冷酷な魔の物に囚われて

リコ井

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冷酷な魔の物に囚われて

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 この屋敷の家臣として仕えていた父が亡くなり、肩身狭く女中として働いていた母も亡くなり、居場所を無くした少年ーー蜜は、屋敷の離れにある物置で暮らしていた。

 生かせてもらった。
 蜜はそれだけを感謝して生きることにした。
 成長期のため、もう丈が合っていない着物を着て、裸足で庭を歩く。残飯を漁り、下水処理の仕事を押し付けられ、ろくな防寒具も無く凍えながら眠る。そんな日常。


 ーーその日は朝から騒がしかった。

 何かあるのだろうか、自分には関係のないコトだ。今日もひっそり屋敷の裏庭で1日を終えるだけなのだから。
 そこへ男数人が裏庭にやって来た。その内の1人は久しぶりにお目にかかるこの家の主人だった。蜜は深々と首を垂れた。

「やあ、蜜。是非ともキミに…、いやキミにしか頼めない仕事を、持ってきた」

「…喜んで、何でもお受けします。ご主人」

「おいで」

 そうすると連れ立った男が蜜の両側に控え、腕を捉える。まるで連行されるかの様に蜜は連れて行かれた。


 敷地内の大きく開けた場所に、鳥居がある。その鳥居の奥の道は、注連縄が何重にも巻かれ塞がれていた。さらにその奥にある社には、お札が張り巡らされている。
 以前はこんな注連縄とお札はなかった。それに、こんなおどろおどろしい雰囲気の場所ではなかった。蜜は不信ながらに主人を見た。

「ここに、魔の物を封印した」

「魔の物…?」

「出来れば手懐けたいと思っている」

 あたりを見渡すと、霊媒師のような…巫女のような…そんな方たちがかなりの人数いる。
 
 魔の物…。妖怪の類いだろうか…。本当にいるんだ、そういうの。恐ろしいな、と蜜は思った。
 主人は、珍しいペットが手に入ったとでも思っているのだろうか…。

「キミには魔の物の世話をして欲しい。」

「…なっ」

「捕らえたはいいが、その姿は我々もまだ見ていない。今あの社には封印が施してある。魔の物は逃げ出すことは出来ない。
 まずは中の様子を見てきて私に教えて欲しい。」

「…はい」

「なに、安心してくれたまえ。君の身の安全は保証するよ。何かあった時は彼らがいる」

 と主人は笑う。その後ろには火縄銃を構えた私兵たちが並んでいる。

 …なるほど。何かあった時は僕ごと撃ち殺されるのか…。

 蜜は社に向けてチカラなく一歩を踏み出した。

『…旦那様。やはり…封印したばかりでは、まだ近づくのは危険かと…』

『なぁに大丈夫大丈夫。それより私は早く自分が手に入れた物が見たいのだ』

 背後でそんな会話が聞こえたが、蜜は気にしないで…気にしない振りをして、社に向かった。

 注連縄をくぐり社に近づくと、どんどん空気が重くなってきた。呼吸も苦しい。社に着いて一旦深呼吸をし、入り口に手をかける。ゾッとした冷たさがカラダを巡った。不安が湧き上がり、チラリと主人の方を見れば「早く行け」と手を払っている。

 やめるという選択肢は選べない。意を決して社の扉を押し開ける。
 すると隙間風が吹き、蜜は吸い込まれるように社の中に引きずられた。

「わっ、っ痛…」

 そのまま転んで膝を打った。背後の扉がバタンと閉まる。

「え?」

 立ち上がり、扉を引くが開かない。鍵はないはずなのに、びくともしない。

「…」

 距離的に、主人たちが扉を閉めたわけではないだろう。これは魔の物…の仕業なのだろうか?大丈夫なのだろうか。主人たちは助けにくる気配もないが…。まだ、緊急事態というほどではないのか。

 …外の音が一切聞こえなくなった。鳥の声も風の音も、人の気配も消えた。静かだ。この社の中は、外界と壁一枚隔てて別世界のようだった。

  社は入ってすぐ地下へ続く階段が広がっていた。暗く深い階段が広がっていた。
  
「小さな建物だと思っていたけど、そういうことか…」

蜜は納得した。魔の物を閉じ込めるにしては狭い建物だと思っていた。地下は広いのだろう。そう考えながらゆっくりと階段をおりていった。
階段が終わると洞窟のよう岩が剥き出しの場所に、牢獄が並んでいた。壁の四隅に、申し訳程度に灯りがついている。薄暗く、しんとした空間。

「先刻は、居なかった人間だな。」

 蜜はギクリとした。牢獄の奥から低く冷たい声がした。暗くてよく見えないが男が1人座っていた。
 …魔の物と言うから、妖怪の類い、動物の類いだと思っていた。まさか言葉を喋る…人間だったとは。…いや、人間ではない。社に入ってから空気が重く、寒さとは違う冷気がカラダを纏わり付く。そこにいる男は人間と異なる気配を振り撒いていた。

 蜜は一呼吸置いて言葉を発した。

「…お初にお目にかかります。僕は、ご主人の命令により、これから貴方のお世話をする者です。」

「世話、だと?」

「はい。ご主人よりそう伺っております。ご主人は貴方を飼うおつもりのようです。」

「飼う、だと?私をか?…ククク…ハッハッハ。人間が。よくやってくれる。人間の罠に嵌っただけでも十分に屈辱だったが、さらに侮辱をうけるとは!」

 愉快そうに笑う男の声は怒気を含んでいて、蜜は圧倒された。薄暗い牢獄で目が慣れてきた蜜は男の姿の輪郭は捉えたが、表情までは確認できない。蜜は、ただ立ちすくんでいた。

「…お前」

「…はい」

 話しかけられ、カラダを強張らせる。

「生きてここから出たいだろ?」

「…え」

 暗闇で紅く光る物がある。…瞳だ。二つの瞳が紅く輝いている。…綺麗だ、と思った。
 その瞳はユラユラと此方に近づいてくる。

「…」

 牢の柵の前まで男はやってきて、柵の間から手を伸ばし、蜜の方に差し伸べる。蜜は、なぜだからわからないけど、男のその手を取らなければと思った。勝手に動く。その紅い瞳はとても綺麗で、目が離せない。フラフラと足を進め、差し伸べられた手を掴む。すると乱暴に掴み返され、牢の柵にぶつかる勢いで身を引き寄せられた。

「っ痛」

「生きてここから出たかったら、私の言うコトを聞け」

「…ぁ」

「この社に張られている札を全てはがせ。出来ないとは言わせない。お前がのんびりしている間に呪いをかけさせて貰った。私の命令に背くと首が締まる呪いをな。」

牢ごしに顔を近づけられる。男は2メートル以上はある長身で髪の黒さが深くて、綺麗だった。

「さあ、行ってこい」

 男は蜜を突き飛ばす。蜜は岩肌が剥き出したゴツゴツした床に倒れる。

 お札を剥がしたら、僕は主人に殺されるんじゃなかろうか。でも剥がさなければ、今この男に殺されるのだろう。

 もしもの時は、この男と僕もろとも私兵たちに撃ち殺される。…いや、目の前の男に銃が効くとは思えない。それほど彼は人離れした雰囲気をまとっていた。

 …なんだ、結局どうなっても死ぬのは僕1人じゃないか。

 生きていたいと思っていたけれど、何だか疲れてしまった。
主人から放って置かれるならまだ耐えられたが、死んでも良い人間だという現実を突きつけられてしまった訳だし。
 …もういいのかなあ。そう蜜は思った。

 俯いたまま動かない蜜を、魔の物は冷めた目で見つめた。

「!?…っぐ…は…」

 蜜は急に呼吸が出来なくなった。喉に圧迫感を感じる。
 ーー呪いをかけた。魔の物は先程そう言っていた。息が出来なくて、カラダが伸び切る。苦しさの中、男に目をやると、冷たい紅い瞳が蜜を見下ろしている。その紅は本当に綺麗で、この世で最後に見た物がそれで良かったと思った。

「っ…!?っはぁ!!っあっ…はっ」

 急に喉の圧迫が無くなり、呼吸が出来ようになる。諦めた意思とは関係なくカラダは生きようと肺に酸素を取り込む。咳き込みながら蜜は必死に呼吸した。

「ひっひっ…あっ…げほ、ひっ」

 喉を通る息と、震えた声が漏れて、悲鳴にも似た呼吸を繰り返した。

「苦しかったか?怖かったろう?」

 それは心配する声ではない。

「それが嫌ならば…札を剥がすんだ」

 脅しの声。

 でも、脅しは蜜には通じない。なぜなら、僕は、疲れてしまっているから…。

「…」

「…」

 床に倒れたまま伏せていると、男が檻から大きな右手を伸ばし蜜の髪を掴んで引き寄せた。

「あっ…」

「お前は…」

「…」

「つまらないヤツだな」

「…」

「先ほどから、一切感情が無い顔で…」

 …そうかな?毎日虚ろに生きている僕にしては、今日は驚いたり怖がったり忙しい方だ。

「何も映さない瞳だ…」

 映してるよ、その紅い瞳を。

 髪を掴んだ手が持ちげられ、蜜は膝立ちになる。それで、男の顔が近づいてきて、檻ごしに口づけをされた。

「んっ…んっ」

 乱暴に舌が入ってきて歯茎をなぞり、歯を割ってさらに侵入してくる。あまりのコトに身を引こうとも、男のチカラには敵わずに唇が離れるコトはない。

「っん、ふっ、あ…ん」

 先ほど首を締め付けられた呼吸困難とは、また違った呼吸の困難さを感じる。息を取り込もうと口を開ければ、男の舌が蜜の舌を舐めとり、男の口の中に吸われた。

「んんーんんんっ、んーー」

 舌を甘噛みし、引っ張る。このまま引きちぎられるのだろうか。噛みちぎられるのだろうか。

「ん、あっ、んっフ…んんーっ」


 男の手が急に外され、蜜は床に倒れこむ。

「ひっ、んはっ…はっ…はぁ…はぁ」

「…なんだ、そういう顔も出来るんだな」

 男は馬鹿にするように笑う。
 蜜は頬を紅葉させ、目から涙をポロポロと流していた。


「ひっ…やっ」

 男は牢の隙間から手を伸ばし蜜の足を掴んだ。そして牢の方に引き寄せた。蜜は檻にカラダをぶつけ、それ以上動くことが出来なくなっても、なお、強いチカラで牢に引き込むように引っ張られる。

「やっ…痛いっ、やっ…!!」

 男は牢越しに蜜の腰を掴んで、引っ張りあげた。蜜は腰を高く上げさせられ、バランスを取ろうと足を伸ばす。すると、肩に重心が移り前のめりになり、地面に突っ伏した。
恐怖で逃げ出そうともがくけれど、腰をガッチリ掴まれて、逃げられない。

 檻に尻が食い込むほど引き寄せられて、そこに男の腰が擦り付けられた。

「ヒッ…なにを…!」

 蜜が振り向けば、男は口の端を上げて笑っている。蜜は額から汗が流れ落ちた。

 左手で蜜の腰をガッチリ掴んだまま、右手で蜜の服を剥いでいく。

 男と蜜の間にある檻が冷たく肌にあたる。



「あっ…はっ…あっあ…うゔ」

 グチュグチュ。
 暗い地下牢に響き渡る不快な水音と蜜の声。檻越しに打ち付けらるそれに、蜜は体を支えきれず不安定になる。男の腕が蜜の腰を離さないため、蜜は両手を地面につき、尻を高くあげた状態で、牢の向こうにいる男のモノを尻に咥えていた。

「暇つぶしには、ちょうどよい。…私にこんな扱いをさせた人間にどう報復してやろうか。考えている間、お前には相手をしてもらおう」

 お前は私の世話係なんだろう?と男の冷たく言った。その声を聞きながら蜜は達した。


 

 バッチュバッチュバッチュバッチュ

「あっあっあっ…っんぁ…あっあっ」
 
 乱暴に刺し抜きを繰り返される。男は魔の物だ。人間のモノより長くて太い。蜜の小さな蕾はいまやだらしなく広がっていた。

「ひっ…や、やだ…あっあっあっあっ」

 何度か中に射精され、白濁の液が穴から垂れる。

「あっあっ…んっあっ、やっ、あっ」

 それ以上に蜜自身も達している。もう出すモノがないそこは切なく勃っている。

「あっあっ、や、もうやだっあっ…やだぁ」

 男は笑う。

「先刻の無気力より幾分マシな顔になってきたな」

「や…だ、っあ、苦しっあっあっん」

 蜜の苦しむ顔は男を興奮させる。下から突き上げるよう深く指す。もっともっと奥へ。
 2人の間には檻があり、体が密着することはない。もどかしさを感じる。根元まで挿入たいのに挿入られない。男はそのイラつきを蜜にぶつける。刺して抜いて刺して抜いて。だんだん動きを小刻みに激しくする。殴るように腰を打ち付ける。

「あっぐ…ぅぐっぐ…あっあっ」

 蜜はその激しさについていくのがやっとで、呼吸すらままならない。揺さぶられ、涙か溢れ、焦点も定まらない。
 はやく、終わって。

 苦しい。

 苦しい。

 いっそーーー殺してーーー

 
 男の動きが今までにないくらい速くなり、そして、奥深く刺され、熱い液が注がれる。

 
 ようやく解放された蜜は床に倒れ込み、痙攣を起こす。ピュッと尻の穴から白濁の液が漏れる。

「くっくっくっ、滑稽だ」

 あれだけ激しかったのに男は息ひとつ乱れていない。それがさらに蜜を惨めにさせた。

 床に倒れたまま蜜は言った。

「も、もう…殺して…」

「フッ、弱い生き物よ」

「おねがい…します…」

 疲れた。僕は…とても疲れている。

 早く休みたい。
 
「死にたい人間ほどつまらないモノはない。私の脅しが効かないからな。殺してやったら、私がお前の願いを叶えてしまうことになる。なぜ私がそんなことをしなくてはいけないのか。」

 ハアハアハア、上がる息を整えるのに必死で、蜜は男の話が頭に入ってこない。

「お前…名は?」

「…っ」

「名前を聞いている!」

 ガン!牢の隙間から足が伸びてきて蹴っ飛ばされる。

「ぐっ…。みつ…蜜と申します!」

 叫ぶように答える。

「そうか。蜜。お前を殺さない。ただし生きた心地もしないように、私の側に置いてやろう。私の『お世話係』なんだろう?私に逆らえないよう調教してやろう。私がお前の主人になってやる。逃がしはしない。」

男は楽しそうに喋っている。朦朧とする意識の中で蜜は思った。
 
 ーーーなんだ、今までの暮らしと大して変わらないな。
 
 死にもしない。ただ生きるだけ。
 構ってくれる分、この男の方が今のご主人よりまともに思えた。

 蜜は疲れていた。もう考えたくなかった。

 男の方を見やる。恐ろしいのに、その紅色の瞳だけは変わらず美しかった。





 蜜が社を出た時、外はもう暗かった。社の外にいた大勢の人間はすでにおらず、みはりの男が1人立っているだけだった。

「ちっ、なんだ出てきたか。あんまり遅いんでもう化け物に喰われちまったのだと思ったよ。中で何をしていた?化け物はどうなった?」

 乱暴に肩をど突かれて、蜜の体をはフラリと揺れる。蜜はボソリと呟く。

「もう喰われたよ…僕の新しいご主人に…」

「なんだ?」

「いえ…」

 蜜は、にこりと笑って見せた。見張りの男は怪訝な顔をした。

「お前…それは…」

 見張りの男が蜜が手にしている物に気付いた。お札だ。社のお札だ。

「剥がしたのか?何勝手なことをしてるんだ!」

 ガツンと蜜の頭を殴る。勢いで倒れた蜜の顔はそれでも笑っていた。

 見張りの男は薄気味悪く思った。蜜の後ろに紅の光りが見えてハッとする。

「うわあっ、ば、バケモ」

 バシュッ。見張りの男の首が飛んだ。

「行くぞ、蜜。人間に復讐をする」

「はい、ご主人」
 

 蜜は立ち上がり男の後をついて行った。
 それでいいと思った。
 

 今宵は新月。
 闇は深い。
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感想 2

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みんなの感想(2件)

おかん
2021.09.25 おかん

まともな話が読めてよかったです。

面白かったの続編希望致します。

リコ井
2021.09.25 リコ井

感想ありがとうございます。励みになります!

解除
臨猫
2021.09.25 臨猫

とても面白かったです!!
続編を期待する一人になりました!!

リコ井
2021.09.25 リコ井

感想ありがとうございます。励みになります!

解除

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