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第2章 制御不能の狩り本能
7.
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琴子は里見の腕の中で再びバランスをくずして、慌ててしがみつく。頼れるのは里見の躰しかなく、背中に手をまわせばふたりの躰が密着する。密着すると、琴子はその身近さにおののいた。
「あの、里見リーダー……」
「シャワー、浴びる? 浴びない?」
里見の問いかけはさえぎるようだったが、その実、琴子は何を云おうとしたのか自分でもわかっていない。
「……浴びます」
琴子がここについてきた前提は一つしかなかった。飲み物を勧められたことで揺らいでいたけれど、いまの質問と答えで、なんのために自分がここにいるかが明確になる。
前提に乗るなど浅はかだとは思っていたけれど、それに増してひどく愚かなことをしているように思えてきた。こんなふうに密着していると、互いの声が躰を通して伝わってくる。それが、くすぐったいような心地よさをもたらしている。そんな感覚は必要なかった。
琴子の葛藤をよそに、里見はクランク形状の廊下を進んで、琴子を抱えたままリビングとは逆の扉を開けた。なかに入って床におろされると、琴子は室内を見渡した。脱衣室にとどまらず、パウダールームという言葉のほうが断然似合っている。ただでさえ広いのに、バスルームとの仕切りがガラス戸になっているから、ますますだだっ広く感じる。
嘆息しそうな気分で眺めている間に、シャワーから水の出る音がし始めた。バスルームから出てきた里見は琴子を見て首を傾ける。
「語り合う時間がいらないということは、おれに襲われることを承知でついてきた。そう受けとってもいいんだろう? いまさら逃げないでくれ」
「……そこまで幼くはありません」
里見の顔に、云わせたかったことを云わせたような、してやったりといった表情が浮かぶ。
「シャワーを出しっぱなしにしてる。もったいないから早く入って」
もったいないと思うような貧乏性の経験など里見にはないだろう。あいにくと、琴子はもったいなさを知っている。里見が、バスタオルはここだ、と棚を教えたあとパウダールームを出ていくとすぐ、琴子は服を脱ぎ始めた。
シャワーを出しっぱなしにしてためらう間を与えなかったのは、里見の策略かもしれない。シャワーを浴びながら琴子はそんなことに気づいた。
勝手が違うことに少し戸惑いながら、洗顔料を借りて顔を洗う。ボディソープを手で躰中に伸ばしてから腕を擦っていると、背後から音がして琴子は無意識に振り向いた。
いつの間に戻ってきていたのだろう、ちょうど扉が開いて里見が入ってきた。もちろん服は脱いでいて裸体だ。琴子はぱっと目を逸らす。壁に掛けておいたバスタオルで躰を隠したいところだが、全身ソープ塗れでそうするわけにもいかない。
里見は横に来て、シャワーをつかむと湯を出して自分の躰を洗い流し始めた。下半身を見ないようにして、琴子は顔を隣に向ける。無言で責める琴子の眼差しを、里見は恥ずかしげもなく首をひねってかわした。
「おれが無防備になるのはバスタイムと眠ったときだ。その間に逃げられては、がっかりする以上に参る」
「さっき、逃げないって云ったつもりだし、だからって……」
「断りもなくずるい、って? お互いに隠すものはない。対等だろう」
里見の視線が胸もとにおりて、ゆっくりと這いあがってまた琴子の目に焦点を合わせた。
「すっぴんだとおとなしそうに見える」
「がっかりしてもらってもけっこうです」
むしろ、がっかりしてほしい。そう思ったこともあって洗顔料を使ったのに。
「いや。盾が一つなくなって近づけた気になる」
琴子が意図していないほうに転がった。
「気のせいです」
否定しても馬の耳に念仏だ。里見は薄く笑うと、シャワーを壁に戻して顔に浴びる。手のひらで顔を擦り、そのまま額から髪を掻きあげるしぐさは男っぽい。
琴子は見惚れて、すぐに我に返る。さっさと躰を洗って、さっさと躰を重ねて、さっさと帰る。内心で念仏みたいに唱えた。すると。
腕から胸もとへと手を滑らせたとたん、琴子は背後から躰が引き寄せられ、里見の躰に背中から覆われた。
左腕はウエストに回りこみ、右手が琴子の左胸をくるむ。
あっ。
驚いた弾みに飛びだした悲鳴は、里見がくるりと右の手のひらを回したとたんに――
ん、ふっ。
堪えた悲鳴が艶めかしい呻き声になって、琴子の口から飛びだした。
「あの、里見リーダー……」
「シャワー、浴びる? 浴びない?」
里見の問いかけはさえぎるようだったが、その実、琴子は何を云おうとしたのか自分でもわかっていない。
「……浴びます」
琴子がここについてきた前提は一つしかなかった。飲み物を勧められたことで揺らいでいたけれど、いまの質問と答えで、なんのために自分がここにいるかが明確になる。
前提に乗るなど浅はかだとは思っていたけれど、それに増してひどく愚かなことをしているように思えてきた。こんなふうに密着していると、互いの声が躰を通して伝わってくる。それが、くすぐったいような心地よさをもたらしている。そんな感覚は必要なかった。
琴子の葛藤をよそに、里見はクランク形状の廊下を進んで、琴子を抱えたままリビングとは逆の扉を開けた。なかに入って床におろされると、琴子は室内を見渡した。脱衣室にとどまらず、パウダールームという言葉のほうが断然似合っている。ただでさえ広いのに、バスルームとの仕切りがガラス戸になっているから、ますますだだっ広く感じる。
嘆息しそうな気分で眺めている間に、シャワーから水の出る音がし始めた。バスルームから出てきた里見は琴子を見て首を傾ける。
「語り合う時間がいらないということは、おれに襲われることを承知でついてきた。そう受けとってもいいんだろう? いまさら逃げないでくれ」
「……そこまで幼くはありません」
里見の顔に、云わせたかったことを云わせたような、してやったりといった表情が浮かぶ。
「シャワーを出しっぱなしにしてる。もったいないから早く入って」
もったいないと思うような貧乏性の経験など里見にはないだろう。あいにくと、琴子はもったいなさを知っている。里見が、バスタオルはここだ、と棚を教えたあとパウダールームを出ていくとすぐ、琴子は服を脱ぎ始めた。
シャワーを出しっぱなしにしてためらう間を与えなかったのは、里見の策略かもしれない。シャワーを浴びながら琴子はそんなことに気づいた。
勝手が違うことに少し戸惑いながら、洗顔料を借りて顔を洗う。ボディソープを手で躰中に伸ばしてから腕を擦っていると、背後から音がして琴子は無意識に振り向いた。
いつの間に戻ってきていたのだろう、ちょうど扉が開いて里見が入ってきた。もちろん服は脱いでいて裸体だ。琴子はぱっと目を逸らす。壁に掛けておいたバスタオルで躰を隠したいところだが、全身ソープ塗れでそうするわけにもいかない。
里見は横に来て、シャワーをつかむと湯を出して自分の躰を洗い流し始めた。下半身を見ないようにして、琴子は顔を隣に向ける。無言で責める琴子の眼差しを、里見は恥ずかしげもなく首をひねってかわした。
「おれが無防備になるのはバスタイムと眠ったときだ。その間に逃げられては、がっかりする以上に参る」
「さっき、逃げないって云ったつもりだし、だからって……」
「断りもなくずるい、って? お互いに隠すものはない。対等だろう」
里見の視線が胸もとにおりて、ゆっくりと這いあがってまた琴子の目に焦点を合わせた。
「すっぴんだとおとなしそうに見える」
「がっかりしてもらってもけっこうです」
むしろ、がっかりしてほしい。そう思ったこともあって洗顔料を使ったのに。
「いや。盾が一つなくなって近づけた気になる」
琴子が意図していないほうに転がった。
「気のせいです」
否定しても馬の耳に念仏だ。里見は薄く笑うと、シャワーを壁に戻して顔に浴びる。手のひらで顔を擦り、そのまま額から髪を掻きあげるしぐさは男っぽい。
琴子は見惚れて、すぐに我に返る。さっさと躰を洗って、さっさと躰を重ねて、さっさと帰る。内心で念仏みたいに唱えた。すると。
腕から胸もとへと手を滑らせたとたん、琴子は背後から躰が引き寄せられ、里見の躰に背中から覆われた。
左腕はウエストに回りこみ、右手が琴子の左胸をくるむ。
あっ。
驚いた弾みに飛びだした悲鳴は、里見がくるりと右の手のひらを回したとたんに――
ん、ふっ。
堪えた悲鳴が艶めかしい呻き声になって、琴子の口から飛びだした。
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