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第2章 調教
2.奴隷志願
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吉村の裸体はやわらかくはないけれど、触れ合っている肌はしっくりと密着する。裸で人と抱き合うことははじめてだから、だれとでもそうなのか、それとも吉村だからそうなのかはわからない。
吉村への怖さはいとも簡単に消えてしまって、甘えたくなった。たった二時間まえには考えられない。表側を洗うため吉村が躰を離しかけても、毬亜は広い背中にしがみついて邪魔をする。甘えても邪険にはしない。その確信はどこから湧くのか、吉村が無理やり解くことはなかった。
あきらめたため息が頭上の髪をそよがせ、届く範囲だけを吉村の手が這う。
そうしてから、毬亜の躰を引き離した吉村は、再び椅子に固定した。
頭上でまた物のぶつかる音がする。ひげを剃る道具以外に何があっただろうと考えながら吉村のほうを見上げると、その手には格段に大きい注射器が見えた。
「吉村さん……」
何に使うのか見当もつかなくて毬亜は呆けたようにつぶやく。
吉村は応えず、蛇口からお湯を出して洗面器に溜めていく。よく見れば、針はついていなくて注射器ではない。洗面器のなかに先端を入れると、シリンダが引きあげられて注入器のなかにお湯が溜まっていく。
広がった脚の向こうに立ち、吉村は注入器の先をお尻に充てがった。
ついさっきのあまりに激しかった吐出は生々しく、孔口もその奥も、普段よりはずっと敏感になっている。
ふあっ。
固形ではない温かいだけのお湯なのに、逆流しながら腸壁を刺激する。パウダールームでそうされたときよりもずっと多くの量が入った気がする。さらにもう一度、同じぶんだけ入れられるとおなかが圧迫された。
そして、お尻に卵みたいな形の小さな物が充てがわれた。その紐のついた道具は、さっきまでずっとお尻に入っていたものだ。ローターだと教えられたが、そう云われてもなんなのかはわからない。お尻の入り口は吉村がちょっと力を込めたくらいで口を開ける。毬亜は埋もれてくる感覚を敏感に鮮明に感じていた。
「易いな」
吉村は全部が埋もれる寸前で止め、つぶやいた。さっきまでの声のニュアンスとは違う。
「や、すい?」
毬亜は舌っ足らずに問い返した。孔口が広がったままローターが中途半端に引っかかっていて、脱力するような異様さを生む。
「ちょっと近づいてみせただけでおまえは簡単に堕ちた」
そのとおりだ。認めながら毬亜は歪みそうになったくちびるを咬む。
「父親のことを考えれば、おれは敵だろう。そのおれにいいように弄ばれて善がる」
泣けばますます追いつめられると思って堪えたのに、容赦ない言葉が投げつけられる。
吉村はやっぱり冷酷だった。
自分が悪い。それは明らかでも、こんなふうに傷ついたことはなかった。
吉村は毬亜の感情を歯牙にもかけず、お尻に埋めかけたローターをなかに押しこんだ。が、全部ではなく、ぎりぎりで引きだす。
「いやっ」
「洗ったばかりのくせに、べとべとに愛液を垂らしておいて通じる言葉だと思うか? 汚物をまき散らして泣くほどおまえは感じただろう」
ここからも、と続けながら膣口の少し上を弾き、ここからも、と云いながら小さなローターを前後させた。
なぜ、そこまでひどいことを云えるのだろう。
さっきまで感じていた信頼はいとも簡単に壊された。吉村が自ら云ったように、近しさは見せかけで、毬亜が勝手に幻想を抱いていたのだ。
情けなくて自己嫌悪に満ちた。それなのに。
「あ、はっ、やああっ」
突然、ローターが小刻みに振動しだした。孔口をふるわせるのは吉村の手ではない。ローターはそういう道具なのだと知った。振動しながら出し入れされ、お尻が勝手にびくびくとうごめく。
「や、もういやっ」
「ここは嫌がっていない」
吉村は膣口に指を入れてくる。入り口を掻きまわされるだけでぬちゃぬちゃと濡れた音がする。わかっている。吉村が嬲る二つの口ともが快楽から逃れられていない。けれど、認められなかった。
またウィークポイントが探り当てられ、毬亜は腰をふるわせる。
「いやっ」
激しく首を振った。それで快楽が散らせるわけもなく。お尻の振動を伴ってまえよりも深いところから快感に侵されている気がした。きっとまた漏らしてしまう。そんな弱気を追いこむように――
「おまえの母親は夫のまえで犯してやったが簡単に屈した。娘のまえでも逝ける、どうしようもない淫乱な女だ。かといって、おまえは娘だからという云い訳はできない。淫乱などという遺伝子はない。だが、どうだ? おまえもまた好きでもない男の手で、処女のまま派手に逝った」
吉村は嘲笑うようだった。
「違うっ」
「違う?」
吉村は毬亜が無自覚に否定した言葉を拾う。
「なら、逆らってみろ」
そう云いながら、膣口から吉村の指は出ていった。次には、椅子が後ろに倒れていく。必然的に天井の鏡に映る自分がまともに見えた。椅子に座った角度のまま倒されているから、躰の中心を掲げるような恰好で、自分でもひどく淫猥に見えた。
吉村の手が秘部に伸びるのが目に入り、直後、剥きだしの突起に触れた。
あああっ。
かまえる間もなく、露骨に腰がかくかくと揺れてしまう。
「ここは陰核という。男の男根と同じだ。なかとかわらないくらい効くだろう。だが、淫乱じゃないというなら逝くな」
吉村は云い渡す。
膣口から愛液をすくい、花片をぐるぐると這いながら指は突起にのぼってくる。先端に触れたとたん、ぶるぶると腰がふるえた。それを繰り返されながら、お尻ではローターを出し入れされて、毬亜は息を継ぐ余裕もなくなっていく。
「充血してふくらんでるな。嫌らしい色だ。愛液がすくいきれない」
指の腹が突起を押し揉む。そこは繊細すぎて、認めたくない快楽と同時に苦痛すらあった。躰をねじりながらも吉村のしつこさからは逃れられず、腰がバウンドする。
「ああ、いや、もういや、ああ、ああ、ああ……」
すでに漏れている感覚がしながら、おなかの奥では腸がうごめいている。
目が眩み、呼吸はままならない。
逝くな。その呪文が毬亜を縛っている。逝ってしまえば、母と同じになってしまう。母みたいに吉村から蔑まれたくなかった。けれど、そう思うのは矛盾、あるいは間抜けだ。近しさが幻想だった以上、逝かないという決意が実を結ぶことはない。
「いやっ。逝かない。あたしは逝かない」
それでも叫んだ。
「おまえはセックスなしでは生きられないメスになる。それがおまえの幸せだろう? 母親と同じように、ここがおまえの生きる場所だ」
吉村は出入りさせていたローターをすべてお尻のなかに入れてしまう。振動が体内から伝わってくる。
ぁあ、あふっ。
背中を反らせると秘部に風を感じた。そう思ったとたん。突起が熱のなかに吸いこまれる。
やあっ。
風は吉村の呼吸で、熱いのは吉村の口のなかに含まれたせいだった。舌先でつつかれ、甘く吸われた。
「や、だっ。漏れちゃう!」
訴えは無視されて、吉村の舌が花片まで伸びる。くちびるで挟みながら舌で捏ねる。膣口におりると尖った舌がなかに入った。襞をくすぐられ、同時に啜られるともうたまらなかった。
「逝かない、逝かない、逝かないっ」
その主張は、吉村のくちびるが突起に這い戻り、そこをキスのように啜り、舌先をせん動させて擦る、そして、じゅるっと音を立てながら吸いあげられたとたん挫かれた。
いやあああ――――っ。
出尽くしていたはずがどこで生成されたのか、毬亜は吉村の口のなかに快楽を吐きだした。呑みきれずに飛散し、毬亜のおなかにもこぼれてくる。びくびくと腰が揺れ、お尻にも快楽が波及した。急速に解放への欲求が募っていく。
「出ちゃうっ、いやいやいやっ」
吉村は拘束を解き、二回め、トイレまで抱えていった。座ってもぐったりしてくずおれそうな毬亜を支えながら、吉村はローターを引っ張りだす。お尻がふるえ、もうだめ、そうあきらめたとき吉村が突起をまさぐった。そこは逝ったばかりで信じられないほど過敏になっていた。
ああ、んはあっ。
拒絶の言葉もなく喘いだ。
そして、お尻から吐出した瞬間に、また毬亜は逝ってしまったのだと思う。気づいたときは浴槽のなかで吉村に抱かれていた。
「無知なぶん、素直で従順すぎる。危ういほど……」
それは独り言なのか、毬亜に聞こえているとわかって云っているのか、つぶやくようで――
「おまえが可愛い」
愚かでも、その瞬間の毬亜は幸せだった。
入った浴槽は特注品に違いなく、アパートのそれよりは四倍ほど広い。足の裏の当たりは硬く、やはり大理石だ。段差があって、横向きに抱いた毬亜が沈まないよう、吉村は一段高いところに腰かけていた。湯は毬亜の肩が浸かるか浸からないかのところで揺らめいている。
そこに込められている真意は何か、可愛いという言葉を吐きながら頬に添えた吉村の手は、ケガをしているわけでもないのにかばうようにそっとしている。それをやさしいと受けとっていいのか、毬亜はわからない。手とは裏腹に、見上げた眼差しはきつく射るようだ。残忍さも冷たさもない。そのかわりにあるのは何か。
易いと可愛い。反対のことに聞こえるのに、同じ吉村の口から飛びだす。毬亜は吉村のなかでどんなふうに配置されているのだろう。
そんなふうに惑わせるのも吉村のやり方で、その向こうにはなんらかの結果が、あるいは報酬が待っているのかもしれない。
どうであっても、毬亜には失うものはもうない。ひどい言葉のあとにいまのような瞬間があるのなら、それだけでどんなことでも耐えられそうな気がした。
「吉村さんにはあたし、何をされても――殺されてもいい。だから、ずっと近くに――いるってわかるところにいてほしいんです。一週間、お母さんがいなくて怖かった。独りでいなきゃいけないくらいなら逃げて――」
殺されたほうがマシ。その言葉は声にならなかった。
吉村からの二度めのキスは、ちゃんとキスとわかった。
煙草の香りが薄れて、そのかわりに熱がくっきりと伝わってくる。顎に貼りついた舌を吉村の舌がすくう。ぐるりと何度も回転して、毬亜の舌が踊らされる。
のぼせていくなか、ふと吉村が動きを止めた。離れるのでもなくただじっとしている。物足りない毬亜は、ほぼ無意識に吉村の舌に絡んだ。されたように絡ませてみる。毬亜が感じたように感じさせられているだろうか。そう疑問に思うことすら滑稽なほど、毬亜にキスの技術はない。
キスに限らず、セックスでもなんでも、毬亜は吉村を動かすことはできない。そんなよけいなことまで浮かびあがった。
それを裏づけるように吉村の舌が引っこむ。さみしさを覚えると同時に、本能的に舌は吉村を追った。すると、その舌を吉村が咥え、次には吸いついた。舌が痙攣するのは、吸引された反動なのか、気持ちいいせいか。脱力すると、吉村が毬亜の舌を解放し、またさみしくさせられた。直後、口内に吉村の舌が入ってくる。毬亜は自分がされたように咥えて吸いついた。
それからは戯れるように、吉村にされたことを毬亜が吉村に返すというキスを交わした。
吉村が顔を上げたときは、毬亜だけではなく吉村の呼吸も不規則だった。
吉村は毬亜の躰を起きあがらせ、一緒に立つと浴槽を出た。
「もう一度だ。やるか、やらないか?」
吉村は顎で洗面器とそれに浸かった注入器を顎で示す。
ためらいはある。けれど、毬亜はうなずいていた。
今度は椅子に固定されることなく、毬亜は云われるままやわらかい床のタイルに肘をつき、四つん這いになってお尻を差しだした。拘束なしでやるのは、自分の意思なのだ、とそんな奴隷志願の意識を植えつけるためかもしれない。
お尻のなかにお湯が入ってくる間も、ローターが埋められるときも呻き声が漏れた。ともすれば心地いいと受けとられるだろう、毬亜は猫が甘えて啼くような嬌声を漏らしていた。
吉村は背後から毬亜の正面に移動すると、おもむろにかがみ、床に座り、そしてあぐらを掻く。
「そのままここに来い」
そのままというのは四つん這いということなのか、毬亜は肘を上げて手をつくと吉村に寄った。
「咥えて、おれを逝かせてみろ」
「やったことないから……」
「さっき口のなかでやったとおりに舌を使え」
さっきのキスはこのためだったのかと思うと、ざらついたさみしさを否めない。拒否権などなく、けれど、自分も躰の中心にキスをされたこと、吐きだしたものまでなんでもないことのように呑まれたことを思えば、毬亜が吉村にそうすることも当然のような気がした。
毬亜は吉村の股間へと顔を伏せた。
上向いた吉村の男根は太く、一瞬毬亜の口におさまるのかと不安になる。まずは舌先で先端をつついた。男根がぴくりと振れる。顔をおろして根もとに口づけると、ぐるりと一周しながら舌を這わせていく。吉村は毬亜みたいに声こそあげないものの、それを堪えたようなこもった声を聞きとった。
先端に戻ると、吉村ははっきり唸った。毬亜はちょっとしたしょっぱさを覚えながら、吉村を感じさせられていることにほっとする。先端を口に含んだ。やわらかくて硬い、舌やくちびるとは違う、そんな感触を確かめながら、限界まで顔をおろしてみる。半分が精々だった。かわりに舌を絡めながら顔を上下させた。くびれたところで毬亜は吸いつくと、男根がびくびくと口のなかで暴れる。
反応を得られているのがわかると、毬亜は何もされていないのに満ち足りた気分になる。逝ってもらいたくてたまらなくなった。
そうして繰り返していくうちに、毬亜のおなかは限界へと向かっていた。吉村が逝かないと毬亜は解放してもらえない。そんな暗黙のルールは感じていて、毬亜はひたすら吉村を食む。根もとからはじめた吸着するキスが先端にのぼり、心持ち強く吸いつくと吉村が呻いた。直後、頭がつかまれると吉村の手によって無理やり上下させられた。
「逝くぞ」
絞りだすような声は至福という魔力的な効果を伴う。嘔吐きながらも吸引した。
とたん。
くっ。
短く咆哮し、吉村は逝った。そのしるしが口のなかに溢れていく。
「呑め」
そうすることに抵抗はなかった。吉村のものなら。
吉村の荒い呼吸が落ち着いた頃、毬亜は逆に躰をよじるほどの解放を求めていた。
「吉村さん、あたし……」
「逝きたいか」
云いかけている途中で吉村は立ちあがる。うなずく毬亜を抱きあげた。
トイレのところまで連れていかれたものの、吉村がおろす気配はない。
「吉村さん」
「まだ耐えろ」
そうやって横抱きで躰を締めつけられる一方で、毬亜は吉村に縋っていた。
「も、無理!」
横抱きという体勢がお尻になかなか力を入れられない。
吐出されるのはもうほぼお湯だと云われても、トイレ以外の場所では受け入れられない。
「あ、だめっ! 出ちゃ、う」
必死で精悍な躰にしがみついた。
「逝けるか」
「わから、な――」
「逝けるか」
毬亜は少しためらってからこっくりとうなずいた。
「いい子だ」
意味がわかった〝浄める〟という行為も三度め、強烈に逝くということはなく、ただ、吐出が快感に変換されたのは確かだった。その感覚に首をのけ反らせ、そのさきに見えた吉村は、逝くまでに至らなかったことを咎めるでもなく、じっと見下ろしていた。
そのとき、表情を動かさない裏で吉村にもなんらかの感情は確かに動いているのだ、とそんなふうに感じた。
吉村への怖さはいとも簡単に消えてしまって、甘えたくなった。たった二時間まえには考えられない。表側を洗うため吉村が躰を離しかけても、毬亜は広い背中にしがみついて邪魔をする。甘えても邪険にはしない。その確信はどこから湧くのか、吉村が無理やり解くことはなかった。
あきらめたため息が頭上の髪をそよがせ、届く範囲だけを吉村の手が這う。
そうしてから、毬亜の躰を引き離した吉村は、再び椅子に固定した。
頭上でまた物のぶつかる音がする。ひげを剃る道具以外に何があっただろうと考えながら吉村のほうを見上げると、その手には格段に大きい注射器が見えた。
「吉村さん……」
何に使うのか見当もつかなくて毬亜は呆けたようにつぶやく。
吉村は応えず、蛇口からお湯を出して洗面器に溜めていく。よく見れば、針はついていなくて注射器ではない。洗面器のなかに先端を入れると、シリンダが引きあげられて注入器のなかにお湯が溜まっていく。
広がった脚の向こうに立ち、吉村は注入器の先をお尻に充てがった。
ついさっきのあまりに激しかった吐出は生々しく、孔口もその奥も、普段よりはずっと敏感になっている。
ふあっ。
固形ではない温かいだけのお湯なのに、逆流しながら腸壁を刺激する。パウダールームでそうされたときよりもずっと多くの量が入った気がする。さらにもう一度、同じぶんだけ入れられるとおなかが圧迫された。
そして、お尻に卵みたいな形の小さな物が充てがわれた。その紐のついた道具は、さっきまでずっとお尻に入っていたものだ。ローターだと教えられたが、そう云われてもなんなのかはわからない。お尻の入り口は吉村がちょっと力を込めたくらいで口を開ける。毬亜は埋もれてくる感覚を敏感に鮮明に感じていた。
「易いな」
吉村は全部が埋もれる寸前で止め、つぶやいた。さっきまでの声のニュアンスとは違う。
「や、すい?」
毬亜は舌っ足らずに問い返した。孔口が広がったままローターが中途半端に引っかかっていて、脱力するような異様さを生む。
「ちょっと近づいてみせただけでおまえは簡単に堕ちた」
そのとおりだ。認めながら毬亜は歪みそうになったくちびるを咬む。
「父親のことを考えれば、おれは敵だろう。そのおれにいいように弄ばれて善がる」
泣けばますます追いつめられると思って堪えたのに、容赦ない言葉が投げつけられる。
吉村はやっぱり冷酷だった。
自分が悪い。それは明らかでも、こんなふうに傷ついたことはなかった。
吉村は毬亜の感情を歯牙にもかけず、お尻に埋めかけたローターをなかに押しこんだ。が、全部ではなく、ぎりぎりで引きだす。
「いやっ」
「洗ったばかりのくせに、べとべとに愛液を垂らしておいて通じる言葉だと思うか? 汚物をまき散らして泣くほどおまえは感じただろう」
ここからも、と続けながら膣口の少し上を弾き、ここからも、と云いながら小さなローターを前後させた。
なぜ、そこまでひどいことを云えるのだろう。
さっきまで感じていた信頼はいとも簡単に壊された。吉村が自ら云ったように、近しさは見せかけで、毬亜が勝手に幻想を抱いていたのだ。
情けなくて自己嫌悪に満ちた。それなのに。
「あ、はっ、やああっ」
突然、ローターが小刻みに振動しだした。孔口をふるわせるのは吉村の手ではない。ローターはそういう道具なのだと知った。振動しながら出し入れされ、お尻が勝手にびくびくとうごめく。
「や、もういやっ」
「ここは嫌がっていない」
吉村は膣口に指を入れてくる。入り口を掻きまわされるだけでぬちゃぬちゃと濡れた音がする。わかっている。吉村が嬲る二つの口ともが快楽から逃れられていない。けれど、認められなかった。
またウィークポイントが探り当てられ、毬亜は腰をふるわせる。
「いやっ」
激しく首を振った。それで快楽が散らせるわけもなく。お尻の振動を伴ってまえよりも深いところから快感に侵されている気がした。きっとまた漏らしてしまう。そんな弱気を追いこむように――
「おまえの母親は夫のまえで犯してやったが簡単に屈した。娘のまえでも逝ける、どうしようもない淫乱な女だ。かといって、おまえは娘だからという云い訳はできない。淫乱などという遺伝子はない。だが、どうだ? おまえもまた好きでもない男の手で、処女のまま派手に逝った」
吉村は嘲笑うようだった。
「違うっ」
「違う?」
吉村は毬亜が無自覚に否定した言葉を拾う。
「なら、逆らってみろ」
そう云いながら、膣口から吉村の指は出ていった。次には、椅子が後ろに倒れていく。必然的に天井の鏡に映る自分がまともに見えた。椅子に座った角度のまま倒されているから、躰の中心を掲げるような恰好で、自分でもひどく淫猥に見えた。
吉村の手が秘部に伸びるのが目に入り、直後、剥きだしの突起に触れた。
あああっ。
かまえる間もなく、露骨に腰がかくかくと揺れてしまう。
「ここは陰核という。男の男根と同じだ。なかとかわらないくらい効くだろう。だが、淫乱じゃないというなら逝くな」
吉村は云い渡す。
膣口から愛液をすくい、花片をぐるぐると這いながら指は突起にのぼってくる。先端に触れたとたん、ぶるぶると腰がふるえた。それを繰り返されながら、お尻ではローターを出し入れされて、毬亜は息を継ぐ余裕もなくなっていく。
「充血してふくらんでるな。嫌らしい色だ。愛液がすくいきれない」
指の腹が突起を押し揉む。そこは繊細すぎて、認めたくない快楽と同時に苦痛すらあった。躰をねじりながらも吉村のしつこさからは逃れられず、腰がバウンドする。
「ああ、いや、もういや、ああ、ああ、ああ……」
すでに漏れている感覚がしながら、おなかの奥では腸がうごめいている。
目が眩み、呼吸はままならない。
逝くな。その呪文が毬亜を縛っている。逝ってしまえば、母と同じになってしまう。母みたいに吉村から蔑まれたくなかった。けれど、そう思うのは矛盾、あるいは間抜けだ。近しさが幻想だった以上、逝かないという決意が実を結ぶことはない。
「いやっ。逝かない。あたしは逝かない」
それでも叫んだ。
「おまえはセックスなしでは生きられないメスになる。それがおまえの幸せだろう? 母親と同じように、ここがおまえの生きる場所だ」
吉村は出入りさせていたローターをすべてお尻のなかに入れてしまう。振動が体内から伝わってくる。
ぁあ、あふっ。
背中を反らせると秘部に風を感じた。そう思ったとたん。突起が熱のなかに吸いこまれる。
やあっ。
風は吉村の呼吸で、熱いのは吉村の口のなかに含まれたせいだった。舌先でつつかれ、甘く吸われた。
「や、だっ。漏れちゃう!」
訴えは無視されて、吉村の舌が花片まで伸びる。くちびるで挟みながら舌で捏ねる。膣口におりると尖った舌がなかに入った。襞をくすぐられ、同時に啜られるともうたまらなかった。
「逝かない、逝かない、逝かないっ」
その主張は、吉村のくちびるが突起に這い戻り、そこをキスのように啜り、舌先をせん動させて擦る、そして、じゅるっと音を立てながら吸いあげられたとたん挫かれた。
いやあああ――――っ。
出尽くしていたはずがどこで生成されたのか、毬亜は吉村の口のなかに快楽を吐きだした。呑みきれずに飛散し、毬亜のおなかにもこぼれてくる。びくびくと腰が揺れ、お尻にも快楽が波及した。急速に解放への欲求が募っていく。
「出ちゃうっ、いやいやいやっ」
吉村は拘束を解き、二回め、トイレまで抱えていった。座ってもぐったりしてくずおれそうな毬亜を支えながら、吉村はローターを引っ張りだす。お尻がふるえ、もうだめ、そうあきらめたとき吉村が突起をまさぐった。そこは逝ったばかりで信じられないほど過敏になっていた。
ああ、んはあっ。
拒絶の言葉もなく喘いだ。
そして、お尻から吐出した瞬間に、また毬亜は逝ってしまったのだと思う。気づいたときは浴槽のなかで吉村に抱かれていた。
「無知なぶん、素直で従順すぎる。危ういほど……」
それは独り言なのか、毬亜に聞こえているとわかって云っているのか、つぶやくようで――
「おまえが可愛い」
愚かでも、その瞬間の毬亜は幸せだった。
入った浴槽は特注品に違いなく、アパートのそれよりは四倍ほど広い。足の裏の当たりは硬く、やはり大理石だ。段差があって、横向きに抱いた毬亜が沈まないよう、吉村は一段高いところに腰かけていた。湯は毬亜の肩が浸かるか浸からないかのところで揺らめいている。
そこに込められている真意は何か、可愛いという言葉を吐きながら頬に添えた吉村の手は、ケガをしているわけでもないのにかばうようにそっとしている。それをやさしいと受けとっていいのか、毬亜はわからない。手とは裏腹に、見上げた眼差しはきつく射るようだ。残忍さも冷たさもない。そのかわりにあるのは何か。
易いと可愛い。反対のことに聞こえるのに、同じ吉村の口から飛びだす。毬亜は吉村のなかでどんなふうに配置されているのだろう。
そんなふうに惑わせるのも吉村のやり方で、その向こうにはなんらかの結果が、あるいは報酬が待っているのかもしれない。
どうであっても、毬亜には失うものはもうない。ひどい言葉のあとにいまのような瞬間があるのなら、それだけでどんなことでも耐えられそうな気がした。
「吉村さんにはあたし、何をされても――殺されてもいい。だから、ずっと近くに――いるってわかるところにいてほしいんです。一週間、お母さんがいなくて怖かった。独りでいなきゃいけないくらいなら逃げて――」
殺されたほうがマシ。その言葉は声にならなかった。
吉村からの二度めのキスは、ちゃんとキスとわかった。
煙草の香りが薄れて、そのかわりに熱がくっきりと伝わってくる。顎に貼りついた舌を吉村の舌がすくう。ぐるりと何度も回転して、毬亜の舌が踊らされる。
のぼせていくなか、ふと吉村が動きを止めた。離れるのでもなくただじっとしている。物足りない毬亜は、ほぼ無意識に吉村の舌に絡んだ。されたように絡ませてみる。毬亜が感じたように感じさせられているだろうか。そう疑問に思うことすら滑稽なほど、毬亜にキスの技術はない。
キスに限らず、セックスでもなんでも、毬亜は吉村を動かすことはできない。そんなよけいなことまで浮かびあがった。
それを裏づけるように吉村の舌が引っこむ。さみしさを覚えると同時に、本能的に舌は吉村を追った。すると、その舌を吉村が咥え、次には吸いついた。舌が痙攣するのは、吸引された反動なのか、気持ちいいせいか。脱力すると、吉村が毬亜の舌を解放し、またさみしくさせられた。直後、口内に吉村の舌が入ってくる。毬亜は自分がされたように咥えて吸いついた。
それからは戯れるように、吉村にされたことを毬亜が吉村に返すというキスを交わした。
吉村が顔を上げたときは、毬亜だけではなく吉村の呼吸も不規則だった。
吉村は毬亜の躰を起きあがらせ、一緒に立つと浴槽を出た。
「もう一度だ。やるか、やらないか?」
吉村は顎で洗面器とそれに浸かった注入器を顎で示す。
ためらいはある。けれど、毬亜はうなずいていた。
今度は椅子に固定されることなく、毬亜は云われるままやわらかい床のタイルに肘をつき、四つん這いになってお尻を差しだした。拘束なしでやるのは、自分の意思なのだ、とそんな奴隷志願の意識を植えつけるためかもしれない。
お尻のなかにお湯が入ってくる間も、ローターが埋められるときも呻き声が漏れた。ともすれば心地いいと受けとられるだろう、毬亜は猫が甘えて啼くような嬌声を漏らしていた。
吉村は背後から毬亜の正面に移動すると、おもむろにかがみ、床に座り、そしてあぐらを掻く。
「そのままここに来い」
そのままというのは四つん這いということなのか、毬亜は肘を上げて手をつくと吉村に寄った。
「咥えて、おれを逝かせてみろ」
「やったことないから……」
「さっき口のなかでやったとおりに舌を使え」
さっきのキスはこのためだったのかと思うと、ざらついたさみしさを否めない。拒否権などなく、けれど、自分も躰の中心にキスをされたこと、吐きだしたものまでなんでもないことのように呑まれたことを思えば、毬亜が吉村にそうすることも当然のような気がした。
毬亜は吉村の股間へと顔を伏せた。
上向いた吉村の男根は太く、一瞬毬亜の口におさまるのかと不安になる。まずは舌先で先端をつついた。男根がぴくりと振れる。顔をおろして根もとに口づけると、ぐるりと一周しながら舌を這わせていく。吉村は毬亜みたいに声こそあげないものの、それを堪えたようなこもった声を聞きとった。
先端に戻ると、吉村ははっきり唸った。毬亜はちょっとしたしょっぱさを覚えながら、吉村を感じさせられていることにほっとする。先端を口に含んだ。やわらかくて硬い、舌やくちびるとは違う、そんな感触を確かめながら、限界まで顔をおろしてみる。半分が精々だった。かわりに舌を絡めながら顔を上下させた。くびれたところで毬亜は吸いつくと、男根がびくびくと口のなかで暴れる。
反応を得られているのがわかると、毬亜は何もされていないのに満ち足りた気分になる。逝ってもらいたくてたまらなくなった。
そうして繰り返していくうちに、毬亜のおなかは限界へと向かっていた。吉村が逝かないと毬亜は解放してもらえない。そんな暗黙のルールは感じていて、毬亜はひたすら吉村を食む。根もとからはじめた吸着するキスが先端にのぼり、心持ち強く吸いつくと吉村が呻いた。直後、頭がつかまれると吉村の手によって無理やり上下させられた。
「逝くぞ」
絞りだすような声は至福という魔力的な効果を伴う。嘔吐きながらも吸引した。
とたん。
くっ。
短く咆哮し、吉村は逝った。そのしるしが口のなかに溢れていく。
「呑め」
そうすることに抵抗はなかった。吉村のものなら。
吉村の荒い呼吸が落ち着いた頃、毬亜は逆に躰をよじるほどの解放を求めていた。
「吉村さん、あたし……」
「逝きたいか」
云いかけている途中で吉村は立ちあがる。うなずく毬亜を抱きあげた。
トイレのところまで連れていかれたものの、吉村がおろす気配はない。
「吉村さん」
「まだ耐えろ」
そうやって横抱きで躰を締めつけられる一方で、毬亜は吉村に縋っていた。
「も、無理!」
横抱きという体勢がお尻になかなか力を入れられない。
吐出されるのはもうほぼお湯だと云われても、トイレ以外の場所では受け入れられない。
「あ、だめっ! 出ちゃ、う」
必死で精悍な躰にしがみついた。
「逝けるか」
「わから、な――」
「逝けるか」
毬亜は少しためらってからこっくりとうなずいた。
「いい子だ」
意味がわかった〝浄める〟という行為も三度め、強烈に逝くということはなく、ただ、吐出が快感に変換されたのは確かだった。その感覚に首をのけ反らせ、そのさきに見えた吉村は、逝くまでに至らなかったことを咎めるでもなく、じっと見下ろしていた。
そのとき、表情を動かさない裏で吉村にもなんらかの感情は確かに動いているのだ、とそんなふうに感じた。
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