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第1章 恋は悪夢の始まり

9.

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 ふくらみのいただきがどうなっているか。そこを見られただけで自分が反応していたことを思えば、およその想像はつく。羞恥心に煽られ、凪乃羽は強く目をつむった。
 ふっ、と吐息を聞きとった。笑っているのだろうか。
「おまえは何よりも快楽を覚えろ。恥ずかしいとやらで嫌がったすえ、快楽から逃れられないことのほうが精神的に悲惨だ。おれからすれば、それも淫らでいいが」
 最後の言葉は誘惑じみて、くぐもって聞こえた。両側の頬が手でくるまれ、口もとに呼吸を感じると、直後にはくちびるが触れ合う。ついばむように軽く触れたり浮かしたりを繰り返すキスは、くすぐったいような感覚を生む。目を閉じているからか、無言の会話を交わしているみたいで、凪乃羽はその心地のよさに浸った。
 古尾はキスを続けながら、頬にあった手を顎のほうへと滑らせ、首もとに添わせていった。それを漠然と感じていた刹那、胸先が両側ともに摘ままれた。
 ん、あ――っ。
 不意打ちで止めようがなく凪乃羽の口が開いた。
 古尾はキスの会話を絶ち、そこに熱く濡れた舌を侵入させる。荒っぽく口の中をまさぐり、凪乃羽の舌を裏側からすくって吸い着いた。
 んふっ。
 脳内は陶酔して、舌は痺れたようにふるえる。加えて、胸先の硬く尖った粒を転がすように摩撫されて、触られてもいない躰の中心が疼いてしまう。疼く以上に生理的な感覚が生まれて、凪乃羽は理性の片隅で戸惑いを覚えた。
 古尾のキスにも指先にも一向に慣れることはなくて、感覚は新鮮なまま研ぎ澄まされていく。キスで呼吸はままならず、脳内の酸素が足りていないのかもしれない。古尾から与えられる快楽を受けとめて躰が反応するのに任せること以外、何もできない。
 躰の中心から蕩けていくようなこの感覚はなんだろう。
 生理現象もだんだんとひどくなっている。その瀬戸際という繊細な場所がつつかれ、凪乃羽の躰に身ぶるいが走った。同時に悲鳴が古尾の口の中でくぐもった。その刺激がおさまる間もなく、また中心に何かが擦りつけられる。
 ひくっと腰を揺らしたとたん、凪乃羽の口の中に熱い吐息が呻くように放たれた。凪乃羽だけではなく、古尾も何かしらに反応していた。
 くちびると胸と、そして躰の中心で生まれる快楽が重なって、おさまる間もなく凪乃羽はたかぶっていく。中心では小さく波打っているような音が立ち、つつくようにしていたそれは擦るような動きに変わって、絶えず繊細な場所を煽ってくる。何かが溢れそうな感覚は鮮明になって、堪えなければと思っているのにもう耐えられそうになかった。
 凪乃羽は顔を背けるようにしながらキスを振りきった。
「せんせ……っ、ああっ」
 キスからは逃れたものの、胸と中心はそのままに刺激が送られ、凪乃羽があげた悲鳴は自分で聞いても艶めかしい。
「んふっ、だ、めっ」
「この場合、嫌もだめも同じ意なんだろうが、躰は反対のことを云っている」
 揶揄しながらも、云っている合間に古尾は呻くような声を漏らす。
「違う、の……っ」
「何が違う」
「おかしくて……んっ……漏れて、しまい、そ……んくっ」
 こもった笑い声がして、閉じていた目を開くと視界は潤んだようにぼやけている。喘ぎながら瞬きをして焦点を合わせていくと、笑い声とは裏腹に古尾はかすかに顔をしかめていて、玉虫色の瞳は濁って見えた。
「おかしくはない。快楽の最高の瞬間だろう。耐える必要はない。痛みを知るまえにそこに逝け」
 古尾は胸から手を離し、そうして膝の裏をつかんで凪乃羽の肩のほうに押しやる。自ずと臀部が浮きあがり、気づけばひどく恥ずかしい恰好にさせられていた。
「やっ、せんせっ」
 凪乃羽はせめて目をつむって、羞恥心から逃れた。
「おまえのことは感触も味もすべて知り尽くす。観念しろ」
 味?
 疑問に思った刹那、中心に呼吸を感じた。薄らと開きかけた目に、舌を出す古尾が映った。何を思う間もない一瞬後、舌が撫でた場所は躰のなかで最も繊細な場所だと教えられた。
 ああああっ。
 びくんと激しく腰が跳ねあがる。そのチャンスを狙っていたかのように、古尾はそこをくちびるで挟み、含んだ。
「あ、ああ……っ、せんせ……そこ、汚……いっ、んんっ、あああっ」
 躰を清めることもなく抱かれていることに、凪乃羽はいま頃気づいた。もう手遅れだったけれど、凪乃羽は古尾を避けるべく精いっぱいで躰をよじった。
 そのしぐさを責めるように古尾はそこに吸いついた。そうしながら、舌が花芽を撫でると、激しい身ぶるいが生じてたまらなかった。あまりの快感に声が詰まる。
 吸引する音が嫌らしく、けれど古尾の行為を恥ずかしいと思う余地も脳内から奪われてしまう。まったなしでうごめく舌先は捏ねるような動きに変わり、凪乃羽は派生する感覚を制御できなかった。もともと、はじめて経験することだから、制御する術などわからない。
「ああっ、やっ……も、ぅ……」
 古尾がより強く吸いついた瞬間、凪乃羽は息を呑み、そうしてびくんと激しく腰を突きあげて、古尾が云う快楽の最高点に達した。そこに心臓が存在するかのように中心は疼き、激しい鼓動のなか自分のあげた悲鳴が聞こえる。同時に中心からは、好物を一滴も漏らすまいとしてすするような音が立ち、凪乃羽の腰は痙攣するようにふるえ続けた。
「せんせ……もう……っ」
 腰が砕けそうなだるさを感じだして、凪乃羽は限界を訴える。
 すると、古尾はゆっくりと顔を上げた。
「おまえの躰は蜜の宝庫だな」
 凪乃羽の顔の真上に顔を寄せた古尾は、満足げに舌なめずりをしてにやりとする。
「夢とは違ったか」
 その言葉を聞くまで、凪乃羽は肝心の夢のことをすっかり忘れていた。
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