40 / 64
第4章 rebel lane~逆走~
1.
しおりを挟む
颯天を外に連れだしたのは、過去の個人的なことを踏まえた話をするためだったのか。話の区切りがついたところで食事は中途半端に切りあげさせられて、颯天はそう思ったが違っていた。
ビルを出る寸前、颯天は眼鏡を渡されて掛けるように命じられた。なんの変哲もない伊達眼鏡だ。祐仁はなぜかジャケットを脱いで、ビルを出たところで立ち止まり、颯天と向き合った。
「立ち話をしているふりをしろ」
「……どうしたんですか」
そんな会話も実際には立ち話になって、ふりをするまでもない。
祐仁は腕にかけたジャケットのポケットからスマホを取りだすと、いくつか操作して「持ってろ」と颯天に差しだした。
「向かい側に中華料理店がある。おれの斜め後ろだ」
ふりをしろと云ったからには、露骨な行動は控えたほうがいいに違いない。颯天は用心深く祐仁の右肩越しに目をやり、道路を挟んだ反対側の通りを見た。ビルの側面に取りつけられた看板は、店を探す手間をあっさりと省く。店名の横に『中華料理』と表記があった。
「はい、あります。店の名前、“好吃”ですね?」
「そこだ。スマホをおれに見せるふりをして出入り口を撮影しろ。動画だ」
颯天は録画ボタンを押す。そして、不自然にならないよう祐仁に見せる恰好を取りながら、角度を調整した。
「はい、大丈夫です」
「おまえの知った顔が出てくる。連れと一緒に動画におさめろ」
二人連れの男がスマホを見ながら何やら思案している。傍からはそう見えるだろうか。自然に見せることは意外に難しかった。
好吃はそれなりに出入りはあるが、まだ知った顔は見当たらない。祐仁から画面はちゃんと見えているのか、歩道を行き交う人に撮影の邪魔をされながら、颯天は見逃さないよう神経を遣う。
「祐仁、おれが知った顔って凛堂会の人ですか」
「なんでそう思う」
「さっき凛堂会のことを話してたからです。それに、おれと祐仁の共通項といったら凛堂会とEタンクとEAくらいだ。けど、Eタンクにはそう知った顔はないし、EAのメンバーには五年も会ってない。学生のままじゃないだろうし、見分ける自信はありません」
祐仁がスマホから顔を上げ、颯天は釣られるように目を向けた。上目遣いで颯天を見た祐仁はふっと薄く笑う。意識しているのか否か、誘惑的なしぐさで、やられたい、と場所をわきまえない欲求を覚えた。おそらく、見抜かれている。祐仁は警告するように首をひねった。
「真っ当な考え方だな。五年の間に怠けて脳みそを腐らせたわけでもなさそうだ。確かに社会人にもなれば雰囲気は変わる。けど、忘れられない顔があるだろう」
祐仁は見過ごすなと命じるかわりにスマホに目を落とした。颯天は慌ててスマホの画面に目を戻すと、わずかにずれていた焦点をまた調整した。すると。
店から出てきたのは、確かに知った顔で、それ以上に忘れられない――工藤春馬だった。
ハッと息を呑むと――
「いたか」
と、異変を察した祐仁が確認を求めるようにつぶやいた。
画面から目が離せず、うなずいていると、春馬が辺りを見回すような素振りを見せた。
「気づかれませんか!?」
囁くような声でありながら切羽詰まって祐仁に問う。
「そのままだ。いま体勢を変えることのほうが目立つ」
祐仁の助言に颯天は再びうなずき、画面を見守った。時間差で出てきた男が一人、春馬と何やら言葉を交わしている。案じる必要はなかったようで、颯天たちに目を留めることもなく、彼らは連れ立って颯天たちがいるほうとは逆の方向へと歩き去った。
「もういい」
祐仁は颯天の手からスマホを取りあげると、録画モードを終わらせて自分のポケットにしまう。ジャケットを羽織りながら、行くぞ、と颯天を急かした。春馬たちを追うのではなく、反対方向に歩きだす。
「どういうことですか」
「ヘッドとの会話を聞いていたのなら、おれがやってることの見当はつくだろう」
祐仁に云われて、颯天はヘッド室での時間を思い返してみた。そう多くない会話のなかで消去法を使えば自ずと答えは出てくる。
「もしかして……裏切り者って工藤さんのことですか」
「もしかしたら春馬は協力者にすぎないかもしれないが……あるいは手下か」
もしもの話ではなく、祐仁ははっきり春馬を操る人物をもつかんでいるのではないかと思わせるような口ぶりだった。
ビルを出る寸前、颯天は眼鏡を渡されて掛けるように命じられた。なんの変哲もない伊達眼鏡だ。祐仁はなぜかジャケットを脱いで、ビルを出たところで立ち止まり、颯天と向き合った。
「立ち話をしているふりをしろ」
「……どうしたんですか」
そんな会話も実際には立ち話になって、ふりをするまでもない。
祐仁は腕にかけたジャケットのポケットからスマホを取りだすと、いくつか操作して「持ってろ」と颯天に差しだした。
「向かい側に中華料理店がある。おれの斜め後ろだ」
ふりをしろと云ったからには、露骨な行動は控えたほうがいいに違いない。颯天は用心深く祐仁の右肩越しに目をやり、道路を挟んだ反対側の通りを見た。ビルの側面に取りつけられた看板は、店を探す手間をあっさりと省く。店名の横に『中華料理』と表記があった。
「はい、あります。店の名前、“好吃”ですね?」
「そこだ。スマホをおれに見せるふりをして出入り口を撮影しろ。動画だ」
颯天は録画ボタンを押す。そして、不自然にならないよう祐仁に見せる恰好を取りながら、角度を調整した。
「はい、大丈夫です」
「おまえの知った顔が出てくる。連れと一緒に動画におさめろ」
二人連れの男がスマホを見ながら何やら思案している。傍からはそう見えるだろうか。自然に見せることは意外に難しかった。
好吃はそれなりに出入りはあるが、まだ知った顔は見当たらない。祐仁から画面はちゃんと見えているのか、歩道を行き交う人に撮影の邪魔をされながら、颯天は見逃さないよう神経を遣う。
「祐仁、おれが知った顔って凛堂会の人ですか」
「なんでそう思う」
「さっき凛堂会のことを話してたからです。それに、おれと祐仁の共通項といったら凛堂会とEタンクとEAくらいだ。けど、Eタンクにはそう知った顔はないし、EAのメンバーには五年も会ってない。学生のままじゃないだろうし、見分ける自信はありません」
祐仁がスマホから顔を上げ、颯天は釣られるように目を向けた。上目遣いで颯天を見た祐仁はふっと薄く笑う。意識しているのか否か、誘惑的なしぐさで、やられたい、と場所をわきまえない欲求を覚えた。おそらく、見抜かれている。祐仁は警告するように首をひねった。
「真っ当な考え方だな。五年の間に怠けて脳みそを腐らせたわけでもなさそうだ。確かに社会人にもなれば雰囲気は変わる。けど、忘れられない顔があるだろう」
祐仁は見過ごすなと命じるかわりにスマホに目を落とした。颯天は慌ててスマホの画面に目を戻すと、わずかにずれていた焦点をまた調整した。すると。
店から出てきたのは、確かに知った顔で、それ以上に忘れられない――工藤春馬だった。
ハッと息を呑むと――
「いたか」
と、異変を察した祐仁が確認を求めるようにつぶやいた。
画面から目が離せず、うなずいていると、春馬が辺りを見回すような素振りを見せた。
「気づかれませんか!?」
囁くような声でありながら切羽詰まって祐仁に問う。
「そのままだ。いま体勢を変えることのほうが目立つ」
祐仁の助言に颯天は再びうなずき、画面を見守った。時間差で出てきた男が一人、春馬と何やら言葉を交わしている。案じる必要はなかったようで、颯天たちに目を留めることもなく、彼らは連れ立って颯天たちがいるほうとは逆の方向へと歩き去った。
「もういい」
祐仁は颯天の手からスマホを取りあげると、録画モードを終わらせて自分のポケットにしまう。ジャケットを羽織りながら、行くぞ、と颯天を急かした。春馬たちを追うのではなく、反対方向に歩きだす。
「どういうことですか」
「ヘッドとの会話を聞いていたのなら、おれがやってることの見当はつくだろう」
祐仁に云われて、颯天はヘッド室での時間を思い返してみた。そう多くない会話のなかで消去法を使えば自ずと答えは出てくる。
「もしかして……裏切り者って工藤さんのことですか」
「もしかしたら春馬は協力者にすぎないかもしれないが……あるいは手下か」
もしもの話ではなく、祐仁ははっきり春馬を操る人物をもつかんでいるのではないかと思わせるような口ぶりだった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる