね」
「舌噛まないようにね」
「気を付ける」
「準備は?」
「何時でもOKよ、アレク!」
「村の奥に、かなり居るよ」
「んじゃ、行こう」
アレクサンダーを伴い、奥へと進んでいく。
途中、何度か元村人らしき、ゾンビが数体が出来てたがさっくりと消滅させてながら目的地へと到着する。
村の中心の広場だった所に、ごちゃ混ぜにゾンビやスケルトンが徘徊し、ふよふよユラユラとレイスが飛んでいる。大体、30体位の数が居る。
「…………結構居るね」
「いける? ティーナ?」
「当然よ」
そう答えて私は、アンデッドモンスターの群れに突っ込んで行く。
ヒールを一気に連続で唱える。射程圏に居る、視界に捕らえたアンデットモンスター達を銃で狙い撃ちにする要領と同様な感じで、魔法発動を意識する。
「ヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールっ、っ! このっ!」
連続的にモンスターが呆気なく消滅していく。間に合わなかったモンスターは、ディバインロッドで殴り付けて遠ざける。
「ヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールヒールっ!!」
残りのアンデットモンスター達を更に一掃していく。
終わった時、私はゼイゼイと息を乱していた。数回の息継ぎだけで、長台詞を早口で言い切り、立ち回りまでする様な状況である。そうなるのは当たり前である。
「お疲れ様、ティーナ」
「~~っ……ある、意味っ……疲れるわ……ね、これは……」
通常のレベルと装備だと、逃げながらヒールを唱えて対応出来る数だけ相手にするのだけど、ヒール連呼でゴリ押しなので問答無用状態である。MPはそんなに減っていないが、これはこれで違う意味で辛い。
ゲームではボタン連打で済んだ魔法攻撃も、実際に唱えると言う状況だ。舌を本当に噛みそうでコワイ。早口言葉で色々練習しようかな。
応援ありがとうございます!
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