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1巻
1-2
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「すみません。ちょっと……安心しすぎました。泣くのは卑怯だって……わかってますから」
「確かに卑怯だ。けど、解決するまえに泣かなかったことは褒めてやる。それに、自分のことを棚に上げておれは碓井さんを批難したし、フィフティフィフティってことでどうだ?」
深津紀は涙が止まらないまま笑ってしまう。
「泣き笑いも卑怯だな」
と、その言葉は独り言のように聞こえ、それから――
「弓月工業はこれで安心して碓井さんにやれる。失敗がなければ成長もない。営業歴一年生にしては上出来だった。意識してやってないだろうけど、強みだな」
と、城藤は吐息混じりで笑う。ほっとして見えるのは、城藤もまた気が張っていたのだろうか。
深津紀にとっては思いがけない言葉で――きっと褒め言葉に違いなく、涙が止まってしまうほど驚いてしまう。いや、胸がいっぱいになるこの感覚は感動しているのかもしれない。手厳しく冷ややかに見えて、城藤はリーダーらしくきちんと部下を見守っている。
城藤は鉄パイプに休めていた片手を上げると、そう乱れてもいない髪を掻きあげながら、煙草を持ったもう片方の手を口もとに持っていく。
今日はこの人についてはじめて知ることばかりで、ふと発想が飛ぶ。
例えば、寝起きのくしゃっとした髪とか、ソファに寄りかかってくつろぐ時間とか、仕事を離れたときこの人はどんな顔を見せるのだろう。部下のことをきちんと考えられる人だから、プライベートで傍にいる人のことはもっと大切に見守るはずで――
「城藤リーダーってカノジョいないんですか」
気づけば不躾に訊ねていた。
ふっと城藤は煙を混じらせて息を吐き、出し抜けだな、と呆れたように首を横に振る。
「面倒だ。デートに誘ったり、人の機嫌に振りまわされたり」
「……もったいないですね」
「はっ。褒め言葉として受けとっておく」
城藤は軽く肩をすくめ、わずかに口を緩めて笑む。その顔も思わずときめいてしまいそうなほど魅力的だ。
やっぱりもったいない。
――という、城藤隆州を見る目が変わった日から一カ月をすぎた五月の終わり、深津紀のなかで確かなビジョンが完成しつつある。仕事ではなく、プライベートのことだ。
仕事では、弓月工業の一件で少し営業に対しての度胸が据わった気はする。入れ替え提案も纏まり、納入日も決まり、城藤の手を借りたとはいえ大きな取引をひとつ終えた。
「深津紀、なんか〝やった!〟って感じの顔してるな」
会社近くのパスタ店で、正面に座った石川誠人が、ランチを食べ終えてしげしげと深津紀を見つめる。
「ふふふ、わかる?」
笑みが堪えきれないといったように深津紀のくちびるが弧を描くと――
「気持ち悪いな」
と、誠人は身も蓋もない言葉であしらった。
昼食の待ち合わせをするにあたり、誠人には先に来てもらって席取りを頼んでいた。おれは召使いか、と冗談ぽく文句を言いながらも請け負ってくれた誠人は、深津紀より三つ年上だ。帝央大学の大学院生で微生物の研究をしている。
誠人との縁は、高校生のときに家庭教師をしてもらったことから始まって、途切れることなくいまに続いている。いよいよ大学受験となった際、ひと昔前とすっかり変わった入試システムや手続きに戸惑う母を見兼ねたのだろう、誠人は家庭教師という枠を超えて母のかわりに受験の手続きを手伝ってくれた。
第一志望の合格は予想外のトラブルもあって叶わず、恩返しはできていない。けれど誠人は深津紀を励まして、次へと奮い立たせてくれた。受験でつまずいたことを深津紀が引きずらないよう、大学生になってからも度々連絡をするなど気にかけてくれたのだ。
こうなると恋に発展してもおかしくないのに、そうならないのはあまりに自然体でいられるからだと思う。深津紀と同じひとりっ子の誠人は、『深津紀みたいなとぼけた妹がいたら人生を楽しめそうだな』と言ったことがある。それまで兄妹という関係はぴんと来なかったけれど、誠人の言葉に合点がいって、深津紀も兄妹みたいな関係を居心地良く楽しんでいる。もっとも、〝とぼけた〟という漠然とした評価には納得していない。
「失礼な言い方。いままでで一番おっきな仕事が成立したんだよ。まだ納品が残ってるけど、そのときは付き添うだけだし、やったーって感じ」
「余裕ありすぎて失敗するなよ」
「余裕なんて無理。営業は区切りがつくけど、メンテナンスやフォローに終わりはないし」
誠人はおもむろにテーブルに左の肘をついて、手のひらに顎をのせるとため息をついた。
「おれがやってることも終わりがないんだよなぁ。けど、つまらないわけじゃない。結果が出なくて投げだしたくなるときはあっても」
「わかる。やっとできた提案書がひと目で却下って言われて、丸ごとゴミ箱に移動されて削除されたとき、そんな気持ちになる」
深津紀が回想しながら恨みがましく言うと、誠人は伝染したようにしかめ面になった。
「それ、論文で同じ経験あるな」
「気が合う」
「こんなことで気が合ってもなんにもならないだろ」
「でも、独りで落ちこまなくてすむ。自分だけじゃないんだってわかると、しょうがない、がんばろうって気になるでしょ」
「まあな。深津紀の上司……城藤って言ったっけ、相変わらずひどいのか」
誠人は研究に没頭して家に帰らない日もあり、この一カ月は会う機会がなかった。以前、深津紀は城藤のことを何度か話題にしたけれど、その際にろくな人間ではないと印象づけてしまったようだ。
「ひどいんじゃなくて、容赦ない、ね。べつにハラスメント上司ってわけじゃない。まともに仕事しないとか、できない上司から言われるんだったら腹が立つかもしれないけど、城藤リーダーは実力あるから。年収だって一千万を超えてるって話」
「は? 城藤さんていくつって言ってたっけ?」
「誠人くんより三つ上、今年三十歳。うちの会社、そういう人がごろごろいるって言ったでしょ。だから、お金を貯めて実力を養って、独立とか転職とか円満に外に出ていく人もいるみたい」
羨ましいとばかりに誠人は首を横に振った。
「成果報酬がそんだけあるなら容赦なくなるわけだよなぁ。人の世話なんてやってられないだろうし」
「それがそうでもない。ちゃんと時間を割いてくれるし、面倒も見てくれる。結局はだれのどんな成績でも会社にかかってくることだし」
その言葉に何やら引っかかったのか、誠人はテーブルから肘をおろして椅子に寄りかかると、まるで周囲のオーラから答えを見いだそうとするかのように深津紀を観察した。
「……なんか、いいことあったのか。発言が前向きだらけだけど」
「そう? 余裕はないけど、本当に仕事に慣れてきたのかも」
「ふーん。で、一番の目的は達成できそうなのか」
「んー……どうかなぁ……」
言おうか言うまいか。いや、打ち明けるのは実行してからだ、とそんな迷いがあって曖昧に応じながら、深津紀は何気なく窓のほうを見やる。直後、目を丸くした。
深津紀と同じように外食なのか、今日は専らデスクワークだった城藤が、すぐそこの歩道を歩いている。
深津紀があまりに驚いて、その感情がテレパシーとなって伝わったかのように城藤がこっちを見やる。果たして外から深津紀を捉えられたのか、その視線は誠人のほうへと流れてまた深津紀へと戻り――いや、通りすぎて正面へと向き直った。目が合っても平然としているのはさすがだが、少し腹立たしい気もする。完全に無視された気分だ。
「どうしたんだ、深津紀?」
誠人に声をかけられ、深津紀はハッとしながら正面を向いた。
「いま会社の人が通りすぎたからちょっとびっくりしただけ。なんの話をしてたっけ?」
「だから、深津紀のいちばんの目的、結婚相手は見つかったのかって訊いたんだ」
「候補選定中」
「深津紀の望みどおりになったとして、社員が使いものになるまえに結婚するって、会社としてはどうなんだろうな」
「大丈夫。結婚したからってやめるわけじゃないし、出産とか子育てとか、休んでもちゃんと復帰できるように発言力のある人を選ぶから」
「……ってどんな奴なんだよ。すっげーおじさんと結婚するつもりか」
「年は近いほうがいいけど……誠人くん、悪いけど、いまそこを通った会社の人を追いかけるから、わたしのぶんも払っててくれる? おつりはおごり。席取りしてくれたから」
深津紀は言いながら、バッグから財布を取って二千円をテーブルに置く。
「何急いでんだ?」
「善は急げ! じゃあね!」
深津紀は席を立つと、呆れている誠人に手を振って店を出た。
TDブローカーはパスタ店と同じ道沿いにあり、税理士事務所のほかいくつか小ぢんまりした会社を経て、すぐそこと言えるくらいに近い。奥に長い社屋は四階建てで、この辺りでは巨大に映り、ひと際目立つ。
深津紀が歩道に出ると、城藤は会社の敷地沿いに差しかかっていた。
普段、深津紀は社員食堂を利用する。たまたま外食して、しかも城藤のことを話していたときに本人を見かけたのは、偶然ではなく深津紀にとってきっと後押しだ。
小走りになるくらい深津紀は急いだのに、会社のエントランスに着いたときにはすでに城藤を見失っていた。短い階段をのぼり、自動ドアを抜ける。
広めに空間を設けられたロビーは、会社のイメージカラー、クリーム色と紫色を基調としていてモダンだ。正面にある受付用カウンターの背後の壁には、大きく社名とロゴをデザインしたプレートが嵌めこまれている。
通常、受付は無人で、TDブローカーオリジナルの人工知能ロボットが迎える。顔認証が作動するため社員証をかざす手間は省け、立ち止まる必要もなく深津紀は受付を横切った。
建物の隅にあるエレベーターホールに行くと、数人が待つなかに城藤の姿はなかった。追いかけていた距離が少しも縮められないままひと足遅れたのかもしれない。もう営業部に戻ったとしたらまったくタイミングを逃してしまった。
落胆していると、エレベーターではなく、もっと向こうの階段スペースへと入っていく人影を見かけた。途端、もしかしたら、とぴんと来て深津紀は階段に向かう。
二階に上がり、深津紀は階段の隣の自動販売機が並ぶオープンスペースに入った。向かい側は社員食堂だ。隣の艶消しガラスで仕切られたところは喫煙スペースで、だれだか判別はできないけれど、いま人影が見えている。
煙草を吸う人は食後に吸いたくなるという。時勢に沿って社内には喫煙スペースが二カ所しか設けられていない。帰ってきた城藤が一服をしにここに来た可能性はある。
昼休みが終わるまで十分を切り、幸いにしてここにはだれもいない。艶消しガラスにそっと近づいた。すると、なかから声がして、深津紀は耳を澄ませた。
『……はどうするんだ? 決めたのか』
『決めてない。っていうよりも考えてないな』
前者の声の主はわからないが、後者の声はこもって聞こえているものの、淡々とした喋り方と低めの声のトーンが城藤に似ている。なんの話かわかるはずもなく、聞きとるには自分の呼吸音さえも邪魔になる。深津紀はそのまま息を潜めた。
『普通なら、そもそも考える必要ないのに、おまえも大変だな』
『べつに大変じゃない。おれは自由にしてるし、任せられた兄のほうがよっぽど大変だ』
『確かに城藤は自由にやってるよな』
やっぱり城藤だった。相手の声はうらやましそうで、城藤の笑い声が短く響いた。
『平尾、自由をうらやましがるって、おまえのほうこそ子供が生まれて大変なのか? 欲しいって言ってたし、楽しんでるんじゃないのか』
『うれしいけどなぁ、扱いに戸惑ってる。人間を育てるのってさ、修正は難しいし、おれが扱ってるマシンとは違うからな』
『へぇ、真面目に父親やってるな』
『意外じゃないだろ』
心外だと言わんばかりの不満が声音に表れている。会話の相手はきっと平尾雅己で、確か城藤と同期だ。微生物センサ事業本部で営業部に所属している。
『そのまえに、平尾が結婚して子供を持つって想像がつかなかった』
『なんだよ、それ。おまえはどうするんだよ、跡継ぎはいらないのか? 親からせっつかれてるんだろ』
『子供はともかく、女の面倒は見きれない』
『ははっ。よっぽど束縛されたくないみたいだな……』
言いかけていた平尾は着信音にさえぎられて言葉を切った。電話に応答したのは平尾の声だ。続いて、先に行く、と聞こえ、スライドドアの静かな開閉音がしたかと思うと、廊下に背を向けた深津紀の後ろで足音が通りすぎた。
その後、ほかに声はせず、喫煙スペースはふたりきりだったのか。物音を立てづらい。深津紀がじっとして様子を窺っているなか、平尾は立ち去ったのだろう、足音がだんだんと遠ざかる。
「何してるんだ、碓井さん、こんなところでこそこそと」
平尾の足音に気を取られていた。突然、呼びかけられて、それが城藤の声だと判別するまでもなくわかって、深津紀は飛びあがりそうなくらい驚いた。たまたま帰りかけたところで深津紀に気づいたのか、『こそこそと』とわざわざ付け加えたのは城藤らしいと思う。
パッと、とはいかず、おそるおそるといったふうに、深津紀はゆっくりと振り返った。
城藤は廊下と喫煙スペースの境目に立って、深津紀の逃げ道を断っている。いや、何も逃げる必要はない。それどころか捕まえようとしていたのだから、願ったり叶ったりの状況のはず。目が合うと、城藤はシャープでいて強固さの覗く顎を挑むようにわずかにしゃくった。
「あ、いえ……お茶しようと思って……こそこそはしてません」
城藤はゆっくりと視線をおろしていく。
「その『お茶』はどこなんだ?」
バッグを肩にかけただけで深津紀が手ぶらなことを確認すると、城藤は嫌味ったらしく問うた。
「じゃなくて、言い換えます。その……城藤リーダーとお茶したいと思って」
率直に――かどうかはわからないけれど、深津紀が言ったことはどう受けとめられたのか、城藤の眉が片方だけ跳ねあがる。
「いまパスタ店でカレシと食べてお茶してきたんだろう。それともおれの見間違いか?」
「カレシとは違います。高校時代の家庭教師で、友だちとか兄妹みたいなものです。それに、お茶ではなく昼食でした」
「そんなことはどうでもいい。お茶するには時間がないだろう」
自分で話を振っておきながら、城藤はどうでもいいと言う。いかに深津紀に興味がないか、その証明にほかならない。いま素通りせずに、嫌味であろうと声をかけられたぶんだけ、まだましだ。城藤にとって深津紀の存在感はゼロではない。果たして、それがなぐさめになるのか。
脱いだジャケットを腕にかけた城藤は、左の肘を折り、腕を軽く上げるとシャツの袖を少しずらして時計を覗いた。
「あと三分だ」
深津紀に午後の業務開始までの時間を告げると、城藤はさっさと体の向きを変えた。
「あ、待ってください!」
深津紀は慌てて追いかけるも、城藤は振り返ったり立ち止まったりすることもない。営業部はすぐ上のフロアだ。エレベーターを使わず階段スペースに入っていく。
本当に素っ気ない。――というより、この場合は無視だ。同じ場所に行くわけで、同伴してもいい場面なのに。
「城藤リーダー、いまは時間がないので帰りにいいですか」
深津紀は物怖じするほうではないが、ずうずうしい性格でもない。だから『こそこそと』することもある。いま勇気を出さずともすんなり言えたのは、無視されてかちんときたことの反動だ。
「なぜ碓井さんとお茶しなくちゃならないんだ」
そのうえ無下にされれば意地を張りたくなる。
「このまえ缶コーヒーをおごってもらったし、面倒かけてしまったので、そのお礼です」
「仕事だ。それに缶コーヒーくらいなんだ、微々たる出費だ」
「ということは、年収一千万を超えてるって本当なんですね」
あのときのことを出費とビジネスライクに片付けられ、腹いせ紛れで不躾に言い返したけれど、どうして腹が立つのだろう。あの日は仕事中に休憩したようなもので、缶コーヒーは労いにすぎないのに。
「年収はあとからついてくるものだ。羨むまえに早く一人前になれ」
超えているかどうか、はっきりとは答えてもらえなかったけれど、城藤の言うことはいちいちもっともで、煽るのも難しい。
「そうなるつもりでこの会社に入りました」
深津紀が答えている間に、ふたりは三階の営業部フロアにたどり着いた。
「城藤リーダー! 得する話、聞きたくありませんか!」
階段スペースを出るまえにと、深津紀は叫ぶように呼びとめた。
城藤の足がぴたりと止まる。後ろを振り返って、ようやく深津紀は城藤の視界に入りこんだ。
「得する話? おれはいま以上に得することにこだわってないけどな」
裏を返さずとも充実していると言っている。本当に羨ましいくらい自信たっぷりだ。
「きっとあります。話を聞いても損はしないと思います」
城藤は、なんの勧誘だ、と呆れたように薄笑いをして――
「セクハラとかパワハラとか、まさか罠にかけようって気じゃないだろうな」
と、深津紀が驚くようなことを付け加えた。
「もしかして、そういうことがあったんですか」
「世の中、真っ当な奴ばかりじゃない。それくらい、わかってるだろう」
「わかってます。でも罠じゃありません。話しても気に入らなかったらスルーしてもらっていいし」
「お茶するだけじゃないのか」
その言い方から少し譲歩した気配を感じて、深津紀は急いで口を開いた。
「お茶するのにお喋りは付きものです。戦艦のアニメの話も聞きたいから……でも、本題は人に聞かれたくないので……あ、邪魔が入らなければ会社ででもいいです。残業のあとに。だめですか」
早口で捲し立てた言葉は――
「考えておく」
という、どっちともつかない返事で放り出された。
曖昧でも可能性を絶たれるよりはずっとましだ、と深津紀は自分に言い聞かせた。
午後から外回りだった深津紀が会社に戻ったのは、終業時間の夜六時を十分ほどすぎた頃だった。いつものとおり、外出先から戻った人も含めて多くが残業している。真っ先に見た城藤は、何やら資料と照合しながらノートパソコンの画面に見入っていた。
「お疲れさまです」
だれにともなく向けると、輪唱のようにあちこちから同じ言葉が返ってきた。肝心の城藤は目線だけ上げて、深津紀の帰りを認識したのか否か、少なくとも口もとは動き、応じたのは確かだ。
考えてみれば、今日は金曜日で週報やら来週の計画やら、月曜日のミーティングに備えて整理しなければならない。城藤は自分の営業に加えて、リーダーとして部下たちについてもチェックしなければならず、忙しい日だ。
考えておく、と返事を濁されたのはそんな忙しさのせいかもしれない。――と思うのは、そうあってほしいという深津紀の願望だろう。
お茶を口実にして城藤を誘ったことは、営業に出てしばらく忘れていたのに、帰るときになってどきどきした気分が戻ってきていた。実を言えば、城藤を誘いだすなど、大それたことをしたとあとから実感が湧いて、営業先を訪ねるまでうまく仕事に集中できていなかった。いまその気持ちがぶり返して、報告書をきちんと作成できるか怪しくなってきた。
だめだめ――と、深津紀は椅子に座りながら小さく頭を横に振って、よけいな思考を払った。こんなことでは、もし『得する話』が受け入れられたとき、オンオフを切り替えられないで失態を晒してしまう。
まだ何も始まっていない。ここで集中できなければ、先が思いやられる。自分を諭し、深津紀はパソコンを開いた。
日報を週報に纏めていく。すると、日報作成時には見えなかったことが見えてくることもある。例えば、営業先を訪問中に担当者が漏らしたひと言によって、メインとは別の製品も提供できることに気づき、セットで案内できそうだと考え直すきっかけが見つかる、といったことだ。取引先との会話は、訪問にしろ電話にしろ、いちいちメモに書き溜める。それが役立つこともあるのだ。
なんとか報告書が仕上がり、そして来週やることも決まった。ほっとひと息つこうとした間際、人影を感じたと同時に、デスクの隅が指の先で小突かれた。深津紀は、その指先から腕をたどって視線を上げていく。男っぽく形の整った指先を見て直感したとおり、城藤がいた。
「碓井さん、残業可能なら、槙村製作所の書類と週報を持って会議室に来てほしい。三〇三だ」
「だ、大丈夫です。行きます」
「煙草休憩してから行く。五分後だ」
「はい」
第一声はつかえたし、短い返事は声がうわずっている。城藤はうなずいただけで、咎めるとか呆れるとか特段の反応はせず、深津紀はほっとした。
約束の時間までの五分、仕事が手につかないのはわかりきっている。深津紀は早々と営業部フロアにある会議室スペースに行き、念のためノックをして三〇三号室に入った。少人数用の会議室で、白いテーブルの上に書類を置いて椅子に座った。
そわそわして落ち着かない。何から話そう。話すことは決まっているけれど、話す順番はまったくシミュレーションできていなかった。
〝得する話〟を実行に移すには、失敗を覚悟して城藤とふたりきりで話すという、無謀な最初の第一歩を踏まなければならない。先月から考えていたことだが、この一カ月、ためらいが邪魔をして、機会も見いだせなかった。昼間、城藤の視線が深津紀を素通りしたことで衝動的に動いたけれど、本当に機会が得られたのは、そのあとの盗み聞きのおかげだ。最初の一歩はクリアした。問題はこの先だ。
会話の糸口が見つからないままドアのノック音が響く。深津紀は体がすくみ、返事ができないうちにドアは開いた。
入ってきた城藤から目を離せず、前の席に座るのを見守った。会議室の椅子は肘掛けがないせいか背中をもたれることなく、城藤は軽く手を組み、腕をテーブルにのせた。わずかでも前のめりになることでふたりの距離は詰まり、深津紀の気分はさながら狼に追いつめられた羊だ。
「槙村製作所はどうだ」
深津紀をじっと見て、城藤はいつものとおり事務的に報告を促した。
緊張していた深津紀には一瞬、城藤が外国語を喋っているように聞こえた。つまり、まったく意味が把握できなかった。すぐに反応しなかったことで待ちかねたのか、城藤は片手を伸ばして深津紀の手もとから書類を奪う。それに目を通す城藤を見ながら、深津紀は狐につままれたような気分になった。
「槙村については碓井さんが思うとおり、修正案を出すのが妥当だ。見積もりが終わったら、提案のまえに見せてくれ」
そこまで言われると、ここに呼びだされたのは昼休みの誘いを承諾してくれたのではなく、本当に槙村製作所のことを話したかったのかもしれなくて、深津紀の自意識過剰ぶりが露呈する。
「はい」
安堵と落胆がせめぎ合い、どうにかそれを隠そうとしたのに、返事をした声は自分の耳にも陰って聞こえた。返ってきた書類を手もとに引き寄せたときだ。
「それで、得する話ってなんだ。お茶は出ないらしいが」
城藤はまた手を組んで、皮肉を忘れず、出し抜けに問いかけた。
いや、もともと深津紀が誘ったことだ。出し抜けではなく、城藤は深津紀に応じてくれたのだ。
最初で最後のチャンス。そんな言葉が浮かび、どこから始めるか決められないまま口を開いて出てきたのは――
「子供が欲しくないですか」
という、せっかちな言葉だった。
さすがに城藤にとっても不意打ちだろう。彫像のように固まって見え、深津紀をますます緊張させる。言ってしまったことをなかったことにはできないし、返事も聞かないまま撤回するには、内容にかかわらず城藤は無責任だと言いそうだ。
やがて、無駄に見目のいい彫像は、たったいま命が宿ったようにすーっと息を呑み、そして吐いた。
「どこがどうなったらそういう飛躍した話になるのか、まったく理解に苦しむ」
驚きつつも動揺することなく軽く往なしたのは、城藤ならではだろう。
「……自分でも出だしを間違ったって思います。でも、繋がりというか、きっかけはあるんです」
「どんな?」
呆れきってはいても、聞く耳をふさいだわけではない。それとも、おざなりの礼儀として訊ねているのか、城藤は首をひねりながら促した。
「その……昼休み、盗み聞きしたので……。女の人は面倒だけど、子供は欲しいって。だから、そこから攻めたほうがいいって、わたしの脳が勝手に考えたのかもしれません」
深津紀の他人事のような言いぶりに、はっ、と城藤はため息混じりの笑みで応じた。
「おれの言葉を正確に捉えてない。子供を欲しいと自発的に言った憶えはない。それで営業やっていけるのか」
「都合よく解釈して、ずうずうしく入りこまないと営業はやっていけません。……と思います」
薄く笑った城藤の笑みは、純粋におもしろがっている。
「なるほど。その手で来るわけだ。おれが見込んだだけある」
深津紀は意外な言葉を受けて目を丸くした。
「確かに卑怯だ。けど、解決するまえに泣かなかったことは褒めてやる。それに、自分のことを棚に上げておれは碓井さんを批難したし、フィフティフィフティってことでどうだ?」
深津紀は涙が止まらないまま笑ってしまう。
「泣き笑いも卑怯だな」
と、その言葉は独り言のように聞こえ、それから――
「弓月工業はこれで安心して碓井さんにやれる。失敗がなければ成長もない。営業歴一年生にしては上出来だった。意識してやってないだろうけど、強みだな」
と、城藤は吐息混じりで笑う。ほっとして見えるのは、城藤もまた気が張っていたのだろうか。
深津紀にとっては思いがけない言葉で――きっと褒め言葉に違いなく、涙が止まってしまうほど驚いてしまう。いや、胸がいっぱいになるこの感覚は感動しているのかもしれない。手厳しく冷ややかに見えて、城藤はリーダーらしくきちんと部下を見守っている。
城藤は鉄パイプに休めていた片手を上げると、そう乱れてもいない髪を掻きあげながら、煙草を持ったもう片方の手を口もとに持っていく。
今日はこの人についてはじめて知ることばかりで、ふと発想が飛ぶ。
例えば、寝起きのくしゃっとした髪とか、ソファに寄りかかってくつろぐ時間とか、仕事を離れたときこの人はどんな顔を見せるのだろう。部下のことをきちんと考えられる人だから、プライベートで傍にいる人のことはもっと大切に見守るはずで――
「城藤リーダーってカノジョいないんですか」
気づけば不躾に訊ねていた。
ふっと城藤は煙を混じらせて息を吐き、出し抜けだな、と呆れたように首を横に振る。
「面倒だ。デートに誘ったり、人の機嫌に振りまわされたり」
「……もったいないですね」
「はっ。褒め言葉として受けとっておく」
城藤は軽く肩をすくめ、わずかに口を緩めて笑む。その顔も思わずときめいてしまいそうなほど魅力的だ。
やっぱりもったいない。
――という、城藤隆州を見る目が変わった日から一カ月をすぎた五月の終わり、深津紀のなかで確かなビジョンが完成しつつある。仕事ではなく、プライベートのことだ。
仕事では、弓月工業の一件で少し営業に対しての度胸が据わった気はする。入れ替え提案も纏まり、納入日も決まり、城藤の手を借りたとはいえ大きな取引をひとつ終えた。
「深津紀、なんか〝やった!〟って感じの顔してるな」
会社近くのパスタ店で、正面に座った石川誠人が、ランチを食べ終えてしげしげと深津紀を見つめる。
「ふふふ、わかる?」
笑みが堪えきれないといったように深津紀のくちびるが弧を描くと――
「気持ち悪いな」
と、誠人は身も蓋もない言葉であしらった。
昼食の待ち合わせをするにあたり、誠人には先に来てもらって席取りを頼んでいた。おれは召使いか、と冗談ぽく文句を言いながらも請け負ってくれた誠人は、深津紀より三つ年上だ。帝央大学の大学院生で微生物の研究をしている。
誠人との縁は、高校生のときに家庭教師をしてもらったことから始まって、途切れることなくいまに続いている。いよいよ大学受験となった際、ひと昔前とすっかり変わった入試システムや手続きに戸惑う母を見兼ねたのだろう、誠人は家庭教師という枠を超えて母のかわりに受験の手続きを手伝ってくれた。
第一志望の合格は予想外のトラブルもあって叶わず、恩返しはできていない。けれど誠人は深津紀を励まして、次へと奮い立たせてくれた。受験でつまずいたことを深津紀が引きずらないよう、大学生になってからも度々連絡をするなど気にかけてくれたのだ。
こうなると恋に発展してもおかしくないのに、そうならないのはあまりに自然体でいられるからだと思う。深津紀と同じひとりっ子の誠人は、『深津紀みたいなとぼけた妹がいたら人生を楽しめそうだな』と言ったことがある。それまで兄妹という関係はぴんと来なかったけれど、誠人の言葉に合点がいって、深津紀も兄妹みたいな関係を居心地良く楽しんでいる。もっとも、〝とぼけた〟という漠然とした評価には納得していない。
「失礼な言い方。いままでで一番おっきな仕事が成立したんだよ。まだ納品が残ってるけど、そのときは付き添うだけだし、やったーって感じ」
「余裕ありすぎて失敗するなよ」
「余裕なんて無理。営業は区切りがつくけど、メンテナンスやフォローに終わりはないし」
誠人はおもむろにテーブルに左の肘をついて、手のひらに顎をのせるとため息をついた。
「おれがやってることも終わりがないんだよなぁ。けど、つまらないわけじゃない。結果が出なくて投げだしたくなるときはあっても」
「わかる。やっとできた提案書がひと目で却下って言われて、丸ごとゴミ箱に移動されて削除されたとき、そんな気持ちになる」
深津紀が回想しながら恨みがましく言うと、誠人は伝染したようにしかめ面になった。
「それ、論文で同じ経験あるな」
「気が合う」
「こんなことで気が合ってもなんにもならないだろ」
「でも、独りで落ちこまなくてすむ。自分だけじゃないんだってわかると、しょうがない、がんばろうって気になるでしょ」
「まあな。深津紀の上司……城藤って言ったっけ、相変わらずひどいのか」
誠人は研究に没頭して家に帰らない日もあり、この一カ月は会う機会がなかった。以前、深津紀は城藤のことを何度か話題にしたけれど、その際にろくな人間ではないと印象づけてしまったようだ。
「ひどいんじゃなくて、容赦ない、ね。べつにハラスメント上司ってわけじゃない。まともに仕事しないとか、できない上司から言われるんだったら腹が立つかもしれないけど、城藤リーダーは実力あるから。年収だって一千万を超えてるって話」
「は? 城藤さんていくつって言ってたっけ?」
「誠人くんより三つ上、今年三十歳。うちの会社、そういう人がごろごろいるって言ったでしょ。だから、お金を貯めて実力を養って、独立とか転職とか円満に外に出ていく人もいるみたい」
羨ましいとばかりに誠人は首を横に振った。
「成果報酬がそんだけあるなら容赦なくなるわけだよなぁ。人の世話なんてやってられないだろうし」
「それがそうでもない。ちゃんと時間を割いてくれるし、面倒も見てくれる。結局はだれのどんな成績でも会社にかかってくることだし」
その言葉に何やら引っかかったのか、誠人はテーブルから肘をおろして椅子に寄りかかると、まるで周囲のオーラから答えを見いだそうとするかのように深津紀を観察した。
「……なんか、いいことあったのか。発言が前向きだらけだけど」
「そう? 余裕はないけど、本当に仕事に慣れてきたのかも」
「ふーん。で、一番の目的は達成できそうなのか」
「んー……どうかなぁ……」
言おうか言うまいか。いや、打ち明けるのは実行してからだ、とそんな迷いがあって曖昧に応じながら、深津紀は何気なく窓のほうを見やる。直後、目を丸くした。
深津紀と同じように外食なのか、今日は専らデスクワークだった城藤が、すぐそこの歩道を歩いている。
深津紀があまりに驚いて、その感情がテレパシーとなって伝わったかのように城藤がこっちを見やる。果たして外から深津紀を捉えられたのか、その視線は誠人のほうへと流れてまた深津紀へと戻り――いや、通りすぎて正面へと向き直った。目が合っても平然としているのはさすがだが、少し腹立たしい気もする。完全に無視された気分だ。
「どうしたんだ、深津紀?」
誠人に声をかけられ、深津紀はハッとしながら正面を向いた。
「いま会社の人が通りすぎたからちょっとびっくりしただけ。なんの話をしてたっけ?」
「だから、深津紀のいちばんの目的、結婚相手は見つかったのかって訊いたんだ」
「候補選定中」
「深津紀の望みどおりになったとして、社員が使いものになるまえに結婚するって、会社としてはどうなんだろうな」
「大丈夫。結婚したからってやめるわけじゃないし、出産とか子育てとか、休んでもちゃんと復帰できるように発言力のある人を選ぶから」
「……ってどんな奴なんだよ。すっげーおじさんと結婚するつもりか」
「年は近いほうがいいけど……誠人くん、悪いけど、いまそこを通った会社の人を追いかけるから、わたしのぶんも払っててくれる? おつりはおごり。席取りしてくれたから」
深津紀は言いながら、バッグから財布を取って二千円をテーブルに置く。
「何急いでんだ?」
「善は急げ! じゃあね!」
深津紀は席を立つと、呆れている誠人に手を振って店を出た。
TDブローカーはパスタ店と同じ道沿いにあり、税理士事務所のほかいくつか小ぢんまりした会社を経て、すぐそこと言えるくらいに近い。奥に長い社屋は四階建てで、この辺りでは巨大に映り、ひと際目立つ。
深津紀が歩道に出ると、城藤は会社の敷地沿いに差しかかっていた。
普段、深津紀は社員食堂を利用する。たまたま外食して、しかも城藤のことを話していたときに本人を見かけたのは、偶然ではなく深津紀にとってきっと後押しだ。
小走りになるくらい深津紀は急いだのに、会社のエントランスに着いたときにはすでに城藤を見失っていた。短い階段をのぼり、自動ドアを抜ける。
広めに空間を設けられたロビーは、会社のイメージカラー、クリーム色と紫色を基調としていてモダンだ。正面にある受付用カウンターの背後の壁には、大きく社名とロゴをデザインしたプレートが嵌めこまれている。
通常、受付は無人で、TDブローカーオリジナルの人工知能ロボットが迎える。顔認証が作動するため社員証をかざす手間は省け、立ち止まる必要もなく深津紀は受付を横切った。
建物の隅にあるエレベーターホールに行くと、数人が待つなかに城藤の姿はなかった。追いかけていた距離が少しも縮められないままひと足遅れたのかもしれない。もう営業部に戻ったとしたらまったくタイミングを逃してしまった。
落胆していると、エレベーターではなく、もっと向こうの階段スペースへと入っていく人影を見かけた。途端、もしかしたら、とぴんと来て深津紀は階段に向かう。
二階に上がり、深津紀は階段の隣の自動販売機が並ぶオープンスペースに入った。向かい側は社員食堂だ。隣の艶消しガラスで仕切られたところは喫煙スペースで、だれだか判別はできないけれど、いま人影が見えている。
煙草を吸う人は食後に吸いたくなるという。時勢に沿って社内には喫煙スペースが二カ所しか設けられていない。帰ってきた城藤が一服をしにここに来た可能性はある。
昼休みが終わるまで十分を切り、幸いにしてここにはだれもいない。艶消しガラスにそっと近づいた。すると、なかから声がして、深津紀は耳を澄ませた。
『……はどうするんだ? 決めたのか』
『決めてない。っていうよりも考えてないな』
前者の声の主はわからないが、後者の声はこもって聞こえているものの、淡々とした喋り方と低めの声のトーンが城藤に似ている。なんの話かわかるはずもなく、聞きとるには自分の呼吸音さえも邪魔になる。深津紀はそのまま息を潜めた。
『普通なら、そもそも考える必要ないのに、おまえも大変だな』
『べつに大変じゃない。おれは自由にしてるし、任せられた兄のほうがよっぽど大変だ』
『確かに城藤は自由にやってるよな』
やっぱり城藤だった。相手の声はうらやましそうで、城藤の笑い声が短く響いた。
『平尾、自由をうらやましがるって、おまえのほうこそ子供が生まれて大変なのか? 欲しいって言ってたし、楽しんでるんじゃないのか』
『うれしいけどなぁ、扱いに戸惑ってる。人間を育てるのってさ、修正は難しいし、おれが扱ってるマシンとは違うからな』
『へぇ、真面目に父親やってるな』
『意外じゃないだろ』
心外だと言わんばかりの不満が声音に表れている。会話の相手はきっと平尾雅己で、確か城藤と同期だ。微生物センサ事業本部で営業部に所属している。
『そのまえに、平尾が結婚して子供を持つって想像がつかなかった』
『なんだよ、それ。おまえはどうするんだよ、跡継ぎはいらないのか? 親からせっつかれてるんだろ』
『子供はともかく、女の面倒は見きれない』
『ははっ。よっぽど束縛されたくないみたいだな……』
言いかけていた平尾は着信音にさえぎられて言葉を切った。電話に応答したのは平尾の声だ。続いて、先に行く、と聞こえ、スライドドアの静かな開閉音がしたかと思うと、廊下に背を向けた深津紀の後ろで足音が通りすぎた。
その後、ほかに声はせず、喫煙スペースはふたりきりだったのか。物音を立てづらい。深津紀がじっとして様子を窺っているなか、平尾は立ち去ったのだろう、足音がだんだんと遠ざかる。
「何してるんだ、碓井さん、こんなところでこそこそと」
平尾の足音に気を取られていた。突然、呼びかけられて、それが城藤の声だと判別するまでもなくわかって、深津紀は飛びあがりそうなくらい驚いた。たまたま帰りかけたところで深津紀に気づいたのか、『こそこそと』とわざわざ付け加えたのは城藤らしいと思う。
パッと、とはいかず、おそるおそるといったふうに、深津紀はゆっくりと振り返った。
城藤は廊下と喫煙スペースの境目に立って、深津紀の逃げ道を断っている。いや、何も逃げる必要はない。それどころか捕まえようとしていたのだから、願ったり叶ったりの状況のはず。目が合うと、城藤はシャープでいて強固さの覗く顎を挑むようにわずかにしゃくった。
「あ、いえ……お茶しようと思って……こそこそはしてません」
城藤はゆっくりと視線をおろしていく。
「その『お茶』はどこなんだ?」
バッグを肩にかけただけで深津紀が手ぶらなことを確認すると、城藤は嫌味ったらしく問うた。
「じゃなくて、言い換えます。その……城藤リーダーとお茶したいと思って」
率直に――かどうかはわからないけれど、深津紀が言ったことはどう受けとめられたのか、城藤の眉が片方だけ跳ねあがる。
「いまパスタ店でカレシと食べてお茶してきたんだろう。それともおれの見間違いか?」
「カレシとは違います。高校時代の家庭教師で、友だちとか兄妹みたいなものです。それに、お茶ではなく昼食でした」
「そんなことはどうでもいい。お茶するには時間がないだろう」
自分で話を振っておきながら、城藤はどうでもいいと言う。いかに深津紀に興味がないか、その証明にほかならない。いま素通りせずに、嫌味であろうと声をかけられたぶんだけ、まだましだ。城藤にとって深津紀の存在感はゼロではない。果たして、それがなぐさめになるのか。
脱いだジャケットを腕にかけた城藤は、左の肘を折り、腕を軽く上げるとシャツの袖を少しずらして時計を覗いた。
「あと三分だ」
深津紀に午後の業務開始までの時間を告げると、城藤はさっさと体の向きを変えた。
「あ、待ってください!」
深津紀は慌てて追いかけるも、城藤は振り返ったり立ち止まったりすることもない。営業部はすぐ上のフロアだ。エレベーターを使わず階段スペースに入っていく。
本当に素っ気ない。――というより、この場合は無視だ。同じ場所に行くわけで、同伴してもいい場面なのに。
「城藤リーダー、いまは時間がないので帰りにいいですか」
深津紀は物怖じするほうではないが、ずうずうしい性格でもない。だから『こそこそと』することもある。いま勇気を出さずともすんなり言えたのは、無視されてかちんときたことの反動だ。
「なぜ碓井さんとお茶しなくちゃならないんだ」
そのうえ無下にされれば意地を張りたくなる。
「このまえ缶コーヒーをおごってもらったし、面倒かけてしまったので、そのお礼です」
「仕事だ。それに缶コーヒーくらいなんだ、微々たる出費だ」
「ということは、年収一千万を超えてるって本当なんですね」
あのときのことを出費とビジネスライクに片付けられ、腹いせ紛れで不躾に言い返したけれど、どうして腹が立つのだろう。あの日は仕事中に休憩したようなもので、缶コーヒーは労いにすぎないのに。
「年収はあとからついてくるものだ。羨むまえに早く一人前になれ」
超えているかどうか、はっきりとは答えてもらえなかったけれど、城藤の言うことはいちいちもっともで、煽るのも難しい。
「そうなるつもりでこの会社に入りました」
深津紀が答えている間に、ふたりは三階の営業部フロアにたどり着いた。
「城藤リーダー! 得する話、聞きたくありませんか!」
階段スペースを出るまえにと、深津紀は叫ぶように呼びとめた。
城藤の足がぴたりと止まる。後ろを振り返って、ようやく深津紀は城藤の視界に入りこんだ。
「得する話? おれはいま以上に得することにこだわってないけどな」
裏を返さずとも充実していると言っている。本当に羨ましいくらい自信たっぷりだ。
「きっとあります。話を聞いても損はしないと思います」
城藤は、なんの勧誘だ、と呆れたように薄笑いをして――
「セクハラとかパワハラとか、まさか罠にかけようって気じゃないだろうな」
と、深津紀が驚くようなことを付け加えた。
「もしかして、そういうことがあったんですか」
「世の中、真っ当な奴ばかりじゃない。それくらい、わかってるだろう」
「わかってます。でも罠じゃありません。話しても気に入らなかったらスルーしてもらっていいし」
「お茶するだけじゃないのか」
その言い方から少し譲歩した気配を感じて、深津紀は急いで口を開いた。
「お茶するのにお喋りは付きものです。戦艦のアニメの話も聞きたいから……でも、本題は人に聞かれたくないので……あ、邪魔が入らなければ会社ででもいいです。残業のあとに。だめですか」
早口で捲し立てた言葉は――
「考えておく」
という、どっちともつかない返事で放り出された。
曖昧でも可能性を絶たれるよりはずっとましだ、と深津紀は自分に言い聞かせた。
午後から外回りだった深津紀が会社に戻ったのは、終業時間の夜六時を十分ほどすぎた頃だった。いつものとおり、外出先から戻った人も含めて多くが残業している。真っ先に見た城藤は、何やら資料と照合しながらノートパソコンの画面に見入っていた。
「お疲れさまです」
だれにともなく向けると、輪唱のようにあちこちから同じ言葉が返ってきた。肝心の城藤は目線だけ上げて、深津紀の帰りを認識したのか否か、少なくとも口もとは動き、応じたのは確かだ。
考えてみれば、今日は金曜日で週報やら来週の計画やら、月曜日のミーティングに備えて整理しなければならない。城藤は自分の営業に加えて、リーダーとして部下たちについてもチェックしなければならず、忙しい日だ。
考えておく、と返事を濁されたのはそんな忙しさのせいかもしれない。――と思うのは、そうあってほしいという深津紀の願望だろう。
お茶を口実にして城藤を誘ったことは、営業に出てしばらく忘れていたのに、帰るときになってどきどきした気分が戻ってきていた。実を言えば、城藤を誘いだすなど、大それたことをしたとあとから実感が湧いて、営業先を訪ねるまでうまく仕事に集中できていなかった。いまその気持ちがぶり返して、報告書をきちんと作成できるか怪しくなってきた。
だめだめ――と、深津紀は椅子に座りながら小さく頭を横に振って、よけいな思考を払った。こんなことでは、もし『得する話』が受け入れられたとき、オンオフを切り替えられないで失態を晒してしまう。
まだ何も始まっていない。ここで集中できなければ、先が思いやられる。自分を諭し、深津紀はパソコンを開いた。
日報を週報に纏めていく。すると、日報作成時には見えなかったことが見えてくることもある。例えば、営業先を訪問中に担当者が漏らしたひと言によって、メインとは別の製品も提供できることに気づき、セットで案内できそうだと考え直すきっかけが見つかる、といったことだ。取引先との会話は、訪問にしろ電話にしろ、いちいちメモに書き溜める。それが役立つこともあるのだ。
なんとか報告書が仕上がり、そして来週やることも決まった。ほっとひと息つこうとした間際、人影を感じたと同時に、デスクの隅が指の先で小突かれた。深津紀は、その指先から腕をたどって視線を上げていく。男っぽく形の整った指先を見て直感したとおり、城藤がいた。
「碓井さん、残業可能なら、槙村製作所の書類と週報を持って会議室に来てほしい。三〇三だ」
「だ、大丈夫です。行きます」
「煙草休憩してから行く。五分後だ」
「はい」
第一声はつかえたし、短い返事は声がうわずっている。城藤はうなずいただけで、咎めるとか呆れるとか特段の反応はせず、深津紀はほっとした。
約束の時間までの五分、仕事が手につかないのはわかりきっている。深津紀は早々と営業部フロアにある会議室スペースに行き、念のためノックをして三〇三号室に入った。少人数用の会議室で、白いテーブルの上に書類を置いて椅子に座った。
そわそわして落ち着かない。何から話そう。話すことは決まっているけれど、話す順番はまったくシミュレーションできていなかった。
〝得する話〟を実行に移すには、失敗を覚悟して城藤とふたりきりで話すという、無謀な最初の第一歩を踏まなければならない。先月から考えていたことだが、この一カ月、ためらいが邪魔をして、機会も見いだせなかった。昼間、城藤の視線が深津紀を素通りしたことで衝動的に動いたけれど、本当に機会が得られたのは、そのあとの盗み聞きのおかげだ。最初の一歩はクリアした。問題はこの先だ。
会話の糸口が見つからないままドアのノック音が響く。深津紀は体がすくみ、返事ができないうちにドアは開いた。
入ってきた城藤から目を離せず、前の席に座るのを見守った。会議室の椅子は肘掛けがないせいか背中をもたれることなく、城藤は軽く手を組み、腕をテーブルにのせた。わずかでも前のめりになることでふたりの距離は詰まり、深津紀の気分はさながら狼に追いつめられた羊だ。
「槙村製作所はどうだ」
深津紀をじっと見て、城藤はいつものとおり事務的に報告を促した。
緊張していた深津紀には一瞬、城藤が外国語を喋っているように聞こえた。つまり、まったく意味が把握できなかった。すぐに反応しなかったことで待ちかねたのか、城藤は片手を伸ばして深津紀の手もとから書類を奪う。それに目を通す城藤を見ながら、深津紀は狐につままれたような気分になった。
「槙村については碓井さんが思うとおり、修正案を出すのが妥当だ。見積もりが終わったら、提案のまえに見せてくれ」
そこまで言われると、ここに呼びだされたのは昼休みの誘いを承諾してくれたのではなく、本当に槙村製作所のことを話したかったのかもしれなくて、深津紀の自意識過剰ぶりが露呈する。
「はい」
安堵と落胆がせめぎ合い、どうにかそれを隠そうとしたのに、返事をした声は自分の耳にも陰って聞こえた。返ってきた書類を手もとに引き寄せたときだ。
「それで、得する話ってなんだ。お茶は出ないらしいが」
城藤はまた手を組んで、皮肉を忘れず、出し抜けに問いかけた。
いや、もともと深津紀が誘ったことだ。出し抜けではなく、城藤は深津紀に応じてくれたのだ。
最初で最後のチャンス。そんな言葉が浮かび、どこから始めるか決められないまま口を開いて出てきたのは――
「子供が欲しくないですか」
という、せっかちな言葉だった。
さすがに城藤にとっても不意打ちだろう。彫像のように固まって見え、深津紀をますます緊張させる。言ってしまったことをなかったことにはできないし、返事も聞かないまま撤回するには、内容にかかわらず城藤は無責任だと言いそうだ。
やがて、無駄に見目のいい彫像は、たったいま命が宿ったようにすーっと息を呑み、そして吐いた。
「どこがどうなったらそういう飛躍した話になるのか、まったく理解に苦しむ」
驚きつつも動揺することなく軽く往なしたのは、城藤ならではだろう。
「……自分でも出だしを間違ったって思います。でも、繋がりというか、きっかけはあるんです」
「どんな?」
呆れきってはいても、聞く耳をふさいだわけではない。それとも、おざなりの礼儀として訊ねているのか、城藤は首をひねりながら促した。
「その……昼休み、盗み聞きしたので……。女の人は面倒だけど、子供は欲しいって。だから、そこから攻めたほうがいいって、わたしの脳が勝手に考えたのかもしれません」
深津紀の他人事のような言いぶりに、はっ、と城藤はため息混じりの笑みで応じた。
「おれの言葉を正確に捉えてない。子供を欲しいと自発的に言った憶えはない。それで営業やっていけるのか」
「都合よく解釈して、ずうずうしく入りこまないと営業はやっていけません。……と思います」
薄く笑った城藤の笑みは、純粋におもしろがっている。
「なるほど。その手で来るわけだ。おれが見込んだだけある」
深津紀は意外な言葉を受けて目を丸くした。
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