オフリミットⅠ~恋の僭主~

奏井れゆな

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第4話 ヘルプレスネス~however,go~

2.

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 ファストフード店を出て祐真たちと解散すると、航は博多に行くぞと云って断る隙もなく実那都を同行させた。
 クリスマスイヴという今日、駅構内も外のイルミネーションもいつもより段違いで華やかだ。人が浮かれているように見えるのはその効果だろうか、航は駅続きのビルに入り、エレベーターで上に行くと雑貨店の入ったフロアで降りた。
「買い物?」
 訪ねると、ため息をつきそうな気配で航は実那都を見下ろした。
「ばーか、今日はなんの日だ」
「終業式、クリスマスイヴ」
「んじゃ、クリスマスイヴといえば?」
「……ケーキ?」
「んなもん、ここにあるかよ」
 航は呆れ返っている。
「それはわかってるけど……」
「クリスマスイヴといえばサンタクロースからのプレゼントだろ」
「サンタクロースって、航、まだ信じ……」
「んなわけねぇだろ。ボケ噛ますんじゃねぇ。おれがおまえにプレゼントするから、おまえもおれにプレゼントする。そういうイベントだろうが。それを効率よくすますのに……っていうかデートの一環で一緒に買うんだよ。おまえがもう買ってるっていうんなら悪かったよ、当日で、びっくりとか楽しみとかもなくてさ」
 実那都は目を丸くした。それから、訊ねるように首をかしげた航を見て、笑いながら首を横に振った。
「そんなことない。明日、航の家に行くまえに買いにいこうって思ってた。それに、一緒に選ぶのも楽しいよ」
 実那都の答えに、航はにんまりと笑った。
「だろ」
 航は実那都の手を取ると、ステーショナリーコーナーへと連れていった。
「安物だけどさ、お互い合格するようにお守り兼ねてってのはどうだ?」
 航は、いろんな種類のシャープペンシルが立ち並んだ場所を指差した。実那都はこっくりとうなずく。
「うん、それいい!」
 実那都は航のものを、航は実那都のものを選んでクリスマス仕様のラッピングをしてもらい、渡し合った。

 翌日、クリスマスの朝になって自分で枕元に置いていたプレゼントを開けるとき、わかっているのにワクワクした。航と常に繋がっている気がして、うれしい以上に心強くなりながら、実那都はシャープペンシルをペンケースの中にしまった。

    *

 カチャカチャと小さな音が近づいてきて、実那都は顔を上げた。
 航とふたり、並んで座ったダイニングテーブルの向かい側にトレイが置かれる。そこにはケーキがのせられていて、カップが目に入るのと同時に紅茶の香りが漂ってきた。
「お疲れさま。今日はクリスマスだから、おやつはケーキよ。実那都ちゃん、嫌いじゃないわよね?」
 強引に同意を求められた。
「はい、大好きです。うれしい。いつもありがとうございます」
 すると、正面のきれいな顔があからさまにがっかりした面持ちに変わった。
「もう、実那都ちゃんたら、いつまでも他人行儀なんだから」
 不満であってもきつい云い方ではなく、実那都は笑ってやりすごした。
 自他ともに認める美人な女性は航の母親、縁里ゆかりだ。そもそも他人以外の何者でもない。
「これが実那都だから文句云うな。兄貴の女と一緒にすんなよ」
 航の言葉に縁里は、テーブルにケーキとマグカップを置きながら当て付けるようにため息をついた。
「一緒になんかしてないわよ。どこをどうしたらこう育つのかわからないけど、がさつな息子が二人、それに夫、男ばっかりに囲まれてるんだから、みかたが欲しいって思って当然でしょ。御方は多ければ多いほどいいの。実那都ちゃんは実那都ちゃん、渚沙なぎさちゃんは渚沙ちゃん。一緒じゃなくて二人じゃないと困るでしょ。これで対等よ」
「何が対等だよ。こういうふうに育てたのは母さんじゃないのかよ」
「大きく育ててきたのはわたしよ。でも、ほかのことはまるでお父さんの影響じゃない。海が好きだからってお兄ちゃんは克海かつみ、あなたには航って名前つけて、連れてきたカノジョは“なぎさ”ちゃんに“みなと”ちゃん。信じられないわ。趣味もそう。お父さんがバンド仲間のところに連れていくから、克海はギターであなたはドラム。三人で楽しんで、わたしだけいつも除け者なんだから」

 縁里はまくし立てるように云ったあと、でも、と実那都に目を向けた。
「わたしも実那都ちゃんくらい歌が上手だったら、除け者じゃなくてお父さんのバンド仲間になれたかしらって思ったのよね」
 文化発表会を観たという縁里は、そのときのことを思いだすように宙に目をやっている。
「あ、でも仲間っていうのも一回限りだから……」
「ほんとに? 続ければいいのに」
 残念そうに云い、縁里は気分を切り替えるように短く息をつくと、じゃあ勉強がんばってね、と空っぽになったトレイを持った。
「除け者なんて被害妄想だろ。出しゃばってくるくせに」
 ぼそっと云った航に、「それはわたしの努力よ」と縁里はすかさず応戦した。
「雪が積もりそうだから、いまのうちにお買い物に行ってくるわ。ヘンなことするんじゃないわよ、航」
「よけいなお世話だ」
 という航の返事をまともに聞くでもなく、縁里は身をひるがえしてキッチンに戻っていった。
 実那都が笑うと、こっそりだったつもりが、隣り合っていながら航は目ざとく気づいたようだ。目が向けられたのを横目で感じとりながら実那都は慌てて口もとを引き締め、それから航を振り向いた。
「食べていい?」
 実那都が気を逸らそうとしているのは見え見えで、航は薄く笑う。
「食べないでどうすんだよ」
「じゃあ、いただきます」
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