上 下
38 / 64
第3章 Link up~合流~

12.

しおりを挟む
 もくしたまま人を黙らせるのは祐仁が上に立つ資質を備えているからか。颯天に向けられたものではないとわかっていても口を開くのははばかられ、静かな怒りはテーブルにメニューがそろうまで続いた。
 注文したものを一度に持ってくるよう云いつけていたとおり、四人掛けのテーブルには所狭しとプレートが並んでいる。ハンバーグにステーキ、そして生姜焼きなどやたらメーンディッシュが多く、素揚げサラダにポテトという、どう見てもカロリー過多な料理ばかりだ。そもそも外食はそんなものだが、それ以前の問題で――
「おれ、いまこんなに食べられませんよ」
 と、無理強いされるまえに颯天は申告をした。
 家にこもりがちで少食になったのは事実であり、沈黙を破るきっかけにはなったものの、はねつけるような気配で祐仁はじろりと颯天を睨みつけた。
「それでも食べろ」
 反論は聞きたくないとばかりに命じると、祐仁はさっさとカトラリーボックスからナイフとフォークを取りだす。目の前に置かれたサイコロステーキを一つ、フォークで突き刺して口に入れた。
 昼時であり、颯天も腹が空いていないわけではない。祐仁を倣って目の前にあった豚の生姜焼きを半分にカットして口に運んだ。
 凛堂会で食べていたもののほうが、よく云えば品がよく、文句をつければ味が薄い。監禁されていたときは何も思わなかったが、いざ出てみると、ひどい扱いは男娼としての務めに限られていたと気づいた。もちろん監禁自体がひどい仕打ちだが、純粋な意味での暴力を受けたことはない。
 永礼が守っていたのか、初対面のときに颯天が覚悟したことから思うと待遇はけっして悪くなかった。もっと突き詰めれば、男娼としての務めについては快楽を覚えていた以上、ひどい扱いとは云えないのかもしれない。
「永礼組長のことを考えているのか」
 颯天はその言葉にハッと顔を上げた。何も見逃さないといった目と目が合った。
 祐仁はなぜそう思ったのか。凛堂会での暮らしに思いを馳せていたのだが、永礼のことを考えなかったとは云えない。
 ただし、不快さを滲ませた祐仁の声音から感じる意味は違っている。
「……そうですけど、違います」
 迷ったままを口にすると、しばらくじっと颯天を見ていた目はすっと滑り落ち、それは無視するかのようでもあった。
「祐仁、まえにEタンクと凛堂会は対極にあるって云われてましたよね。どういうことなんですか」
「それを聞いてどうする」
「どうするって……」
 べつにどうするつもりもない。祐仁が何を気にするのか颯天は考えてみた。その意が思い当たったとき、祐仁は手を伸ばして颯天が食べていた生姜焼きを取り、かわりに颯天の前には半分になったサイコロステーキが来た。
 祐仁は生姜焼きに手をつける。テーブルに並んだ料理をすべてシェアするつもりか、それが、祐仁と同じぶんだけちゃんと食べろという強制であっても、そんな行為はごく親しい間にしかないはずだ。現に、大学時代、思いが通じ合った頃のわずかな期間、シェアはよくあった。
 颯天は勘違いするなと自分に云い聞かせつつ、祐仁にたとえ別の目的があったとしてもごく自然に見えたしぐさはうれしかった。
「祐仁、おれはEタンクのことを偵察するつもりはないし、永礼組長からそんなことを頼まれたわけでもありません」
 嘘は吐いていない。それは確かで、颯天はまっすぐ祐仁の眼差しを受けとめた。云われたのはフィクサーを監視しろとだけで、報告しろとまでは命じられてはいない。監視しろというのだから、当然なんらかの報告を期待しているのかもしれないが、颯天は都合よく解釈して続けた。
「凛堂会との関係を訊いたのは、緋咲ヘッドがおっしゃったからです。おれは永礼組長にうまく取り入って情報をつかんだみたいですね。おれのことなのに、なんのことかおれにはまったくわからない。五年前……もしくはそのあと、おれは知らないうちに祐仁の駒になっていた。ですよね?」
 役に立てたのならそれでいい。そのはずが、いま祐仁はフィクサーに昇りつめ、五年半前のあの光景が全部芝居であり、そうなるための手段として引き裂かれたふりをしたのだったとしたら――と考えると、さっきまでのうれしさは簡単に消え散った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

出産は一番の快楽

及川雨音
BL
出産するのが快感の出産フェチな両性具有総受け話。 とにかく出産が好きすぎて出産出産言いまくってます。出産がゲシュタルト崩壊気味。 【注意事項】 *受けは出産したいだけなので、相手や産まれた子どもに興味はないです。 *寝取られ(NTR)属性持ち攻め有りの複数ヤンデレ攻め *倫理観・道徳観・貞操観が皆無、不謹慎注意 *軽く出産シーン有り *ボテ腹、母乳、アクメ、授乳、女性器、おっぱい描写有り 続編) *近親相姦・母子相姦要素有り *奇形発言注意 *カニバリズム発言有り

受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店

ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。

山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜

ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。 高校生×中学生。 1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ショタ18禁読み切り詰め合わせ

ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

男3人とセックスしないと帰宅できないDCの話

ルシーアンナ
BL
パパの言いつけを守らないと帰れない男子。 5話だけセリフのみです。

処理中です...