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第1章

封印されてた記憶 9

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 直ぐに国王がやって来るかと思いきや、何故か軽食と、クッキーと、ケーキなどがの乗ったティースタンドが、目の前に鎮座している。
 侍女がティーポットから、カップへと紅茶を注ぎ入れる。次に小さなケーキとスコーンを皿に乗せて私の前に音を発てずに置き、すっと下がって控える。
 ヴァルーヒン宰相は、私の隣に座り胡散臭い笑顔を浮かべている。
「レスティーナ嬢、陛下が来るまでにはもう暫く時間が掛かりますから、少し私と話ながら軽食を頂いてください。レスティーナ嬢の為に王宮料理人に力作を作らせましたから。さて、私も少し頂くとするかな」
 そう言って彼は、カップを持って口をつける。

「御心遣い、有り難う御座います」
 断るわけにもいかないので恐縮する振りをしながら、同じように紅茶を口に含む。渋味も少ないクセの無い紅茶だった。砂糖とかが無くても飲み易い。
 そっと覗き見ると、ヴァルーヒン宰相は軽食のサンドイッチに手を付けている。
「流石に陛下も頂くと言っておいただけはあるな。旨いな」
 お腹が空いていたのか、乗っていたサンドイッチの四つは消費済みであった。バクバク食べているので、とりあえず落ち着いて話を切り出すまで、私も折角だからとケーキを食べる。甘さ控えめのベイクドチーズケーキの様な、食感と味のケーキだった。見た目はショートケーキの様なクリームでデコレーションしてあったが。

 紅茶を飲み干して、ヴァルーヒン宰相は口を開く。
「さて、レスティーナ嬢。第一王子の婚約者のなって頂くために来て貰ったが、理解はされておるかな?」
「あの、私は王子様の様な、貴い方の婚約者候補も婚約者も勤まるとは思いません。宰相閣下や国王陛下が、私の様な小娘を望んだのかが、さっぱり理解出来ないのです」
 首を横に振って私は、いいえと答える。
「第一王子の婚約者には誰もがなりたがるが、レスティーナ嬢は断りたいとそう申すか?」
「婚約者になれば、色々と苦労も大変なこともあると思うのです。私……実はマナーとかが苦手なんです。ダンスレッスンも苦手ですし……」
「まぁ、マナーやダンスの習得は確かに大変だな」
「ですから、私は相応しくないのです。私などよりも侯爵家や伯爵家の御令嬢の評判を聞くと、彼女達の方が相応しいと思うのです」
 実際噂で耳に入って来るのは、御令嬢の容姿の美しさや淑女っぷりだとか、王子に恋してるだとか……だ。ギルド経由の情報だから精度は確かだろう。
 そんな肉食系女子に真っ向から喧嘩を吹っ掛ける真似だとかをしたくないのだ。恋愛拗らせ肉食系女子など手に負えるもんじゃない。メンドクサイわ。

「嫌だと言うのか」
「端的に言ってしまえばそうなりますが、私などよりも相応しい家柄の方は他にも沢山いらっしゃいます。その方々の方が、私よりも色好いご返事が貰えると言うだけですわ」
「仕方がない。では、一度だけ、王子と会って下さい。その上でもう一度返答を下さい」

 宰相が入り口に顔を向けると、タイミング良く入って来たのは、専属護衛騎士、国王陛下、王子、神官服を来た数人だった。陛下が専属護衛騎士に目をやると、彼は扉を守る騎士に何かを告げる。すると、扉の横いた騎士二人はサロンから退出する。また、侍女も全員外へ出す。
 そして、扉を締め切った。
 現在、サロンにいるのは、私、宰相、国王、王子、神官らしき者と、専属護衛騎士一人だ。アレクサンダーは誰にも見えないので、カウントしないけどね。

 宰相は椅子から腰を上げる。私もそれに習うように腰を上げて、椅子から半歩ずれて立つ。

「国王陛下、お待ちしておりました」
 ヴァルーヒン宰相は、一礼してから国王に足早に近付くと、他に聞こえないように国王に耳打ちする。

「……」
 嫌な感じだが、声を上げるわけもいかないのが歯痒い。ドレスを生地を摘まんで、私は最上級の礼をする。

「レスティーナ・トゥーア公爵令嬢よ、面を上げよ。堅苦しい挨拶は要らぬ。余が、カスト・ブルータス・バルビ・フェリクスだ。この子が第一王子のカインだ」
 顔を上げると、長身美形の王様がいる。目は琥珀色で、髪色は墨色の色彩を持っている。肌の色もそれなりに鍛えているのか、程良く陽に焼けた色合いをしている。顔と体つきだけで言うと、非常に女性にモテそうだ。
 王が視線を移した先にいるのは、王のミニチュア版とも言える王子である。そのままちっさくして、幼くして、可愛さを混ぜた感じである。
 但し、表情は不満げである。
「俺様はカイン・フェリクスだ」
 ぶっきらぼうに告げる、カイン王子に丁寧に返す。
「お初に御目にかかります、国王陛下。カイン王子様。レスティーナ・トゥーアと申します」
 しかし、カイン王子の反応は鈍くふて腐れ気味だ。

「のう、カイン、レスティーナ嬢に贈り物があるのだろう?」
 そんな王子を見かねてか、カスト国王陛下が水を向ける。
「……これをお前にやる。女はこう言うのが好きなんだろう? 受け取れ」
 突き出さたのは、ブレスレットだった。精緻な金細工の細みの腕輪だ。

 王子の出した手を引っ込めさせる訳もいかず、私は手を出す。
「あ、はい、有り難う御座います」

 受け取った瞬間、アレクサンダーが叫ぶ。
「レスティーナ! それを捨てろッ!」
「え?」
 反応する間も無く、国王が呟く声がハッキリと聞こえた。

神秘の鳥籠ミスッティックケージ

ーーーーそうして、私の、私を構築する重要な意識が封じられた。

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