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第1章 Cross-Border~越境~
10.
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斜め後ろから顔を傾けた祐仁と、五センチも離れていない距離で目と目が合う。祐仁は口を合わせたまま、舌先で颯天のくちびるを舐めた。上下左右と何度も舐めながら、徐々にくちびるを割り開く。くちびるの裏側に舌が滑りこみ、内側から粘膜を舐め回された。動転しているうちにくすぐられるような刺激が颯天の感覚を侵していく。
おかしな気分だった。下腹部に熱い塊ができている。
なんだ? おれはどうなってる?
のぼせたように視界がかすみ、それでも祐仁の目が間近で颯天を見つめているのは察せられる。反応を探られているような気がして、颯天は目を閉じた。いざそうすると、かえって颯天がなんらかの影響を受けていることを認めたことになると気づいた。
だが、もう遅い。感覚を抑制もできず、祐仁がくちびるで颯天の上唇を挟み、吸いついたとたん。
んあっ。
恥ずかしい声が颯天の口から飛びだす。
そして、祐仁は顔を放した。
颯天は無意識に目を開く。じっと見下ろす祐仁はくちびるを歪めた。
「やっぱりいい反応だ。楽しみだな」
「……なんで……」
颯天は中途半端に言葉を切る。自分でも何を云いたいのかよくわかっていない。
「“なんで”? おまえがいるからだ」
その理由にどんな意味が存在するのか、愚問だとばかりに一蹴した祐仁は少し前かがみになって、颯天のTシャツの裾をつかんだ。
「食事の時間だ。食べさせてやる」
祐仁は云ったこととまったく無関係なこと――Tシャツを引きあげていく。
「なんで脱がすんですかっ」
「また“なんで”か。こぼしたときに汚れたまま帰りたくないだろう?」
祐仁は鼻先で笑い、もっともらしく理由をつけた。
頭をくぐらせたTシャツは二の腕の途中で丸まって、拘束の役目を果たす。自分が着ていたTシャツのせいで颯天はますます身動きしづらくなった。
その不本意さよりもひどい困惑に晒された。
この季節になれば家で上半身裸でいることはあるし、プールだったり部活だったり、これまで着替えるにも人前で平気で裸になれたのに、なぜいまは羞恥心を覚えるのだろう。口づけと相まって焦った結果なのか、とにかく颯天は心もとなさに襲われる
あまつさえ、それだけにはとどまらず、下もだ、と祐仁はカーゴパンツに手をかけてベルトを外し始めた。
「嫌だっ。やめてください!」
呆然としたのは一瞬、颯天がとっさに立ちあがろうとすると、祐仁が椅子を押さえつける。それでも椅子がガタガタとうるさく音を立てるほど暴れた。
祐仁は慌てふためく颯天をよそに、可笑しそうに含み笑う。
「思っていたよりガタイがいいけど、体力もありそうだな」
けど、と祐仁は颯天に顔を寄せて横柄に首を傾けた。
「弟を助けてくれって依頼したのはおまえで、おれは条件をほのめかした。そのうえで撤回しなかったということは、おれの云いなりになるって承知したんだろう? 最低でもウィンウィンでなければおれは納得がいかない。犠牲を払ったぶん、弟を売って回収するしかないな?」
人当たりよく見せているが、祐仁は少なくとも善意だけで人のために動く人間ではないことがはっきりした。祐仁を頼るのは間違いだったと気づいてもいまさらどうしようもない。弟を売るなどできるはずもない。
「弟に手を出すな!」
祐仁はおどけたふうに眉を跳ねあげた。
「だったら、おまえは現状を受けいれるしかない。どうする? このまま脱がないでもいい。おもらし晒して帰ることになってもいいなら」
どうするつもりだろう。颯天はそんな不安を押しやり――
「……脱がせて……ください」
きっぱりと云うつもりが、動揺は隠せず言葉に詰まった。
「オーケー」
祐仁はにやりとして、再びベルトを外し始めた。カーゴパンツのボタンを外し、ジッパーを下げる。
颯天はその間、強く目を閉じていた。
祐仁の云うとおり、弟を助けてもらうかわりに何が待ち構えているのか、部室で襲われたときに悟っていた。こういう状況になるまで、颯天が向き合ってこなかっただけの話だ。
男を襲うのは祐仁の単なる性癖なのか。だとしたら、どんなことが自分に起きるのか空恐ろしい気もする。
「腰を浮かせ」
云われたとおりにすると、ボクサーパンツごとカーゴパンツが脱がされ、靴下も脱がされ、颯天は丸裸になった。寒くもないのに躰がぶるっとふるえる。
「きれいな色をしてるな」
祐仁は含み笑う。
なんのことか――
「颯天、おまえ処女か」
その質問で祐仁がどこを見て云っているのか察せられた。
「……関係ない」
違うと云えない時点で経験がないと白状したようなものだ。
また笑ったのか、口もとに祐仁の吐息が触れる。
「関係なくはない。だれかに触られたこともないのか? 答えろ」
その声はここにいた男二人に対してと同じ、絶対的な命令に聞こえた。
「……ありません」
「自分でやったことは?」
「……あります」
「それは残念だな」
祐仁がふざけているのか真剣に云っているのかつかめない。
そもそも、大学生にもなって自慰行為をしたことないなどあるのか?
そんな疑問を口にしても意味がない。
祐仁は、けど、とつぶやくと――
「まあ、最初の男になれるだけ光栄だろう。おれが本当の快楽を教えてやる」
ゴロゴロと猫が喉を鳴らしているような声で颯天を脅かした。
おかしな気分だった。下腹部に熱い塊ができている。
なんだ? おれはどうなってる?
のぼせたように視界がかすみ、それでも祐仁の目が間近で颯天を見つめているのは察せられる。反応を探られているような気がして、颯天は目を閉じた。いざそうすると、かえって颯天がなんらかの影響を受けていることを認めたことになると気づいた。
だが、もう遅い。感覚を抑制もできず、祐仁がくちびるで颯天の上唇を挟み、吸いついたとたん。
んあっ。
恥ずかしい声が颯天の口から飛びだす。
そして、祐仁は顔を放した。
颯天は無意識に目を開く。じっと見下ろす祐仁はくちびるを歪めた。
「やっぱりいい反応だ。楽しみだな」
「……なんで……」
颯天は中途半端に言葉を切る。自分でも何を云いたいのかよくわかっていない。
「“なんで”? おまえがいるからだ」
その理由にどんな意味が存在するのか、愚問だとばかりに一蹴した祐仁は少し前かがみになって、颯天のTシャツの裾をつかんだ。
「食事の時間だ。食べさせてやる」
祐仁は云ったこととまったく無関係なこと――Tシャツを引きあげていく。
「なんで脱がすんですかっ」
「また“なんで”か。こぼしたときに汚れたまま帰りたくないだろう?」
祐仁は鼻先で笑い、もっともらしく理由をつけた。
頭をくぐらせたTシャツは二の腕の途中で丸まって、拘束の役目を果たす。自分が着ていたTシャツのせいで颯天はますます身動きしづらくなった。
その不本意さよりもひどい困惑に晒された。
この季節になれば家で上半身裸でいることはあるし、プールだったり部活だったり、これまで着替えるにも人前で平気で裸になれたのに、なぜいまは羞恥心を覚えるのだろう。口づけと相まって焦った結果なのか、とにかく颯天は心もとなさに襲われる
あまつさえ、それだけにはとどまらず、下もだ、と祐仁はカーゴパンツに手をかけてベルトを外し始めた。
「嫌だっ。やめてください!」
呆然としたのは一瞬、颯天がとっさに立ちあがろうとすると、祐仁が椅子を押さえつける。それでも椅子がガタガタとうるさく音を立てるほど暴れた。
祐仁は慌てふためく颯天をよそに、可笑しそうに含み笑う。
「思っていたよりガタイがいいけど、体力もありそうだな」
けど、と祐仁は颯天に顔を寄せて横柄に首を傾けた。
「弟を助けてくれって依頼したのはおまえで、おれは条件をほのめかした。そのうえで撤回しなかったということは、おれの云いなりになるって承知したんだろう? 最低でもウィンウィンでなければおれは納得がいかない。犠牲を払ったぶん、弟を売って回収するしかないな?」
人当たりよく見せているが、祐仁は少なくとも善意だけで人のために動く人間ではないことがはっきりした。祐仁を頼るのは間違いだったと気づいてもいまさらどうしようもない。弟を売るなどできるはずもない。
「弟に手を出すな!」
祐仁はおどけたふうに眉を跳ねあげた。
「だったら、おまえは現状を受けいれるしかない。どうする? このまま脱がないでもいい。おもらし晒して帰ることになってもいいなら」
どうするつもりだろう。颯天はそんな不安を押しやり――
「……脱がせて……ください」
きっぱりと云うつもりが、動揺は隠せず言葉に詰まった。
「オーケー」
祐仁はにやりとして、再びベルトを外し始めた。カーゴパンツのボタンを外し、ジッパーを下げる。
颯天はその間、強く目を閉じていた。
祐仁の云うとおり、弟を助けてもらうかわりに何が待ち構えているのか、部室で襲われたときに悟っていた。こういう状況になるまで、颯天が向き合ってこなかっただけの話だ。
男を襲うのは祐仁の単なる性癖なのか。だとしたら、どんなことが自分に起きるのか空恐ろしい気もする。
「腰を浮かせ」
云われたとおりにすると、ボクサーパンツごとカーゴパンツが脱がされ、靴下も脱がされ、颯天は丸裸になった。寒くもないのに躰がぶるっとふるえる。
「きれいな色をしてるな」
祐仁は含み笑う。
なんのことか――
「颯天、おまえ処女か」
その質問で祐仁がどこを見て云っているのか察せられた。
「……関係ない」
違うと云えない時点で経験がないと白状したようなものだ。
また笑ったのか、口もとに祐仁の吐息が触れる。
「関係なくはない。だれかに触られたこともないのか? 答えろ」
その声はここにいた男二人に対してと同じ、絶対的な命令に聞こえた。
「……ありません」
「自分でやったことは?」
「……あります」
「それは残念だな」
祐仁がふざけているのか真剣に云っているのかつかめない。
そもそも、大学生にもなって自慰行為をしたことないなどあるのか?
そんな疑問を口にしても意味がない。
祐仁は、けど、とつぶやくと――
「まあ、最初の男になれるだけ光栄だろう。おれが本当の快楽を教えてやる」
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